「まさかあの天災がやられるとはな…」
「流石の私も想定外だったよ…」
自衛隊の楠木アキは千冬に突如呼び出されIS学園に来ていた。そこで見せられたのは衰弱している篠ノ之束の姿だった。
「奴らは束博士を狙っている可能性は高い、この学園が狙われるのも時間の問題か…」
「あぁ…だから力を貸して欲しい…。」
「……」
IS学園の自衛能力は小国なら、その軍隊をも凌駕する力を持っている。それが革命軍にとって有象無象であることは前回の戦いで証明された。
「分かった…特協にも応援を頼もう」
「特協?」
特殊技術開発協同隊、秘密裏にMSの開発生産を行っている部隊だ。楠木はそこに所属する隊員、小原は信用に足る人物だと判断している。
「バカ共の教育もしてやってくれないか…」
「……千冬」
教育は本来なら千冬たち教師が教えるべき事だ。だが千冬が言っているのはそんな教育では無い、生き残るための訓練、戦場という死の渦中から居残るための術だ。
「アイツらも望んでいる。自分を、仲間を守れる力を」
「分かった…。彼女の護衛はどうする?もしもの時彼女を護れる様にしなければ」
「それはこちらで用意する。一夏の仲間なら信頼できるからな…」
「それがいい…」
近いうちに千冬は離すだろう篠ノ之束の存在を、開かすのは一夏の仲間たち…。一夏、箒、鈴、セシリア、シャルロット、ラウラ、フィーリア。
出来れば花柳家のユイカと更識の姉妹にも応援を頼みたい、育てれば彼女達は革命軍すらはね除けるだろう。
ーーーー
「えー!モゴグモモモ…!」
「「「静かに!」」」
時間は経ち放課後、やっと戻ってきた一夏たちは待っていたフィーリアたちに事情を説明した。
まさかの事態にフィーリアが大声を出すがシャルロットと鈴に口を押さえ込まれる。
「アンタ、普段しっかりしてる癖にバカな声上げんじゃないわよ!」
「モゴモゴ!」
「でも、篠ノ之博士が追い詰められてたなんて…」
世界を変えた大天才である篠ノ之束の敗北、それは裏世界を革命軍が完全に支配したことを物語っていた。
「俺も驚いた、束さんがこんなに弱ってたなんて…」
「モゴ!」
「そうか、一夏と箒は辛いね…」
一夏と箒の悲痛な面持ちにシャルロットも悲しくなる。
自身も大切な父親と連絡が取れないのだ、デュノア社はどこかの会社に買収されたと言うし、一体どうなっているのか…。
「も……」
「おい、フィーリアが死にかけてるぞ」
「うえ!?ごめん!」
そこにやって来たのは花柳ユイカ、フィーリアは鈴とシャルロットに抑えられ息も出来ずに死にかけていたのを彼女のおかげで解放された。
「ゼェ…ゼェ……死ぬぅ!」
足りなくなった酸素を補うためフィーリアは思わず制服の胸元を解放し息を大きく吸う。
顔が赤を通り越して真っ青になっている辺り本気でやばかったのだろう。だが解放されたフィーリアの胸元を見て思わず赤面する一夏。
「こんな時に何見てるのよ!」
「イデデデ!」
そんな一夏に対し鈴は耳を引っ張り怒鳴る。相変わらずの光景にシャルロットは安堵の息を漏らす。
「箒、大丈夫?」
「あぁ…。私は、大丈夫だ…」
「無理しないでね、僕たちも箒の力になりたいから」
「あぁ…」
流石に意気消沈っぷりを隠し切れていない箒にシャルロットは心配するがどうすることも出来なかった。
「そう言えばなんでユイカが?」
一夏にヘッドロックをきめている鈴は突然現れた彼女に対して疑問を持つ。こちら側からコンタクトを取らなければ接触してこない人物だからだ。
「織斑先生が呼んでるぞ」
ユイカのその言葉に全員がやはり来たかといった表情を見せるのだった。
ーーーー
オーストラリア近海の戦闘。激しくぶつかり合っていたユイトのウイングゼロとベアトリーチェのザンスパインの戦いは終わりに近づいていた。
「ちっ!」
「あはっ!」
肉迫するウイングゼロに対しザンスパインの光の翼が煌めき機体を包み込んだ。
「ユイト!」
蒼い炎を揺らめかせていたデルタカイは光に包まれたゼロを見やり叫ぶ。その瞬間、視界が煙によって覆われてしまう。
「なんだ!?」
クリアは素早くライフルを構え周囲を警戒するが敵の接近を感じ取れない、むしろ相手の殺気が消えたのを感じていた。
「まさか…」
煙幕が薄れ視界が回復するうちには強奪された機体たちが完全に姿をくらましていた。
そしてクリアの視界に映ったのはシールドを構えた体勢で滞空するウイングゼロの姿。
「ユイト…」
「逃げられたか…なんて奴らだ」
ユイトは心底に不愉快そうに呟くと敵が居たはずの方向に目線を向ける。
「ファントム・タスクとの戦争を思い出すな…」
戦い方と良い引き際の良さと言い、まるで奴らが復活したような感覚さえ覚える。
「嫌なことを思い出した…」
ユイトは無意識的に右手を顔の火傷の後に添える。ユイトの顔の火傷はファントム・タスクとの戦争時に実質的にトップだったスコール・ミューゼルのIS《ゴールデン・ドーン》の炎に焼かれたときに出来たものだ。
ドイツ、シュバルツバルトにて行われた革命軍と亡国機業の最終決戦は裏世界の住人なら誰もが耳にする一大事件だった。
ドイツ政府もあまりの事態にその情報の一切を封印している。それ程の事態だったのだ。
その話はここでは書き切れないのでまた次回にお話しすることになる。
「部隊を全て呼び戻せ…。流石に戦力が拡散しすぎている。カナダ支部も放棄させろ、奴らもそろそろ打って出るぞ!」
「は、はい…」
言葉を漏らしてから一拍するといつも通りの口調に戻り部下に指示を出すユイト、だがその表情は実に不愉快そうだった。
ーーーー
「どうするのだ?」
「MSが増えてしまえば我々の生活が…」
「それは…」
「邪魔するぞ!」
ドイツの政治関係者が揃う。非公式の会議に乗り込んできたのはドイツ最強部隊の隊長、フェング・フォルガー大佐だった。
「なんだ貴様!」
「ここはお前たちの居て良い場所じゃないぞ!」
「あぁ、そうだなぁ。だがお前らは明日からブタ箱生活だ」
「なに!?」
フォルガーが出したのは束になっている逮捕状。ここに居ない者達を含む全員分の逮捕状だ。
「バカな!全て無かったことに!?」
「ISと言う魔法は消えたんだよ!女性主義団体の寄生虫ども…」
高笑いを上げそうなほど笑みを浮かべているフォルガーの顔にその場に居た者全ての顔が青ざめる。
「そのうちドイツから女性主義団体は全員ブタ箱生活だ!ありがたく思えぇ!」
「キサマァ!」
「ウルサイ虫が…」
「ガァ!」
あまりの怒りに近くに居た官僚が腕を振りかざすがそれはドイツに帰還していたラウラの手によって地面に叩き失せられる。
「7年間好き勝手やったツケを払って貰おうかぁ!」
ーー
「今だったみたいですね…」
「そのようで…」
官僚が集まっていた施設の外では待機していたISが煙を噴きながら擱座していた。
そのすぐ横に立っていたのは半壊しているクロイの《ウーンド・ウォード》とクラリッサの《シュバルツェア・ツヴァイク》と他数機。
「ドヤ顔で言ってるんだろうなぁ」
「大佐はかなりストレスが溜まっていましたからね…」
「そうですね」
見ていないのにドヤ顔で逮捕状を突きつける自身の上司の姿を想像しながら苦笑いするクロイとそれに賛同しこれも笑うクラリッサ。
「これで国を挙げてのMSの量産が始まる…」
クロイは感慨深げに静かに呟いた。自身が転生した意味など分からないだがこの身が役に立つのなら使わせて貰おう。二度目の人生は悔いの残らないようにしたいから…。
(面白いお方だ…)
クラリッサは横で空を見上げるクロイを見る。人を殺すのに躊躇いもしなかった冷酷さを持ちながら普通の人以上に優しい。
この相反する二面を持つ彼のことがクラリッサは気になっていた。
「本当に面白い…」
「どうかしましたかクラリッサさん?」
「いえ、独り言です」
向けていた視線に気付かれ慌てて目を逸らすクラリッサ、彼女の表情は少しだけ笑っていたのは彼女自身のみが知ることだった。
ーーーー
太平洋の革命軍本部。
「情報長、協力者から連絡が…篠ノ之束を発見したそうです!」
「やっとか…」
革命軍の情報を管理運営を任されているケイは部下の言葉に少々やつれ顔で答える。
「で、どこだった?」
「IS学園だそうです…」
「やっぱりか…」
カゲトの予測通りだった。身寄りのない彼女が最後に頼るのは織斑千冬しか居ない。
ならば必然的にIS学園に逃げ延びるのは明白だろう。
「今すぐは無理か…」
散らばりすぎた戦力の再集結と先程届いたユイトの命令である1つの拠点の抹消、織斑千冬との戦いに備えたチューニング等々でどう短くしても一ヶ月半ぐらいはかかってしまう。
「とりあえず情報をユイトに…ハルトを呼び出して作戦を練るよ…」
「はい!」
戦いは再びIS学園へ、ついに終演への序章が動き始めるのだった。