鉄血のストラトス   作:ビーハイブ

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描写に悩んで難産でした。読み辛かったら申し訳ないです。


狂戦士

 バルバトスとグシオン。二機のガンダムフレームが激突する中、残された三機もまた激しい攻防を繰り広げていた。

 

『ちっ!』

 

 その中でも特に苦しい戦いを強いられているのはナツを相手に一歩も引けを取らなかったラウラだった。

 

 五機のマン・ロディを一人で相手取る彼女は、迫り来る全ての攻撃をかわしながらもクローによる攻撃を的確に相手のスラスターや間接部に撃ち込んでいくが、敵はそれを僅かに身体をズラすことで装甲で防いでしまい、僅かにシールドエネルギーを削る程度に留まる。

 

 ラウラのシュバルベ・グレイズとマン・ロディの相性は最悪だ。機動力で撹乱しつつ威力は低いが手数で攻める事をコンセプトにカスタムされたこのシュバルベ・グレイズでは、重装甲で高い防御力を持つマン・ロディ相手にはダメージが通らないのである。

 

【シュバルツェア・ハーゼ】にはランスを装備した一撃離脱タイプのシュバルベ・グレイズもあったのだが、対ガンダムフレーム……正確にはバルバトスとの戦いを想定して機動力と手数で削る方が良いと判断してこちらのタイプを選択した事が悪手となっていた。

 

(くそっ!使い慣れた機体を選んだことが仇となるとは……!)

 

 ラウラは少し前の自身を殴り飛ばしたい想いに駆られるがそんな事に意味もなく、そもそもできるはずがないので、それは諦めて残りの二人が一対一に集中できるように気を配り、時折サポートに入りながら戦う。

 

 アインは大事な仲間であるので当然だがシャルに対してそんな気を使う義理は本来はない。だが後ろから「彼女に何かあったら真っ先に殺す」というオーラが飛んできており、仕方なしにシャルのサポートも行っていた。

 

『ちっ! 鬱陶しい!』

 

 彼女には単純な技量ならばマン・ロディ全機を相手にしても勝てる自信はあった。実際に目の前のマン・ロディ全てを相手取りながらも一度も被弾せず、逆に百を越える攻撃を当てている。しかしダメージが通らなければ話しにはならず、結果として劣性を強いられ続けられていた。

 

『仕方ない……か』

 

 そう呟いたラウラは突然地面に向けて急降下し、そのまま静止する事なく脚から地面に激突する。その姿は衝撃で発生した砂塵によって覆い隠されるが、ハイパーセンサーは明確にラウラの位置を感知しているので目くらましとしては殆ど意味を為しておらず、五機のISがラウラの元へ向かおうと動き出す。

 

 

―――ただしそれはあくまで位置を誤魔化す為であったならばの話だ

 

 

 砂塵の中、突如激しいスパーク音が鳴り響き、次の瞬間には金属を貫く音が周囲に伝わる。

 

 そして砂塵が晴れた時、ナツとDDを除く全員が見たものはシュバルべ・グレイズの右腕のクロ―に分厚い装甲を貫かれているマン・ロディの姿であった。よく見ればその腕にはシュバルべ・グレイズの左腕から射出されたと思われるワイヤーが絡み付いている。

 

 射出後に対象を拘束し強力な電撃によって搭乗者にダメージを与える。これこそが本来のシュバルべ・グレイズの武装であるワイヤークローの正しい運用方法であり、今までの使い方はラウラ独特のものであった。

 

『カハッ……!!』

 

 刺し貫かれたマン・ロディの操縦者から空気の抜けるような声が吐き出される。そしてラウラが右腕のクロ―を引き抜くと完全にひしゃげて使い物にならなくなっており、その先端は真っ赤な血で濡れていた。

 

 クローが引き抜かれると同時にマン・ロディはぐらりとバランスを崩す。それに合わせてラウラが左腕の装甲の一部をパージすると、マン・ロディは腕に絡み付いたワイヤークローごと地面に落ちてそのまま動かなくなった。

 

『絶対の守りなど有り得ない』

 

 壊れた右腕のクローもパージし、動かなくなったマン・ロディの武器、ハンマーチョッパーを拾い上げて右手で構えながらラウラはそう語る。その口元からは僅かに血が流れていた。

 

『高密度に圧縮したエイハブ粒子を一点に集中させ、絶対防御を相殺すれば撃ち抜く事は不可能ではない。ようはガンダムフレームの攻撃と理屈は同じだ』

 

 彼女は事も無げにそう言うが実際にはそう簡単なものではない。

 

 最初に砂塵を巻き上げたのは自身の動きと狙っている相手を悟らせないための目眩まし。しかもターゲットロックを行えば敵に狙いが伝わってしまうので、ハイパーセンサーによる大まかな位置確認と感覚だけで左腕のワイヤークローを使い的確に敵を拘束。その後、電撃によるダメージでシールドバリアの出力を減衰させた上で敵ISの胸部装甲を瞬時加速による最高速度の一撃で貫いたのだ。

 

 しかもただ攻撃を当てるだけではなく機体全体に流れるエイハブ粒子をワイヤークローの先端に瞬間的に収束させる優れた精密操作を彼女は行っている。加えてこれを行っている間はシールドバリア、耐G機能、絶対防御といった操縦者を守る機能全てを攻撃に回すことになるので攻撃を当てる瞬間に行わなければ操縦者の命を危険に晒す諸刃の剣であった。

 

 実際にこれらを完璧に成したラウラでも僅ながらだが吐血するようなダメージを負ったのだから、他の者が下手に真似したらどうなるかは想像に固くない。

 

 常人ならば躊躇う事も平気で行うその無謀さとそれを可能にしてしまう強さ。故にラウラ・ボーデヴィッヒは【狂戦士】と呼ばれていた。

 

『まぁ大量にエネルギーを喰うし、負荷に耐えれずに武器は壊れる。あんまりやりたくはない技だが……』

 

 そう言いながらラウラは脚部の先端にあるワイヤークローを軽く動かす。

 

『少なくとも後一回は撃てる。大人しく降伏するなら無駄な犠牲は出さずに済むのだが?』

 

 不敵な笑みと共にラウラがそう言うとマン・ロディの動きが止まる。彼らは理解していながらも自らを鼓舞するために気が付かぬふりをしていたラウラとの圧倒的な実力差に気が付いてしまった事で、生き物の本能として脅威から逃れたくなって思わず後退しようとする。

 

『てめェら!ぼさッとすんじャねェ!』

 

 だがその瞬間DDの怒声が響き、逃げようとしていた全員の意識と視線がぶつかり合う二機のガンダムフレームに向かう。

 

 

――――二機の戦いは苛烈を極めていた

 

 

 バルバトスは背中のメインスラスターからは黒い煙が上げており、またフレームに異常をきたしたのか左腕がダラリと下がり、慣性に合わせて振り子のように揺らしながら右腕一本でメイスを振り回していた。

 

 それに対するグシオンは左肩の装甲が完全に破壊されてはいるがそれ以外に目立った損傷はなく、ナツの方がダメージを負っているのは明らかであった。しかし凄まじい執念で迫るバルバトスの動きはその状態にあってなお衰えることなく、むしろその動きは冴え渡っており、グシオンと互角以上の戦いを繰り広げている。

 

『そんなゴミはさっさと片付けてこっちにきやがれ!』

 

 そう叫ぶDDの一撃がバルバトスの肩を掠るが、ナツは肩の装甲を強制パージする事で衝撃を受け流し、グシオンの腹部へ蹴りを叩き込んで引き離す。そして体制を崩したDDの脳天にメイスを振り抜くがそれをハンマーで受け流して後退する。

 

『ゴミが何死ぬ事をビビってやがる!そいつら殺してIS奪えないなら後でてめェら殺すぞォ!』

 

 そんな一進一退の攻防を見ていたマン・ロディの操縦者達だったが、DDのその言葉を聞くと再びラウラ達へと迫る。だがその動きには先程までと違い、僅かではあるが動きが精彩を欠いていた。

 

『…やはりこうなるか』

 

 今の一人の犠牲で戦いが終われば良いと僅かに期待していたラウラは、それが叶わぬ事だと悟ると、向かってくる機体の攻撃を回避しながらその手に持ったハンマーチョッパーで手首を切り落として別の機体から武器を奪い取った。

 

『こうゆう武器は苦手だが無いよりはマシだな』

 

 ラウラが奪った二本のハンマーチョッパーを逆手に持ち替える。両腕のワイヤークローを失った事で動きに干渉する物がなくなり、小型武器を使えるようになったのだ。これにより決定打は難しくとも先程のような事をせずにダメージを通せるようになり、状況は一気にラウラ達の優勢へと傾いた。

 

 実はラウラは最初から武器を狙っていたのだがワイヤークローでは関節を狙いづらく、苦戦していたのである。

 

 だが()()()()()()()()()()()()()()彼女は殺さずに武器を奪い取るつもりだったが、このままではこちらが全滅すると判断し、強行手段を取ったのだ。

 

『さて、そちらは残り()()だがどうする?』

 

 四機のマン・ロディと対峙していたラウラが呼び掛けると同時に彼女の背後から鈍い音が響く。

 

『ラウラさん! お待たせしました! 敵IS、戦闘不能です!』

 

 アインがラウラの傍らに並びながらそう報告する。その背後にはアインの手によってエネルギーを消費させられ動けなくなったマン・ロディが倒れている。先程の音は機体が地面に落ちた音であった。

 

 ラウラとアインが一機ずつ倒した事でマン・ロディの数はシャルと戦う一機とラウラと相対する四機となる。

 

『よくやった。彼女を援護してやれ』

『了解!』

 

 ラウラの命を受けたアインが徐々に追い込まれていっているシャルの元へ向かう。それをラウラと戦っていた一機が止めようとするが、それよりも早くラウラが射線上に割り込んでそれを阻む。

 

『さてそろそろ決着を――』

 

 付けよう。そう言いかけたラウラの耳に警告音が鳴り響く。自身がターゲットロックされていると即座に理解したラウラが即座に回避行動に移ると、ラウラのいた場所に手榴弾が投げ込まれ爆発する。

 

 攻撃してきた方向を見るとグシオンの姿が目に入る。その右腕は完全に潰れ、その手に持っていたハンマーも持ち手ごと破壊された状態で転がっており、一目見ただけでも白兵戦は不可能な状態とわかる。

 

 一方バルバトスはとうとうスラスターが限界を迎えて滞空能力を喪失しており、地面に降り立った状態でメイスを背中の武装ラックに戻して左手の滑空砲でラウラを狙うグシオンへと砲撃を行っている。両機共にガンダムフレームの破壊力を最大限に発揮する近接武器を手放した事で決定打を通せない状態となっていた。

 

『一度撤退して体制を建て直す! 壊れた機体もってさっさと付いてこい!』

 

 手榴弾の攻撃によってラウラとマン・ロディをある程度引き離したところでDDはそう告げると同時に離脱していく。スラスターの全損により機動戦が不可能となってはいるが、それ以外のダメージが殆ど無いバルバトスの格闘能力は衰えていない。

 

 砲撃戦では決着はつかず、このまま白兵戦に入れば自らが敗北すると判断したのだろう。それにいつの間にかラウラとアインが撃破した機体を二機で支えるように回収していたマン・ロディも追従していく。

 

『悪いがそいつは置いていけ!』

 

 ラウラが自らが撃破したマン・ロディを抱えて逃げる二機へ向けて両手のハンマ―チョッパーを投擲する。

 

 ブーメランのように回転しながら放たれたその一撃は無防備に晒された二機の背中のスラスターへと直撃し、爆発と共に抱えていたISを落とす。再度回収を試みるがラウラの追撃を受けては自らも危ないと判断したのかそのまま離脱して行った。

 

 

―――――こうしてブルワーズとの初戦は両者痛み分けの結果で幕を閉じたのであった

 

 

 




シャルやアイン、ナツの戦闘描写も書こうと思ったんですが一方その頃的なの連続でやるのもあれかなと思ったんで一番頑張ってるラウラちゃんメインで絞りました。

 アインは終始有利に、シャルは苦戦しながらじわじわと押されて、ナツはグシオンと死闘してる感じです。


後シュバルべのワイヤークローは原作よりちょっと強化してます。電撃無しでも良かったんですけどラウラの技を自分の中で違和感なく決めさせる為に追加してます。

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