普段の完璧にメイドの仕事をこなす姿しか見たことのないアインズは、唖然とする。まともな答えを出したのが六人中僅か二人。理想通りの答えを出したユリは文句のつけようがなく、次いで妥協点のシズだが武器の問題があって
この世界では、シズの武器である銃火器はかなりのオーバーテクノロジー。銃火器の製造が発展したらどうなるか予測できないが、ナザリックにとっていいことは何もない。危険が大きすぎるのだ。
いくつかの質問をするつもりだったが、もう誰を連れて行くか決まったようなものだった。だが、せっかく設けた機会、もっと詳しく知った方が良いと質問を続行する。
「よく分かった。次の質問だ。人間と仲良くせよと命令されたらできるか? 念を押すが嘘をつくな、正直に話せ。まず、ユリ」
「問題ございません。ただ、至高の御方に明確な敵意を向ける相手では自信がございません」
「それはどの程度だ? ちゃちな因縁もか?」
「いえ、お命の危機に瀕した場合でございます」
「なるほど」
まさに完璧な返答。やはり俺の目に狂いはないと満足し、ユリで確定だなと確信をさらに深めた。
「次、ルプスレギナ」
「余裕っす」
「そうか……ん? お前は人間をオモチャだと言ってなかったか?」
「一旦信頼させてから、裏切った時の顔を見るのが好きっす。ご飯三杯はイケるっす!」
「……」
満面の笑顔で答えるルプスレギナにアインズは言葉を失い、いつも元気で陽気な印象が百八十度反転していた。作ったのは誰だったかと考えるが思い出せない。ナザリックの面々なら誰が作ってもおかしくなく、予想もつかない。分かったことはルプスレギナの同行は無いということ。
「……うむ、次はナーベラル」
「……出来る限り頑張ります。何とか我慢できるかもしれません。多分、おそらく……」
自信なげな声が尻すぼみに消えていく。ナーベラルはソリュシャンと同じく、人間を下等生物と見なしていた。人間と仲良くするなど苦痛でしかないが、それが同行者の条件のようで嘘はつけないと葛藤する。
ナーベラルの様子に全てを察したアインズは、横目でペロロンチーノを見る。こう言ってはなんだが、この機会を設けたの意義は大きかった。もし、何も知らずにいたら、ナーベラルを連れて行くつもりだったのだ。仲良くする演技も危ういのであれば、とてもじゃないが同行はさせられない。
「理解した。次、シズ」
「……問題ない」
「そうか」
つくづくシズは勿体無かった。武器の問題さえなければ、シズも選択肢の一つとなっている。無表情で何を考えてるか分からないが、静かで人間を下等に見ていない分、問題が起きにくいはずだ。
「次、ソリュシャン」
「問題ございません」
「意外だな。お前の言う下等生物と仲良くできるのか?」
「はい、問題ございません」
ソリュシャンは趣味と仕事を公私混同せず、与えられた任務が人間との友好関係構築なら、ボロを出さず
アインズはソリュシャンのポイントを大きく上げた。同行者はユリで確定かと思われたが、ソリュシャンもいいなと考えが二分する。何よりソリュシャンには他のプレアデスに無い大きな利点、アサシンのクラスを収めている。情報収集なら間違いなくプレアデス随一。
「よく分かった。最後、エントマ」
「お腹いっぱいなら、問題ないですぅ」
「……すいていたら?」
「涎出ちゃうから演技できないですぅ」
「……そうか」
エントマにとって、人間は単なる食料としか認識していない。満腹ならわざわざ狩ったりしないが、空腹になったら御馳走に早変わり。
ペロロンチーノから可愛いとの声が飛ぶが、アインズはとてもそう思えなかった。
「さて……」
アインズはユリとソリュシャンのどちらにするか迷う。アサシンのクラスは魅力的だが、ユリの人間に対する態度は一番だ、いざこざも綺麗に収めてくれるであろう。アサシンの有用性で、ややソリュシャンに傾いてはいるが、決定的ではない。
ここはペロロンチーノの考えが聞きたいと、
『ペロロンチーノさん、ユリとソリュシャンのどちらにするかで迷ってます』
『まぁそうでしょうね。その二人は無難で悪くないです。ですが言わせてもらいます、それは素人の考えだと』
『というと?』
アインズの頭の中は疑問だらけだ、どう考えても二人の選択肢以外考えられないのだ。
『ここはルプスレギナで決まりです』
『え? ルプスレギナ? 何故ですか?』
思いもよらない言葉に、アインズの顔は自然とペロロンチーノへ向かう。あのサディストを選ぶ理由が思いつかなかったのだ。
『アインズさん、ソリュシャンを選んだ理由は?』
『演技ができるということと――』
『それはルプスレギナも同じです』
『あ、確かに……』
サディストのインパクトに忘れていたが、人間との友好関係構築に余裕と答えていたのだ。ならクレリックのルプスレギナも悪くなかった。パーティの構成的にユリのモンクよりもバランスが良く、戦闘面以外でも色々な状況で活躍できると想像を膨らませた。
しかし、目的は情報収集なのだから、有用性はアサシンに劣ると言わざるを得ない。どうしてルプスレギナで決まりなのかが分からなかった。
『一理ありますが、ルプスレギナが一番の根拠が分からないです』
『冒険者になる目的は?』
『情報収集です』
『もう一つは?』
『……他に何かありましたっけ?』
『忘れたんですか? アインズさんは支配者ロールに疲れてるんですよね? それで、外でのびのびと解放されたいと』
『あーそうです』
『アインズさん、ユリとソリュシャンの言動に何か思いませんか?』
『……特に。普通かと』
『思いだしてください、崩して話せと命令したにも関わらず、未だ続く敬語を。その二人は仲間としては冒険者になりません、完全に従者です。アインズさんの目的の一つ、気軽に冒険したいはなくなります』
この時アインズに電流走る――!
ペロロンチーノの言葉は的を得ていた。この世界に来てからというもの、支配者としてミスを犯せないプレッシャー、シモベ全てに
『凄いです。やっぱり単なる変態ではないですね』
『紳士をつけてください。プレアデスとかそっち方面は任せてください。それ以外は全部任せますが』
アインズはプレアデスに向き直る。プレアデスは至高の御方々の
アインズは物々しく言葉を発する。
「同行者はルプスレギナ・ベータとする」
「マジっすか!?」
執務室に響く声、選ばれなかったプレアデスの顔に暗さが宿った。失礼にならないよう平然を装うとするが、残念に思う気持ちが見え隠れしていた。当然だ、多種多様のシモベが
「いやー、まさかまさかっす」
笑みの形を取る口角はさらに吊り上り、牙が前面に押し出されていく。褐色の肌にほんのりと赤みが広がり、愉悦に満ち鈍く光る黄色の瞳で姉妹を見渡した。自慢に溢れた渾身のドヤ顔に、他のプレアデスから嫉妬の視線が突き刺さるが、それが心地いいと体を震わせる。遠慮の欠片も無く、これ見よがしに笑顔を振りまくルプスレギナに、ナーベラルは拳を握り締めた。
「ルプスレギナ。貴方は素晴らしい友人でした」
「ナーちゃん、冗談っすよ!」
この光景にアインズは一抹の不安がよぎるが、もう決定を通達してしまったため、後戻りはできない。まさかペロロンチーノにハメられたかと
「王都に連れて行く者は決定した。準備を整えておけ」
「了解っす!」