数年ぶりにノリと勢いだけで小説を書きましたけれど、小説を書くのってこんなに楽しかったんですね(キラ付け)
『マスター』
「うん?」
『旅に出ましょう』
「......そうか、旅か! いいな、実にいい......えっ?」
カルマは恐怖した。
突然とんでもないことを言い出した相棒をなんとしててでも言いくるめなければと。
カルマにバトルはわからぬ。
親から引き継いだ菜園で木の実を作っては売る暮らしを送っている。
妹の類はいないが、頼りになるが時たま赤い物を見せられたケンタロスの如く暴走するサーナイトと静かに暮らしている。
彼に混沌は似合わぬ。
彼は安定と平穏を求める。
故に彼は口を開く。
相棒をなだめるために、ひいては自らの平穏を守るために。
『最近、思っていたんですよ。マスターと一緒にいたという証を残したいって』
「写真じゃダメなんですかね?」
ズルズル。
『そうしていたら、今日お客様からとても素敵な事を聞けたのです』
「せめて少しは話を聞いてほしいのですがねぇ」
ズルズル。
『ジムバッチを集めてポケモンリーグという場所で戦えば、殿堂入りというものができるそうなんです!!』
「その辺の大会でトロフィーもらう程度じゃダメなんですかね」
『ダメです! どうせ残すなら、よりよい物がいいんです!!』
ズルズル。
『というわけで、マスター。そろそろ自分で歩いてもらえませんか?』
「嫌だね、俺はまだ諦めていないからな!」
ズルズル。
「というか、お前。ジムを巡るってことがどういうことかわかってるのか?」
『ジムリーダーというトレーナーを8人倒せばいいのでしょう? 既にお客様から伺っていますが』
カルマはバトルを知らない。
もっとも、ポケモンと共に暮らしている以上ルールのないお遊び程度のバトルや、野生のポケモンに対するバトルはしたことがある。
だからこそ、そのお遊びと本気の間にある差についても知っていた。
ポケモンと触れ合ったことのない人間なんて、この世界には数えるほどしかいないだろう。
子供の頃からそうであったのなら、テレビの向こうで自らの相棒を競わせるエリートトレーナーたちの姿に憧れ、自分もそうなりたいと思い旅に出る。
母数は際限なく増え続けるが、圧倒的強者であるジムリーダーやリーグトレーナーという高い壁を乗り越えられるのはそのうちのほんの一握り。
野良試合で名を売ったトレーナーでも、ジムやリーグという公式の場に立たせれば有象無象に埋もれてしまう。そんな世界だ。
『厳しい世界なんですね』
「......お前なぁ」
『でも、マスターには私がいます。私では不足でしょうか?』
「......まあ、確かにお前は野良試合で負け知らずだ。だが、さっき言った通り野良試合で強いからといってそれでジムリーダーに通用するとは限らない。というか、そもそも普通トレーナーってのは6匹連れて歩くのが普通なんだが......」
『嫌です、マスターには私だけで十分です!』
その言葉にカルマは心の中でひっそりとため息を吐いた。
彼のサーナイトには独占欲が強い節があった。
具体的に言えば、彼に懐きかけたポケモンを邪険にし、用事で出かけた先で襲い掛かってきた野生のポケモンをプレッシャー(偽)で追い散らしたり、ボールを手に取ろうものなら持ち前の超能力でスクラップを一瞬で生産したりと枚挙に暇がない。
「だよなぁ......どっちか曲げてくれないか?」
『そんなに私の力では不安ですか? ......だったら!』
不意に地面を擦っていた彼の足が宙に浮かび上がった。
「何を......!」
『簡単です、実際にやってみせればいいのです!』
「ちょっ......ほんとに今から行くつもりか⁉」
『大丈夫です、私のテレポートでちょちょいのちょいで戻ってこられます』
ふと、足の下を見れば先ほどまで彼が引きずられていた地面は遠く、飛行タイプのテリトリーにまで浮かび上がっていた。
しばし眼下に流れる景色を眺め、やがてカルマは考えるのをやめた。