鉄血のストラトス   作:ビーハイブ

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二回ほど書き直してまるっきり別の物に変わりました。


 階級をISではなく鉄血のもの(自衛隊の階級)に修正します。過去のものも今回のUPと同時に修正したいと思いますので何ぞとご理解ください。

 そしてアニメの謎の男ヴィダール(CV松風雅也)……一体何者なんだ(大興奮)


蒼黒の絆

 

―――旧イギリス・コーンウォール地区

 

 

 厄災戦時に喪失したティンタジェル城跡地に建てられた蒼と白の美しきコントラストの広大な屋敷の廊下を黒いギャラルホルンの制服を身に纏ったラウラ・ボーデヴィッヒが歩いていた。

 

 屋敷の大きさとは対照的に廊下には絵画や壺といった骨董品は一切飾られておらず、色合いも派手さはない悪く言えば地味な空間であったが、開かれた窓から聞こえてくる波の音と潮の香りがとても心地よく、心穏やかにさせてくれるこの場所がラウラは好きであった。

 

 最初に玄関で出迎えてくれた執事と時折すれ違う数名のメイド、そして自身を呼び出したこの屋敷の主しかいない静かな空間を満喫したラウラは、訪れた目的である主のいる部屋の前に辿り着く。

 

「オルコット様。ラウラ・ボーデヴィッヒ二尉、参上致しました」

「……どうぞお入りになってください~……」

「失礼致します」

 

 敬礼と共にドアの向こうへ呼びかけたラウラの声に疲れて間延びした少女の声が応じる。それを聞いて思わず浮かんでしまった優しい笑みを引っ込ませて真面目な表情に戻すと扉を開いて部屋の中に入る。

 

 部屋に入ると共に視界に入るのは高級そうな大きな机に突っ伏している薄手のワンピースを着た金髪の少女。

 

 机以外にはその上に置かれたノートパソコン、壁に置かれた本棚だけで他に家具や調度品が無い廊下と同様に質素な室内であったが、一点だけ異なり少女の後ろには大きな絵画が飾られている。

 

 だがそれは著名な人物が描いた美術品ではなく、笑顔で微笑む金色の髪と蒼い瞳を持つ幼い可憐な少女と、その左右で少女を見守るような笑顔で微笑む男女が描かれた幸せな家族を描いた物であった。

 

「お疲れですか? オルコット様」

 

 ラウラが声を掛けると机に突っ伏していた少女が顔を上げる。その顔は後ろの絵に描かれた少女の面影を残す人物であった。

 

 彼女の名はセシリア・オルコット。ラウラと同じ十四歳でありながらセブンスターズの一角であるオルコット家の現当主である。

 

「……今は仕事抜きでいいですわ」

「わかった。それでどうなった?」

 

 再び机に突っ伏したセシリアがそう言うとあっさりと敬語を止めて本来の口調で問いかける。

 

 ギャラルホルンという組織の中ではセブンスターズ当主と直属部隊の隊員という間違ってもラウラがため口を使っていい相手ではない。だが個人的には二人は友人であり、互いに師であり弟子であり、そして命の恩人であるという非常に特別で強い絆で結ばれた間柄であった。

 

 なので仕事抜き。すなわちプライベートであるとセシリアが言えば二人はどこにでもいる同い年の友人に戻るのである。

 

「……篠ノ之博士を除くセブンスターズ当主で集まって、ブルワーズ壊滅後のアフリカ大陸をどうするか話し合いました」

「それは知ってる。その結果がどうなったかが知りたい」

「……アリアンロッドは動きません。介入に賛成したのは更識家だけで他は静観を決めました。ただ更識家は賛同したとは言っても動く意思はないようなので実質他と変わりません」

 

 相当疲れているのか頭が回っていない様子のセシリアに話の続きを促す。遠慮をしないというのはラウラという少女にとってそれだけ親密な相手だという事である証拠であるので嬉しいと思うセシリアであったが、反面疲れてるんだからちょっとは優しくしてくれてもいいのではないかと思いつつそれは口にせずに結果だけを伝える。

 

 アフリカ大陸での戦いでナツの力を借りてDDを倒したラウラは即座に帰還してその事をセシリアに伝え、セシリアはこれを切っ掛けとしてアフリカ大陸へギャラルホルンの派遣を行ってヒューマンデブリの保護、治安回復と統治を行うとした。

 

 しかし彼女と更識家を除くセブンスターズがこれに対し反対の意を唱え、ギャラルホルンの部隊を動かす事を認めなかったのである。そうなってしまえばセシリアにギャラルホルンの部隊を動かす事はできない。

 

「シュバルツェア・ハーゼだけで何とかしろという事か……まぁ無理だな」

「わかってますわぉ……」

 

 一切オブラートに包まないでばっさりと結論を口にしたラウラにセシリアが情けない声を上げる。現時点で彼女が自由に動かす事が出来る部隊は少数精鋭であるラウラの属するシュバルツェア・ハーゼのみ。

 

 流石に彼女達だけで治安を維持するなど不可能であろう。それがわかっている上にどうする事も出来ず、こうして頭を抱える事しかできないのである。

 

 目の前の問題解決を焦り、こうなる事を予測できなかった己の甘さと失策をセシリアはどうすれば挽回できるのか必死に考えており、ここ数週間最低限の睡眠以外はセブンスターズとしての仕事と問題解決の手段の模索に時間をかけていた。

 

「助けてやりたいが私に政治はわからん。それでデュノア社の件はどうなった?」

「……そちらは問題ありません。調査の結果、デュノア社長夫人と社長の弟のテロリストとの繋がりが判明し……更識家によるしかるべき処断が下されました」

 

 表情に影を落としながらそう答えるセシリア。それを聞いたラウラも複雑な表情を浮かべる。セシリアと同じセブンスターズである更識家の仕事はギャラルホルンに牙を向けるもの達の粛清という組織の汚れを一手に背負う物。

 

 そしてその実行部隊を率いるのはその十七代当主、更識楯無。常に穏やかな微笑みを湛えながら、反逆者を冷酷に苛烈に処理していく姿から【微笑む殺戮姫】の名で恐れられるセシリアやラウラより一つ上で少女だ。また前当主が任務の最中に亡くなり当主を継いだ際に、同じ正当後継者であった妹を邪魔であると追放して一族を掌握した人物である。

 

 デュノア社の動きを諜報に特化した更識家と共に探った結果、デュノア夫人と浮気相手である社長の弟がテロリストと手を組んでデュノア社の乗っ取りを計画している事が判明。

 

 単純な乗っ取りであれば更識は動かないが、テロリストと手を組んでいるとなれば彼女達が動くのは当然であり、そのまま二人の粛清とデュノア社内部の不穏分子の摘発が行われたのである。

 

 そしてこの件で大幅にダメージを負ったデュノア社は倒産の危機を迎えるが、オルコット家が後ろに付く事でそれを回避。多少規模を縮小しながらもギャラルホルン直轄企業となる事で無事に持ち直す事に成功した。

 

「……あまり気持ちの良い結末ではないが、彼女を迎える事に問題は無くなったな」

「そうですわね。なのでラウラさんは予定通りデュノア社長令嬢と『護衛の方』の御迎えを頼みますわ」

「……感謝するセシリア」

 

 ラウラがセシリアに頭を下げながら礼を口にする。ラウラがセシリアに話したアフリカ大陸での出来事の中には当然シャルとナツの事も含まれていた。

 

 ナツには無理だと伝えていながらも彼の事もどうにか助けたいと思っていたラウラは、オルコット家の庇護下に入れる事で人間らしい生き方ができるようにしてやりたいと考え、セシリアに彼の保護を頼んだ。

 

 セシリアも阿頼耶識手術を三度行って生還したという、他のセブンスターズの手に渡ればどんな扱いを受けるかわからない特異な存在を守る為の措置として自らが保護するべきと考え、同時にラウラがここまで執心する少年に興味を抱き、会ってみたいとも思い了承した。

 

「私の我儘に付き合わせてしまったのですからそれに答えるのは当然ですわ。それに……」

 

 セシリアが机の上に置かれた開かれたままのノートパソコンを操作する。そこに表示されたのはかつてDDが使用し、ラウラの手によって鹵獲されたガンダムフレーム、グシオンのデータと同じくガンダムフレームであるバルバトスの整備記録。

 

「正直これだけでも充分すぎる戦果ですわ」

 

 厄災戦の遺産の中でも最高峰のISのリアクター本体と別の機体の整備記録という貴重なデータは、セブンスターズの一角であるオルコット家の財全てに匹敵する貴重なものだ。本来の目的は達成できていないが、これを得ただけでも今回の行動は無駄ではなかったといえるだろう。

 

 とはいえやはりセシリアにとって重要なのはアフリカ大陸の解放とヒューマンデブリの解放と尊厳の回復であり、そちらがうまくいっていない時点で失敗である。それが自身の采配ミスである為悔やむ事しかできないのであるが。

 

(うぅ……無能な自分が嫌になりますわ……)

「……なぁセシリア。もう一つだけ頼みがあるんだが……」

 

 自己嫌悪で再び机に突っ伏すセシリアにラウラが改まった様子で声をかける。その声を聞いて短期間で二度目の頼みをしてくるとは珍しいと思いつつ、顎を机に付けたままラウラに顔を向ける

 

「そのIS……グシオンを私用に改修して貰えないだろうか」

「いいですわよ」

 

 決意の籠ったラウラの願いにセシリアはあっさりとそう答える。

 

「い……いいのか?」

「元々ラウラさんに渡す予定でしたから。わたくしが持っていても使いませんし」

 

 戸惑うラウラにセシリアは自身の左耳に付けられた紫色の槍型のイヤーカフスに触れながらそう答える。それは彼女の専用ISの待機状態であると共に初代当主が使用していた言われるオルコット家における家宝であり、当主の証であった。

 

「実はすでにラウラさんが使う事を想定して改修作業を行っていました。今回呼んだのはその試験運用と貴女に合わせた調整の為です」

 

 そう言うとセシリアが立ち上がって背伸びをすると入り口に向かって歩き出す。ついて来いと言う無言の意思を受け取ったラウラは慌ててそれに付き従う。

 

「グシオンの改修は早速デュノア社にお願いしております。少し遠いですが一緒にトゥールーズ地区に向かいますわ。そこで模擬戦をしながら調整しますわ」

「……一応聞くが模擬戦の相手は?」

「当然わたくしですわ!」

 

 振り返りながら右手の人差し指で自らを指さすセシリア。腰をひねらせて上半身だけラウラの方に向けているのでその魅力的な胸元が強調されるが、そういう事に一切関心のないラウラはそこには全く反応しない。

 

「……まぁ実力に問題はないし、いい調整相手にはなるな」

 

 セシリアが模擬戦の相手として自身を選んだのは確実に気分転換の為だろうが、ラウラに不服は無いどころか充分であると判断してその提案を受け入れる。

 

 何故ならセシリアは令嬢のような外見に反して生身でもそれなりに鍛錬を積んでいるので一般兵士程度の技能は有しており、特にISの技量に関してはセブンスターズという立場でなければ最前線に立って武勲を上げられる程の実力者であるからだ。

 

「調整に九日。その時点で完成未完成問わずにシュヴァルベで二人を迎えに行く」

「わかりました。その方針で行きましょう」

「あぁ」

 

 約束の合流の日まであと十日。可能ならばそれまでに仕上げたいというのがラウラの本心であった。

 

 ISの性能差が勝敗を決すると考えたくはなかったラウラであったが、格闘特化のシュヴァルベ・グレイズがマン・ロディに通じず、ギャラルホルンの研究者が対個人戦においては無敵と自信を持っていたAICはグシオンには一瞬たりとも効果を為さなかった。

 

 突如現れたグリムゲルデがマン・ロディを一蹴する姿を見ているラウラは、自身が何もできなかったのは己の実力不足だと第三者が聞けば間違いだと断言するような結論を出している。

 

 だが同時にそれを任務失敗の言い訳にできる訳がないとも考えていたラウラは絶対的な力の象徴であり、これから二度と負けないという決意の表れとしてガンダムフレームを望んだのだ。

 

(もう敗北はしない。これからはグシオンと共に勝利をセシリアに捧げ続けよう)

 

 そう心の中で不敗の決意とグシオンを託してくれた友であり主であるセシリアへの忠義を誓ったラウラは機体の完成を優先し、十日間ギリギリまでグシオンの調整を行い完全に自身の専用機として使いこなす事ができるようになる。

 

 だがこの判断が大きな運命の分岐点となってしまうとは、今はまだこの世界の誰しも知る由が無かった。




誤字脱字チェックしてもどっかで抜けてしまうこの頃。なのでご指摘大歓迎です。



【セシリア・オルコット】

セブンスターズの一角であるオルコット家の現当主である十四歳の少女。

五年前に列車での自爆テロにより両親を亡くした為、若くして当主を継いでいる。

そのテロには自身も巻き込まれたが、父親が身を挺してその身を守った事で致命傷を負わずに済み、その後救助に来た実験兵としてシュバルツェア・ハーゼに所属していたラウラによって発見されて一命を取り留めた。

ラウラのある事情を知った彼女は、その後正式に当主となった際の最初の仕事で彼女を救い出す事に成功し、それ以降セシリアはラウラと交友を深めていく。

その後―――――



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