「ここね…」
建設中のビル内に動く小さな影、更識楯無はIS学園を監視している機体を捕獲しようと一人動いていた。
敵の目がクラスマッチに釘付けになるこの日が最適だと判断したからだ、もくろみ通り各階に配置された簡単なトラップを避けるだけ…敵には気づかれた様子は無かった。
「さぁ、ここを開ければ…」
最上階へと続く階段の鍵をあっという間に解錠すると静かに扉を開ける。少し様子を見て敵の数と戦力を確認せねばならない。
ドガシャーン!
すると突然、天井を突き破って墜ちてきたのはジン強行偵察型だった。ジンは手に持ったスナイパーライフルを倒れたまま撃ち放ち攻撃している。
(戦闘中?)
どこかの国の部隊が動いているのか、いやそんな情報は回ってこなかった。楯無はハイパーセンサーを起動させ上空を探る。
すると黒くてゴツい機体と青い機体が戦っていた。どちらも
ーーーー
「チッ!」
織斑マドカはガンダムMK-Ⅴを操りIS学園に向かおうとした機体、《ゴーレムⅠ》との戦闘に突入していた。
先ほど援護に来てくれたジンが殴り飛ばされたがこちらを援護するようにエネルギー弾が飛来している、無事なのだろう。
「早くこちらと合流しろ!」
「分かってる!反対側だ時間がかかる!」
リョウは反対側の海側を警戒していたために合流が遅れていた。
別地点を警戒していたアドヴァンスドジンクス2機がマドカに合流し手持ちのGNビームライフルで攻撃を始める。片方の機体は右肩に装備されたGNメガランチャーを構えて発射、無人機のシールドエネルギーを大幅に削る。
「今だ…行け!インコム!!」
MK-Ⅴのバックパックに搭載された2個のインコムが高速で移動しゴーレムにダメージを負わせる。
マドカを一番の驚異と感知したゴーレムは腕に内蔵されたビーム砲を発射するがビームコーティングを施しているシールドに防がれ無傷だ。
「行ける!この機体は私に着いてくる!!」
MK-Ⅴの性能は折り紙付きだ、その後継機となるドーベン・ウルフやシルバー・バレトの設計も取り入れた機体は原作よりも性能が大幅に上がっている。
機体性能に歓喜の声を上げるマドカはゴーレムの左腕を切り飛ばした。体勢を立て直そうと後退するゴーレムに対しバックパックに設置されたマイクロミサイルポッドを解放し一斉にぶち込んだ。
「よし!行けるぞ!グワッ!」
アドヴァンスドジンクスのパイロットが歓喜の声を上げると銃弾の雨に襲われダメージを受けた。
「なんだ!?」
「あら、ごめんなさい」
『突然参上』と書かれた扇子を開けながら言い放ったのはIS学園生徒会、会長楯無だった。既にISである
「でも…その粒子……イタリアであった事件と一緒なのよねぇ、なぜかしら?」
「マドカさんは任務を!ここは我々が!」
「あぁ…」
「ねぇ聞いてる?」
「うるさい!」
ひょうひょうとしている楯無に苛立ったジンクスはGNビームライフルにロングアタッチメントを装着し攻撃する。
軽々と避ける楯無だが彼女自身、内心色々ありすぎて動揺していた。取り敢えず攻撃してみたら相手の機体からは男の声が聞こえてくる。
(ISじゃない…でもこの機動性と攻撃力は通常のISを超えてるじゃない)
楯無が思案している最中も戦闘は続行している。ダメージを受けたジンクスがGNプロトランスを構えて突っ込んでくるが彼女は特殊な水を螺旋状のランス様に展開した蒼流旋で受け捌く。
「やらせねぇ!」
「なかなかいい連携じゃない」
追撃をしようと動く楯無だがもう一機の放つ粒子ビームに阻まれ中断せざる得なかった。
素早く蛇腹剣《ラスティーネイル》を展開すると鞭のように振るいライフルを切り飛ばした。
「つ、強い…」
アドヴァンスドジンクスとミステリアス・レイディの機体性能差はそれ程ない。両者の戦闘技術の差が顕著に表れている結果だと取れる。
「もう下がれ、マドカのフォローにまわれ…」
「戦闘長!」
「あら、本命のご到着ね」
「流石は暗部の人間だ…これ程とはな…」
現場に到着したリョウはミステリアス・レイディの前に立ち塞がるように滞空した、最小限の戦力で余裕だと思っていたが…学園最強の楯無が出てきたのは想定外だった。
「学園を覗き見るなんてマナー違反じゃない?」
「気づいてたのか…大人しく見過ごせば撤収したのによ」
「そうはいかないわ、アナタ…イタリア軍を強襲したわね……」
楯無の言葉にリョウは笑う。どうやら正解のようだ…彼女はランスを強く握りしめる、国家代表と代表候補生を二人も殺ったコイツは確実に強い。
それにイタリアの国家代表とは面識があった…自身が代表に成り立ての頃に色々と良くして貰っていたものだ。
赤い機体のパイロットに対する強い怒りが彼女の目を更に鋭くさせる。
「なにが目的…三年前ファントム・タスクを壊滅状態に陥れたのもアナタたちね」
「ファントム・タスク?知らねぇなそんなもん…おしゃべりは終わりだ」
リョウはそう言い放つとGNバスターソードを取り出し構える。
「じゃあ、行くぜ!!」
ーーーー
推奨BGM《SCRAMBLE》(ガンダムOO)
大勢の人々が行き交う町の大空で赤と蒼が激突していた、アルケーガンダムとミステリアス・レイディだ。
楯無はラスティーネイルでアルケーを攻撃するがGNバスターソードで巧みに捌かれる。
「パワーだけだと思ってたけど器用ね!」
「ありがとよ!」
鞭のように振るう事が出来るラスティーネイルは扱いこそ難しいが使いこなせば捌ける人間などそういない。
この武器は手首の動きだけで剣先の軌道を自由自在に変更できるからだ。これをリョウは初見で捌ききった。
「厄介だな、水は!」
「くうっ!」
あっという間に距離を詰めてくるアルケーの一撃を素早く展開したランスで防ぐ。パワーにスピード…圧倒的にアルケーの方が上だ、しかしそう言う機体は…。
「だいたい燃費が悪いのよね!」
バスターソードを受け流しランスの水を収めさせると四門ガトリングガンが姿を現した。
隠し武器だ、アドヴァンスドジンクスの戦闘で使っていたがリョウはまだ見ていない。
「隠し武器!?」
「もらった!」
撃ち放たれるガトリングガン、それをリョウは体勢を反転させ機体を宙づりのような状態にさせることで全弾回避した。
「なんですって!?」
「こっちにもあるんだよ!」
脚部に装備されていたビームサーベルを展開し楯無を切り裂いた。両脚による二連撃、彼女はたまらず体勢を崩してしまった。
「いただいたぜ!」
「このぉ!」
バスターソードを両手で握りしめ叩き落とそうと振るう。とっさに左腕で庇った楯無だったがシールドバリアを破壊し絶対防御おも破壊せんとする衝撃に顔が苦悶の表情になる。
バキッと不吉な音が鳴り響くと左手の力が不自然に抜けた…恐らく骨が折れたのだろう。
「ぐっ……」
「もらい!」
とどめと言わんばかりの一撃、右腕のランスで防ぐが機体の体勢が整わず吹き飛ばされてしまう。
大きく後退した楯無の後ろにあったのはIS学園だった。ゴーレムとの戦いで緩やかに学園には近づいていたがここまで接近しているとは思わなかった。
ーー
一方ゴーレムの対処を行っていたマドカ組の戦闘は終了しつつあった。インコムでダメージを蓄積するゴーレムに対しマドカのMK-Ⅴは無傷だ。
エネルギーがなくなってきたのかゴーレムの動きも鈍くなりつつある。
「ふ…もらったぞ!」
ビームを避け、接近するとビームサーベルを二本取り出し二刀流になる。どうやら彼女は接近戦の方が好みのようだ。
「私の復讐の糧となって貰う!」
ゴーレムの巨大な腕部による攻撃など当たらずゴーレムの肩口からビームサーベルを突き立てた。苦しそうに動くゴーレムの頭を潰しコアのあるであろう場所にもう一本ぶち込む。
「これで!」
ゴーレムは機能を停止する寸前に苦し紛れのビームを撃ち爆砕するのだった。
ーー
「さぁ、どんな面白いことをしてくれるんだ?」
「くっ…」
圧倒的な強さを誇るリョウに楯無は悔しそうにする。こうなれば奥の手、ミストルテインの槍を発動しようとした時、事故が起きた。
ゴーレムの最後に放ったビームがアルケーの背部に直撃したのだ。油断していたリョウも避けられずに吹き飛ぶ、ダメージは余りないがなにも対応をしていなかったのでよけいに吹き飛んでしまったのだ。
ズドオオオオォン!!
GNソード系統はエネルギーフィールドに絶対的な攻撃力を持っている。楯無のミステリアス・レイディのシールドバリアが簡単に壊れたのもそれが原因だ。
そんなGNバスターソードが運が悪いことに墜落先であるアリーナのシールドバリアを破壊してしまいそのまま地面に激突したのだ。
「いってぇ…油断したぁ」
「すまない!まさか当たるとは」
「気にするな」
クラクラする頭を振りながらすぐさま通信をよこしたマドカを見やる…どうやら本気で謝ってるらしい…彼女に対して冷たい印象を持っていたリョウだったがほんの少しだけ見直した。
「ん?」
リョウは少し落ち着いて周りを見やる…どうやら白式と甲龍の戦闘中に墜ちてきたらしい。
(やっちまったァァァァァァァァァァァァ!)
まだ原作に介入するなって言われてんのにガッツリ介入してしまった。ボロを出さないうちにさっさと逃げるしかない。
「やっちまうか!」
追撃されても面倒だ、専用機を2、3機墜とせば機体の回収やらパイロットの救出やらで時間が稼げるはず。
砂煙が晴れきっていないのを利用し近くに居た鈴をバスターソードで叩きつける。
脳天に大きな衝撃を入れられた鈴は一言も発っせないまま気絶した。
「下がってくださいまし!」
駆けつけたセシリアの攻撃、直進するミサイルと周りに展開されたBT兵器、一瞬でここまで出来るとは…彼女はそうとう本気らしい。
だがリョウにはその攻撃が止まって見える…バスターソードでミサイルを斬り飛ばし飛来するレーザーを避ける。
「クソッ、いくぞ!……うおぉぉぉぉ!」
ミサイルの爆煙によって視界が塞がれたリョウだったが雄叫びを上げながら突っ込んできた一夏にはすぐ気づいた…息を潜めて奇襲に徹していれば結果はもう少し違う物だっただろうに。
「バカが!」
白式の手首を掴み止める…雪片弐型の特性は知っている、これに当たるほど彼はバカではない。
「バカみたいに叫んでも強くならねえんだよ!」
外部スピーカーをオフにしたので恐らく届かないであろう叫びと共にリョウは膝と肘で一夏の意識を刈り取った。
「一夏さん!このぉ!」
ブルーティアーズの一撃をかわしつつ加速、目にも止まらぬ斬撃でライフルを破壊するとバスターソードを振り上げる。
「インターセ……」
接近装備を取り出す前にセシリアを地面に叩き落とし埋める。ピクリとも動かなくなったセシリアを見て満足したリョウは撤退するために浮遊する。
「撤収する!マドカ!!」
IS学園の教師部隊と追いついた楯無たちがリョウ周りを囲むがそんなものどうとでもなる。
「分かっている!」
マドカはMK-Ⅴのライフルでシールドバリアを破壊するとマイクロミサイルポッドからチャフスモーク弾をありったけ放つ。
追随していたアドヴァンスドジンクスもGNバズーカでチャフスモーク弾を撃ち放ち掩護する。
アリーナ内がチャフスモークで充満するとその中からアルケーが出てくる。
「こりゃ、ハルトに怒られるな…」
「隊長、レウルーラが付近にいるようで回収してくれるそうです!」
「分かった…レウルーラに帰投する…撤収だ!」
「分かった」
「「「「「了解!」」」」」
アルケー、MK-Ⅴ、アドヴァンスドジンクス2機にジン強行偵察型3機…太平洋に向けて加速し大空に消えていくのだった。