おかえり、ペロロンチーノ   作:特上カルビ

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一緒に確認

 円形劇場(アンフィテアトルム)――。十階層あるナザリックの第六階層に配置された円形闘技場(コロッセウム)の名称。四方を広大なジャングルで(おお)い、千五百人の大侵攻以外で突破されたことのないナザリック(かなめ)の一つ。

 宝物殿から転移してきた二人を待っていたのは、各階層を守護する最上位NPC達の姿であった。第四と第八を除く全階層守護者が整列し、此方に視線を向けている。

 そういえば集合する時間を決めてなかったなと、モモンガは気付く。おそらく、伝え聞いてからいち早く集合し、待っていたのだろう。

 シャルティアの可憐な姿を眺めるペロロンチーノは、満足げに頷いた。やっぱりシャルティアが一番洗練されてるな、可愛さとオーラが違うとモモンガにメッセージを送るが無視される。

 二人が近付くと、寸分の狂いなく一斉に跪く。こいつら跪く練習でもしてるんじゃないかと、モモンガが思うほど見事だった。

 各階層守護者の中で、一人一歩前で跪く守護者統括のアルベドが微笑みながら口を開く。

 

「お待ちしておりましたモモンガ様。ペロロンチーノ様」

 

「うむ、遅くなってすまなかったな」

 

「何をおっしゃいます。私の(あるじ)であるモモンガ様の命令を実行するのは、最高の栄誉であります」

 

 そうか、と返すモモンガはアルベド以外の守護者の意識がペロロンチーノに向いていることに気付く。長らく姿を見せなかった造物主の一人が、帰ってきているのだから当然であろう。

 その中で一際強い視線があった。絶世の美貌と幼さを合わせ持つ、真祖(トゥルーヴァンパイア)シャルティア・ブラッドフォールン。今まさに飛び出さんとばかりに息を切らし、興奮しているのが一目瞭然。

 モモンガはシャルティアに声でも掛けてはどうかと視線を送り、それに気付いたペロロンチーノは頷き返答する。

 

「久しぶり、シャルティア」

 

「あぁ! ペロロンチーノ様! この時をずっと待ってました! お隠れになってから、夢にまで見たそのお姿を拝見でき、幸せでいっぱいです!」

 

「そうか、悪かったシャルティア。ちょっと野暮用(やぼよう)(エロゲー)をやってたんだ。それより、ありんすはどうした? ロリババァは必須項目だぞ。作る時、一番先に設定したんだから」

 

「私としたことが、深く謝罪いたしんす。ペロロンチーノ様がお決めになったことなのに、我を忘れんした。申し訳ないでありんす」

 

「いやいや、気にしなくていい。それよりそれだよ。さすが俺の嫁」

 

 ニヤリと笑うペロロンチーノは、親指を立て賞賛する。自分の理想を詰め込んで創造したシャルティアの姿は、まさに完璧そのものだった。

 ――俺の嫁、この発言に、我慢の限度を一気に振り切ったシャルティアはペロロンチーノの胸に飛び込む。

 

「ペロロンチーノ様! ペロロンチーノ様!」

 

 ペロロンチーノの胸の中、シャルティアは涙を流しながら幸せそうに破顔する。白い頬を赤く染め、潤んだ瞳で見上げた。涙に濡れた真紅の瞳は引き寄せられるほど美しく、満面の笑顔は愛くるしさと妖艶(ようえん)さを絶妙に合わせ持つ天上の美。たとえ命を失おうと、讃美(さんび)し見惚れてしまうほど見目麗(みめうるわ)しい。

 シャルティアの行動は不敬に値する態度だが、誰からも(とが)める声は出ない。自分の造物主が突然帰還したら、冷静に持する自信がなかったのだ。

 小さくか細い背中をペロロンチーノは優しくさする。若干、いやらしい手つきで。

 

「冷たい目の見下しがいいと思ってたけど、これはこれで。新たな境地だな」

 

 その様子を眺めていたコキュートスが疑問に首をかしげ、デミウルゴスに質問した。

 

「ロリババァトハ何ダ?」

 

「なんだろうね。至高の方々は、時に難解なことをおっしゃる。我々、創造された者にとって必須項目らしい。と、いうことは」

 

「我々モ、ロリババァトイウコトカ?」

 

「だろうね」

 

 やりとりを聞いていたモモンガは、慌てて口を挟む。仲間が作ったNPCに、変な設定が追加されるのは避けたかったのだ。

 

「二人とも、違うぞ。シャルティア限定の設定だ。おそらくだが。それよりペロロンチーノさん、そろそろいいですか。セバスがずっと待ってます」

 

 既に情報収集を終えているセバスは、守護者と離れた場所で跪き、至高の存在である二人の動向を伺っていた。

 

「いえ、久々の再会をお邪魔立てするのは忍びなく思います」

 

「いや、今は一刻を争う。ナザリックを守るために情報が必要だ」

 

 申し訳ない気持ちもあるモモンガだが、早く外の状況を知りたかった。それを察したペロロンチーノは、名残惜しそうにゆっくりとシャルティアを離す。アインズ・ウール・ゴウンは、基本的に他のプレイヤーからよく思われていない。同じ状況に陥ったプレイヤーがいないか、用心しなければならなかった。

 

「申し訳ないです、ペロロンチーノさん。でも今は」

 

「分かってます、モモンガさん。情報は速さが命ですからね」

 

「はい、その通りです。それで、セバス。異常はあったか?」

 

「はっ、ナザリック周辺はかつての沼地はなく、草原となっております」

 

「草原? まさか、ナザリックごと別の場所に転移したということか?」

 

「分かりかねます」

 

「ふむ、やはり、何らかの異常が起きているということか。知的生物かモンスターはいたか?」

 

「確認したかぎり、危険度のない小動物がいるだけでありました」

 

 それまでジッと報告を聞いていたペロロンチーノは、ここで口を開く。

 

「なら、ナザリックは隠蔽(いんぺい)したほうがいい。マーレなら土で大部分を隠せるし、上空部分はモモンガさんが幻術を展開すれば問題ない。草原に丘のような場所はあったか?」

 

「いえ、平坦な草原です」

 

「なら、そっちにも手を加えなければね」

 

 ペロロンチーノの提案にモモンガは深く頷く。どうなってるのか状況の分からない今、本拠地隠蔽(いんぺい)は最優先事項。

 モモンガはさらに話しを進め、アルベドやデミウルゴスに警護の強化を命じる。自分で考えるより、二人に任せた方がいいのは分かっていたからだ。なにせ、偉そうにしているモモンガだが、元は単なる人間だったのだ。守護者統括や防衛時指揮官の二人のような智謀は当然持ち合わせていない。

 取りあえず思いつく範囲を話し終えたモモンガは一呼吸置き、物々しく言葉を発する。

 

「最後にお前達へ確認したいことがある。まず、シャルティア、私とペロロンチーノさんはどのような人物だ」

 

「モモンガ様はまさに美の結晶。この世で最も美しいお方です。その白きお体は、どんな宝石をも凌駕しております。ペロロンチーノ様は私の創造者であり、この地に戻っていただいた心のお優しい主人であります。親愛という言葉では言い表せないほど、心より心酔しております」

 

「コキュートス」

 

「オ二方供、守護者各員ヨリモ強者デアリマス。ペロロンチーノ様ノ帰還ニヨリ、ナザリック地下大墳墓ヲ支配スルニ相応シイ方ガ、増エタト思ッテオリマス」

 

「アウラ」

 

「モモンガ様は慈悲深く、深い配慮に優れたお方です。ナザリックに戻られたペロロンチーノ様も慈愛に満ち、心より尊敬しております」

 

「マーレ」

 

「モモンガ様は、す、凄くかっこいい方だと思います。ペロロンチーノ様は凄く優しい方だと思います」

 

「デミウルゴス」

 

「モモンガ様は特に賢明な判断力と、瞬時に実行される行動力も有された方。ペロロンチーノ様もモモンガ様と同様英知に優れ、お二方共まさに端倪(たんげい)すべからざる、という言葉が相応しき方々です」

 

「セバス」

 

「モモンガ様は至高の方々の総括を務め、常にナザリックを想う慈悲深いお方です。ペロロンチーノ様はモモンガ様の盟友であり、再びそのお姿をお見せになった偉大なるお方です」

 

「最後になったが、アルベド」

 

「至高の方々の最高責任者であるモモンガ様は、私どもの最高の主人であります。そして、私の全てを捧げる愛しいお方です。ペロロンチーノ様は至高の方々の中でも、特にモモンガ様と仲が良く、共にナザリックを支える方です」

 

「……なるほど、各員の考えは理解した。私はこれから、ペロロンチーノさんと二人きりで話し合うことがあるから自室へ行くが、後のことはお前達を信頼し委ねる。今後とも忠義に励め」

 

 了解の意に守護者達は臣下の礼を尽くし、モモンガとペロロンチーノは指輪の力で転移する。

 転移した先で、誰もいないことを念入りに確認し終えた二人は肩の力を抜き、守護者達の意味の分からないほどの高評価に茫然とした。モモンガはNPCにそこまで肩入れしてなかった筈だが、その忠義は心酔の域。ペロロンチーノも壁に手をつき、項垂(うな)だれている。

 

「モモンガさん、あいつら幻でも見てたんじゃないですか?」

 

「ペロロンチーノさん。これ、なんかやらかしたら、一気に失望されるかも……」

 

「アルベドもなんかヤバくないですか? 設定を変えたのが、かなり影響してますよ」

 

「……やっぱり、変えなきゃよかった。タブラさんに顔向けできない」

 

「にしても、あの評価は……」

 

 二人は互いを見合い、力が抜けるように深い溜め息をつく。死の支配者(オーバーロード)とバードマンは遠い目をしながら、天井を見上げた。


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