「ワイアット大将!」
戦艦テレメーアの艦橋、ワイアットを庇うようにセシリアは立つ。たとえ意味がない行動だとしても体は勝手に動いていた。
「セシリアくん」
対するワイアットも銃口を向けるウイングゼロカスタムを静かに見つめる。死ぬ覚悟はとうの昔に終えているが目の前に立つ若き英傑を巻き込んでしまったことに申し訳なさも感じていた。
「っ!?」
バスターライフルが発射されようとしたその時、ウイングゼロカスタムに向けてバスターライフルと同等の威力を持つビームが彼女に向けて放たれ、急制動で回避する。
姿勢を整えたゼロに向けてリゼルが突貫、ビームライフルからサーベルを出力させ斬りかかる。
「……」
「何者?」
ゼロは素早くサーベルで対応しリゼルに斬りかかるが変形しながら回避され、その影から接近してきたトールギスⅢが突撃しそのまま体当たりされる。
「あれは先日強奪されたリゼル。それにあの機体はデータに無い」
「あれは」
騎士のような佇まいのトールギスⅢを見てセシリアはIS学園で戦ったゼロを思い出す。
そうしているうちにゼロの背後にシュバルベグレイズが位置し、ゼロを囲む。
突如現れたMS3機は明らかに手練れであり、ゼロを完全に封じ込めていた。この状況であれば有利なのは国連側である。圧倒的な数の優位を利用してゼロを撃破、捕縛すれば良いのだ。
「ちっ」
不利を察したゼロはスラスターを全開にし飛び上がるとそのまま戦域を離脱する。それを見た女性主義残党も後退を開始する。
「た、助かった…」
テレメーアの操舵手の気の抜けた言葉と共に乗員たちも肩の力を抜いた。それはワイアットとセシリアも同様であり二人は密かに安堵する。
国連軍は追撃に移りたいのは山々であったが味方の救援が急務であり、追撃を断念せざる得なかった。
「所属不明機は?」
「消えました。恐らく海中に潜って移動したそうです」
「ふむ、感謝すら述べさせてくれんか」
いつもと変わらぬ様子で紅茶を飲むワイアットは静かになった空を見つめるのだった。
ーー
某所
「糞が!」
少女はその見た目からは想像もできない怪力で物に当たり、部屋を滅茶苦茶にする。
「お~こわ。ゼロ、お待ちかねだぜ」
「…分かっている」
『ゼロ。こちらは手はず通りにヘブンズベースの占拠を完了しました。仕込みも順調です』
「作戦通りに進めろ。ワイアットを殺せはしなかったが作戦に変更はない。我々が着くまでそちらの指揮は任せるぞアクエリアス」
「承知」
アクエリアスと呼ばれた女性は綺麗なお辞儀をすると画面が消える。
「マティア、聞いた通りだ。作戦に変更はない」
「わかったゼロ。針路はそのままだな」
苛立ちを隠さないゼロを見て冷や汗が止まらないマティアは艦長に向けて指示を出すのだった。
ーー
「疲れているところすまないね。だが状況は切迫しているんだ」
空母伊吹のブリーフィングルームには国連第一艦隊の主要人物が集められ、艦隊司令を兼任している源が話を進める。
「詳しい話は更識長官。お願いします。」
「分かりました。現在も建設が進められている連合軍本部通称《ヘブンズベース》が何者かによって占拠されたとのことです。現場の状況から見て戦術データリンクを通したハッキングによるものだと思われます。通信も一切繋がらず、基地は沈黙を貫いています。」
国連軍情報長官も兼ねている更識は現在、おかれている状況を淡々と説明する。
「この占拠されたとの情報も基地所属のアーレイ・バーク級が中破した状態で周辺を航行していた米軍第二艦隊に発見され、発覚しました」
「我々、国連軍第一艦隊は救助作業を他艦隊に引き継ぎ、一度ハワイの真珠湾にて補給を受ける。また、先の戦闘で被害を受けた第二艦隊の艦、MSを編成して臨時第一艦隊として本部奪還作戦を決行する」
「ブレイブ、ユニコーン、フレイル隊の三個中隊に加え、第二艦隊のスマッシュ、キャロットの二個中隊を組み込み伊吹で面倒を見る。各隊長はもちろんのこと、隊員間との親交を深めておくように」
「「「了解!」」」
「詳しい作戦指示はハワイにて行う。それまで休息を取ってくれ」
ーー
「ふむ、連合軍本部がか」
「あぁ、それで箒たちは寄港するハワイで降ろすことになった。その後は軍が責任をもって送り届けるから安心してくれ」
伊吹の食堂にて一夏は伊吹にゲストとして乗っていた箒たちに事情を説明していた。
「現在打診中だが。我々のシュバルツ・ハーゼも陸戦隊として合流予定だ。ハワイで一度終結して合流する」
「シュバルツ・ハーゼって世界トップクラスの特殊部隊じゃない。ラウラが隊長だった」
「今は旦那に任せている」
「織斑少佐!」
「フレイル大尉、デンバー大尉」
フレイル中隊隊長フレイルとブレイブ中隊隊長デンバーの二人は近くの席に座りご飯を食べ始める。
「革命戦争の英雄とお会いできるなんて光栄です」
「あ、あぁ」
フレイルは千冬と握手を交わすと笑みを浮かべる。
「フレイルは元女性主義団体のIS部隊《ワルキューレ》の隊長だった人だ。色々と助けて貰ってる」
「織斑少佐は私の経歴など気にせずに接してくれて助かっています」
「デンバーは元アメリカ空軍のトップガンで国連には出向と言う形で参加して貰ってる」
「よろしく!」
2m近くある巨躯に清々しい笑顔を浮かべる彼はフランクに接してくる。
伊吹には現在、この三人率いる三個中隊、計36機のMSが常駐しているがこれに第二艦隊のMS21機とラウラ含むシュバルツ・ハーゼ所属の二個小隊のMS8機が加わり、計65機が収容されることになる。
伊吹の最大積載機数は90機なのでまだ余裕がある方だ。
「織斑隊長、ここにいましたか我々はスマッシュ隊の…」
次々と一夏の周りに人が集まり、人だかりができる。
その様子を見ていた千冬は少し嬉しそうにその光景を黙って見続けるのだった。
ーー
「タイガー司令。国連軍第一艦隊はあと二時間ほどでわが基地に到着します」
「あぁ、分かった」
太平洋艦隊司令官であるタイガーはコーヒーを飲むとサングラス越しにモニターを見つめる。彼は老齢の軍人だがその体躯はしっかりしており、貫禄があった。
「状況は?」
「は、動ける艦は沖合にて待機しております。すぐさまに整備、補給が可能です」
「基地内の保安状況は?」
「司令、どうされたのですか?」
「保安状況は?」
「ただちに確認させます!」
突然の言葉に副官は慌てるがすぐさま基地内に異常がないか調べさせる。
ーー
国連軍第一艦隊到着まであと一時間。
「どうした、何かあったのか?」
基地内のハンガーにて整備士は突如起動したMS達を見て呟くとジェガンはライフルで反対のハンガーに駐機していたジムⅢを破壊した。
「な、なんだ!」
「クーデターだ!」
ーー
「何があった?」
「基地所属のMSが敵対行動を!」
「現在敵対行動を行っている機体をマークしろ。対象機の識別信号をエネミーに設定。全兵装自由使用許可!迅速に処理しろ!」
タイガー司令の言葉で司令室にいたオペレーターたちは動き始めるが一発の銃声がそれを止める。
「タイガー司令。我々に従って貰う!」
オペレーターの一人が銃口をタイガーに向けて話し始めた。
「我々は女性解放軍。女性のあるべき…」
オペレーターの言葉は最後まで続かず、額に穴を空けて倒れた。
「テロリストとは交渉しない」
タイガーは撃った拳銃をしまうと自分の席に座り直しいつも通りにコーヒーを飲む。
「何を呆けている!」
「は、はい!」
オペレーターは素早く指示通りに行動するがこれからが本番だ。
「司令部を封鎖しろ。第63MS小隊にここを守らせろ。その他は鎮圧に向かえ」
「は!」
ーー
警報が鳴り響く基地、MSパイロットたちは自身の機体に向かい駆ける。
「くそ!なんでいつまでも忘れられないんだよ!」
「…」
ハンガーから顔を出したジムⅢが待ち構えていたスタークジェガンに撃ち抜かれ爆散する。
「ファング大尉!」
「俺たちの機体は!」
「ビームキャノンの調整ができてません!」
「仕方ねえ。起動後に強制パージして発進する!ナターシャ!」
「分かってるわ!私が先に出る!」
ナターシャは機体を緊急起動させて状況を確認する。
「状況は?」
「未確定ですが少なくとも三個中隊規模のMSがクーデターを起こしたようです!基地に対して強力なジャマーが張られており、外部への通信が出来なくなっています」
「お客さんが到着するまでに片付けるぞ!家の掃除はしっかりとしなきゃな!」
ナターシャは機体を飛び上がらせるとそのままハンガーの天井を突き破り、空高く舞い上がる。
上空を警戒していたEWACジェガンはなにも出来ずに真っ二つに切り裂かれる。
近くにいたジェダはライフルで牽制しつつサーベルで斬りかかるがナターシャのEx-sガンダムはジェダを殴り飛ばしサーベルで切り裂く。
「行くわよ。シルバー」
《モチロン》
Ex-sガンダムに搭載された補助AIシルバーは銀の福音のコアをベースにした世界唯一の戦闘補助AIである。
「俺たちを先に潰さなかったのが間違いだよなぁ!」
大型のクローに握りつぶされたジェガンを捨てたバイアラン・カスタムを操るファングはEx-sガンダムと共に空を駆けるのだった。
ーー
パールハーバー基地におけるクーデター。それは基地内だけではなく。所属していた第7艦隊でも発生しており、艦隊は混乱状態にあった。
その攻撃の矢先は近くにいた第7艦隊同士ではなく、接近していた国連軍第一艦隊に向けられていた。
「第7艦隊の一部から発射されたミサイルが接近!数は7!」
「迎撃、対空防御!」
「一発迎撃失敗!しらなみのヘリコプターデッキが被弾!」
突如の攻撃に晒された第一艦隊は第二艦隊から合流したしらなみへの攻撃を許してしまう。
「ロナルドレーガンからMS隊が接近。攻撃体勢に入っています!」
「MS隊、緊急発進!」
「ジェガンタイプ9、ジェスタタイプ6に一機見慣れぬ機体が!」
画面に写し出されたのは大型の赤いMS。
「あれは独仏米で共同開発した」
ラウラのつてで手に入れたモニターで見ていたラウラとシャルロットはその機体には見覚えがあった。
「リハイゼ…第7艦隊に居たのか」
「これは厄介な」