トリコ~暴獣の弟子と国宝の娘~   作:スペル

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まさかの二話目投稿です
あと、一話も一時間後ぐらいに更新予定です

楽しんでもらえたら、嬉しいです!!


グルメ2 鱗片!!

時間にして僅か0.1秒。その少年と呼ぶには少し幼い風貌に次郎の意識が奪われた時間。それほどまでに似ていたのだ。そしてそれが切っ掛けとなって次郎の輝かしい記憶が蘇る。

 

「どうしたんだ?」

 

少年の声に次郎は重ねていた影を消し、少年を見据える。黒い髪を上に流しており、体つきは年に似合わないほどにしっかりとしている。そして何より、猛獣を思わせる瞳と何より目を引くのが、米神の位置についている横一線の()

 

――――グルメ細胞を宿しておるな

 

それがますます記憶をダブらせる。だからこそ、次郎は意識を切り替える意味でも少年に問うことを決める。

 

「お主の名前はなんじゃ?お主のような子供が、こんな危険区でなぜそのような事をしておる」

 

単純な問い。しかし、それは悪手だった。わかっていたはずだ、こんな場所に普通の子供がいるわけがない。真っ当な親がいてこんな場所にいるはずがない。ならば、考えられることは一つ。

それに一瞬気が付かないほどには、次郎の思考はぶれていた。

だからこそ

 

「名前なんてない。ここにいるのは生きるためだ」

 

その言葉を予測できなかった。その言葉が止めになり、目の前の少年の姿とかつて共に修業し苦楽を共にした三下の(ネコ)の姿が重なる。

 

「用がないなら、俺は行くな。飯取らないといけねぇし。行こうか、ユアン」

 

軽く別れを告げ、少年は次郎の前から去ろうとする。その姿が、かつての弟弟子と重なる。それは直感だった、彼の長年の経験が告げる。

今ここであの少年を一人にしてはいない。そうなれば、少年は奴と同じ道を辿るだろう。それは絶対に止めねばならない。それは自分の役目でもあるのだから。

 

「のう、行く当てがないならワシと一緒に来かの?」

 

「なに?」

 

突然の言葉に少年の足は止まる。その間に次郎は優しく話しかける。だが、その優しさが逆に少年の疑惑心を高める。

 

「なんで見ず知らずの俺にそこまで言う。赤の他人だろ、俺とあんたは」

 

その言葉に一瞬つまる次郎だが、ゆっくりと口を開く。

 

「…お主が似ておるのじゃよ」

 

「??」

 

「ワシの弟弟子にの。だから放っておけんのかもしれんな」

 

次郎の言葉に少年はしばし考える素振りを見せる。そして少年は言葉を発する。

 

「断る」

 

「理由を聞いてもいいかの」

 

「別に理由なんてないけど、俺はずっとユアンと二人で生きてきた。今更、他者の手を借りようとは思わない」

 

明確な拒絶と共に少年は、傍にいた狐を連れて今度こそ場を去ろうとする。その姿を見て、次郎は深く息を吐く。

 

「やはり、イチちゃんの様にはいかんな」

 

「ッ!!?」

 

「ガルルルッ!!」

 

瞬間、その場にいた生物たちはその場を後にせんとする。理由は単純明確。圧倒的な死の恐怖が現れたから。

そして一番近くにいた少年と狐は、最大の臨戦態勢に入りながら後方にいる次郎の方を振り向く。

しかしそれは、脅威を払うための勇気ある行為ではなく、本能が語る。目の前の存在からは決して逃げられない。臨戦態勢は、その恐怖を目の前の存在に気取られないための自衛手段でしかない。

 

「仕方ないのう。こうなれば、無理やり連れ帰るとするか」

 

もしかしたら昔を思い出さなければ、もっとうまくいったかもしれない。自分が尊敬する兄弟子ならばこんな手段を取らなくてもよかったのかも知れない。それでも今はぶつかるしかない。そう思った。

 

「少々、痛い目を見てもらうぞ」

 

――――いつの間にッ!!!

 

意識を逸らしたわけでもなく、己の持てる最大の警戒をもって見ていたはずの脅威は、容易に自身の傍へと現れる。

瞬間、少年と狐は攻撃を繰り出さんとするが…

 

「あくびが出るわい」

 

それは彼からすれば余りにも遅すぎた。刹那、自身の動きが完全に停止していることに気が付く。

 

「な…に!!?」

 

「ノッキングじゃよ。お主らはもう動けん」

 

視界には拳を握る次郎の姿。不味い。そう思っても体は全く動かない。

 

「少し寝てな」

 

放たれる拳。それは少年の短い人生の中でも、全く経験のないほどの衝撃。

 

――――クソ…

 

吹き飛ばされ、意識が殴られたことを認識すると同時に沈んでいいく。そしてその僅かな瞬間…

 

出るに(・・・)は速いが仕方ないか…このまま舐められるのも癪だ】

 

そんな声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数メートル先で気絶している少年を次郎は見つめている。

 

「ちと、やりすぎたかの」

 

ノッキングで意識を奪えばよかったとつぶやく次郎。その顔は、少しまいったといった表情をしている。

そして次郎は…

 

「ガルルルッ!!」

 

「お主も少し落ち着け」

 

今、恐怖を凌駕するほどの怒りを向ける一匹の狐に意識を向ける。

 

「死んではおらんよ。殴ってしまった事は詫びよう。だから、話を聞いてはくれんか」

 

「グウゥゥ」

 

警戒も怒りもなくならない。それでも今は話を聞くべきだと判断する。それを見極めるだけの理性はまだ彼には残っていた。

そして次郎もその意思を読み解き、笑みを浮かべる。

 

「おっと、その前にあの子を…ッ!?」

 

「ッ!!?」

 

瞬間、二人に襲い掛かるゾクリッ!と突き刺さるよな悪寒。考えるまでもなく、その正体を探らんとその場所を見る。

 

「……………」

 

そこには立てるはずのない少年が顔を下げ佇んでいる。

 

――――まさか…顔を出したのか

 

その経験則が次郎にその答えを導き出させる。表情の見えない少年がゆっくりと顔を上げ始める。

刹那、今度は少年が次郎のすぐそばに立つ。

 

――――速い…が

 

確かに速くなったが、追えない訳ではない。次郎は即座にノッキングの準備に入る。恐らくその攻撃が少年に直撃するまで一秒もかからないだろう。それほどまでの速さと正確さをもって放とうとしている次郎の意識が…

 

――――あ?

 

異変を感知する。少年が攻撃を繰り出さんと行動を起こしている(・・・・・・)。ゆったりとした動作。自分の攻撃の方が圧倒的に速いと思えるほどに流麗な動き。

なのに…

 

――――なぜ、動かん

 

身体が全く反応しない。まるでその動きに魅入られ、自分の動きのすべてが止まったような…

 

――――違う…ワシが反応できていないのか

 

その矛盾(・・)の正体は、意識のみ(・・・・)が辛うじてその動きを認知できているのだ。自己の意識と体感時間を極限までに圧縮することでのみ、その動作を認識できている。

つまり…

 

【「吹き飛べ」】

 

不可避に近い攻撃である。砲撃のような衝撃が次郎を襲う。

 

――――なんてエネルギーじゃ…

 

自分が防御に徹する。それが意味する事の大きさに次郎は一瞬の驚愕を覚える。距離にして数百メートル次郎は後退させられた。

 

「とんでもない悪魔(モノ)を宿しておるな」

 

驚嘆の声と共に視線を向ければ、少年が血を出して倒れている。

 

「こりゃいかん」

 

それを認識すると次郎は、目にも止まらない速度でその場に立つ。そして優しく気絶した少年を抱き上げる。

 

「クウゥン」

 

「心配せんでええ。これならば、少し休めば回復するじゃろ」

 

心配するような声を出す狐に次郎は優しく告げる。そして狐のノッキングを解くと、視線を合わせ

 

「ワシと一緒にくるか?この子の事もある…心配せんでも悪いようにはせん…この子は、ワシの弟子(・・)にする」

 

己の想いを告げる。その瞳を見た狐は、目の前の存在ならと判断する。それほどまでに優しい瞳を見せていた。

ゆっくりと肯定を示す様に頭を下げる。

 

「それじゃあ、行くかの」

 

狐の反応を見た次郎は笑みを浮かべその場所を去る。その後ろを狐がついていく。

 

「それにしても、でかい土産が出来たのぉ」

 

気絶し眠っている少年の顔を見ながら次郎は優しくつぶやいた。




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