オーストラリアの街中、マフィアたちが牛耳っているこの街はゴロツキたちのたまり場だ。ここでは人間の死体が転がっているのは当たり前で一日に2、3度は銃声が聞こえる。
「……」
そんな所に彼女は…フィーリア・スタンシーは逃げ込んでいた。時代は遡りISの出現から1年が経とうとした頃の話だ。
ゴミ袋が放置された場所に暖をとるように埋まっていた彼女のことを目にした者は死体だと勘違いし放置する。
「ん?」
「どうしたハルト?」
「いや、コイツ生きてるぞ」
「孤児か…」
ハエがたかり薄汚れたゴミ袋を躊躇いもなく掴んだユイトはゴミ袋を退けると幼いフィーリアの姿が露わとなった。
フィーリアとユイトたちの年齢は2歳しか違う、ならばその姿は彼女と変わらないはずだが2人の姿は現在と変わらない18歳の姿だった。
「この子は…」
「スタンシー元首相の娘じゃないのか?」
ハルトの指摘にフィーリアはビクッと肩を震わせ現実から目を背けるように顔を伏せる。
スタンシー元首相、オーストラリアの前首相でISの危険性と正しい運用を指摘し兵器としてISを扱うことに反対した首相だ。
「おかしいな、一家は全員テロリストに皆殺しにされたんじゃ…」
「っ……」
「……」
ハルトの言葉に何か言いたげな様子だったが数日間なにも口に通してないせいでなにも出来なかった。なにか言いたげな様子を見ていたユイトはハルトを制する。
「政敵であるIS賛成派に殺された訳か…テロリストのせいにするのはよくある話だ」
「……」
「なるほど…」
「俺と一緒か……」
ユイトはしゃがみフィーリアとの目線を合わせると笑いかける。
「俺と来い…」
ユイトのその一言が全てを変えた。
ーーーー
「はぁ……」
血まみれの部屋で佇んでいたフィーリアは大きなため息を着くと奥歯を噛み締める。
復讐が何も生まないことは知っているし達成した後の虚無感など自分にとってはどうでもいいことだった。
「友達を裏切りに行くか…」
今のフィーリアにとって1番気が向いているのはこれからのことだ。後悔など微塵もないが引け目はある。
「行くか…」
ーーーー
地上、IS界最強と呼ばれた千冬はそこで両膝を着き血を吐き出していた。
「織斑千冬…」
目の前に立つのは革命軍、戦闘長であるリョウ。勝敗は見るまでもない。彼女は敗れた、それだけだ…。
自分が憎くて憎くてたまらない相手が尊敬していた人物にやれるたのを見たマドカは複雑な表情を作る。
「ISももう終わりだ…」
「んぐぅ…」
体が言う事を聞かない、こんな事は何度もあったがそれ以上に体が言う事を聞いてくれなかった。
(ちーちゃん)
聞き慣れた声が頭の中に響く、束の声だ。
(ごめんね…死んじゃった……)
束はいつものふざけた口調でそう言い放つ。いつもならバカバカしいと切り捨てるところだが千冬はその言葉を自身の中では確かなものとして捉えられた。
(ふざけるな。まだ妹と満足に話し合ってもないくせに…。その妹を泣かせたままにして逝くのか?)
千冬の中で湧き上がる苛立ちはフツフツと湧き上がり大きな怒りとなって現れる。
「ふざけるなぁぁぁぁぁ!」
肺から湧き出てくる血など関係ない、ここらからの叫びを千冬は獣が吠えるように言い放った。
「なんだよ?」
「……」
突然の雄叫びにリョウは驚きバスターソードを構える。その時、千冬の胸にしまってあった御守りが光り出す。
「まさかコイツもか!」
「リョウ!」
《篠ノ之束の生体反応消失、封印を解除します。操縦者の急速治療完了。
「束め…。最期の最期にこんなものを残すとはな…全て織り込み済みだと言う訳か」
光りに包まれた千冬は姿を見せ明桜と呼ばれた機体が出現する。
「こいつは…」
「面白いじゃねえか」
高出力ブースターが備えられた脚部、両肩に乗っているように装備されているのは高出力ブースター兼シールド兼牽制用バルカン砲、体の各所には仕込み刃とスラスターが備え付けられている。
胴体に着いている装甲は最低限度で鎧武者を連想させる。
「束……」
赤を中心とし黒が所々に入った配色、そしてアクセントとして散っている桜の花びらが目を引く。
「お前の期待には応えなければな」
千冬は刀である銀花を抜刀。その名に負けぬ白い刀身にうっすらと水色が配色されている雪のような美しい刀だ。
「なにが奇跡だ。ふざけるな、そんなものに縋って生きていくしかない奴には来なくてこんな満ち足りた奴に来るものなのか!」
マドカは革命軍に身を置いてから多くの人々を見てきた。自分と同い年の者、年上の者、年下の者…。全員が自分と同じように辛い中、必死に生きてきたのだ。
「なぜなんだ!何不自由なく過ごしてきた奴らがなんで!」
「止めろ、マドカぁ!」
「やあぁぁぁぁぁ!」
マドカは追加装備されたナイトブレードを抜き放ち千冬に突っ込んでいく。
「……」
猛スピードで突っ込んでくるMK-Ⅴを見つめ目を閉じる千冬、銀花を脇に構えタイミングを測り一閃。
「っぐぅぁ!」
切り裂かれるMK-Ⅴの装甲マドカは無事だがMK-Ⅴは機能を停止し小さな爆発を上げた。
「ちぃ!」
MK-Ⅴから巻き起こる爆煙を目隠しにリョウが接近、バスターソードを振るうがそれは難なく受け止められた。
先程までパワー差で押し切っていたリョウは思わず苦い顔をする。リョウ自身がパワーに頼っていたわけではない、アルケー自体がパワー差で叩き潰すと言う戦い方の方が合っているからだ。
「くそっ!こうなったら分が悪いか」
一瞬のつばぜり合いの後、その勢いを殺さぬままお互いを通り過ぎる。互いが繰り出すのは振り返りからの斬撃。
「貰った!」
制したのは千冬、こう言った斬撃戦では重心が整っている刀の方が圧倒的に有利だからだ。振るわれる鋭い斬撃、リョウは避けられずバスターソードごと右腕を切り飛ばされた。
「ぐわぁぁ!」
「リョウ!」
右腕を切断され悲鳴を上げるリョウに対しマドカが声を上げるがどうしようもない。千冬はこれ以上は待たんと言わんばかりに銀花を天高く振り上げる。
「冥土の土産を受け取れ!」
目に見えない斬撃がリョウの脳天にめがけ落ちていく、それを止めたのはユイトだった。
「なっ!」
「はぁ!?」
「ユイト!?」
そのあり得ない光景に敵味方問わず驚きの声を上げる。ユイトの隣で待機していたクリアでさえも速度が速すぎてまったく気付かなかったのだ。
「リョウを殺させるわけにはいかんのでな」
「なんという速度…」
ユイトが手にしているのは黒い刀、雪片弐型に似ているがその姿はさらに洗礼されている。
一旦、距離を置く千冬は銀花を構え直す。先程の割り込みは千冬でさえも視認できなかった、油断ならない。
ー
ユイトの介入で事態がさらに混乱する中、IS学園の地下から爆炎が巻き起こった。
「な、なんですの!?」
「地下からの爆発?」
爆発の近くに居たセシリアとラウラは爆炎から飛翔してきたMSを見つけていた。
「バエルだ!」
「副隊長が帰還なされたぞ!」
飛翔したMSを見て歓喜したのは革命軍の兵たち。オープン回線で盛り上がる革命軍たちに対しIS学園側は困惑していた。
「我々の怨敵、悪魔、篠ノ之束はこの私が討ち取った!」
「「「うおぉぉぉ!」」」
「この声は…まさか」
「そうだ、織斑千冬。彼女は私の直属の親衛隊、その副隊長だからな」
「なんだと!?」
声を聞き察した千冬を嘲笑うかのように話すユイトを見て彼を睨みつけるが千冬は一夏のことが心配だった。
「フィーリアなのか?」
「そんな訳ないだろ!フィーリアは怪我をして!」
同じく察した箒の言葉を一夏は声を荒げて否定する。そんな訳はないと彼はそう信じたかった。
「違うよ…私はオーストラリアの代表候補生、フィーリア・スタンシーじゃない」
「そうだ…」
「だって私は革命軍、総帥直属親衛隊の副隊長。フィーリア・スタンシーだからね」
ホッとしたように言葉を発した一夏に対しフィーリアはその言葉を遮り真実を突き付けた。
「そんな…フィーリア。今はそんなこと言ってる場合じゃないのは分かるだろ?」
「だからこそ本当の事を話してるんだよ…。一夏」
「そんな…」
「謝らないよ。だって私は最初っから敵だったんだから」
いつも皆に元気を振りまき、笑顔にさせてくれた。そんな彼女が敵なんて一夏には信じられなかった。
「シャルはどうした、お前と一緒に居たはずだ!」
「全てを忘れて安らかに眠ったよ…」
「貴様、よりによってシャルまで!」
フィーリアの言葉にラウラは怒り叫ぶ。
「もう容赦はしない!」
「かかって来なよ。倒せるのならね…全力で来ないと殺しちゃうよ」
「フィーリア…」
完全に戦意を喪失した一夏は両膝を着きうな垂れる。対してラウラはアームドアーマーBSを構え交戦の意思を見せるのだった。
「来い、フィーリア・スタンシー!」
「じゃあ、遠慮なく行くよ!」
バエルソードを構え、突っ込むフィーリア。それに対し殺気を振りまくラウラ。紛れもなく友であった2人は全力で殺し合い始めるのだった。