IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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第二十六革 死者と生者

 

 

 

肉の腐敗臭と血独特の鼻を突く匂いに支配された艦内は暗く、先が地獄にでも繋がっているような錯覚を起こさせる。

 

「不気味~」

 

気の抜けたようなケイニの声、しかしそれとは裏腹に表情は硬い。これよりおぞましい光景を目の当たりにしてきた彼女にとっても馴れないものなのだろう。

 

「ん?」

 

懐中電灯の光を頼りに視界を確保していたユイトはその端に映る女の子を見つけた。一切油断せずにコンバットナイフを握り近づくユイト。

 

「おい、生きてるか?」

 

「なに?」

 

栗色の髪の毛を持った女の子は目の前に立つユイトに若干、脅えながらも目を離さない。

 

「ここのひと?」

 

「いや、君たちを助けに来たんだ…」

 

「そうなんだ」

 

「だから助けてほしい、皆のいるところまで案内をお願いしたいんだ」

 

ユイトは女の子を刺激せぬようにゆっくりと出来るだけ優しく話す。敵意が無いと分かって貰えたのか震えは止まっていた。

 

「いいよ」

 

「ありがとう…」

 

ユイトは感謝の意を込めて女の子の頭を優しく撫でるのだった。

 

ーーーー

 

「TRシリーズ?」

 

ドイツ軍、フォルガー大隊本拠地《フレーダーマオス》そこの指揮官室には大隊長のフォルガーと転生者のクロイ准尉がMS開発についての話をしていた。

 

「はい、俺の機体はMS開発における新技術の検証を目的に開発した試作機群TRシリーズの最終型なんです」

 

「なるほどな」

 

クロイの言葉を聞きフォルガーは笑う。数々の試作機を得て建造されたウーンド・ウォート。つまり完全なるワンオフ機、量産には向かない。なら遡ればいい、ウォートに至るまで開発されてきた機体たちを…。

 

「光明は見えてきたって訳か…だが」

 

咥えていたタバコを握りつぶしたフォルガーはあるメンバーの資料をクロイに見せた。

 

「軍内部にもIS至上主義なんざいくらでもいる…中にはお前のことを暗殺しようって奴らもいるらしい」

 

「え…」

 

「お前のことは軍内部でも知れ渡ってる…テロリストから機体盗んできた男ってな」

 

「気をつけろよ、フレーダーマオスは安全だがな」

 

「はい…ウォード内にあった機体データです、活用して下さい」

 

「あぁ…」

 

フォルガーはクロイを見送ると先ほどの置かれた資料を見やる。

《RX-121 ガンダムTR-1 ヘイズル》

《YRMS-106 ハイザック先行量産型》

《NRX-044(R) プロトタイプアッシマーTR-3 キハール》

《RX-107 TR-4 ダンディライアン》

《ORX-005 ギャプランTR-5 ファイバー》

 

どれを取ってもISからしてみれば規格外のMSばかり、世界をひっくり返すと言う革命軍の馬鹿げた発言がただの放言ではないのは明らかだった。

 

「化け物ばっかりだなぁ…」

 

フォルガーにしては珍しく心の中の声がそのまま出てきた。予想でも可能性でもない、ただそこに真実として存在している。そんな事実こそがフォルガーにとっては何よりも大切なことだった。

 

ーーーー

 

革命軍本部、現在の最高責任者であるリョウは暴動?が起きた現場に向かっていた。

起きたのは医療エリアの最重要者治療施設。アメリカ、ロシアと最近保護した者、つまり強化人間の子たちが収容されている所だ。

 

「で、状況は?」

 

「最重要者治療施設を占拠され出てきません!」

 

「はっ?」

 

報告に来た兵の言葉に疑問の声を上げたのはマドカの方だった。暴動と効いて殺伐としているのかと思っていれば当然の反応である。

それに対してリョウはまたか…と言わんばかりの表情。

 

「説明して欲しいものだ…」

 

「ん?あぁ…あれは4年前だったな、俺たちの計画に協力したいって閉じこもった事件が起きた…俺達の目的と治療後の選択を教えると必ず起きる」

 

「教えなければいいだろうに」

 

「それが効率的なんだろうがな、だがアイツらは立派な人間だ…だからこそこの後の事は自分達で決めて欲しい…まぁこっちに参加する案は反対するからこんな事がおきるんだがよ」

 

ちなみに4年前の暴動に参加していたのはカリナにクリア等と現在の主力メンバーだ。研究所の操り人形として暮らしてきた彼女達にとって暴動と言う選択はかなり勇気のいる行動だ。

自分の意見を主張させ自らの意思で行動させるという裏の目的も果たしているのだから一石二鳥である。

 

「ユイトに任せっきりだったからな」

 

この暴動自体は1年に一度の行事的なものなのだがその沈静化はユイトが全て行ってきた。リョウはどう対処していけば良いか分からないのだ。

 

「ユイトと通信繋がらねぇし」

 

「なるようになるしかないだろ、私もフォローするから」

 

「頼むわ…」

 

そう言いながら二人は問題のエリアに入っていくのだった。

 

ーーーー

 

「もうすぐだよ」

 

ゴーストシップ艦内、ユイトたちは出会った少女の案内である部屋の前まで来ていた。

 

「ここまで襲撃がなかったが…罠では」

 

「その気持ちも分かるが、俺はこの子を信じる」

 

「フッ…」

 

ユイトの言葉に若干の呆れを含み笑ったクリア、世界を相手取る組織を作った人間らしからぬその考えは端から見れば愚か者だろうが彼女にとってはそれが最も彼らしいとも言えた。

 

「ほとんどしんじゃった、"5人"しかいきていないよ」

 

「そうか、この中に"4人"いるのか?」

 

「うん…」

 

「そうか…」

 

女の子の返事を聞いたユイトは悲しい顔をしてその子を見つめるとドアノブに手を掛ける。そると同時にクリアたちは襲撃されてもいいように構える。

 

「行くぞ…」

 

ドアノブをひねると同時に右足で扉を蹴飛ばし勢いよく開けるとユイトの目に映ったのはきらめく刃、それが眼前まで迫っていた。

 

「っ!」

 

流石に対処しきれないユイトは迫り来るメスを口で咥えるようにして受け止める。それと同時に足下から現れた少年に迫られる。

 

「ユイト!」

 

すかさずカゲトが発砲、それと同時に部屋内に数発撃ち込む。特製の麻酔弾を打ち込まれた少年は床に倒れる、それと同時に部屋の奥から倒れる音がした。

 

「すごい…」

 

ケイニも強化人間であるクリアすら反応しきれなかった一瞬のうちにケリをつけた2人はさも当然のように背中を預け合っていた。

 

「……」

 

「……」

 

幼少の体で戦場を駆けていた2人にとっては準備運動にもならないだろう。身体強化や天賦の才などで決して埋められない経験と言うものがこの二人にはすでに備わっていたのだ。

 

「おおかた予想通りだったな…」

 

「お兄さんすごい!」

 

2人の実力に皆が驚く中、女の子はパチパチっと拍手をして2人を賞賛する。褒められたカゲトは嬉しそうに口の端を愉快そうに上げていた。

 

「まぁ、当然っすね」

 

「生き残りはこれだけか…」

 

4人の子供を付き添ってきた兵に預けるといまだに電気が復旧しない廊下を戻っていく。

 

「カゲトがこんなに強かったとは…」

 

「ふふん、分かってないね。カゲトは私を救ってくれた人なんだから当然でしょ!」

 

「そうだな…」

 

カゲトの実力に正直に言えばケイニも驚いていたがよくよく考えればあの状況で救ってくれたのだから当然だと納得しまるで自分のことのように誇っていた。

 

「いい嫁を持ったな」

 

「嫁じゃねえっすよ…」

 

「嫁ですよ!総帥」

 

「分かってるよ…」

 

ユイトの言葉にカゲトは反論するが地獄耳のケイニがこれを逃すわけは無かった。カゲトの腕を抱いてユイトにアピールする。

 

「らぶらぶだね」

 

「そうよ!私達の娘になってみる?」

 

「ケイニ…」

 

「ありがとう…」

 

ケイニの提案に一瞬驚き、目を大きく見開くがすぐに嬉しそうに笑う。和やかな雰囲気の中、出口が見え日光が入ってきていた。

 

「出口か…」

 

「そうだね」

 

クリアたちが出口から出ていくのに対してユイトと女の子はその一歩手前で止まり振り向く。

 

「ユイト?」

 

「どうしたっすか?」

 

2人の行動に疑問を感じた3人は足を止めて2人を見つめる。2人の行動の意図を計りかねていると言うのもあるがなんとなく目を離してはいけないような気がしたからだ。

 

ゴウン…

 

主機が再起動し始めたのか空母全体が揺れた。それと同時に奥の方から暗かった艦内を照らすための照明が点灯し始める。

 

「わたし、お話をしたことなかったからよかった…」

 

「そうか…」

 

「ありがとう…お兄さん、お姉さん……」

 

満面の笑みを浮かべた女の子、それと同時に照明が女の子を照らす"筈だった"。

 

「消えた…」

 

そう廊下が照明で照らされた瞬間、女の子はいなかったように消え失せてしまったのだ。

 

「カゲト、基地に帰るぞ…」

 

「あ、あぁ…」

 

消え失せてしまった女の子に踵を返したユイトは艦内から出ると立ち止まらずにサダラーンに帰るのだった。

 

 

 

 

 

 


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