俺の名前は『
家出した所をとある縁あって今の上司である美城さんに拾われた。それ以来、346プロダクションで働いている。出世したもので今の肩書きは一応、アイドル部門統括プロデューサーだ。
とまあ一見大層な肩書きに思えるが、実際のところは新興部門を押し付けられただけ。まあ端的に言ってしまうと、規模のデカイ嫌がらせだ。というのも俺は正直、美城の人間に良く思われていない。会長の娘である美城さんが連れてきた小汚いガキ、それが周りから見た俺だ。
その上、美城さんは俺の能力を高く買って重役に就かせてくれた。能力を重視する美城さんらしいやり方だが、周りから見れば変な勘繰りをしてしまうのも仕方がない。要は美城さんの男だと思われていた。
そんな訳で俺は周りからちょこちょこ嫌がらせされながらも、美城さんの期待を裏切らない様、346プロダクション最大の部門である俳優部門で精一杯頑張ってきた。そして自分で言うのも何だが、俺はそこそこ結果を出した。
しかし頑張った結果、付いたあだ名が『美城常務の犬』というのだから笑えない。男から犬へジョブチェンジだ。美城さんに変な噂がつかないという点で良いかもしれないが。
しかし今から二年ほど前に美城さんのお父さん、つまり美城会長が『もっとグローバルな視点を持て』とか何とか言って美城さんを海外に長期出張させた。
当然俺も付いて行こうとしたが、会長に『君がいるとアレの成長を妨げてしまう』と言われてしまった。
そして美城さんはアメリカに飛び立った。
人事権は他の人間に渡り、俺は新興部門であるアイドル部門に左遷された。
そんな訳で今日も左遷先であるアイドル部門で俺が仕事をしていると、不意にドアを叩く音がした。出世祝いに美城さんから頂いた腕時計を見てみると、時刻は午後二時五十分。約束の十分前、相変わらず時間に正確な男だ。
「どうぞ」
「失礼いたします」
上司である俺より余程威厳がありそうな声と共に入ってきたのはこの部門きっての有能プロデューサーである武内くんだ。その重圧な声に相応しく、強面で非常にガタイが良い。しかし内面は温和そのもので、一部の女性陣からギャップ萌えがたまらないと言われている。
「まあ、座ってくれ。例の件だろ?」
俺がなけなしの威厳を精一杯出しながら促すと、彼は頭をペコペコさせながら席に着いた。彼が座ると、すかさず俺の秘書である和久井さんがコーヒーを出す。
和久井留美、白いスーツを見事に着こなすバリバリのキャリアウーマン。俳優部門にいた頃からの付き合いで、仕事が趣味だという彼女はその言葉に違わず非常に有能。恐らく、彼女が居なければ俺の仕事のペースは半分程下がるだろう。
「ありがとうございます」
武内プロデューサーの感謝の言葉に、和久井さんはただ笑って返した。相変わらず『出来る女』感が滲み出ている、素晴らしい女性だ。
「まずは企画書を見せて貰えるかな」
「はい、こちらになります」
武内くんがファイルから取り出した企画書、これは彼が立てた企画であり、我が部門始まって以来の最大プロジェクト『シンデレラプロジェクト』について書かれたものだ。
美城さんは、俺を信頼してアメリカに行った。ならば俺はその信頼に応えるまでだ。
このアイドル部門を346プロダクション最大の部門にする。それが俺の当面の目標だ。
この『シンデレラプロジェクト』から、全てが始まる。