IS学園、アラスカ条約…通称《IS運用協定》に基づき日本に設置されたIS専門の特殊国立高等学校である。
IS学園はISの性質、女性にしか扱えないと言う点から必然的に女子高として扱われる。
ジー
「……」
そんな女子の園に1人足を踏み入れた男…織斑一夏は浴びせられる女子達の目線に身をすくませていた。
(箒……)
そんな彼は唯一の知り合い、篠ノ之箒に目線で助けを求めるが目を逸らされてしまう。
更に憂鬱な気持ちになりひっそりとため息をつく一夏、そんな彼の事を面白そうに眺める女性がいた。
(~♪)
彼女の目には興味の色が強く映る。
それだけなら他の女子と同じだろう。
(本当に来ちゃったよ…やっぱりすごいなぁ)
そう頭の中で呟く彼女…彼女は織斑一夏が"来るのを知っていて"この学園に入ってきたのだ。
周りの人間所か本人すら知らなかった事を"あの人は"知っている。
(面白いなぁ…是非とも戦ってみたい……)
そう思い舌舐めずりする彼女の眼は先程とは打って変わり餓えた獣のようにぎらついていた。
ーーーー
自己紹介を終え幼なじみである箒との再開を果たした一夏は幾らか心に余裕が出来ていた。やはり知り合いが居るというのは心強いものである。
「ちょっと良いかな?織斑一夏くん?」
遠巻きで見守る女子達の前で堂々と一夏の眼前に躍り出たのは綺麗な赤毛をボブショートにした少女はニコニコしており一目で明るい人物だと悟った。
「え?」
「随分な間抜け顔だねぇ」
朱色の瞳に見られ一夏は思わず姿勢を正す。
「そこまでかしこまられても困るんだけど…まぁいいや、初めまして私の名前はフィーリア・スタンシー…オーストラリア代表候補生さ以後、お見知りおきを」
「こっちもよろしく…正直分かんないことだらけなんだ」
「いきなりだったらしいからね、いつでも頼ってくれて良いよ」
フィーリアの言葉に一夏は安堵の息を漏らす、彼にとって彼女はこの学園で上手くやっていく道標に見えたのだ。
「じゃあさ…」
「ん?」
早速の質問、フィーリアだけでなく他の女子達もその声に耳を澄ませる。
「代表候補生ってなんだ?」
ズコーー!!
その時、この言葉を聞いていた全ての者がずっこけた。
それはフィーリアも例外はなく両足を高く上に上げた見事なズッコケを見せた。
幸い、彼女の制服は短パン型に改造してあるので中身が見えなかったがそこから生えている綺麗な足に一夏は思わず赤面する。
「それっ…本気!!」
幽霊でも見た様な彼女の顔に一夏はおののきながらも首を立てに降る。
「テレビは?」
「あんまりって言うかほとんど見ないかな…」
「ハァ…」
予想を遙かに上回る質問に頭が痛くなってくる彼女だが仕方がないっと割り切りその質問に答える。
「国家代表候補生って言ったら分かるかな?各国の代表の候補生…つまり私はオーストラリア代表の候補生だって事」
「なるほど、エリートって訳か」
「その認識で間違いないよ…」
こいつ本当に大丈夫か?と言う言葉が頭によぎったのはある意味、仕方のない事であろう。
(これが世界最強の織斑千冬の弟…世間に疎すぎる)
「まぁ、また何か困ったら言ってよ…力になるからさ」
「おう、助かるぜ」
一夏が礼を告げると共に学校のチャイムが鳴り響く。
タイミング良く鳴るチャイムに感心しつつ彼女は自信の席へと戻る。すると後ろの席であったセシリア・オルコットが小声で話してきた。
「貴方も大変ですわね、本当なら私が行こうと思ってましたが…行かなくて良かったです……」
「そう…役に立てて嬉しいよ……」
「授業は始まって居るぞ!」
「アダッ!!」
突然の声と共に猛スピードで眉間にぶつかるチョーク、眉間を撃ち抜かれたフィーリアは再び足を高くして倒れるのだった。
ーー
千冬のチョークを受けて静まり返った(もとい気絶した)フィーリアを横目に授業は進行していった。
「それではこの時間は実践で使用する各種兵装の特性について説明する」
普段は後ろで山田先生の授業を見ていた千冬だが今回は彼女自身が教壇に立った。
「だがその前に来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めてないといけないな」
「クラス対抗戦?もう決めるの?」
「大丈夫ですか?」
「何とか……」
ダメージから回復したらしいフィーリアはセシリアに助けられて椅子に座り直す。
「クラス代表者は文字通りの意味だ…入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ、今の時点では差はないが、競争は競争心を生む。一度決まると1年間変わらないからそのつもりで」
「実力で言えば代表候補生である私か、貴方ですわね」
千冬の言葉が終わるとクラス中が騒がしくなる。そんな中、誇らしげに語るセシリアを横目にフィーリアは一夏を見やる。
「インパクト重視なら織斑くんが一番だけどねぇ」
「はい!織斑くんを推薦します!」
やっぱり…予想通りの展開にフィーリアはニタリと笑う。この学園唯一の存在を立てるのは当然のことだ、それに…。
(ここで私が申し出れば最速で彼と戦える)
「私はー「納得いきませんわ!!」わぁ~」
後ろに居たセシリアの大声にフィーリアの声は揉み消され行き場のなくなった声はダレてどこかに飛んでいってしまった。
「私は代表候補生としての誇りがあります!フィーリアだってそうです!!」
「え!?わたし!」
「実力では我々と彼の差は歴然…サーカスのように物珍しいからと言って無様に恥をさらされては"あの方"にさらす顔がありません!!」
無様に恥をさらすのを前提として話すセシリアの言葉は程よく一夏を刺激したようだ。明らかに不機嫌な顔になっている。
「なるほど、フィーリア」
「はい!」
「お前はどうなのだ"代表候補生"として」
「当然、自薦します…勝負は決闘…純粋な実力勝負を希望します!」
「ほう…」
「いいぜ、四の五の言うより分かりやすい」
フィーリアの言葉が気に入ったのか、千冬は眼を細めて笑う。
一夏も先ほどのセシリアの言葉に頭が来ていたのか簡単に乗ってきた。
「言っておきますけど、わざと負けたりしたら私の小間使い…いえ……奴隷にしますわよ!」
良い感じでエンジンが暖まってきたセシリアもハイテンションで話を進める。まさに売り言葉に買い言葉、ヒートアップしていく2人の言葉をフィーリアは黙って聞き流す。
「織斑くん、今からでも遅くないよ…セシリアに言ってハンデ付けて貰いなよ」
「男が一度言ったことを覆せるか…ハンデは無くていい……フィーリアもそれでいいよな?」
どうやらハンデの話をしていたよう。この時代にはもはや珍しくなった男気のあるタイプのようだ。
「いいよ…全力で来たまえ織斑くん♪」
「お、おう…」
「さて、話はまとまったな…それでは勝負は一週間後の月曜日、放課後の第三アリーナで行う!三人はそれぞれ用意をしておくように!」
話の行く末を見守った千冬の言葉で話は終わりを迎えた。だが一夏は知らなかったセシリアとフィーリアはこの状況を望んでいたことに。
ーーーー
放課後、セシリアは怒りと満足感の両方を感じながら寮の自室に向かっていた。
クラス代表の件で一夏に言われた言葉を思い出しイライラするが"あの方"に言い渡された任務は完了したと言ってもいい。
(あの男!絶対に叩き潰してくれますわ!!)
でも怒りの方が圧倒的に強く働いていた彼女であった。
ーー
「はい…はい……それは分かっています…」
1026号室、フィーリアは自身に与えられた部屋でイヤホンを付けそれを繋げているパソコン画面を真剣に見ていた…。
代表候補生監督の女性と話していた。定期報告と主な出来事を話した後、彼女も織斑一夏のデータを回収するように言い伝えられた。
「では……」
教室で明るかった彼女は無表情で通信を終えると首から掛けてあるペンダントを触る。
「必ず、お役に立ってみせます…」
ドガン!!
「ん?」
突然の破砕音、隣の部屋から鳴り響く音にフィーリアは疑問を持った。さっきまで通信をしていただからか周囲の音が聞こえなかったようだ。
何かの叫び声がしばらく聞こえると一気に静まり返った。
「なんなのよ…」
ただならぬ音に飛び出していきたい気持ちはあったがやることが山積みだった彼女は一生懸命パソコンを操作するのだった。
ーーーー
深夜10時頃、同室の女子が寝静まったのを確認したセシリアは洗面所に移動しパソコンを起動させる。
「時間通りだな、セシリア」
「はい」
衛星を中継し祖国イギリスに繋がったパソコンの画面に出た来たのは緑色の髪を持った。男物の軍服を纏った麗人、イギリス代表のイルフリーデ・シュルツだ。
「ご報告したいことが幾つかあるのでまずそれから……」
そう言ったセシリアはクラス代表者の選出で起きた出来事をしっかりと話す。
「そうか良くやった」
「ありがとうございますわ!」
良くやった…彼女のそのたった一言でセシリアは先程まで感じていた怒りは吹き飛び喜びに変わる。
「織斑一夏の戦闘データはしっかりと記録しておけよ、一応サラにも頼んでおくがお前もアイツが撮りやすいように動いてやれ」
「はい!」
「そしてな、学年別トーナメントは幸いな事に行けそうだ」
「本当ですか!」
その言葉を聞いたセシリアは更にテンションを上げた。自身の試合を観るためにわざわざ日本まで来てくれる。なんて喜ばしい物だろう。
「ゴルドウィン准将の付き添いだ……」
「あ……」
キャッキャしていたセシリアに対しイルフリーデが次に発した言葉…それを聞いた彼女は冷や水をぶっかけられた気分になった。
40代後半の癖に鋭い眼光を持ち、シワが所々見える顔つきは厳しく貫禄がある。
初対面の時、完全に見下していたセシリアを言葉だけでねじ伏せた酷薄で融通の利かない人物。
優秀な人物だがとても厳しく彼の訓練はトラウマその物と化している。
「所用があってクラス対抗は無理だ…IS学園で起きたことは出来るだけ報告してくれ、転校生や……特に襲撃事件はな……」
襲撃、この言葉を聞いたセシリアの表情はしっかりとした表情に戻る。
「お前も分かっているだろう…あの事件は軍隊の物じゃない…テロリストだ…我々の想像を遙かに越えた……」
「流石に私でも分かりますわよ…では破片、出来ればコアを回収せよと…」
「その通りだ…物分かりの良い子は好きだよ…」
「ありがとうございますわ」
イルフリーデの言葉にセシリアは思わず赤面する。決してその気はないが憧れの人物に褒めちぎられると有頂天になるのは致し方ない。
「では一週間後、期待してくださいまし」
「あぁ」
イルフリーデの返事と共に画面は消える。
「頑張りますわよ!」
スキップ気味に自身のベットに戻るセシリア。
彼女はなんだか今日はいい夢が見れそうっと思いつつ豪華な布団に身を包み眠りにつくのだった。
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pp-pppp―pp
その会話を傍受していた者がいた。IS学園から10㎞離れた海上、
pp―p-pppp
その反対側、IS学園からモノレールで来れる都心のビルの屋上には学園を監視するためにジン強行偵察型が眼を光らせていたのだった。