「しかにしても大変なことになりましたねぇ」
「革命軍と言っておりましたか、彼らは…まさかISを凌駕する兵器を実戦投入してくるとは」
「そのような軽率な発言は控えるべきではありませんかね?」
あの襲撃から一日が経ち、世界中の新聞やテレビは革命軍を報じ世間は革命軍一色となっていた。
「さよう、仮にもIS学園は防衛に成功しているのだ…」
「状況を見れば明らかに"見逃してくれた"っと言った方が現実的でしょう…"団体"の腰巾着は眼がよく見えないようだ」
「なんだと!?」
テレビの中では評論家たちがバカバカしい論争に明け暮れている。ネットの中でも革命軍の行動に賛否両論だ。
「状況をみれば革命軍は奇襲ばかりではないですか?これまで起きたIS襲撃事件も同様です。正面切っての戦いならISの方が有利ですよ…熟練度が違います。テロリスト共はすぐに消えるでしょう」
「いや、奴らは…」
「見舞いに来てやったわよ」
何もすることがなかった一夏は医療室のテレビを見ながらボーッとしていると鈴たちいつものメンバーが見舞いに来てくれた。
「おう、サンキュー…ラウラは?」
まず礼を言った一夏はここに居ないフィーリアの事を聞くと全員が浮かない顔をした。
「フィーリアの所に…」
「そうか…」
昨日の夜、この事を聞きつけ傷ついた体を起こし必死にフィーリアの元に行ったことを一夏は思い出した。集中治療室で静かに眠る彼女を見て一夏は言いようのない怒りを覚えていたのだ。
「甘い物は冷蔵庫に入れておくぞ…」
「ありがとな、箒」
「構わん…」
「一夏さん♪病院食では味気ないと思いまして軽くつまめるものをご用意致しましたわ♪」
「お、おう」
"見た目だけ"美味しそうなセシリアのサンドイッチを見て一瞬だけ顔が引きつるが一夏は笑顔で受け取りソッとベッドの脇に置いた。
「無理に食べなくて良いわよ」
「鈴さん、何をおっしゃってるのかしら?」
「あんたのその産業廃棄物の処理方法よ」
「なんですって!」
「二人とも静かに…ここは医療室なんだよ」
「「うっ」」
シャルルの言葉に二人は黙り込み大人しくなる。
IS学園には医務室と医療室の二つが存在する。医務室は軽度の患者、医療室は重度の患者だ。一夏は医療室にいたのだが決して重度の患者ではない…軽度の患者を扱う医務室が満員でこちらに回されてきたというのが正しい。
医療室は少し隔離されたような場所にあるので少しだけ遠い。現在収容されているのはユイカ、一夏にフィーリアと楯無と今回の戦いで第一線を張ったメンバーばかりである。
「あぁ…このテレビね…まだやってたんだ」
タカシのTVタックラーという番組でワイワイ騒いでる評論家たちを見てシャルルはため息をつきながら呟く。
「革命軍って戦力を全て出してなかったんでしょ?」
「あの2機は革命軍のワンオフ機でしょうしね…」
セシリアは昨日、ブレインを撃墜した直後のことを思い出していた。
ーーーー
「グガキ…が…ごて…」
毒を盛られた人間のように苦しみ痛そうに全身を震わせる。その光景は人間そのもの、まるで人を殺したような罪悪感をその場にいた者全員が感じた。
「ギギギ…ギギ……」
「あ……」
近くに居たシャルルに助けを求めるように手を伸ばしたブレインの姿に思わず手を伸ばしてしまう。
ゆっくり、ゆっくり近づく二人の手を見守るセシリア達、お互いの手が触れ合おうとした瞬間…ブレインは二つのビームにブレインを貫ら抜かれた。
「え?」
「なんですの!?」
機体が一瞬で膨れあがり爆炎がブレインを包んだ。触れそうだった左手が崩れ落ち残骸と化す。
「中々感動ものっすねぇ…人工知能と人間の儚い夢物語、まるでどこかのハリウッド映画…」
「また二つ目!」
怒りをあらわにするセシリアはサイレント・ゼフィルスのスターブレイカーを構えて威嚇する。それはラウラも同様でリボルバーカノンの標準をカゲトに合わせる。
「怖いっすねぇ…ケイニ……」
「え?接近警報……ッ!」
「え!?」
カゲトの言葉と供に上空から急降下してきたのはケイニのGエグゼスだった…彼女は鈴のすぐ後ろを通り抜けるとシャルルの前に着地する。
「いつの間に!?」
慌ててレイン・オブ・サタディを構えるがケイニはそれを無視してブレインの残骸から小箱のような大きさの物を取り出すと急上昇する。
恐るべき速さで飛び去った機体を唖然と見守る全員にカゲトは言い放った。
「革命軍を相手にするなら覚悟するっすね…こんな学園その気になれば一瞬で灰に出来る…それをしなかった意味もよく考えるっすよ」
そう言い放ったカゲトはゆっくりと上昇しIS学園から離脱するのだった。
ーーーー
「どうだった?山田先生…」
「はい、現在残っているデータを精査した所、革命軍の機種は20種以上あることは確実です」
IS学園地下施設…そこでは多くの教師が事後処理に終われていた。その中で千冬と真耶は革命軍に関する資料を纏めていた。
「お前の意見はどうだ?楯無」
「前回の機体に比べたら今回の機体達の実力は低かったです…しかしそう言っても代表候補生以上の実力を持っています」
本来なら医務室で寝ておかなければならない彼女だがそんな事している暇もない。
「各国政府は卑劣なテロリストには屈しないの一点張りですがテロリストの規模じゃないですよぉ」
「確かにな…一国の軍隊以上の戦力を保有しているのは間違いないだろうな…」
半泣きの真耶を宥めながら千冬はその意見に同意する。
IS6機で戦争が起こせると呼ばれている世界でIS10機以上を相手取り、圧倒的勝利を収める革命軍は異常の一言に尽きる。
「非公式ですが各国政府は非常事態宣言を出しています。国連とIS委員会及び女性主義団体も動き始めているようです」
「ほう、戦争が起きても不思議はない状況だな」
「最も、女性主義団体はISに勝てない物はないと思ってますから手持ちの戦力で解決を試みるかも知れませんが」
そう言った楯無は扇子を広げ口元を隠す。扇子には愚の骨頂と書かれていた。彼女自身、ISの力は知っているが敵の機体は残念ながらそれ以上のものを持っている。
彼女は暗部の人間、つまり
「IS学園は施設の修理のため1週間…休講する……有効に使え…心当たりはあるのだろう?」
「はい、最善を尽くします」
千冬の言葉の意味を汲み取った楯無は元気良く返事をする。一つの仕事に集中できるというのは彼女にとってもありがたい事だった。
ーーーー
「ユイカ…大丈夫?」
「まぁな…最後の最後に気を失ってしまうとは…」
医務室の一室では更識簪が花柳ユイカの見舞いに訪れていた。ユイカは所々に包帯を巻いてはいるがいつも通り元気だったので簪は安堵していた。
「ユイカは頑張ったよ…私なんか逃げてばかりで…」
「私なんか…兄様の足元すら…」
ユイカは昔からの知り合いだった。元々ユイカの花柳家と簪の更識家は昔からの交流があったからだ。
江戸時代より前から繁栄を成してきた光と影の武門の一族。更識家は影に潜み続け花柳家は政界に足を踏み入れ日本の安定を保っていた。
「あの事件さえなければ…兄様と父様は死ななくて寸だのに」
「大丈夫だよ、ユイカはちゃんとやってる…ユイトさんも喜んでるよ」
ユイカは最愛の父と兄を失ってから自分自身を追い詰めてしまう傾向にある。それは自分でなんと貸せねばと言う責任感からなのだがいつかそれが原因で壊れてしまわないかと簪は心配するのだった。
だがこの二人は知らない…ユイカが心から愛し尊敬する兄ユイトが敵であることを…倒さねばならない者だと言うことを。
この世はいつでも残酷でそのような事実が連綿として続いていく…世界が革命軍の目を向け始めた頃、堪忍袋の緒が切れかかっている天災が動き始める。