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子供の夢。
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【サクライ】
「いやー凄い、ほんとにここを自由に使って良いの」
捨てる神ありゃ拾う神ありだ。人生は波乱万丈、何があるか分からないねこりゃ。
ほんとに、レジアスさま様だよ。
まあ、それも兄の威厳を守るために、何とかレジアス少将に取り入ろうとして自分の研究成果を見せたからなんだけどね・・・途中で少し暴走したけど。
「・・・今思うと、かなり恥ずかしいな」
うん、ちょっと熱く語りすぎた。勢いって怖いね。
「でも」
オレは渡された新しいIDカード見る。
そこに書いてあることの意味を理解すれば理解するほど、自分の顔はにやけてしまう
そこにはこう書いたある。
《管理局地上本部第五技術開発部/責任者/ケンタ・サクライ/階級/一尉》
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【レジアス】
「フゥ・・・これも巡り合わせか」
こんな可笑しな出会いかたをするなど。
況して、私の求めていた物がこんなにも近くにあったとはな
「分からんものだ、人生とは」
「なにか良い事でもあったんですか。お父さんがそんな顔をするなんて」
「オーリスか」
不意に娘の声が聞こえた私は顔をあげる。目の前には管理局の制服を着てお茶を運ぶ、娘のオーリスが居た。
「オーリス、ノックはしたのか。あと勤務中はレジアス少将だオーリス秘書」
「あ。す、すいませんでした。レジアス少将」
まったく、こまった娘だ。
階級のことはまだいい管理局に入り日が浅い、大目見よう。だが・・・
「ノックのし忘れ、これはいけない。少将の娘がノック・マナーひとつ出来ないとあらば、オーリスだけの話ではなく私もこまる。
ただでさえ私は本局のウジ共に敵視されているのだ。身内のトラブルで、今この椅子から降りるわけにはいかない。どうあってもだ」
「はい!申し訳ありませんでした」
「分かれば良い。それと呼び方や階級、役職等はのことはこれから覚えていきなさい・・・フゥ」
本日最後の書類に目を通したあと、オーリスが持ってきたお茶で一息ついたあと、今までの仕事で展開した立体モニターに映る時間を確認する。
そろそろいい時間だろう。まだ仕事を探すか、帰宅するかは時間しだいだ。
「勤務時間はあと五分か・・・さて、オーリス。私は家まで走って帰る、車は必要ない。夕飯には間に合わないだろうから帰ったら先に母さんと先に食べていなさい」
「如何したんですか急に? 」
なんだ分からんのか。まぁそれも仕方あるまい、娘が管理局に入ったのは私が少将に上がってからだからな。
娘とは言え、以前の私のライフワークまで知るわけがないか。
「なに、ただ鈍った勘を取り戻そうと思ってな」
そう、どんなに鋭い名刀だろうと使い手が錆びていては枝にも劣る。
「オーリス、私は近いうちにまた前線に戻る・・・新しい力を持ってな」
そう言って私は、呆けている娘を残して司令室を後にした。
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司令室をでた私は、自前のサウナスーツを着込み軽いフットワークを刻みながら今日の出来事を思い出す。
子供の頃、公園で遊んだあの日々を。
純粋だったあの頃の自分を。
忘れていた夢を思い出させてくれたその公園で。
一人の男と、いろいろな意味で衝撃的な出会いを。
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「もう、これしかてはないのだろうか」
私は今、ある問題を抱えている。
それは管理局の人材不足に由来する、本局のムリな地上本部からの引き抜きにある。
少将昇格して前線から身を引いた私だが、本心ではまだ前線に出ていたい。
前線には未だ、経験の少ない若い武装隊員が数多くいる。
しかも陸の武装隊員の半数は魔力の無い。魔法が使えぬ者たちだ。
彼らにはまだまだ教える事が山のようにある。
だが、経験の浅い彼らだけではそう遠くない未来に、彼らの何人かが正義のため、その命を理不尽な命令により落とすだろう。
それ程までに魔法が使える者と使えない者では、明確な力の差が有る。
だが、だからこそ
「優秀な人材が必要だと言うに、本局のウジ蟲共が!! 」
・・・私にも、手が無い訳じゃない。
『戦闘機人』生まれ持って高い戦闘力を有す、創られた命。
だがそれは外道の道。
人を人と思わぬ畜生の道。
友と語った夢のためにそんな事が許されるだろうか。
否、断じて否。
これでは本局のウジ蟲と同じではないか。
況しては口実に友との夢を語るなど
「いかんな、どうにも気が滅入る・・・もう三時か。食堂は開いてはいない出前でも・・・―――」
―――いや丁度いい、気が滅入ってたとこだ。気分転換に外食もありだな。
「今日出す書類はもう無い、少し大回りいてくか」
このとき、もし今日食事に間に合ったら。
もし今日の提出書類がまだあったら。
そしていつもは通らない道を通ることを選ばなかったら。
おそらくこの出会いは無かっただろう。
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少し遅め昼飯を済ませた私は、何気なく普段通らない道を通っていると偶然、子供の頃に駆け回った路地裏を見つけた。
「ほ~、懐かしいな。昔はここを駆け回ったものだ・・・お、あの玩具屋まだ潰れておらんな」
それから昔の思い出に浸り、私は少しぶらぶら歩いていたのだが。
・・・だからだろうか。気付けば私にとって、とても懐かしい場所に来ていた。
「この公園も来なくなって久しいな。子供のころよく遊んだものだ」
私はつい懐かしくなり、子供のころ友達と駆け回った公園に足を向けた。
この公園はその大きさに比べ遊具がジャングルジムに滑り台、ブランコと砂浜しかなく。
公園の大半が豊富な自然と、中央の大きな運動グラウンドに割り当てられている。
「よくここで皆とマギ・レッドを誰がするかで喧嘩をしたものだ」
思えばこれが私の原点なのかもしれない。悪にはけしって負けない、皆の笑顔を守る正義のヒーローに。
「我ながら青臭い夢を持ったもんだ」
自分はヒーローには成れない。
「・・・少し感傷に浸りすぎたか、長いしすぎたようだ」
まったく、情けない
「戻るとするか。まだする事は有るからな」
私は娘の待つ地上本部へと再び足を進めた。
そのときだ
カアァァァァァァァァァァー
「グゥ!」
「あ。」
私の頭に空き缶が飛んできたのは!
突然の衝撃に辺りを見回すと、技術者らしい男と目が合った。
チラリと見えた首にかかっているIDカードからして、飛ばした本人は本局の技術者か。
「貴様、上官に対する態度がなっとらんな。海は下への教育すらできんのか! 」
「しっ失礼しました。レジアス・ゲイズ少将」
ほー・・・こいつワシの階級を知ってるのか。さては上司から陰口でも聞いていたか。
「海の下っぱは、最近少将になったばかりの私のことは知らないと思ったがな」
私は嫌味と、自身の皮肉を目の前の男に言い放つ。さてどんな言葉が返って来るのか・・・
「自分は存じています。魔力の無い身でありながら、少将にまで上り詰めた。
魔力の無い管理局員達の英雄であります!! 」
返ってきたのは予想外の言葉だった。
「フッ、なにが英雄ものか・・・皮肉の積もりか」
憧れ・・・この男も魔法が使えないのか、なるほどな。
建前とはいえ、憧れと面と向かって言われると照れくさい者だな。
だが英雄か・・・
「残念だが私は英雄ではない。いや、私は英雄には成れなかった」
部下の命も救えないで、何が英雄か・・・それに私は今外道に成ろうとしている。
そんな私が英雄など本物の英雄に失礼だ。人に尊敬されてこそ、己が力で千の厄災から人を救うのが英雄だ。
私にはそんな力がない。今の地位でさえ、前線での戦略と指令。地上の内部改革の功績と言えば聞こえはいいが、しょせんは守る力が無いから必死で足掻いただけに過ぎない。
何故なら・・・―――
『―――私には魔力が無い』
・・・フゥ、何を今更。
自分の口からこぼれた力の無い声に、思わず苦笑してしまう。
そう、何を今更。届かない夢なのは分かりきってたじゃないか。
私が洩らした言葉に、男も一瞬驚いた顔をしたが直ぐに顔を引き締め私に問いかけてきた。
「魔力が在れば英雄なんですか?」
そして男が言ったその言葉に私の中で固まった何かが動いた。
「魔力が在って魔法が使えれば英雄なんですか! 」
男はだんだんに声を上げる
「魔力を持ってれば九歳の子供に命のやり取りをさせるのが、正義ですか!! 」
その声がまだ燻っていた私の何かを炊き起こそうとしてる。
「魔法が使えなきゃ・・・ヒーローには、成っちゃいけないんですか」
ああ、そうか、そうなのか燻っていたものは・・・―――
「・・・君は、ヒーローに成りたかったのか」
私の中で燻っていたものはヒーローへの憧れ。
なんとも報われない夢だ。
それは子供の夢だ。
魔法が使える者だけが見ることの出来る、選ばれた景色だ。
リンカーコアのない私達はヒーローには成れない。
それに君は技術者だ。ヒーローには成れないが、魔法が使えない者には使えない者の戦いはある。
私は同じ夢を持つこの男に、現実と言うものを説いてやろうとした。
だがこの男は、信じられことを言った。
「成りたかったじゃない。ヒーローに成るんです。その為の『G3』デバイスです。
魔力なんて無くても、力が無くても、英雄に成れなくても、ヒーローには成る。いや、ヒーローに成れる!それがこのG3です」
男は片手の持った風呂敷から分厚い紙の束を取り出し、手前に突き出しながらそんの事を夢物語を言い出したのだ。
いやまて、この男今なんと言った。
「まて、G3デバイスとは何だ、魔力が無くても使えるのか」
私は混乱していた。デバイス、それは魔導師のみが使える魔法を行使するものだ。
つまり魔力の無い私達は使うことができない。それは基本、生まれ持った才能だと諦めていたのだから。
だが男は私の顔を見て、まるでこの時を待ってましたと言わんばかりに、満面の笑みを浮かべてこういったのだ。
「小型魔導炉を搭載した装着式/フルアーマー装甲のリンカーコアを持たない、非魔導師専用デバイス。それが正式名称『ガーディアン/ジェネレート/グラディウス』
略してG3デバイスです」
私は鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
それは本当なのか、一瞬この男の妄想ではないのか。そんな考えが浮かんだが私はそれはないと否定した。
それはこの男の目はあまりにも綺麗で真っ直ぐだったからだ。
「・・・そのG3とはなにか、詳しく聞かせてくれ。」
きずけば私はそんな声を上げていた。その声に男は先ほど風呂敷から出した紙の束を差出て来た。
そして手に取って見た物に、今度こそ私は驚愕した。
それは非魔導師専用デバイス開発名称『guardian/generate/gladius』略してG3と書かれたデバイス。その全容が書かれた企画書だった。
画期的な設計思想、計算された理論と予想された戦闘データ。
G3のその全てに、私は興奮する感情を抑えきれずにいた。
これが在ればヒーローに成れる。諦めかけていた夢を叶えられる。
これで興奮するなと言う方が無理だろう。
だが、だからこそ疑念がある。それはこれに使われてる技術にである、小型魔導炉の事だ。
本来はこれだけで驚くべき事態なのだが、それを装着式とはいえリンカーコアの代わりにするという発想や、そんな無茶を実現させた技術力。
素人でも分かる、この男は天才だと。だからこそ解せん。
「貴様はなにが目的だ。これほどの技術をなぜ本局の奴らに見せないで私に見せた」
そう、この疑念が私の興奮する感情を抑える最後のだ理性だ。この事を本局は知っているのか。
これほどの技術を本局の奴らが知ったらこの男は大出世、直ぐにエリートの仲間入りだろう。
わざわざ本局と敵対してるとも言える地上本部の少将に見せる。
私の疑念はここだ。
そして男は気恥ずかしいそうに、これまでのいきさつを語った。
その事に今度は別のいみで衝撃を受けた。
魔法社会の弊害だろうが、私の正直な感想は絵に描いた無能う上司だ。だが、これは。
「ならば陸に来ないか。陸なら妹に胸を張って会いにいける待遇で君を迎え入れよう」
「い、いいんですか。ほ、ホントに・・・や、ヤッタァァァァァァァァァア!! 」
藁にも縋る思いだったのだろう。私の言葉に男は飛び上がる様に喜び、はしゃいでいる。
そのあと、男は落ち着いたのか。男は恥ずかしそうにしながら、子供のような純粋な笑顔を浮かべて礼の言葉を口にした。
「ありがとうございます、レジアス少将。でも本当に良いんですか」
勿論だとも。なぜなら・・・
「誰でもヒーローに成れるのだろG3は。貴様も、無論私も」
私は今、大人に成って無くしてしまった無邪気な顔をしてるだろう。
子供のような笑顔で高らかに宣言する。
「私の名は知ってるようだが改めて言おう。私の名前はレジアス・ゲイズ。
夢はこの地上、全ての人の笑顔を守るヒーローだ。そして大人に慣れきれなかった大人だ」
「お、オレの名前はケンタ・サクライ。夢は大切な家族を守れるヒーローに成ること。子供心を持った大人です」
名乗りを上げた後、私たちはお互いに笑いあい、友と呼べる中になった。
そして私三十代半ばで漸く、ヒーローのスタートラインにたった。
そう、これが後に仮面ライダーと呼ばれる私達の出会いだった。
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つづく