――――約束の日
ラウラと交わした一ヶ月後の朝が訪れ、ナツとシャルはラシード地区へと向かうべく歩みを進める。
一週間前の襲撃後、ナツが鹵獲し修復したシュヴァルベ・グレイズを新たな愛機としてナツと共に今日まで過ごしてきたシャルに大きな変化があった。
まずシュヴァルベ・グレイズとは操縦の難易度を代償として通常のグレイズよりも高い性能を発揮できるようにしたISである。
故に使いこなすのには相応の訓練と優れた技量が要求される玄人向けの汎用性が欠如した機体であり、シャルのような素人が使っても機体に振り回されてグレイズ以下の性能しか発揮させることができないのが普通である。
だがシャルは最初の一日は高機動に振り回されたものの二日目には運用に慣れ、現在ではグレイズ改を使用していた時以上の強さを見せていた。
これ程急速にシャルが成長したのは彼女自身のセンスの良さもあるだろうが、それ以上に後期型リアクターとシュヴァルベ・グレイズの機体特性がシャルロット・デュノアの能力を最大限に生かす物であったからだろう。
まずは武装搭載数の上限差。
前期型リアクターと後期型リアクターの差異はいくつかあるが、その中でも最大といっていい相違点として拡張領域と呼ばれる武装を収納する空間の容量差がある。
バルバトスやグシオンのようなガンダムフレームが搭載している前期型リアクターは、拡張領域と呼ばれる量子変換した物体を収納する空間が非常に小さい為、IS用の装備を格納する事が出来ず、武器を含めて一つのISとして認識させる事で武器を保有した状態で待機状態に戻さなければならない。
その為、前期型リアクター搭載機は両手に持てる分と武装マウントに装備できる分までしか装備を保有できない。ナツが深紅の剣を手に入れた時に滑空砲を放棄したのはこれが理由であった。
一方グレイズやシュヴァルベ・グレイズの搭載している後期型リアクターは拡張領域が非常に大きく、量子化した武装を複数搭載する事ができる。
速度に個人差はあれど自分の意思で武器を即座に呼び出す事が出来る為、前期型リアクター搭載機と違って装備を取り出し構えるというモーションをせずに武器を使う事が可能となっている。
だが阿頼耶識を持たない人間は思考してからISが反応するまでの時間がほんの僅かの差であるが一致しない。
その影響によって武装の展開には早くても一、二秒のタイムラグが生まれてしまうのだが、非常に優れた並列思考能力を持つ人間であればその差をほぼ零にまで縮め、瞬時に武器を展開、収納ができる。それがアインとの戦いでシャルが見せた【高速切替】である。
そして本来シュヴァルベ・グレイズが主に行う高機動戦は足を止めた戦いよりも周囲の状況を認識、対応する事が難しいのだが、高速切替が使える程並列思考が優れている者はそういった状況判断能力も高い為、問題なく扱える場合が多いのである。
このような理由からシュヴァルベ・グレイズとシャルの相性は非常に良いのだが、理論など一切知らずに感覚で戦うナツはシャルがなんか強くなった程度としか思っておらず、肝心の本人はグレイズ改よりも使いやすい程度の認識しか持ち合わせていなかった。
ちなみに損傷が激しかったグレイズ改はあの場に放棄された。あそこまで壊れてしまったら直すのが難しく、ジャンク品として売却しても大した額にならないだろうから持っていくメリットがないとナツが判断したからだ。勿論絶対に直せないとは限らないが、おそらくはナツ以上の整備能力を持った者が設備が充実した施設で修理しなければ不可能であろう。
だがナツにとっては邪魔な荷物でもシャルにとっては幾度と自身の命を守り、共に戦った愛機である。なので捨てる事に抵抗があったが、状況を考えてやむを得ず手放す事を受け入れた彼女はせめていい人に拾ってもらって修復される事を祈るのであった。
「いよいよだね……」
そんな葛藤をもあったが何とか乗り切ったシャルが、長かったようにも短かったようにも感じられる密度の濃い一ヶ月を終えた事にフードで顔を隠したまま感慨深げに呟く。
母の死。叔父の裏切りによる誘拐。そして死地に送られ殺される直前で見ず知らずの少年に救われ、共に旅をする事になった。
それからすぐにギャラルホルンとの戦いからブルワーズという犯罪集団との戦いに巻き込まれ、共通の敵が現れた事で最初は敵であったギャラルホルンとの共闘。戦いの最中の謎のISの乱入、その果てにブルワーズの首領を打ち倒すところを見届けた。
そんな激動の数日が終わった後の一ヶ月も同行者となった少年との日々は目まぐるしい物であった。決して楽しいものではなく、辛く苦しいものであったが視野が広がり、精神的な成長を感じられ、とても意味のある時間であったとシャルは感じていた。
「……あぁ」
同じくフードを深く被って顔を隠しているナツはそれに短く応じるだけだ。そしてシャルは気付かなかったが、その声には落胆と切望の色があった。
シャルが信じているかは別として、彼女に出会った頃に伝えたようにナツがシャルの手を取ったのは善意ではない。
――――避けられない厄介事、命の危機、戦う理由
今となっては仲間意識が芽生え、その望みを叶えてやりたいという想いも持っているが、出会った時はただそれが欲しかった為にシャルを助けたに過ぎない。
戦う理由はできたし、命の危機はあった。避けられないと言うほどではないが厄介事もあった。だがナツが本当の欲しかったのはその果てにあるものであり、そしてそれは手に入らなかった。
(俺が本当に欲しかったのは――――)
そこまで考えたナツが不意に足を止める。ラシード地区へ続く道なき道を歩く二人の前にいつの間にか人影があったからだ。
こちらと同じく顔をフードで隠し、身体付きも防塵用の外套のせいで隠されており一見して性別はわからない。だが立っているだけだというのに一切隙が無く、それだけで相当実戦慣れしているか武芸に秀でているのだというのが充分に伝わってくる。
『っ?! シャル! 下がれ!』
不意に相手が強烈な殺気をこちらに向けて飛ばし、それを受けて危機を察知したナツが無言でバルバトスを展開し、左右の手で太刀と深紅の剣を構える。
「確認の手間が省けた。貴様がアイツの言っていた白いISか」
ISを展開したナツの耳に女の声が聞こえてくる。その声の主が目の前の人物であり、女の言葉から殺気を放ったのはナツにISを展開させる為であったと気が付く。
『……いつでも動けるように警戒してて』
こちらの行く手に立ち塞がり、殺気を向けて来た相手を排除するのに躊躇するナツではない。誘導された事に不快感を感じながら目の前の敵を排除すべき存在と認識すると冷静にシャルへとそう指示を出し、小さく息を吐いて全ての感情を消し去った。
一時的な感情の消去。自身の中でスイッチを切り替える事で、あらゆる感情を欠落させつつ冷静な判断能力を保ちながら行動する事ができるようにするナツが自力で修得した技術。
元々は人を殺す事が辛くて苦しいとまだ感じていた頃、それでもどうしても殺さざるを得ない時に己の心を守る為に覚えた自己防衛の手段であったが、殺人に慣れてきた頃に、こちらの感情を相手に読ませないという使い方があると気が付いてからはこのような風に使うようになった。
相手に思考を読ませないという利点はあるが、感情の爆発による瞬間的な脳のリミッター解除ができないのでこのように目の前で対峙している相手に初動を読ませない程度しか使えない。
だが敵意も消えるので、同時に武器を持つ手から力を抜いて僅かに下げれば、相手は攻撃の意思はないと勘違いしてくれる場合が多く、油断を誘いやすい。
「試すような真似をして済まない。お前に―――」
狙い通りこちらが話し合いに応じると思った女が何か言おうとするが言い切る前に瞬時加速で女との距離を詰め、当たれば死ぬのだからと一番当てやすい胴体へ横薙の斬撃を振るう。感情を消していた事で完全な不意打ちとなった女の左側へと放たれたその一撃はそのまま胴体を分断する。
――――はずであった
『くっ……!』
だが、その斬撃が振るわれると共に聞こえてきたのは肉を斬る音ではなくて甲高い金属音と女の声。同時に視界にとらえたのは白い装甲のISを展開し、その左手に持った純白の刀を縦に構えて斬撃を受け止める女の姿であった。
ナツは止められた次の瞬間には感情を即座に戻し、右手の太刀で鍔迫り合いをしながら左手の剣でがら空きになっている反対側の胴体を狙う。だが女は右手の刀を量子化して収納すると同時に後ろへ瞬時加速で交代する事で左右からの攻撃を同時に回避する。
『待て……!私はお前に聞きたい事があって……!』
『先に敵意飛ばして来ておいて何言ってんの?』
後退しながら再度刀を展開した女がそう呼びかける。その顔はナツのバルバトスと同様にフェイスガードで隠されており表情はわからないが、声色から焦っているのが伝わってくる。だがナツは聞く気は無いと左手の剣を逆手に持ち替えながら女の言葉を一蹴し再び攻撃に移った。
ナツは二本の獲物を無秩序ながら切れ味を最大限に発揮できる動きで操って攻めるが、女は洗練された動きでそれを防いで逸らす。
一進一退の攻防。阿頼耶識によって反応速度はナツが上回るが、純粋な剣の技量は女の方が上である為、実力差は五分五分といっていい状態となっていた。今はナツの方が優勢であるが、それはあくまで対話を望んでいる女が防御に徹しているからであり、攻撃に転じれば完全に拮抗するであろう。
『シャル。先に行って。こいつを片付けてから俺も行く』
「でも……」
『悪いけどこいつ強いから庇いながら戦う余裕ない』
忍耐力勝負だと判断したナツは防衛対象であり自身にとって最大の不確定要素となりかねないシャルにこの場から離脱するように告げる。
勿論、シャルを一人にする事に不安がないとは言えないナツであったが、彼女の実力ならばそれなりの相手ならば対処できるだろうし、ラウラと合流できれば大丈夫だろうと二人の少女への信頼からこれが最適と判断した。
『……わかった。先に行って待ってるから!』
『……あぁ』
シュヴァルベを纏ったシャルの言葉にナツが短く応じると彼女は街へと移動を開始する。ISの加速力とレーダーによる補足ができないというアフリカ大陸の環境が合わさってすぐにその姿はナツの視界から消える。
(さようならシャル)
彼女の姿が消えると同時に心の中で小さく別れを告げると同時に一度距離を取り、右手の太刀を収納して片手を空け、瞬時加速で再び距離を詰める。
そのままカウンターを恐れずに渾身の力で放った逆袈裟は女の持つ剣を弾いて僅かながら隙を作り、空いた右手で女の首を掴むとそのままラシード地区とは真逆の方向へ瞬時加速を使って一気に加速する。
『ぐっ……!』
グレイズの頭部を握りつぶした程の強力な握力で首元を掴まれた女が苦悶の声を上げ、女は手を掴んで引き剥がそうとするがナツの手が離れる様子はない。そのまま捻り潰そうと力を込めようとしたナツだったが、視界の端で女の剣が変形し、エネルギーの刃が形成されるのを捉える。
それを見た瞬間、悪寒を感じたナツは咄嗟に首の拘束を解き、右足で女の胴体を蹴り飛ばしながら後ろに向かって瞬時加速を行うが、それよりほんの僅かに早く女の剣が振り上げられ、切っ先がナツの左肩を捉える。
『……っ?!』
その瞬間、左肩に焼けるような痛みが走りナツの表情が僅かに歪む。距離を取り攻撃を受けた場所のダメージチェックを行うと装甲が溶け、その下の皮膚が焼けている事に気が付く。
『へぇ……』
それを見たナツの表情が変化する。質量の無いエネルギー兵器でバルバトスにダメージを与える事はできないという認識を持っていたナツにとってこれは予想外の結果であったからだ。
『まさか傷付けられると思ってなかったから驚いた……よっ!』
バイザーの下で
『私は人を探す為にここに来た……!』
『興味ない……ねっ!』
このままでは話し合う事などできないと判断した女が刃を交えながらナツへ呼びかけるが、構わずナツは攻撃を続ける。
ただしバルバトスの強力な防御を無視した貫通攻撃の特性を警戒し、即座に離脱できる状態を維持しながら戦っている為、先程よりも苛烈さは薄くなっている。戦いながら女が話しをする余裕ができたのはこれが理由であった。
『私の名前は織斑千冬! 探しているのは弟で名前は織斑一夏と言い、生きていれば十四になる!』
『知らないよ。見つかるといいねっ……!』
『貴様のISと弟らしき日本人が共にいたのを私の友が見たと言っていたんだ……! もう手がかりがそれだけしかないんだ! 頼む! なんでもいい……知っている事を教えてほしい!』
『だから知らないって……のっ!』
すがるように問いかけてくる女へ答えの代わりとばかりに、刀を半回転させて逆刃に持ち替えての強烈な打撃を叩き込む。女はそれを防ぐが、高出力を誇るバルバトスの一撃を完全に止める事は出来ずそのまま弾き飛ばされた。
(やっぱ使いにくいなこれ)
手にした太刀を再度持ち替えながらナツが内心で呟く。太刀の斬撃の威力は凄まじいが、どちらかと言えば打撃武器のような力任せに振るう武器の方が好みのナツにとって、記憶を失う前はわからないが今の自身にはあまり相性がいい武器ではなかったのである。
『目撃したのは旧イスマイリア地区だと言っていた! 何か覚えて―――』
『……イスマイリア?』
その地の名前を聞いてナツが思わずといった様子で言葉を漏らす。その名は彼にとって確かに印象深い場所であったからだ。
DDの元から去ってから少したった頃、街の中に身を隠していたナツはブルワーズの襲撃を受けた事があった。
当時のDDはグシオンを有しておらず、その時はそれ程苦戦する事無く離脱する事ができたのだが、主にブルワーズ側の攻撃によって街が壊滅するという結果となってしまった。その場所が旧イスマイリヤ地区であったのである。
(あの場所にいたのか……という事は……)
あの時街は大打撃を被り多数の死者が出ていた上、ナツが離脱した後もブルワーズはその場に残っていた。
殺戮と蹂躙を快楽とするDDが残された街の人間に何もしないとは想像できず、ナツはオリムライチカという少年はもうこの世にいないだろうと推測する。
ある程度は不可抗力であったとはいえ、ナツが原因の一端としてその少年が死んだと知れば目の前の女はこちらに殺意を向けてくる可能性がある。戦いを避ける為ならば知らないと白を切るか嘘を伝えて誤魔化すべきだろう。
『俺がいた時期にそこにいたって言うなら確証は無いけどたぶん死んでると思うよ』
『な……ん……だと?』
だがナツはあえてその事を女へと伝える。何故ならば戦いを避けようという意思などナツには欠片もなかったからだ。そもそもそのような考えがあったならば最初に斬りかかるような真似はしていない。
『そこで結構派手に戦って街の大半吹っ飛んだからたぶん巻き込まれて死んで―――』
ナツが言葉を言い終える前に今度は女が瞬時加速で接近し、エネルギー刃を再度形成した純白の剣の切先がナツの首元に迫る。だがそうなる事を予想していたナツは余裕で反応して太刀で攻撃を受け止める。
『チッ……!』
だが完全に対応しきったはずのナツの表情が苦々しい物に変化する。何故ならばエネルギー刃を受け止めた太刀の刀身がじわじわと溶けていったからだ
ナツが後ろに後退すると同時に太刀の刀身が切断される。だが女の攻撃は止まらず、そのまま距離を詰め、返す刃で今度はナツの胴体を狙う。
その攻撃を避けきれないと判断したナツは反射的に残った深紅の剣で斬撃を受け止めてしまい、お互いにそのまま刀身が溶けてナツの胴体を切断する未来を想像した。
『何っ?!』
『これは……?!』
だが互いの武器がぶつかった時、両者の予想と異なる結果が生まれる。深紅の剣にエネルギー刃が触れた瞬間、深紅の剣に吸い込まれるようにエネルギー刃が消滅し、それに呼応するように深紅の剣が紅く眩い光を放ったかと思うと、膨大なエネルギーが弾けてその衝撃でナツの手から剣が弾かれる。
『っ?!』
ナツは咄嗟に刀身が中ほどから溶けた太刀を捨て、効き手である右手で深紅の剣を掴み取ると、今度は瞬時加速で後ろに一気に後退して女との距離を取る。
『正直今ので
『貴様が……』
その手に持った剣の特異性に驚くナツだったが、女の呟きを聞いて言葉を止める。
『貴様が一夏を殺したのか?』
『さぁね。まぁ俺の事情であの街が戦場になったって意味では俺が殺したのかもしれないな』
『貴様ぁっ!!』
女が殺意を振り撒きながらナツへ斬りかかる。吸収を警戒してかエネルギー刃は形成されておらず、怒りのせいで単調でナツにはどこを狙っているのか手に取るようにわかる斬撃であった。
『ぐっ……?!』
だがその一撃は先程までとは比べ物にならない威力が籠っており、受け止めたナツが思わず小さく呻き声を上げる程であった。
『私の命に代えても仇を取らせてもらう……!友がくれたこの白式で!』
女の白いIS、白式は守りに徹していた時とは比べ物にならない機動力と重い斬撃でナツを苛烈に攻めるが、バイザーで隠されたナツの表情は先程傷付けられた時と同じく笑みが浮かんでいた。
(ようやくだ……!)
ナツは歓喜に心を震わせながら女の全力の攻撃を躱し、防ぎ、隙を見つけては斬りかかっていく。その表情はずっと欲しかった物を手に入れた子供のように無邪気なものであった。
(やっと見つけた……!
ナツは機体の負荷を考慮しない動きと今の自身が出せる最高の反応速度を発揮して女の全力に追随していく。
愛する弟を奪った仇を討たんと死力を尽くして戦う女と、死なないように本気で戦いつつ、自らの死を望むという強い矛盾を抱くナツ。
―――そんな永劫に続くかと思われた二人の死闘は唐突に終わりを迎える
突如ナツの剣を握る右手首からバチリとショートするような音が響き、急に力が入らなくなったのだ。
そしてそんな状態では女の攻撃を受け止めきれるはずもなく、互いの剣が交差した次の瞬間にはその手から深紅の剣が弾き飛ばされてしまう。
無防備を晒す事になったナツは後退して剣を拾いに行こうとするが、それよりも一歩早く女の手に持った純白の剣がエネルギー刃に変化していた。
『くっ―――』
『はあああああっ!!!!』
瞬時加速と共に放たれた突き。その動きをナツは完璧に捉えていたが、深紅の剣を失ったナツにそれを防ぐ手段は無く、その切っ先は吸い込まれるようにナツの右脇腹を貫く。
勝敗は決した。二人の間に実力差も武器の有利不利も、そしておそらく機体の性能差も無かった。
違いはただ一つ。万全な状態であった白式とラウラによる整備と修復があったとはいえ結局は現地での応急処置に過ぎなかったバルバトス。それが二人の明暗を分ける決定的な要因となったのだ。
『ガハッ―――?!』
自身の敗北をナツが悟ったナツを文字通り焼けるような痛みが襲うと共に、彼の世界から音が消失した。同時にエネルギーが尽きたのか女のISが解除され、出会った時と同じフードを被った姿が晒される。
それに合わせてナツの腹部を貫いていた刀身も消え去り、ナツの身体に人の腕が通るほどの空洞が残される。エネルギー刃に焼かれた為か出血は無いが明らかに重傷であり、本来であれば激痛に襲われ続けているはずであるような傷であったが、ナツは痛みを感じていなかった。
痛覚遮断機能。特定条件下で発動する阿頼耶識システムによる防衛機能によって意識の低下と共に痛みを一切感じなくなっていたのだ。
(あぁ―――)
この感覚を味わうのは初めてであったが、ナツはこれが意味する事を知っていた。
痛覚遮断が起きる条件は施術者が致命傷を負う事。それが今発動した理由を理解するのは難しい事ではなかった。
やがてバルバトスの展開を維持出来なくなり、ISが解除されてナツがその場に膝をつく。その時、突風が吹いてナツと女のフードが外れてお互いの素顔が見える。
女の顔を見た瞬間、ナツはその顔をどこかで見た事のあるものだと感じるが、意識が朦朧としてきていたナツはどこで見たのか思い出す事が出来なかった。
(これで―――みんなに会える―――)
薄れゆく視界の中、驚愕と絶望に染まった表情で何か自身に話しかけている女の姿が見えるが、その意味も理由もわからないままナツの意識は闇の中へと沈んでいった。
――――このSS書き始めた時からやる気満々だった展開である
【前期型リアクターと後期型リアクターの差異】
――【前期型リアクター】――
現時点での搭載IS
バルバトス、グシオン、マン・ロディ、グリムゲルデ
メリット
・阿頼耶識システムに対応している
・粒子が一定速度で回復する。ガンダムフレームの回復量は特に著しく、事実上エネルギー切れが存在しない
・ガンダムフレームのみ後期型の絶対防御の貫通能力あり
デメリット
・拡張領域が小さく、武装の展開収納ができない
・現時点の技術では生産できない
・各リアクターの周波数に個性があり、データが残っている場合は周波数を照会する事でリアクターの識別ができる
――【後期型リアクター】――
現時点での搭載IS
グレイズ、シュヴァルベ・グレイズ、
メリット
・拡張領域が大きく、量子化して武装をストックできる
・絶対防御と呼ばれる機能があり、操縦者を致命傷から守る
・篠ノ之束のみであるが生産する事が可能(本人曰く月に最大十個が限界との事)
デメリット
・阿頼耶識非対応
・エネルギーが有限