今回は説明回的な感じです今後もこんな感じのはさみます。こういう作品同士の設定混ぜて書くの大好きなんです。
「お疲れ。相棒」
全ての脅威を一掃した少年が労いの言葉を言うとその姿が光に包まれ、光が消えるとその姿は白いISから少年のものへと変化していた。
ISの解除。展開したISを携帯可能な装飾品の形をした待機状態に戻す事で、少年の場合は左腕にあるガンドレットがその状態となる。
そうして待機状態に戻した白いISを労うように一撫でした後、少女の方へと振り返ると、少女も少年に視線をずっと向けていたので、二人の目線が自然に交差する。
少年が少女の元に歩み寄り、二人は再び向かい合う。ここの住民達は戦闘から逃れる為に避難しており周囲に人影はない。
ちなみに少女が少年をずっと見ていた理由は死体を視界に入れない為である。あんな攻撃を受けた死体の状態は想像に難くなく、もし見れば女性にあるまじき醜態を晒すのは明白であったからだ。
少女には抵抗なく人を殺せる少年に対する恐怖心はあったが、こうして向かい合っていてもそれはあまり感じていなかった。
(この人がいなかったら私はもう死んでいた)
少女の心の大半を占める想いは感謝の念。先程までの状況を自身だけの力で乗り切るのは不可能だったのは確実で、少年がいなければ今こうして生きていることは不可能だったと理解していたからだ。
「あ……あの……助けてくれてありがとう……」
そんな万感の思いを込めて少女の感謝の気持ちを伝える。
「……? 礼を言われる理由がわからないんだけど。なんで?」
だがそれに対する少年の反応は首をかしげながら聞き返す事であった。
「え? なんでって……」
「俺は俺の為にあんたの都合に首を突っ込んだだけだよ」
そう語る少年は嘘を言っている様子はなく、本心からそう思っていることが伝わるだろう。
「まぁ。いいや。これからどうすんの?」
「え?」
「とりあえずの問題は解決したけど、ここにいたらまたあぁいう連中に狙われるよ?」
そう言って少年が指を指す。その先にあるのは今は瓦礫の山と化した二人が出会った場所。
つまりはそこに埋まっている少年に殺された者達のような人拐いに狙われる危険性があると少年は言っているのだった。
「・・・・・・戻らなければならない場所があるの。今からでもそこに向かうつもりだよ」
「一人で? 死ぬよ?」
「死ねないよ。戻って叔父に話を聞かないといけないから」
そう語る少女の眼には先程までと違い、確固たる意思があった。
「そ。じゃあそこまで案内して」
それを聞いた少年はあっさりとした様子でそう言った。
「……ふぇ?」
「最初に助けようかって聞いたのは俺だし、護衛くらいするよ。ここで見捨てて死なれたら目覚め悪いから」
その意味がわからず思わず変な声を上げた少女に少年はそう説明する。その言葉に偽りがないのはこれまでの出来事や会話の中から少年の誠実さを感じていた少女に疑う余地がなかった。
「……あの……その……」
再度差し伸べられた手。それを取るべきか少女が迷いを見せる。
それは少年にその感覚はなくとも、少女にとっては多大な迷惑をかけた相手に更なる迷惑をかける事に他ならないからだ。
「お願い……します」
だが躊躇したのは僅かな間。
こ の状況でそれを拒否も遠慮もできるはずもなく、素直に助けを請うことを選んだ。
「了解。契約成立だな」
「本当にありがとう! お礼は……私に出来る事なら何でもするから!」
「何でも? ……んー。じゃああんたにしか出来ないこと頼もうかな」
絶望的な状況から希望を見出だした事で安心感を得ると共に、こちらから頼み込まねばならない事だったと気が付いた少女がそう言うと少年が少女の顔をじっと見つめてくる。
その様子を見て何でもと言った事を言った事を後悔する。
相手は男であり、自身は女。貞操を求められる可能性がある事をすっかり失念していたのだ。
「……何でもします」
だが今更訂正して少年から見捨てられるわけにはいかないと、覚悟を決めて少年の要求を待つ。そして少女の言葉を受け、少年が少女へと自身の要求を告げた。
「勉強教えて」
「・・・え?」
「だから勉強。歴史とか世界の常識とか。俺そういうの全然知らないし、あんた頭良さそうだから」
そう語る少年の眼にあるのは純粋なる知識欲。人生経験も心理学もわからぬ少女にもそこに下心が一切無いことがわかる。
「あの……身体を寄越せとかそういうのじゃなくて?」
「は? 身体? 確かに臓器買い取る連中いるけど俺は利用しないし。つかそれ貰ったらあんた死んじゃうでしょ」
「……勉強。私にわかる事なら教えるよ。後、ごめんなさい」
「?」
失礼な勘繰りをした事を恥じる少女の謝罪の意味がわからず再び疑問符を浮かべる少年だったが、突如その視線が鋭くなり周囲を警戒する素振りを見せる。
遅れて少女も周囲の変化、消えていた人の気配が少しづつ戻って来ている事を感じ取った。
「ま、いいや。とりあえず人が戻ってくる前にここを離れよう。目立つと厄介な事になる」
そう言って少年が左手を振ると光の粒子と共に古ぼけたフード付きのローブが現れる。
「顔、隠して。少し離れた場所に廃村があるからそこで色々話し合おう。事情や目的地詳しく知りたいし」
そういうとジャケットを脱いで同様の方法で取り出した同じローブを代わりに羽織ってフードで顔を隠す。いつの間にかジャケットは消えていた。
「行こう」
少女が最初から来ていたローブのフードで顔を隠した事を確認すると、少年は手を差し出す。言葉では何度もあったが、こうして直接手を差し伸べられたのは初めてだと少女は気が付いた。
「うんっ!」
そして今度こそ躊躇うこと無く差し出された手を取り、二人は旧カイロ地区から抜け出したのだった。
――――――
日が落ち、揺らめく炎のついたランプに照らされた室内にローブを脱ぎ、楽な格好をした二人の姿があった。
「まずは自己紹介からさせてもらいます」
ベッドの上に座る少女が日本について学んだときに知った居住まいを正した姿勢、所謂正座をした状態で少年に向き合ってそう告げる。
二人がいるのは旧カイロ地区から北にある廃村の中にあった宿泊施設とおぼしき建物の一室。
建物自体は旧カイロ地区の物より新しいが放棄されてから数十年以上は経過しているようで、昼に二人が来た時には開いていた窓から入ってきた砂埃が溜まり、家具は劣化し壊れ、以前二人のようにここを利用した者が捨てたゴミと思われる物が散乱していた。
その為、話し合いの前にとりあえず寝床を確保しようという事になり、片付けやら掃除をしている間にこんな時間になっていたのだ。
ちなみに現在少年は床で胡座をかきながらアレットの使っていたISから損傷していない装甲やスラスター、配線を抜き取りながら話を聞いている。
「私の名前はシャルロット・デュノアって言います。年はもうちょっとで十四歳です」
「よろしく。長いからシャルでいい?」
「え? あ、うん。全然大丈夫だよ」
少女……シャルロット・デュノアの自己紹介に対し、ISの肩アーマーを外していた手を止めてそれだけ返すと再びISの分解作業へと戻る。
「………」
「……?」
「いや、君の名前も教えてほしいなーって」
「俺の名前? 無いよ」
「え?」
「俺、記憶無いから。名前も過去もわかんない。一年くらい前に目が覚めたら何も覚えてない状態で阿頼耶識埋め込まれてて、その後はすぐにヒューマンデブリとして売られた。そこでは23番って呼ばれてたけど名前じゃないし」
シャルの問いに対し、少年は軽くそう答えるが話している内容は余りに重く、シャルは言葉を失う。
ヒューマンデブリと阿頼耶識。それは厄祭戦時代から人類が抱える負の遺産の名だ。
ヒューマンデブリは屑鉄よりも安く売られた孤児や誘拐された子供達の通称である。売り払われた子供達は奴隷にされたり少年兵に仕立てあげられたりと、幸福に生きられる可能性はほぼあり得ない。
そしてもう一つ。阿頼耶識システムと呼ばれるそれはIS誕生により生まれた忌まわしき技術である。だがそれを語るにはまずISの抱える欠陥の存在を前提に知らなければならない。
それは
しかし同じ欠陥でありながらIS誕生をきっかけに始まった厄祭戦時下においては異なる結果を生み出した。
IS同士の戦争となった厄祭戦においては、必然的にISを扱えるが錬度の低い女性達が戦線に送り出される事になった上、当時は絶対防御というシステムが存在しなかった事から戦死者の増加と共に出生率の低下を招いたのだ。
この事態の打開の為に男性でもISを扱えるようにする手段を模索した彼らは一つの考えに至る。
ISが女性にしか反応しないという事は言い方を変えれば女性と認識さえすればISは起動するという事だ。
遺伝子的に見れば男女の違いはそこまでは大差はない。つまりその僅かな差を誤認させてしまえば男性でもISは使えると当時の科学者は考えたのだ。
――――それこそが阿頼耶識システム
脊髄にISとの接続プラグを増設し、その中で伝達される情報を変換することで男性でもISを使えるようにする技術である。
男性がISを使えるようになる点に加え、人とISが直接繋がる事で情報処理速度の加速、どうしても埋められなかった僅かなタイムラグの喪失。そして空間認識能力の肥大化等、阿頼耶識を搭載した操縦者は別次元の能力を発揮できるようになった。
しかしその阿頼耶識にも莫大なデメリットが存在があった。
一つは阿頼耶識の施術の危険性。神経接続を確実にする為に反応を見ながら手術をする必要から麻酔が使えないので、また成功率が三割と低く、失敗した場合は首から下の神経が断絶する。
もう一つは道徳的な問題点。この手術は成長するほど成功率が下がり、16歳以降の成功例は存在しない。それ故に阿頼耶識を埋め込まれるのはそれ以下の幼い子供達であった。
結果、成功数の低さを回数を重ねることで補うためにヒューマンデブリが買われ、阿頼耶識施術に成功すれば兵士に、失敗すれば捨てられて死ぬというより最悪の事態を産み出してしまったのだ。
IS本体というハードの更新を諦め、ソフトとなる乗り手側をハードに合わせる方法を選んだ彼らの発想自体は悪くなく、男性でもISを使えるようになったという結果だけ見れば正解だったかもしれない。
しかしそれを成す手段と過程は余りにも残酷で非人道的な物であった。それ故に厄祭戦終結後、阿頼耶識は忌むべき技術となり、戦後結ばれた条約でヒューマンデブリの取引と共に禁止された。
だが禁止されたからといって無くなるわけではなく、終戦から三百年たった今でも子供達は買われ、阿頼耶識施術を施されている。
それどころかヒューマンデブリとして安く買った子供に阿頼耶識施術を施し、高く売り付ける商売も生まれており、事態はより悪化していると言えるだろう。
「ま、良くある話だよ。記憶無くしてるのは珍しいかもしれないけどさ」
そんな世界の不条理をその身に背負わされた少年は、それを良くある事だとあっさりと語る。世界の観点から見ればどれ程不条理であったとしても彼にとっては当たり前の事であったからだ。
「手がかりは……これくらいかな」
「うわ……っとと!」
そう言ってジャケットを虚空から取り出し、内ポケットに入っていた物を抜き取るとシャルへ向けて放り投げる。
「これって……パスポート?」
「目覚めた時にそれだけ持ってた。たぶん俺の物だと思う」
シャルが受け取ったのは宿屋で少年が見ていた焼けたパスポートであった。それをめくり個人情報の書かれたページを開くが、そのページの半分は焼け落ちて顔写真は無い。
文字も滲み、そうでない部分も赤黒くなった血が染み込んでいて辛うじて読める部分は出身国が日本である事と名前の一部と思われる【夏】という文字だけだった。
「そういう訳で俺は名前ない。だから好きに呼んでくれていいよ」
「じゃあ……ナツって呼んでいいかな?」
「ナツって……そこに書いてる字?」
「うん。君の持ち物だっていうならきっと君の名前でしょ?だからナツ」
「なるほどね。それでいいよ」
自身の名に特別価値を見出していなかった少年は新たな名を素直に受け入れる。
「さて。行き先と目的とそっちの事情を聞きたいんだけどいい?」
パーツの抜き取り作業を終えた少年……ナツがシャルへと向き合って問いかける。
「うん。まず行き先は旧フランス・トゥールーズ地区にあるデュノア社。目的はそこにいるお父さんに会いに行く事」
「フランス……ってどこだっけ?」
「ここと同じアフリカユニオンの勢力圏の場所だよ。セブンスターズの一門、オルコット家の影響力が強いから、ここと違って治安は凄くいい場所だけど」
それからシャルは自身の事情を語る。自身がIS企業の一つであるデュノア社のCEO、ハインリヒ・デュノアの子供である事。
自身の母と恋仲でシャルを授かるも周囲によって別れさせられ、父は別の女性と結婚する事になってしまったが、二人の事を気に掛けて時間を作って会いに来てくれたり、金銭的な支援をしてくれていた事。
しかし母が先週病で急死してしまい、父が引き取ってくれる事になったのだが、父親に元に向かう途中に父親の弟、つまり叔父の命を受けたナツと戦った女達に捕まって人身売買のブローカーに売られた事。
だが偶然戦闘が発生し、その混乱に乗じて逃げ出すもすぐに追っ手がやってきて捕まりそうになっていた時にナツに出会った事を。
「叔父が関わってるのはあの人達が言ってたから間違いないと思う。だからお父さんに会って無事を伝えた上で叔父の真意を聞きたいんだ」
「……なるほどね。そっちの事はわかった。んじゃフランスに行く方法だけど……歩いていく事になる」
「どうして?」
「こいつ色々と限界だから」
そう言って夏は左腕のガントレットを軽く叩く。
「俺の相棒……バルバトスって言うんだけど、装甲のナノラミネートアーマーは完全に剥がれてるし、スラスターは壊れる直前で長距離移動は耐えれない。手入れはしてるけどそれも限界がある。どうしても避けれない戦闘に備えてできる限りバルバトスは使わず温存しておきたい」
どんな機械も整備しなけば劣化し損傷する。それはISであっても例外ではない。
「一度しっかり整備しないとどうしようもないけど設備がないしな。今のコイツは本来の性能の半分も出せないと思う」
「えっ?! あれで?!」
IS三機を相手に無双していた姿を見ていたシャルは驚愕する。あれで半分以下ならば一体本来の性能がどれほどの物か彼女には想像できない。
「そんな状態であの力……やっぱりナツのISってガンダムフレーム……なんだよね?」
「ん? あー。そういえば始めて使った時にそんな風に表示されてた気がする」
「本当にガンダムフレームなんだ……こんな貴重なIS初めて見たよ」
「貴重なんだこいつ」
「そりゃ厄祭戦を終わらせた英雄的ISだもん。価値は計り知れないよ。どこで手に入れたの?」
「まぁ……昔ちょっとな」
シャルの質問にナツは曖昧に言葉を濁す。その様子は明らかにその話をする事を嫌がっていた。
「あ、ごめんなさい」
「いや。別にいい」
触れられたくない部分に触れてしまった事に気が付いたシャルが謝罪し、ナツも気にしていないと返すが、微妙な空気が漂いお互いに口を閉ざす。
「……別の部屋でバルバトスの調整とかしてくる」
沈黙を破ったのはナツだった。話しは終わりという風に立ち上がり背を向けて部屋から出ていく。
「なんかあったらこれに呼び掛けて。バルバトスに直接伝わるようにしてるから」
扉を開けて部屋から出る直前ナツが振り向きながら何かを投げる。シャルが受け取ったそれはエイハブリアクターであった。恐らく昼間奪い取った三つのうちの一つだろう。
既にシャルの視界にナツの姿はない。彼女が受け取ったのを確認した時点で部屋の外に出ていってしまったようだ。
「やっちゃった……」
そう言ってベットに倒れ込んだシャルが盛大に溜め息を吐く。当然悪意は無かったが地雷を踏み抜いた事は間違いなく、己の浅慮を悔いる。
実際にナツが立ち去ったのはシャルが居心地悪いだろうと考えての事であり、シャルを責める意思があった訳でも不快感を感じたからでもなかった。だがそれを彼女が知る由もなく、これから行動を共にしてくれる命の恩人に失礼なことをしてしまったという罪悪感と後悔に苛まれながらベッドで転がり回る。
「それにしても……」
シャルがふと動きを止め、先程のナツの様子を思い浮かべる。
「なにがあったんだろ……」
聞いてはならないことであった以上、シャルに自分から追及するつもりはないが、ナツの反応の理由が気になり呟く。一瞬だけ彼が見せた表情に浮かんでいたのは後悔と悲しみ。
――――そしてその瞳に宿った感情は憎悪であった
というわけで謎(?)の少年ナツ君とシャルロットちゃんでした。
やられ役のモブ出てましたけどオリキャラタグつけ忘れてました。次回からサブキャラ程度のオリキャラ出る予定ですので次回投稿時にオリキャラタグ追加します。