ミクリの三体目はトドグラー。
こおりタイプを併せ持つが、まだ進化を残しているポケモンだ。
つまり種族としてのスペックは、完成形とも言えるサーナイトに劣る。
だが、こおりタイプであるという事はこのジムにおいて大きな意味を持つ。
「ふぶき!」
トドグラーから放たれた強烈な冷気がプールの水面を凍てつかせ、スケートリンクの様な様相を呈する。
「アイスボール!」
体を丸め、サーナイト目がけ突撃するトドグラー。
転がる事でその身に帯びる冷気と勢いは増していき、当たれば流石のサーナイトでも大ダメージは免れないであろう威力に達する。最も、当たればの話ではあるが。
トドグラーがぶつかるタイミングを見計らったタイミングで撃ち出されたリフレクターがその勢いを相殺し、ダメージを与える。
怯んだ隙に踏み込み、反撃のかみなりパンチを放つ――前に、足を滑らせた。
転ぶという無様を晒すことはなかったものの、その間にトドグラーは怯みから立ち直っていた。
反撃に放たれるふぶき、それをテレポートでかわすが慣れない氷の上で戦っているせいか再び足をとられるサーナイト。
そこに機敏に氷の上を動くトドグラーが追い打ちをかける。
『......ふっ』
ほのおのパンチが氷を溶かし、砕く。
足場がなくなったことに驚くトドグラー。
氷に拳を打ち付けた姿勢のまま、サーナイトはテレポートを使用し――
――水音と共にトドグラーが打ち上げられる音が響いた。
ダメージと疲労を重ねながらもミクリの手持ちを3体撃破したサーナイト。
あと一体を倒せば6つ目のバッジが手に入る――が、そう甘くはない。
彼の残り一体は彼の代名詞と言っても過言ではないエース。同時に美の極み。
いつくしみポケモン、ミロカロス。
着水した際の水しぶきが、その鮮やかな色合いの鱗を輝かせる。
バトル再開の合図が放たれるのと同時に、サーナイトはミロカロスの眼前に跳んだ。
すぐさま放たれる拳。
しかし、振るわれた腕はミロカロスの体を捉える事はなく、壁のように吹き上がったプールの水に阻まれた。
天井近くまで伸びた水柱はそのまま向きを変え、動きを止めたサーナイト目がけ降り注いだ。
膨大な質量はそれだけで武器になりえる。
重力に従ってプールに戻ってきた水は激しく足場として浮かぶブイを揺らし、騒がしい音を響かせていた。
またもやテレポートしたのか、なみのりに巻き込まれたのか定かではないが、どちらにせよサーナイトの姿はフィールドから消えていた。
指示を仰ぐかのようにミクリの方を見るミロカロス。それに対し、小さく頷いて見せるミクリ。
次の瞬間ミロカロスの体が淡く光り、同時にプールの水が渦を巻き始めた。
一声鳴けば、その渦は先ほどのように天井を貫かんと立ち上る。
『ああっ!?』
ナマズンの時のように水中に潜んでいたのか、カルマの頭の中でサーナイトの悲鳴が響く。
勢いよく流れる水になすすべもないのか、流されるがままにされていた。
やがて渦の頂点にたどり着き、その勢いのままに天井すれすれの高さまで放り出された。
宙を舞うサーナイト、そしてそれを狙い穿たんとするミロカロス。
物凄い量の水がサーナイト目がけ打ち出され――冷気を纏った拳がそれを切り裂いた。
『やっかいな技でしたが......攻撃が来ないのならやり様はあります』
次の瞬間、サーナイトの姿が掻き消えミロカロスの懐に現れた。
その腕が振るわれるよりも先に、ミロカロスの巨体が押しつぶさんと動く方が早かった。が、既にそこにはサーナイトの姿はなく、ミロカロスの背後を取っていた。
「後ろだ!」
振るわれる尾。
それを背中に叩き付けるつもりであっただろうかみなりパンチで弾き、再び姿を消す。
時に近く、時に遠くに現れミロカロスの苦手なでんき技を繰り返すサーナイト。
それを重量差を活かした力技と正確な狙いで捌いていくミロカロス。
どちらかが力尽きるまでこのやり取りが続くかに思われたが――。
何度目かのテレポートによる接近。 一拍の間を置いて、背後に跳び直す。
ミクリは時間が経つ度に、サーナイトのテレポートを行う頻度が上がっていっているように感じていた。
振り回された尾を再度テレポートを行うことでかわす。
テレポートの頻度が増えたことをミクリは勝負を決めに来ているのだと判断した。
それに応えるように
「ミロカロス、なみのり!」
大技の指示を出した。
先に放たれたのとは違い、フィールドを薙ぎ払うように放たれたそれはブイを一時的に沈め、足場を無くさせていた。
フィールドにサーナイトの姿はない。
荒れ狂う波に引き込まれたのか、水中に身を潜めているのか。
どちらにせよ目に見えるところにいない以上、水の中にいるのは確実だろう。
再び、プールの水が唸りを上げる――。
――より先にミロカロスの周囲の水が凍り付いた。
一瞬の戸惑い。
その一瞬の間にプールに電光が踊る。
「これで、6つ目......か」
『どうしたんですか、マスター?』
「いやな、後2つかと思うと意外と時間がかからないもんだなと」
その顔は感慨深いようでいて、どこか諦めのような色を漂わせていた。
『まだです』
「ん?」
『この程度の強さじゃ、あの人には勝てない』
単純なラッシュやヒットアンドアウェイだけでなく、変化技を交えた搦め手を扱うようになったサーナイト。しかし、彼の直感がこれだけでは足りないと告げている......らしい。
「やっぱり、一体じゃ厳しいのか?」
『量より質ですよ、マスター......ん?』
自分の言葉に何か思うところがあったのか、考え込むサーナイト。
しばらくして顔を上げた彼は晴れ晴れとした表情を浮かべていた。
『そうだ、そうすればよかったんですよ!』
「何かいい案でも思いついたのか?」
『はい! 増えればよかったんですよ!』
一日、されど一日。
ジム巡りを休んで、朝から日が暮れるまで何かしらのトレーニングを行ったサーナイト。
その顔はとても晴れやかで、望んだ成果を上げる事ができたようだった。
サーナイトの進化は止まらない。
打倒、ユウキを目指すサーナイト(とカルマ)の旅はまだまだ続く。