ぐだぐだダイアリー   作:ドラーグEX

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これは、贋作イベントが始まる前に書き始めたお話。



霊基再臨って、集めた素材をどう使ってんだろう?

「「マジクソゲーなんじゃが……」」

 

 カルデア内の食堂に、二人分の呪詛が響く。

 

「先輩、ノッブさん、しっかりしてください!」

 

 呪詛を掻き消さんばかりに声を荒げたのは、可愛い後輩にして頼れるサーヴァント(デミ)のマシュ。

 

「しっかりするも何もさぁー」

 

「しっかりする気も起きんのじゃー」

 

 そしてテーブルに突っ伏してぐだぐだになっているのは、人類最後のマスターのこの俺と、魔神アーチャー織田信長。

 

「お二人ともそう言わずに。どうぞ、ドクター・ロマンの部屋にあった豆大福です」

 

 持ち前の優しさからお菓子を差し出してくれるマシュ。しかし出てきた品はダメ押しだった。

 

「大福……ホムンクルス……うっ、頭が」

 

「ああっ! 先輩がさらにぐだぐだに!?」

 

 和らぎかけてた悲しみが蘇る。

 

「また取れなかった……ホムンクルスベビー……!」

 

 ホムンクルスベビーとは、ロンドンを闊歩するベイ◯ックス……もといホムンクルスを倒すと稀に手に入るアイテムで、フラスコの中の赤い液体に浮かぶホムンクルスの幼体だ。

 

「ダ・ヴィンチちゃんの言う通り、ロンドンの街を歩き回って倒しまくってるけど、全然出ないなあ……」

 

 これまでも何回もロンドンへ赴き、ホムンクルスを何十体倒したことだろう。五十を超えたあたりから数えるのも止めている。ドロ率どうなってんのマジで。

 

「流石のわしも疲れてしまったわ。じゃがまあ、ああして異国の地に足を運ぶのも悪くはないな」

 

 キメ顔で大福を頬張るノッブ。だがお前はそんなキメれるキャラじゃないのはみんな知ってるんだぞ。

 

「とかなんとか言ってるけど、お前がやられたからこうして戻ってきたんだぞ。撤退だよ。撤退」

 

「ぎくっ」

 

 この第六天なんとかは暇を持て余してたのか、ロンドンにレイシフトしようとしていた俺たちを見つけて乱入してきた。

 

『わしも連れてけ! なに、このわしが居ればどんな敵でもへし切長谷部じゃ! わしアーチャーじゃけど!』

 

 とか言って意気揚々とついてきたノッブ。しかしこれが全然役に立たなかった。

 

「全然へし切長谷部してなかったじゃん。返り討ちだったじゃん。ホムンクルス大回転食らって一発KOて。バカなの? もう一回桶狭間する?」

 

「うぐぐ……! ええい! なんなんじゃあの大福もどき共! わしの攻撃は効かぬくせに、奴らの攻撃はめちゃんこ痛いではないか!」

 

「ロンドンのホムンクルスは相当するクラスがランサーですので、アーチャーであるノッブさんには相性が悪いんです。集中攻撃されると2ターン保つかギリギリですね」

 

「説明ありがとうございますじゃ! 改めて言うでないわこのおっぱいサーヴァントめ! 悲しくなるじゃろが!」

 

「す、すみません。もう言いませんからその呼称だけは止めてください!」

 

「ラーマがいてくれなかったらマジでやばかったかもね」

 

 燃えるような赤い髪をしたインドの英雄、ラーマ。彼のクラスはセイバーでランサーのホムンクルスと相性がいいのは言うまでもない。

 

「役に立てたなら何よりだ。ところでマスター、私の再臨素ざ━━━━」

 

「ノッブもなんか無いの? もっとファイアをエンチャントするとかさ」

 

「都合の悪いことは聞こえない見事なスルースキル。さすが先輩です。ですがノッブさんに火属性がついてもクラス相性は変わりませんよ。また敦盛を口ずさむ結果になるだけです」

 

「かつてない理不尽がわしとそこの赤毛を襲ってる件について。そもそもなんで奴らのドロするアイテムがいるんじゃ?」

 

「知らなかったのかよ。それは━━━━」

 

「私の再臨素材。でしょ?」

 

 現れたのはエレナ・ヴラヴァツキー。

 魔術師(キャスター)のクラスのサーヴァントだ。

 

「まったく、あなたの運の悪さは一級品ね。あと一つで再臨できるってのに。あれだけ倒したなら一個くらい取って来なさいよ」

 

「え、見てたのかよ」

 

「まあね。そこの第六天魔王様がホムンクルスの体当たりで吹っ飛ばされてるところもバッチリと」

 

「もうやめて! ノッブのライフはもうゼロなのじゃ!?」

 

「でも、そうね。あなたばかりに苦労させるのも癪だわ。よくってよ。今度はあたしも同行するわ!」

 

「えー、もう嫌だぁ。もう疲れたぁ。パラケルルスにでも頼んで作ってもらおうよぉ」

 

「情けないこと言ってんじゃないわよ。自分の力で取りに行ってこそ意味があるものよ。ほら、師であるあたしが行くって言ってるのだから、弟子のあなたもシャキッとなさい!」

 

 ぐいぐいと俺の首根っこを掴んでひっ立てるエレナ━━━━の横に浮いてる人形。通称オルコット大佐。

 

「いでででっ! 苦しい苦しい!」

 

「さ、マシュとラーマもついてらっしゃい」

 

「あ、エレナさん! 待ってください!」

 

「お、おい、マスター! 私の精霊根はー!?」

 

「いってらー、なのじゃ。……ところでわしの出番これで終わるけど、是非もないよねっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というわけで再度やって来ましたロンドン。時代修復の途中だからか、俺たちの歩く街道にも人の姿はない。静かなものだ。

 

『無事レイシフト出来たようだね。こっちからも反応をキャッチしてるよ』

 

 カルデアから俺たちをサポートするドクター・ロマンとの通信感度も良好だ。

 

『ところでさっきすれ違った信長公が豆大福を食べていたんだけど、それが僕のコレクションにそっくりだったんだ。何かしらないかい?』

 

「ドクター、今は重要な任務中です。そのようなプライベートかつ些末なことは頭の片隅に追いやってください」

 

『え? や、でも……はい』

 

 マシュに言いくるめられる可哀想なドクター・ロマン。いや、ここはマシュの成長した逞しさを喜ぶべきだろう。

 

「ふふーん! どこからでもかかって来なさい!」

 

 そんなことより、俺は来るなり先頭をきって探索を始めたエレナの方が気になっていた。キャスターってこんなバイタリティなクラスだっけ?

 

「エレナさん、とてもやる気に満ちてますね。満ち溢れてます」

 

 俺の横を歩くマシュも意外そうに呟く。

 

「あら、私は『現代』神智学の祖よ? 古代の魔術師がどうかはわからないけど、運動は嫌いじゃなくてよ? それにせっかくサーヴァントになったのですもの。少しくらい暴れてみたいわ」

 

 おお、なんとも頼もしい言葉。

 

「……む、全員止まれ!」

 

 突然ラーマの声が弾けた。

 

「どうしましたラーマさん?」

 

「いたぞ。ホムンクルスだ」

 

 ラーマが指さした先には、無人の街道の真ん中に突っ立っているホムンクルス。

 こんなに早く見つけられるとは。

 

『反応確認したよ。一体だけのようだね』

 

「あれなら楽に倒せるな……。よし! みんな戦闘準備!」

 

「はい!」

 

「行くかっ!」

 

 マシュとラーマが構える中、エレナだけは険しい顔をしてホムンクルスを睨んでいた。

 

「━━━━待って」

 

「え?」

 

「様子が変よ。あいつ、変な動きをしてるわ」

 

 言われてみれば、目の前のホムンクルスは前かがみになって身体全体で円を描くように動いている。

 

「何をしてるんでしょう?」

 

「まさか、仲間を呼んでるとか?」

 

「ですが、これまでの戦闘記録ではそのような習性があるとは……」

 

『……どうやらそのまさかのようだ! いつの間にかエネミー反応が増えている!』

 

 謎の動きを繰り返すホムンクルスが増えていた。それも一気に六体も。

 縦一列で、合計七体となったホムンクルスたちが、時間差をつけて同じ動きをしている!

 一体だけではよくわからないだけだった動きも、この数でやるとある種の美しさを感じる。

 それはまさに、まさに━━━━!

 

「ホムンクルストレイン……!」

 

「先輩、なんですかそれ」

 

「いや、俺も言ってみただけ」

 

 そこに、カルデアからロマンと別の通信が入った。

 

『お気に召しましたか、マスター』

 

「あ! パラケルルス!」

 

 エレナと同じくキャスターのクラスのサーヴァント。真名ヴァン・ホーエンハイム・パラケルルス。このロンドンでは何かと因縁があった相手だが、今はカルデアで活動を共にする仲間だ。クセは強いけど。

 

「お気に召したって……このホムンクルス、お前が?」

 

『はい。信長公から話を聞きました故、僭越ながら私も急遽ホムンクルスを用意させていただきました』

 

「やっぱり作れるんじゃんホムンクルス! わざわざレイシフトする必要なかったじゃん!」

 

『ええ。しかしミセス・ブラヴァツキーが自分の力で取ってこそ意味があると仰ったとも聞きまして。なるほど、それもマスターのためならば、と』

 

 ミスターPの十八番、『良かれと思って』が炸裂してる……!

 

「うんうん、わかってるわね。アベレージ・ワン! よくってよ。今の呼び方は許してあげる」

 

「……あの、ミスター・パラケルルス。あなたが用意したホムンクルスは一体だけですよね?」

 

「そのはずですが?」

 

「では……なぜこんなにホムンクルスが集まっているのでしょうか? 今こうして話してる間にも、数が増えました」

 

 マシュの言う通り、さっきは七体だったのに、今はなんと二十六体になっている。

 

「ホムンクルストライブ!?」

 

「マスター、さっきから何を言ってるのだ?」

 

「な、なんでもないなんでもない」

 

 首をかしげるラーマに笑ってごまかすと、パラケルルスが説明を始めた。

 

『ああ、私のホムンクルスには一種の魔術を行使しておりまして。わかりやすく言えば、他のホムンクルスを呼び寄せる波動を発しております。早く対処せねばロンドン中のホムンクルスがそこに集まりますよ。いえ、マスターがホムンクルスに埋もれたいというなら話は別ですが』

 

 ごめんミスターP! ホムンクルスを抱いて溺死なんてしたくない!

 

「どうすればいいの!?」

 

『簡単なことです。私の用意したホムンクルスを倒してしまえばいいのですよ。攻撃されると同時に他のホムンクルスとともに迎撃を開始しますが、あなたがたなら切り抜けられるでしょう。では、健闘を祈ります』

 

 一方的に繋げられた通信は一方的に切断された。

 

「先輩! 健闘を祈られちゃいました!」

 

「くそっ! もうやるしかない! ホムンクルスPを倒すんだ!」

 

「ホムンクルスP……? あ、ミスター・パラケルルスのホムンクルスということですね」

 

「そういうこと! みんな戦闘態勢!」

 

 俺の号令を端に、戦闘が開始される。

 

「行くぞ! 私に続け!」

 

 まずラーマが突っ込み、ホムンクルスPに剣を振り下ろす。

 ホムンクルスPは攻撃の気配を察知し、集まった仲間たちとともに散開。俺たちを取り囲んだ。

 

「逃さん!」

 

 ラーマはそのままホムンクルスPを追撃する。しかしその前に数体のホムンクルスが立ちはだかる。

 

「主人を守る盾になるか。━━━━だが!」

 

 ラーマが剣を振るい、ホムンクルスを袈裟斬りにする。

 

「その程度では私は止められんぞ!」

 

 両断されたホムンクルスは液状になって気化するように消滅する。

 

「あたしもやるわよ! 第一の光っ!」

 

 エレナが侍らせる魔本から光球が飛び、ホムンクルスに叩きつけられる。

 

「わ、私も頑張ります!」

 

 マシュも俺を守るように懸命にホムンクルスたちへ盾を振るう。

 

 次々倒されていくホムンクルス。

 けれど、目的のもの(ホムンクルスベビー)は見る影もない。

 

(今回もダメか……。いやいや、まだ諦めるには早い!)

 

 諦め半分期待半分で繰り広げられる戦いを見守る。

 

「しかしこれ、全然減らないな!切っても切っても湧いてくる!」

 

 確かにホムンクルスたちの数が減っている印象がない。

 

 それどころか、増えてる。

 

「大変です先輩! ホムンクルスがどんどん増えてます! 倒す数より増える数の方が多いようです!」

 

『まずいぞ! 君たちの周囲に反応が集まってきてる! 早くホムンクルスPを倒さないと!』

 

 建物の陰からうようよと現れ、視界を埋め尽くしていく白いクリーチャー。

 

「パラケルルスめ! 一体どれほどの細工を施したのだ……!!」

 

 マハーバーラタの主人公も、流石にこの数は骨か。

 その後ろから、ホムンクルスが迫る。

 

「っ! ラーマ! 後ろだ!」

 

 聞こえた俺の声にラーマは振り返る。それと同じタイミングでホムンクルスがラーマを殴打した。

 

「くっ……! 小癪なっ!」

 

 反撃とばかりにホムンクルスを切り下ろす。しかしその一瞬は致命的だった。

 

「しまった! やつを見失った!」

 

 ラーマがホムンクルスPを見失ってしまった。

 マシュは俺の護衛で手一杯。エレナは手当たり次第に倒しているけど、ホムンクルスは増え続けてる。

 これは……ピンチだ。

 

「ど、どうしましょう? 撤退しますか? ホムンクルスベビーも落ちていませんし……」

 

 不安げに揺れるマシュの瞳が判断を仰いでくる。

 撤退。それも一つの手だ。一目散に逃げればこの窮地は脱せるかもしれない。……………でも。

 

「ダメだ。撤退はできない」

 

「先輩……!」

 

「ここまで来て諦めるなんて嫌だ。それに何より━━━━」

 

「何より?」

 

「━━━━逃げ帰った後のパラケルルスの顔を想像したら、なんかムカつく!」

 

 絶対顔にも言葉にも出さないだろうけど、確実にバカにされる!

 

「だからここで退くわけにはいかない!」

 

「お、お気持ちはわかりますが……」

 

 マシュが続けようとしたのを、エレナの賞賛する声が遮った。

 

「よく言ったわ! その負けず嫌いなところ、気に入ったわよ!」

 

「エレナさんっ?」

 

「あたしにいい考えがあるわ!」

 

 なんだかフラグじみたことを言わなかったかこの夫人!?

 

「魔力も溜まってきたし、とっておきを出してあげる!」

 

 エレナの魔本が煌々と輝き、秘められた魔力が迸る。

 それは、英霊の持つ切り札。人間の幻想を骨子に作り上げられた武装。

 つまり━━━━宝具だ。

 

「なるほど! エレナさんの宝具は対軍宝具! この大量のホムンクルスたちも一網打尽にできます!」

 

 理解したマシュが快哉を叫ぶ。

 

「海にレムリア! 天にハイアラキ! そして地にはこのあたし!」

 

 飛行物体が顕現し、エレナを乗せて鈍色の空に舞い上がった。『あれ』の形状についてはツッコミを入れないのがカルデアでの暗黙の了解だ。

 

「先輩、ラーマさん! 私の盾で防ぎます! 傍を離れないでくださいね」

 

「わ、わかった!」

 

「すまん!」

 

 生身で食らったらひとたまりもない。急いでマシュの構えた盾の中に入らないと。

 

「━━━━はっ!?」

 

 そこで俺は目撃した。

 それは、道の端っこに転がっていた。

 それは、赤い液体が満ちたフラスコ。

 そしてその中に浮かぶ、小さな物体。

 間違いない。

 それは、俺が求め続けたもの!

 

「ホムンクルスベビーだ!」

 

 多分ラーマが斬り伏せたホムンクルスのどれかが落としたんだ。

 このままではホムンクルス共々薙ぎ払われてしまう! 回収せねば!

 思考は一秒に満たない速さで行動になっていた。

 

「ぬおおおおっ!」

 

「マスター!?」

 

「先輩っ!?」

 

 地面を蹴って目標までダイブ。

 

金星神(サナト)━━━━」

 

 フラスコに触れ、そして、掴んだ!

 

火炎天主(クマラ)!!」

 

 次の瞬間、ロンドンは眩い光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃーん! レムリア風に決めてみたわ。似合ってる?」

 

 喜びを全身で表すようにくるっと回るエレナ。羽織った外套が軽やかに躍る。

 ホムンクルスベビーを手に入れた俺たちはカルデアへ帰還。エレナも霊基再臨を果たした。彼女はもっと強くなることだろう。

 

「ふん。ふぉっふぇほひふぁっふぇふほ(うん、とっても似合ってるよ)」

 

 一方で俺は全身余すとこなく、顔まで包帯でグルグル巻きにされたので話すことすらままならないわけで。

 

「あの、先輩……。無理はなさらずに。私の宝具の展開がギリギリ間に合ったとはいえ、先輩には減殺しきれなかったダメージが……」

 

 申し訳そうなマシュ。でも彼女に悪いことなんて何一つない。

 

「いやあ、黒焦げアフロになった君をラーマが医療室に運んで来た時は驚いたよ」

 

 ドクター・ロマンは久しぶりに本業の医療行為を行ったからか、どこか充足した顔つきをしている。

 

「ふぉふはーふぁふぃふぇふへへふぁふふぁふはっふぁ(ドクターがいてくれて助かった)」

 

「そう言ってくれると嬉しいよ。僕の面目も躍如ってもんさ」

 

 はははと笑い合い、和やかな感じになってると、エレナが割り込んできた。

 

「何言ってんの! 無茶しすぎよ! 目の前に目当てのものが転がってるからって宝具の中に突っ込むなんて!」

 

「エレナさん落ち着いてください。先輩の怪我は決して軽くはありません。それに先輩の勇気ある行動でこうして目的を果たせたわけですし……」

 

「わかってるわ。でもねマシュ。これだけはこの子に言っておかなくちゃいけないのよ」

 

 そう言うとエレナは俺の鼻先にピッと右手の人差し指を据えた。

 

「いいこと? あなたは無茶で無鉄砲でものぐさで時たまわけのわからないこと言ったりするけど、そんなあなたはあなた一人だけなのよ。あなたがいなくなったら誰が人類史の救済をするの? 代わりは誰もいないのよ」

 

「………………」

 

 真剣な眼差しは反論の余地がない。最初の罵倒四連発にもぐうの音も出なかった。

 

「あなたの勇気も認めるわ。今までだってその勇気で戦場を切り抜けてきたのよね。でも、行き過ぎた勇気はただの無謀よ。それであなたが終わるなんて、このあたしが許さない」

 

 ふざけてもいられない。俺は顔に巻きついた包帯を取り去った。

 

「……悪かった。今回はちょっと無茶が過ぎたよ」

 

 謝ると、エレナは俺に向けていた人差し指でぽりぽりと頬を掻いた。

 

「わかればいいの。まあ、その……あたしも昂ぶってあなたに気づかなかったわけだし……。だからこの話ももうおしまいにしてあげる」

 

 エレナも本当に怒っていたわけじゃないんだ。人類最後のマスターであるこの俺を案じてくれているんだ。

 

(お母さんみたい。って言ったら怒るんだろうなぁ……)

 

 夫人と呼ばれるのも嫌がってる節があるし。

 なんて考えていると、エレナは衝撃の一言を口にした。

 

「それじゃあ、次のホムンクルスベビー集めもよろしくね?」

 

「……………ゑ?」

 

 ツギノ……?

 

 つぎの?

 

 次の!?

 

「何を間の抜けた顔してるの。あたし、まだ再臨一段階残してるわよ? ホムンクルスベビーがまだまだ必要だわ」

 

「なん……だと……!?」

 

 あまりの衝撃に手に持っていた包帯が床に落ちた。

 

「今回の再臨でストックも切らしちゃったみたいだし、また地道に集めに行きましょ。でもその前にあなたも少しくらいは自分の身を自分で守れる程度には力をつけなくちゃね!」

 

 待って待って待って待って。ちょっと待って。なんだか勝手に話が進んでませんか!?

 

「大丈夫! あなた素質あるもの! あたしがみっちり鍛えてあげるわ! ね?」

 

 両手を握って顔をぐっと寄せてくる。その目はキラキラと輝いていた。

 ノーという答えが来るなんて微塵も思っていないよこの人。

 

「マシュ……」

 

「サポートは任せてください。先輩」

 

 苦笑のような、でも楽しそうな微笑みが、俺の最後の退路を断った。

 

「……はい」

 

 観念していよいよ返事をしてしまうと、神智学の祖はそれはそれは眩しい笑顔を咲かせたのだった。

 

「頑張りましょ! あなたにもきっと、マハトマの声が聞こえるわ!」




マハトマの声が聞こえるのが早いか、ホムンクルスベビーが集まるのが早いか。多分後者ですね。
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