トリコ~暴獣の弟子と国宝の娘~   作:スペル

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正真正銘本日最後の更新です
これ以降は、完全に不定期となります

話は変わって、今週のトリコを読んで感想
二狼・・・・お兄ちゃんしてましたね

楽しんでもらえたら、嬉しいです!!


グルメ3 授かる名!!

意識が沈む。そしてその度に、その声を聞く。

 

――――食え、私の為に。そして己の為に

 

一体誰の声なのかわからない。それでも自分に向けて(・・・・・・)の言葉だからなのか、自然と従う気になった。

実際に食えば強くなった。だから、なおさらその言葉が正しいと思った。

 

――――お前は誰だ?

 

長年の唯一の疑問。されど、その声にそれは答えない。まるで神からの啓示の様にただ命じるだけ。まるで自分は便利な駒だと思ったが、それ以外の生き方もないから、従う。

 

それでもどこか悔しさがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意識がゆっくりと浮上してくる。最初に覚醒した器官は嗅覚。その嗅覚が何やら嗅いだこともない美味しそうな匂いをかぎ取る。そして次に聴覚が、何やら話し声を拾う。一人は先ほどあった老人の物。もう一つは聞いたことのない声。

 

――――ここは…

 

順に覚醒していく意識。漸く戻った意識が辺りの状況を把握するために動く。

 

「おお、目を覚ましたか」

 

「此処は…ッ?」

 

意識を取り戻した少年の元に酒を飲みながら次郎が歩み寄る。僅かに痛みに顔をしかめながらも少年は今の現状を把握しようとする。そんな中で、一つの皿が少年の前に差し出される。

 

「食べんしゃい。今のお主には必要なことじゃよ」

 

差し出された方を見れば、節乃が皿を差し出している。改めて、少年はその場所を見る。温かい光に満ちた場所。ふと視界の端に、座り込んでいる唯一の家族の姿。

 

「あやつ、お主が目覚めるまで何も口にせずにただ待って居ったぞ」

 

クラマ(・・・)とは思えぬ、優しさだな」

 

「クラマ?」

 

少年と目線のあった狐は、ゆっくりと傍まで歩み寄り少年に頬を摺り寄せる。その微笑ましく絆を感じさせる光景に、その正体を知る二人は驚きの声を漏らす。

そしてその言葉に少年は反応を見せる。

 

「ふむ。グルメ界に生息する九本の尾をもつ美しい白狐じゃよ。珍しい細胞の力をもって人に化けることされる事から、『妖狐(ようこ)』の別名を持つ。気性の荒さと強さを持つ、グルメ界でも屈指の強獣じゃよ」

 

お前(ユアン)、クラマっていうのか」

 

「なんじゃ、お主知らんかのか」

 

「ああ。ただ、呼ぶのに困ったからユアンって呼んでるだけだったし……これからはクラマって呼んだ方がいいかっ…てッ!!」

 

確認するようにユアンに語り掛ける少年だが、その想いを否定するように一つの尻尾が少年の頬を叩く。

 

「どうやら、ユアンはそのままで良いと言っておるな」

 

「そうじゃの。だろうやら、その名が気に入っているらしいの」

 

次郎と節乃の言葉を聞いた少年は、静かにユアンと向き合う。

 

「なあ、ユアン。本当にいいのか?それを名前にして(・・・・・)…」

 

「クウゥン」

 

その言葉に応える様に鳴く声音には決意と誇り、そして肯定の意思。その意志が固いことを悟った少年はため息をこぼす。

 

「わかったよ。これからも頼むよ、ユアン」

 

「ウォン!!」

 

少年の言葉にユアンは喜びの声を上げる。

 

「ひと段落ついたことじゃし、食べなさい、二人とも」

 

節乃より、改めて差し出される皿を手に取る少年。

 

――――温かい

 

生まれて初めて感じる食材の料理の温かさ。ふとユアンの方を見れば、美味しそうに料理を食べている。

一度だけ少年は節乃の方に視線を向ける。

 

「セッちゃんの料理は絶品じゃぞ」

 

節乃の笑みと次郎の言葉を受けて少年はゆっくりと料理に口をつける。ゆっくりと染みてくるうま味。初めて食べるちゃんと調理を施された料理の味。

 

「美味しい…」

 

その小さなつぶやきを聞いた節乃と次郎は顔を見合わせて笑みを浮かべる。

気が付けば、少年とユアンは無我夢中で節乃の出す料理を食べ、次郎は酒を飲みながらそれを微笑ましく見つめ、節乃もまた嬉しそうに料理を振るう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くの間料理に舌を打っていたが、一息ついたころを見計らって次郎は口を開く。

 

「さて、ワシはお主を弟子にするつもりじゃが、お主からは聞いていなかったの」

 

「……」

 

次郎の言葉に少年は無言となり考えるそぶりを見せる。生まれて初めての施し(・・)と優しさ。彼ら二人に思惑がない事は、警戒心の高く裏を感知する事に長けているユアンが、完全に警戒を解いているのを見れば、想像は難しくない。

普段は決して思わないし、それ(・・)は奥底の奥底に眠っている。しかし生まれて初めての温かな料理に加え施しが、少年の心の奥底のそれが表に顔を出した。だから、望んでいいのなら…

 

「よ…よろしくお願い…します」

 

少年は真摯に次郎と節乃に頭を下げる。時間にして五秒ほどたったのだろうか、ふわりと少年の頭に次郎の手が乗せられる。

 

「よう頑張った。辛かったじゃろ…もう大丈夫じゃ」

 

優しく優しく頭を撫でられ、少年の瞳に生まれて初めて涙がたまる。押し殺すような泣き声が少年の口からこぼれる。

暫くの間、次郎と節乃はその涙が止まるまで、少年を泣かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時間にしておよそ一分だろうか、漸く泣き止んだ少年は恥ずかしいのか視線を合わせようとしない。そんな中で、ふと節乃があることに気が付く。

 

「そういえば、お主名前がなかったの」

 

「おお、そうじゃったの。何か考えねばの…」

 

肝心の当事者の少年は、意味が全く分かっていないのか、首を傾げている。

節乃の言葉に次郎はどうしたもんかと思考する。自分がそうだったのだ、名前の大切さを知っていながら、此処までほったらかしにしたのは間違いだった。

 

――――さて、どうするかの?

 

せっかく名づけるのだ。誇りとして持ってもらいたい。しかし、自分のネーミングセンスはないと言われたこともある。昔ならばいざ知らず、今導く立場となると悩むところがある。

そんなコンビの悩みを察してか、節乃が笑みを浮かべる。

 

次元(じげん)は、どうじゃろ?」

 

「む?」

 

「??」

 

紡がれた名前に次郎と少年が反応する。視線を向けられた節乃は笑みを浮かべながら、その訳を話し始める。

 

()郎ちゃんの様に()気に育って欲しい。そういう意味を込めたんじゃよ」

 

「なるほどのう。お主はどうじゃ?」

 

節乃の言葉に次郎は、少し恥ずかしそうに頬を掻きながらもその意見に賛成する。そして次郎の言葉を受けた少年は、小さく何度もその名を呟き、肯定する様に小さく頷く。

 

「よし、決まりじゃな。これから宜しく頼むぞ、次元(・・)、ユアン。ワシの名は次郎じゃ。そして…」

 

「ジロちゃんのコンビをしている節乃じゃ。宜しくの、次元(・・)、ユアン」

 

「宜しくお願いします」

 

「クゥオン」

 

かけられた名前と言葉に戸惑いながらも少年次元は答える。

 

「それにしても一日で三人(・・)も家族が増えるとはの」

 

「そうじゃのう。にぎやかになるのぉ」

 

次元の言葉に満足した節乃が、嬉しそうに呟く。それに同調するように次郎もうなずく。そしてその言葉に疑問に感じるのが一人。

 

「三人?」

 

「おうそうじゃったの。今、紹介するの」

 

次元の言葉に節乃が少し席を外す。そして暫くして、節乃が白い布に包まれた赤ん坊を連れてくる。

 

これ(・・)は?…ッ!!?」

 

「これじゃあないわい。この子じゃ」

 

「全く!!まずは礼儀を教えねばならぬようじゃの」

 

純粋な疑問を口にした次元の頭を次郎と節乃が問答無用にゲンコツを落とす。余りの威力に次元は悶えている。

 

「この子は…次元、お主と同じで今日私が拾った子じゃ。名前は凛華(りんか)じゃ」

 

「…凛華?」

 

「そうじゃ、世界に()とした()として咲いてほしい。そんな意味を込めたんじゃ」

 

節乃は優し声音で眠っている女の子の赤ん坊の頭を撫でる。それに釣られるように次元の視線が赤ん坊に向く。

綺麗な銀髪をした、将来美人になる予感を感じさせる子。

 

「そうじゃっ!私が忙しい時は、お主にも世話をしてもらうからの、次元」

 

「えっ!?」

 

突然の言葉に次元は驚きの声を上げる。その反応を見た節乃は面白そうに笑みを浮かべながら、凛華を次元に近づける。

 

「ほれ、撫でてみぃ」

 

「ッ!?」

 

節乃の言葉に次元は怯えたような表情を見せ、距離を取ろうとする。しかしそれを制するように次郎が次元の手を掴む。

 

「ほれ、怯えずに触れてみい」

 

次郎の手に導かれるままに次元の手が女の子の頭を撫でる。そしてそれに続く様にユアンが、その頬を優しく舐める。

撫でられ、舐められている女の子は、気持ちよさそうにしている。

少し怯えながらも次元は、優しく撫でる。そしてユアンもまた優しく舐める。その光景を次郎と節乃は、微笑ましそうに見つめていた。

 

これが出会い。のちに、グルメ時代に最強の美食屋と最高の料理人として名を刻む二人の出会い。




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