PCのキーボードが壊れる事件と、論文が難敵すぎて、息抜きの更新です
久しぶりなので、おかしな部分などがあれば教えてほしいです
今回は凜華とハーマッシュの対決となります
ズドン!とその巨体が大きな揺れと共に森林大亀が地面に横たわる。その手前には、肩で息をしながら、次元が無事に立っている。
――――よかった。それに凄かったっ!!これが、美食屋なんだ…
その姿を確認して凜華は、心の底から安堵と感動を覚える。今まで自分の育て親である節乃から聞かされていた野生における美食屋と猛獣との狩りの話以上のものを、今の狩りから凜華は本能的に感じ取ったのだ。
そんな凜華だからこそ…
「わりぃな。少し手間取っちまった。あとは、頼むぜ」
次元の言葉に、自分の託された役目の重さを感じ、無意識に息をのむ。それでも同時に、これ程の高級食材を生で見れることに、そしてその調理を
――――これが…ハーマッシュ。すごい存在感…きれい
ゆっくり持ってきた包丁を手に持ちながら、次元の隣へと歩みよる。それにより、先ほど以上にくっきりと
その存在感に魅入られ、光に集まる虫のようにハーマッシュへと歩みより、触れようとっ手を伸ばそうとした瞬間
「!。危ねぇ!!」
「きゃっ!!??」
何かに気が付いた次元が、ハーマッシュに手を伸ばそうとした凜華の腕を掴み後ろに引っ張る。次元が凜華を引っ張った瞬間、先ほど凜華がいた場所にバシィ!とツタが襲い掛かってきた。
「どうやら、
凜華を胸に押し付けながら、次元は冷静に判断を下す。対して現実に引き戻されたよう凜華は、もし次元が腕を引っ張ってくれなければどうなっていたかを想像し、顔を青く染める。
――――ハーマッシュ自体にもある程度の殺傷能力があるのか……凜華一人は危険だな。
森林大亀の甲羅の上。一種の庭のような新緑の中に張り巡らされた、死を招く罠の存在。何の
――――だが、俺は体力がやばい。それに周りからも他の猛獣が来るかもしれねぇ。優先度は捕獲のためにも凜華の身の安全で、次に他の猛獣か…なら「ユアン」
考えがまとまると次元は、後方で待機していた己のパートナーの方に顔を向けると、小さく名前を呼ぶ。
それだけで十分だと「ウォン」とユアンは小さく吠え、ゆっくりと此方に近づいてくる。己のパートナーの察しの良さに、次元は苦笑をこぼす。そして次元は胸に抱きこんでいる凜華の耳元に口を寄せる。
「凜華」
「あっ!次元。ご、ごめん!!迂闊に近づいちゃって――――」
次元の声に凜華は漸く現実に意識が戻り、自分が何をしたかを認識し、次元に謝罪を口にする。口酸っぱく
「お前にユアンの護衛をつける。これでツタの攻撃を気にしなくて済む。他の猛獣が来る可能性があるから、俺は周りの警戒に当たる。
「え…」
「クーン」
叱ることなく、自分の考えを告げる。そしてユアンも任せてと言わんばかりに、優しく凜華の頬を下で撫でる。
「怒ってないの?私は次元に確認も取らないで、食材に近づいたんだよ」
「気にすんな。俺も美食屋になると決めた初めの頃は、よくやらかした。その度に師匠に迷惑かけたからな、その気持ちは痛いほどわかる。だから、気にするな。一応先輩だからな、俺が護るのも当然だ。失敗から学べばいいさ…俺も師匠からそう言われたしな」
何処か自分を責める凜華に次元は優しく告げる。最後の言葉は、何処か恥ずかしそうに言っている。きっとそれは自分も似た言葉を放った経験がある事を察しさせる。事実凜華の隣にいるユアンは、小さく首を上下させている。
「それに俺じゃあ、
真摯な次元の言葉と先ほどの優しさに凜華の心は、落ち着きを取り戻す。凜華自身次元がこの依頼を絶対に成功させたいと思っていることを知っている。
それ故に最後の最後を他人に任せなければならない次元の決断と無力さに近いものがよく理解できた。
だからこそ凜華は、一度大きく深呼吸をし…
「任せて!!」
普段と変わらない声音で返事を返す。余りの変化に次元は呆けている間に、凜華は隣にいたユアンに「よろしくね」「ウォン」と声をかけ、ハーマッシュへと近づいていった。
不思議と先ほどまで感じていた恐怖は感じない。
――――ユアンが護ってくれてるからかな?それとも…私も漸く覚悟が決まったのかな
恐ろしい程に意識が視界がハッキリしている。襲い来るツタが僅かに見えるが、それでも歩みが止まらない。
「ガル!!」
襲い来るツタは、凜華の隣を歩くユアンの九本の尻尾によって悉く弾かれている。そして漸く凜華とユアンは、ハーマッシュと対面する。
――――すごい…これがハーマッシュ
まるで巨大な花の雄しべのように凛々しくそびえたつ新緑色のキノコのカサ。そしてハーブのような葉がキノコのカサを花に見立てている。そしてツタのような緑の粘菌の根が、余りにも大きくまるで本物のツタのようにも見える。
不思議と
事実ユアンもまた、何処か
――――きっとこの子は、特殊調理食材なんだ。次元はそれだから私に任せたんだ
一目見てその食材が特殊調理食材だと判断し、凜華は次元の言葉の意味をようやく理解する。
彼女は気が付いていない。一目見て、何の情報もない食材を特殊調理食材だと確信できるという、その才に。
――――この場合は、どうすればいい…
特殊調理食材だと確信した瞬間、今までも集中していた凜華の集中力が更に高まる。その高まりは、ユアンがピクっと反応し、次元が「うおっ!」と驚きを上げる程。
しかしそんな二人の反応すらも凜華は気が付かず、脳内に今までの経験そして師匠である節乃の言葉が、鮮明によみがえる。
――――たぶん、根元の菌根を切るにも順番があるはず。無作為に切っちゃうのはダメ。でも、何か法則があるはず…まずはそれを見つけないと…
何か目でわかる物はないかと、凜華の集中力はさらに増していく。だがそれは、比例するように外部からの危険に対する危機能力を失わせる諸刃の剣。もしも今、凜華を喰らわんと猛獣が襲い掛かってきても、凜華は反応すらできないだろう。
それ程までの集中力をもって凜華は、目の前の
「ヴォン!!」
そしてそんな凜華に襲い来るツタをユアンは、九本の白い尾をと己の爪と牙を巧みに使い弾いていく。本来ならば斬り裂きたい所だが、特殊調理食材である以上、下手な攻撃が食材にどのような悪影響を与えるかわからない以上、弾くという選択以外取れない。
本来の実力を発揮できないことにイラつきを覚えるが、それでも託された役目を果たさんとユアンは、吠える。
――――今のところ、他の猛獣の気配はなしと
いつ来るかもわからない
――――それでも凜華の邪魔だけは、させねぇ
後ろで何の力も持たない
各々が己の役割を最大限に果たす。言われるまでもなく、三人は理解している。そうしなければ、目の前の獲物は狩れないと…
それは劇的な変化があったわけではない。ふと節乃が言っていた「世界で一番の香り」という単語が、凜華の頭の中を過りそしてそれがなぜが正解だと確信した。
シュッと節乃より、料理人になると宣言した日にもらった愛用の包丁を構え、ハーマッシュへと近づいていく。
それに続く様にユアンも付いていこうとするが、凜華の手がそれを制する。
「ッ―――!!」
危険だと声をあげようとして、ユアンは気が付く。攻撃が止んでいる。そしてまるで凜華を招き入れるように、道が出来ている。
「クン――――」
最大限の警戒を維持したままユアンは、凜華を見守る決断を下す。異変があれば、最悪ハーマッシュを殺すという手段をもって凜華の身を護る。
――――やっぱりこの菌根には香りの管が通ってる。これの香りが濃い順番に、正しい力の入れ方で包丁を入れて、剥がしていくんだ。
常人には見ることも不可能で普通の料理人には感じる事も出来ないものを確かに感じている凜華はスゥゥウと流れる動作で一閃、ハーマッシュへと包丁を入れる。
瞬間…
「「「ッ―――――!!??」」」
三人の脳裏に、新緑の香りを映像として幻想する。そして泉の源泉のように沸き上がる食欲。それがハーマッシュの真価なのだと、考えるまでもなく三人の本能が察する。
そして…
「キィィィイ!!」
「グゥゥゥウウウ!!」
「チィ!!」
その香りに釣られる様に猛獣たちが押し寄せる。その猛進に次元は、舌打ちをこぼしながら、対応せんと臨戦態勢に入る。
そしてその隣にトンとユアンが立つ。
「ユアン…」
「—————」
「俺の方が不甲斐ないってか…」
その視線が何を告げているのか察した次元は、情けないと言いたげな表情を見せる。しかし即座に頭を切り替える。
野生において、その感情が命取りになることを次元は、次郎との旅で…短いながらも己の人生経験から知っていた。
「行くぞ!!」
「ウォン!!」
だからこそ、己の不甲斐なさを飲み込み。次元とユアンは、迫りくる猛獣たちへと挑みかかった。
次元とユアンの激闘すら、視界に視認せず。凜華は、繊細かつ大胆に包丁を菌根に入れていく。幾重にも張り巡らされた壁を前に、凜華は今までにない集中力を発揮する。
――――これで全部の匂いの管は露出できた。……次はたぶん、まだやり方はぼんやりだけど、管の中に濃縮されている香りとうま味を本体であるキノコの方へと移動させるんだ…切り込みを入れるのは、きっとカサの部分…
師である節乃の教えが、此処までの短い経験が、そして初めて接する生の食材が、大幅に凜華の中に眠るナニカを強く刺激する。
故に沸き上がる、本能に凜華は従うように調理を進める。
――――やっぱりだ、うっすらとだけどカサの筋にも香りの管と同じものが見える。これを順序良く活性化させていくためには…
迷いはない。シュ!と凜華は、カサの部分のヒラの部分に肉眼では認識不可の切れ込みを入れていく。
その切れ込みに連動するように、菌根に隠されていた香りの管に濃縮されたうま味と香りが、
「
「ヴォンッ!!」
その香りに釣られて現れる猛獣たちを、次元の蛇を思わせる不規則な足蹴りが、ユアンの九本の尾の槍が、撃退していく。
二人の一撃に猛獣たちは悲鳴を上げ、傷を負いその場を後にする。血飛沫が舞うが、二人は猛獣の命までは奪わない。それは強者故の資格であり、師である次郎の言葉ゆえ。
そんな常人ならば、恐怖で竦み動けなくなる現状の中でも凜華は、全く動じない。それは才能故か、それとも信頼故なのかは、次元にはわからない。それでも自分の行動が、凜華のマイナスになっていない事に安堵する。
――――それにしても見聞で聞いても、見事な集中力だよな。俺でもそこまでの集中力を発揮できた覚えはないぞ
今もなお目の前の
そんな次元の考えなど、つゆ知らずに凜華とハーマッシュの
――――もう少し、もう少し…落ち着いて、冷静に…
己に言い聞かせながら凜華は、目の前のハーマッシュをじっくりと観察する。大多数の菌根は切断されており、ハーマッシュの姿を拝めるまで来ている。香りも十分ハーマッシュの大本に流れている。あとは、森林大亀から切断するだけなのだが凜華は、その切断作業が、一番の山場だと本能的に察し、はやる気持ちをお抑え、改めて覚悟を決める。
――――せっかく次元が信じてくれたんだ!!あの信頼に応えたい!!
沸き上がる感情を原動力に凜華は、最後の難関に挑んでいく。
――――そのまま横に包丁を入れるのは、絶対にダメ。きっと此処でも菌根が関わっているはず。その証拠に根の部分の菌根は、他のと少し違う気がする。違いと法則を見極めないと…
最早常人の目では見る事すら出来ない物を、凜華は本能で理解し、答えを求める。どれほどの時間眺めていただろう。現実的に言えば、3分から5分程度の間だが、凜華の体感時間で5時間ともいえる濃密な時間の中で、遂にその答えを得る。
――――甲羅に癒着度に違いがある……それってそういう事だよね
自問自答しながらも確信をもって凜華は、包丁を入れる。最も菌根が甲羅と癒着している場所の菌根の筋に沿うように丁寧に素早く筋を入れていく。
膨大ともいえる菌根の数。今までも決して楽な道はなく、疲弊した状態でのその作業は、ミスを誘発する可能性を大きく含んでいるが…
「——————!!」
その逆境が困難が、凜華の才能と責任感に火をつける。決して無駄なく繊細に丁寧に行いながらも、その包丁捌きは、凜華の中では一番早い。
―――――あと、100…50…25…10…5
そしてその時が来る。癒着した全ての菌根に包丁を入れ、あとは切り離すのみ。
興奮が沸き上がる。初めての特殊調理食材の調理。それも
「よし!」
興奮で震える手を落ち着かせ凜華は、ハーマッシュを森林大亀から切り離す。
「え?」
瞬間、時が戻ってきたかのように凜華の聴覚が音を聞き取り、滝のような汗が湧き出る。
しかしそれを理解するよりも、次元の信頼に応えれたという喜びと、特殊調理食材を調理できたという嬉しさという名の達成感が凜華の中に沸き上がった。
そしてハーマッシュから、放たれる芳醇な香りに一瞬意識を奪われた。
実食まではいけませんでした!!
申し訳ありません……次はいよいよハーマッシュの実食となります
上手くトリコの世界観を表現できるように頑張ります!!