鉄血のストラトス   作:ビーハイブ

12 / 20
戦闘書いてて楽しいですけど脳内イメージを文章にするって難しいです


剣舞

――――この場にいる者全ての動きが静止する

 

 

 突如戦場に現れたの深紅の装甲を持つISであった。まるで兎の耳のような特徴的な長い一対のアンテナを持った頭部と余分な装甲が存在しないスマートな手足。その腕にシールドと一体化した細身のブレードを、リアスカートには茎が剥き出しになった片刃の剣が装備されている。

 

 全身装甲と呼称される身体全てが装甲によって覆われている型の為、性別すら判断できないその乱入者の出現に対する戸惑いもあったが、全員が動きを止める程驚愕した理由はそれだけではなかった。

 

 そのISが着地した場所は戦場で戦っていたマン・ロディの一体の上。その丸みを帯びた装甲を持ったISの上に乱入者は器用に膝立ちした状態で静止しているが、マン・ロディにそれを振り払う様子はなく、それどころか微動だにしない。何故ならばすでにマン・ロディの操縦者の命は尽きていたからだ。

 

 乱入者の右腕に装備された細身の剣がマン・ロディの頭部を守る装甲を真上から貫き、致命傷を与えたのである。おそらく操縦者は自らの身に何が起きたかすら認識する前に絶命していただろう。

 

 操縦者の死を認識したマン・ロディがその機能を停止して地面に落ちる瞬間、乱入者は立ち上がりながら突き立てた剣を引き抜き、優雅な動きでふわりと地面に舞い降りる。そして驚愕する全員の前で右腕を一振りすると剣先を穢していた鮮血が地面に軌跡を描いた。

 

『なん―――』

 

 ナツとラウラに遅れて我に返ったDDが怒りの声を上げようとした瞬間、乱入者の姿が掻き消える。それが瞬時加速によるものだと気が付いた時には別のマン・ロディが首を刺し貫かれて絶命していた。

 

 

――――そこから先は惨劇であった

 

 

 乱入者は一体どのような手段を用いているかはわからないが、音を立てる事もなく瞬時加速を行ってマン・ロディの元へ移動しては前後左右あらゆる位置から最も守りの薄い首元へ正確に剣を突き立ててマン・ロディの操縦者達の命を刈り取っていく。そして乱入者の動きを全く補足できなかったDDは、グシオンを動かす事すらできぬまま目の前で配下であるマン・ロディが斃されていく様を見せつけられていた。

 

『無事か』

『あぁ』

 

 襲撃者が自身に攻撃をしてくる気配がない事を悟ったナツがラウラの元へ移動すると、シャルとアインも二人の傍に移動してくる。その間にもマン・ロディは撃破されていき、残り三体となったところでDDも我に返って攻撃し始めるが、襲撃者は苦もなく回避していた。

 

『なんだよあのIS』

『グレイズの祖。英雄の陰に隠れた悲劇のISだ』

 

 ナツの疑問にラウラは簡潔に答えると素早く投影ディスプレイを表示して素早く操作を行う。するとラウラからナツの元へデータが送られてきたのでそれを即座に展開しその内容を確認する。

 

 ハイパーセンサーによってISと脳は直結している為、簡単な文章程度ならば視覚を介さずに直接脳内に情報として入力する事ができる。なので文字を読むことが苦手なナツであってもその内容を一字一句、正確に把握する事が可能なのである。

 

 そうやってラウラから齎された情報によってナツは乱入者の機体名がグリムゲルデであり、ガンダム・フレームと同時期に開発された機動力強化と、エネルギー効率の向上を重点に置いて設計されたヴァルキュリア・フレームと呼ばれるグレイズの前身、ゲイレールのベース機であると知ることができた。

 

 その情報を知ると共にナツの乱入者に対する警戒心が一段と上がる。何故ならばあのISはガンダム・フレームではないと言うのに絶対防御を貫いたという事になるからだ。

 

 方法については想像に難くない。同様の手段を持ってシュヴァルベ・グレイズを使ってラウラがマン・ロディを撃破したのをナツは知っている。

 

 エイハブ粒子を近接武器に纏わせて放つ事で絶対防御を破る一点突破の攻撃。しかしそれを成功させる為にラウラですら武器を一つ犠牲にしていたというのに、グシオンの攻撃を軽々とかわしながらマン・ロディを撃破していくグリムゲルデの持つ剣にはヒビ一つ見当たらない。粒子制御の技術は機体性能でゴリ押ししているナツは当然としてラウラですら上回るであろう。

 

 そこまで考えたところで突如ナツ達の目の前にグリムゲルデの姿が現れる。即座に眼前の乱入者から意識を逸らさないようにしつつセンサーで周囲を確認すると、全てのマン・ロディが機能を停止し、残されたのは自分達四機とグリムゲルデ。そしてグシオンのみとなっていた。

 

 ナツとラウラは同時に両手の平を手刀の形に変える。ナツはそこに武器と同じようにエイハブ粒子を纏わせ、ラウラは手刀を延長するように一メートル程のエネルギーブレードを発生させる。二人が臨戦態勢を取ると共にアインはシャルを守るようにその前に立つ。

 

 グシオンと違いガンダムフレームではない上に装甲の薄いグリムゲルデには通常のISの攻撃は有効であるし、ガンダムフレームであるバルバトスならば手刀の一撃だけでも装甲を貫く事は容易いだろう。

 

 そう考えたナツが攻撃に移ろうとするがそれよりも早くグリムゲルデはシールドのラッチで固定されていた両腕の剣を回転させて裏側へと収納してしまう。その意図がわからず怪訝な表情を浮かべていたナツに腰に携えていた武器を手に取り放り投げる。

 

『……っと!』

 

 ナツが咄嗟に片刃の剣の柄をつかみ取ると、それを確認したグリムゲルデはそのまま瞬時加速を行うとグシオンと反対側、すなわち自分達を挟んで盾にするような場所に移動してしまう。そして両手のシールドをマウントされたブレードごと収納すると腕を組んで悠然とその場に佇む。

 

 自身の役目は終わった。後は任せたと言うような雰囲気を漂わせているグリムゲルデ。その正体は目的は一切わからないが、マン・ロディを撃破し、武器を失ったナツに獲物を渡した上にこちらに攻撃してこなかった事から、ナツは一先ずは敵ではないと警戒心を保ったまま判断する。

 

 そしてラウラにグリムゲルデを警戒しておくように頼むと怒りと殺意を全開にしているDDの前に立つ。 

 

 

――――神経を研ぎ澄まし、眼前の敵に向けて意識を集中させる

 

 

 DDはグリムゲルデに対する怒りと目の前に立っている己を殺してやると言っていたが、極限の集中状態に入っている今のナツには全く聞こえていなかった。

 

 ナツは右腰に鞘があるイメージを浮かべ、そこに納刀するように右手で柄を持ったまま片刃の剣を構え、左手を刀身に添えるように置く。

 

 メイスよりも細く軽いこの剣は打撃武器としては使い物にならないし、バスターソードのように重量を利用して叩き付けるようにして斬る事もできない。そのような方法ではグシオンの堅牢な守りの前ではあっさりと弾かれてしまうだろう。

 

 ならばどうすればいいか。その答えをナツは知っていた。

 

 ナツにこのような武器を使った記憶はない。しかし同時に武器の特性、使い方、最適な扱い方を身体が覚えていた。

 

 おそらく記憶を失う前。何千、何万、あるいはそれ以上、その使い方を肉体に焼き付くほどにこの武器を振るい続けたのだろう。何故自身がそこまでこの武器を極めようとしたのか、どれだけ鍛錬を積み続けたのかはわからない。

 

(まぁどうでもいいか)

 

 一瞬だけ浮かんだ疑問を切り捨てるとナツはそのまま瞬時加速を行う。DDも反応し、迎撃しようとロングアックスを構えようとするが、それよりも早く抜刀のモーションと共に上段に向けて剣を振り上げる。

 

 メイスの時とは比べ物にならない速さで放たれた一撃はグシオンの手首ごとロングアックスの柄を切断し、同時にその向こうにある胸部装甲を紙を切るかのようにあっさりと切断する。ガンダムフレームのエイハブ粒子を纏った刀身はその剣技と合わさる事でグシオンの堅牢な守りを斬り裂いたのだ。

 

 そして振り抜いたと同時にくるりと刀身を返し、逃げる暇を与える気はないと言わんばかりに今度は垂直に振り下ろす。

 

『がああああァッ!?』

 

 DDの叫び声がナツの耳に届く。振り下ろされた刃はグシオンの左腕をその向こうにある生身の腕まで深く斬り裂いたのだ。鮮血を噴き上げる左腕は駆動系ごと切断したのでもはやガードにすら使えないだろう。

 

 

―――だがそれでもナツは止まらない

 

 

 右腕でガードしようとすれば肩ごと切断して斬り落とし、蹴りを加えようとするならば足首を斬り落とす。胸部のバスターアンカーを撃とうすれば砲口ごと弾丸を切断し、体当たりしようとすればかわしながら装甲を切断する。

 

 そして攻撃手段と戦意を完全に失ったDDは背中を見せて逃げようとするが、ナツは背中のスラスターを切り裂いた上に二重瞬時加速で回り込む。

 

『バケモノ―――』

 

 絶望の籠った声で罵声を浴びせようとしたDDへ、ナツが初撃で開いた装甲の隙間に刀身を差し込むと肉に刃が突き刺さる音と共に隙間から鮮血が飛び散った。

 

『今更気が付いたの?』

 

 それに対し、胸元を貫いた剣を引き抜きながらナツは何を当たり前の事をといった様子で答えるが、それ以上DDが何かを言う事は無く、そのまま重力に引かれるようにグシオンは地面に落ちる。

 

『ぐっ……?!』

 

 終わったと実感すると共に極限まで高めていた集中力が途切れ、同時に凄まじい頭痛がナツを襲う。同調率を上げている時に匹敵する痛みに意識を奪われそうになるが、歯を食い縛って辛うじて耐える。

 

『終わったか……奴は去ったよ』

 

 数秒程痛みと戦い、落ち着きを取り戻したナツにラウラが声をかける。その言葉に振り返ると突如現れ状況をひっくり返したグリムゲルデの姿はどこにもなかった。

 

『……あぁ』

 

 そして全ての脅威が去った事で終わったというラウラの言葉を実感したナツが静かにそう呟くと共に、空虚な声を上げると共に前身から力が抜ける。

 

 今まで己の中で燃え続けていた()()の対象が無くなった事で自らの心が空洞になったような感覚に陥ってしまったのだ。おそらくISのアシストが無ければそのまま膝を着いていただろう。

 

『……大丈夫か?』

 

 バイザーでナツの表情は見えていないはずだが、纏う雰囲気から虚脱し完全に覇気を失った事が伝わったのだろう。完全に自殺する前の人間と同じ状態になっているナツを心配してそう声をかける。

 

『大丈夫。まだやる事があるから』

 シャルを連れて行くという目的を原動力にして再度心を奮い立たせたナツは、背中のバックパックにグリムゲルデの置き土産である剣をメイスの代わりにマウントする。

 

『……奴はお前に何をしたんだ?』

『……大切な仲間の仇』

 

 その問いにナツは素直にそう応じる。そして何となくそのような予感を抱いていたラウラは『そうか』とだけ答える。ラウラがその理由に気が付いていた理由は難しい事ではない。ただ単純に己も仲間を殺されたらきっとナツと同じ反応をするだろうという確信を持っていたからだ。

 

『さて。名残惜しいがこれで私達の共闘は終わりだ。今すぐにでも捕獲したいが残念ながら機体のダメージが大きくて追う事は出来ん。今なら逃げ切れられてしまうな』

『そっか。なら逃げさせてもらうよ。それはいらないから好きにしてくれ。シャル、行くよ』

『わっ……っとっと……! ラウラさんっ!お元気で! アインさんも守ってくれてありがとうございました!』

 

 わざとらしく見逃すと言うラウラにお礼の代わりにとグシオンを指さした後、ナツはシャルのグレイズ改の手を掴んで引き寄せると再び肩に担ぐ。バルバトスの機動力の方が圧倒的に高いのでこの方が早いという判断したのだ。

 

 シャルも二度目となれば担がれる事を諦めと共にであるが素直に受け入れ、同時にグシオン撃破後は別れざるを得ない事情を理解していたので、ラウラとアインにお礼を伝える。

 

『一カ月後。ラシード地区。準備しておく』

 

 瞬時加速でその場を離脱する直前。ラウラがプライベートチャンネルで早口にそう伝えてくる。その意味を理解したナツは見えたかわからないが頷くとそのまま二人と別れて戦場から離脱していったのであった。

 

 

 

 




ホントは原作と同じ風にしようとしましたけど斬り刻みみたくてこうなりました。まぁ何故か使い方理解してましたので斬れたという事で。

実際に三日月があの武器の使い方りかいしてたらグシオンの装甲の隙間狙わずに倒せたんでしょうかね? グレイズアインはスッパリ切れてましたけど。

グリムゲルデってすぐバレてしまってちょっと焦りました。

そしてラウラとはいったんお別れです。

『グリムゲルデ』

厄祭戦末期に開発されたヴァルキュリアフレームの一体。同時期にガンダムフレームが作られた為、厄災戦での活躍の記録は少ない。

特殊な金属を使って精錬された軽く鋭いヴァルキュリアブレートとその剣をマウントできるヴァルキュリアシールド。アフリカ大陸に出現した機体には装備されていなかったが専用ライフルであるヴァルキュリアライフルを基本武装としている。

非常に高性能なISで、ある操縦者が乗っていた機体はガンダムフレームすら追いつめたという記録が残っているが詳細は定かではない。

ヴァルキュリアフレームを量産型にしたものがグレイズの前身たるゲイレールであり、旧日本で開発された初の後期型エイハブリアクター搭載機である白騎士と呼ばれるISはグリムゲルデを模して開発されている。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。