世界会議から二日後。
「どう言うことですか、これは!!」
IS学園の学園長室に響き渡った怒号はIS委員会より通達された文章を読み上げた千冬のものだった。
「IS学園は基本的に他国からの干渉は一切受け付けないとなっております。しかしIS学園の上層組織、IS委員会からの干渉は我々は拒めないのです」
IS学園の実質的な運営者《轡木 十蔵》は怒る千冬に対し非常に残念そうに言葉を帰す。IS学園に届いた通達内容は以下の通り。
・IS学園の全てのISをドイツを中心とする作戦に投入すること。
・ISを保有している生徒も同様の扱いとする。
簡単に言えばこんな感じ。つまりISを保有している生徒も戦場に送り込めと言う事だ。ただし例外として作戦に参加していない国の代表候補生はその国の許可を得ることとなっている。
つまり自衛隊がこの作戦に参加する以上、一夏の作戦参加は確実であると言うことだ。
「IS委員会は女性主義団体そのものの筈!なぜ奴らが作戦に肩入れする形を…っ!」
千冬は言葉を途中まで発し悟ってしまう。それを見ていた十蔵は静かに頷くとその言葉の続きを発する。
「そうです、彼女達はISの不穏分子である一夏君をこの戦いであわよくば死んで欲しいのでしょう」
「そんな…」
「貴方にあれがあれば良いのですが、残念ながら暮桜は眠ったまま…打鉄は貴方について来れない現状では…私は貴方をオブサーバーとして同行させるのが精一杯です」
「………」
「そう言えば、篠ノ之箒さんが貴方を探していました、もしかしたら何かあるかもしれませんよ」
「え?」
十蔵の意味深な言葉に千冬は疑問を抱きながらも促され探しに出るのだった。
ーーーー
「え?しばらくいないのか?」
「本国から通信が来てねぇ、敵の基地を"IS"で攻略するため戦力として赴けってね」
言うも通りの朝、いつものメンバーで話をしていた。フィーリアはその要請を受け取り新たな機体で戦線に投入されることになったのだ。
「実は僕たちもなんだ」
「参加国以外の代表候補生たちも投入されるらしい最もごく一部だがな」
「あ、それ私にも来たわよ」
「あら皆さん参加されるのですわね」
メンバー全てが戦地に赴くのを聞いて一夏は不安になる。せめて自分も行ければなんて考えを抱く辺り一夏らしいと言えば一夏らしいだろう。
「でもそれでいいのか?お前たちは?」
「良いも何もないわよ、代表候補生は軍属扱いなんだから拒否権なんてないわ」
一夏の言葉にさも当然の如く答える鈴に全員が頷く。各国の代表候補生と言えば聞こえは良いがIS学園に所属している者達限定である。
国が正式に戦力を出せばMSの存在を認めたことになる。ならば"日本に存在するIS学園が人道的な点で参加国である日本の作戦に助力する"と言う事ならさほど問題ない。
まぁ"作戦に参加した"という建前が欲しいだけの理由に過ぎないのだが。世間を騒がせているテロリストに打撃を与えたと言う名声に乗っかりたいだけだ。
「トーナメントにいた花柳さんも参加するみたいだけどね」
「そうなのか…」
「と言うより最近教官に会えないのが私には辛い」
「色々と忙しそうだもんね、見かけるから学園にはいると思うんだけど」
ラウラの言葉にシャルロットも同意する。個人的には早く男装から解放されたいのだが無理な気がしてきた。だが噂ではしっかりと学園全体に広がっており騒ぎになるかと思ったが全くならない。シャルロットの事を性同一性障害と言う認識が広がったのが原因である。
「シャルさんはもうこのままでよろしいかと、その方が穏便に行きそうですし」
「うーん、複雑」
IS学園内において女性間の恋愛は珍しくないため受け入れる人が多かったと言うのが1番の理由だ。先生方もシャルロットを傷つけないために男性として扱ったのだという認識で通っている。
そのせいで一部の方々に新たな扉が開いたのは言わないでおく。
ガララ…
そんな時、教室の扉を開け放つ音が聞こえると同時に千冬の声が響いた。
「篠ノ之はどこにいる?」
「教官!?」
「ちふ…織斑先生、箒はここには居ないです」
「そうか、今日も山田先生に任せてある各自怠らないように」
「「「「はい!!」」」」
忙しいのかすぐに身を翻し戻ると姿を消す。いつもこんな感じで動き回っているために皆、中々会えないのだ。
ーーーー
轡木 十蔵に促され箒を探し始めたはいいがどっちも動き回っているのだから中々会えない。
「む?」
「織斑先生…」
そんな時、階段でバッタリ鉢合わせた二人はしばらく見つめ合う。
「篠ノ之、話がある」
「はい、私もです」
二人は頷き取り合いあえず場所を変えみる。
「なに、束が?」
「はい、私と二人で篠ノ之神社に来るようにと…」
「うむ…」
気まぐれな束が突然、二人を呼び出すのは何かしらの意図がある。良い予感など微塵もしないが今回は会ってみる事にしてみようと千冬は判断した。
ーーーー
その晩、篠ノ之神社に向かった二人は使われなくなった篠ノ之家の家に上がり込んだ。家内部は静まりかえり人の気配はない。
「随分綺麗だな…」
「えぇ、雪子おばさんが篠ノ之神社を管理してくれていますから」
要人保護プログラムのせいで家族はバラバラになり引っ越しすらままならなかった家は家具も生活されていたと同様に配置され家が綺麗なのもあって人が今でも住んでいるようだった。
「……」
「気持ちは分かるが今は束に会うことが優先だ」
「分かっています…」
居間の襖をゆっくりと開けた千冬はその机の真ん中に置いてあった端末を見つけた。
「これは…」
端末を拾い上げるとその画面に束が映りメッセージが再生される。
「ハローハロー、ちーちゃん!箒ちゃん!束さんだよぉ!!」
「姉さん…」
「ほんとは会いたかったんだけどごめんね、最近物騒でさぁ油断してると殺されちゃいそうなんだぁ、革命軍に」
「……」
陽気に話す束に対し千冬は戦慄する。一見、冗談に見えるその態度は本気だった。長年の付き合いのおかげで分かる、なにより驚いたのは革命軍が束にとって油断ならない相手だと言うことだ。
「その代わりに蔵に二人へのプレゼントを用意したから受け取ってね」
「蔵だと…」
メッセージはそれで終了しており、何も映さない。何をしても起動せず束のオリジナル端末だと言うことが理解できる。
「取りあえず蔵に行こう…」
「はい、そうですね」
二人は残された束のメッセージを当てにするしかなく篠ノ之神社の奥にある蔵まで行き重い扉をゆっくりと開ける。
「っ!束」
「姉さん!!」
そこで二人が見たのは篠ノ之束の姿。それに驚きを隠せない二人だがその姿をよく見れば霞んだりズレたりと違和感を感じるものだ。
「ホログラフか…」
「そうだよちーちゃん!流石だねぇ、この天才束が急いで作った代物だよ!フフフ…」
ホログラフでも腹が立つのは変わりない今すぐ絞めてやろうとも思ったが本人が居ないのでは絞めようもない。
「まぁ、話はそれぐらいにして…これを見てよ」
束のホログラフが後ろを指すとそこにあったのは赤いIS。
「これは…」
「ふふっ…これぞ束さんの新作、箒ちゃんの為に作った唯一にして無二のワンオフ機《赤椿》だよぉ!!」
「お前!なぜこんなタイミングで機体を!!」
赤椿に気を取られている箒を横目に千冬が怒鳴る。こんな事になれば箒も戦場に送り込むことになる。そんなことも先刻承知の上であろう束に思わず千冬は怒鳴ったのだった。
「だからちーちゃんを呼んだんだよ?私が一番に信用してるのはちーちゃんだからね!箱の中に暮桜の解除コードを記録したメモリースティックを用意しておいたよ!ちーちゃんが必要なときに渡せて嬉しいよ!バイバイ」
「おい!くっ…一体何を考えている…束」
言うだけ言って去って行った束を苛立たしげに睨みつけるが姿形すらない蔵に睨むのは不毛だと判断して止める。
「赤椿…」
嬉しそうに機体を見つめる箒、それを横目に千冬は近くに置いてあった箱を持ち開ける。そこにはメモリースティックがしっかりと入っていた。
「……」
千冬はそれを静かに見つめほんの少しだけため息をつくのだった。
作戦参加メンバー
ドイツ軍
フォルガー大佐、クロイ・フォン・デュートリッヒ、ラウラ・ボーデヴィッヒ、クラリッサ・ハルフォーフ等
参加IS数、10機
イギリス軍
イルフリーデ・シュルツ、セシリア・オルコット等
参加IS数、10機
ロシア軍
更識楯無…等
参加IS数、10機
日本、自衛隊
楠木中佐、アリエス・ノイエフィールド、小原光一、花柳ユイカ…等
参加IS数、25機
IS学園(途中加入部隊)
シャルロット、フィーリア、一夏、箒、千冬。
参加IS数、5機
その他作戦参加国
参加IS数、7機
MS含む機動部隊総数、69機