「まずは良く戻ってきてくれたな…」
「いえ、私はやりたいことをやっただけですから」
革命軍、総帥専用の私室では部屋の主であるユイトとフィーリアが食事をとっていた。
「革命とは関係なく、お前はIS学園で友人を得て楽しく暮らしていたはずだ。それを重んじてそのままIS学園側として残っても私は咎めない」
「そんな、私の命は貴方に救って頂いたものです!なら私は貴方の剣となり楯となりたい。クリアさんには敵いませんがそうありたいと願っているのです」
「落ち着け…お前がそれでいいなら良い。ありがとう」
勢いで立ち上がり声を上げた彼女は少し落ち着くと恥ずかしそうに椅子に座り直す。
「それで、これからどうすれば良いのですか?」
「残念ながら計画のほとんどは終了した。あとは頃合いを見て《創世計画》の最後の計画を発動させる」
「頃合いですか?」
「あぁ、リョウが片腕を失って今は細胞活性化装置の中だ。一ヶ月はかかるだろうからな、少なくとも一ヶ月後だろう。それまでにこちらも軍備を整える」
「ユイトさん…妹さんを見かけました。恐らく母もいるでしょう。お会いになられないのですか?」
「……」
フィーリアの言葉に思わず言葉を失う。違う世界の母と妹とは言え、肉親であることには変わりない。会ってみたいと言う感情は持ってないわけじゃない。
「計画が終われば一目見に行こうか…」
「そうですか…」
冷静にいつも通りに食事をとるユイトを見てフィーリアはずっと疑問に持っていたことを切り出す。
「私はずっと疑問に思ってました、計画は第6段階まであると聞きました。それは本当ですか?」
「どう言う事だ?」
「私たちの知らない第7段階があるんじゃないですか?」
「…あるはずがない。それで全てが終わる」
「そうですか…」
喉に引っ掛かるような違和感を持ちながらフィーリアは出された食事を食べるのだった。
ーー
「おい、開けろ!」
「……」
「無駄だよ、一夏くん」
「そうだよ一夏…」
独房で叫ぶ一夏に対し、シャルや目覚めた楯無が止める。目の前にアンドロイド兵がいるが当然、反応するわけもなくただ見張りを続けるだけだ。
「まさか革命軍の基地が島を要塞化した代物なんてね。本当に何者なんだろう。そのリーダーって奴は」
「フィーリアは命の恩人だと行ってました」
「良くあるよね。悪の組織のリーダーが命の恩人ってやつ、だから忠誠を誓う。現実は小説より奇なりってやつか」
ずっと牢屋で過ごしている渚子は慣れてしまったようで随分とリラックスしている。周囲を観察したり人の話を常に聞いているのは不屈なジャーナリスト魂というものだろう。
「渚子さんも捕まってるなんて…」
「ごめんね、楯無さん。私じゃ逃げ切れなくて」
「それよりどうにかしないと!」
「何度も言われてるけど無駄だよ、織斑一夏くん」
「誰だ?」
一夏が焦っていた時、独房の外から金髪の少年が物陰から話しかけてきた。見張りをしていたアンドロイド兵が機能を停止したのを見計らっての事だろう。
彼の腰にはAのエンブレムがあるケースを吊されその表情から気楽な感じが伝わってくる。
「ヘンリー・マルトニティ、そして相棒のティルミナ・ハンデルン」
「勝手に相棒と言うな…」
「貴方たち、革命軍じゃなさそうね」
警戒の色を強くしながら楯無が問いかけるがヘンリーは当然のように頷く。
「もちろん、僕たちは世界の抑止力だからね。偏りすぎた均衡を元に戻さなきゃいけない」
「大丈夫ですかね」
「たぶんね」
理解しがたい事を口にしているヘンリーを見てシャルは不安に思うが楯無はほんの少しだが警戒を解く。こちらを騙そうという腹づもりならもう少しマシな事を言うはずだ。
「なんかバカにされた気がする…」
「お前だから仕方がないな」
「酷いなぁ…」
「私たちはほとんど偶然だが革命軍の潜入に成功した。ここの正確な座標も確認し後は入手した情報を持って脱出する手段を模索していた所だ」
「おぉ」
脱出の糸口を見出せた一夏たちは喜びを見せる。
「脱出の手配を終えるまでかなりの時間がかかる。それまで殺されないように大人しくしていろ」
「ティル…」
あらかたの説明を終えたティルミナはアンドロイド兵が再起動しようとしているのを見て物陰の中に消える。
「ここのリーダーは殺しが楽しみじゃないから大丈夫。生き残れば何とかなるよ」
それに続いてヘンリーも物陰の中に消えて言ったのだった。
ーー
「リョウ…」
「残念ながら一ヶ月はこのままだ。利き腕を切り飛ばされたのが不味かったな」
細胞活性化装置で眠るリョウを見てマドカは心配そうに呟くと装置の操作を終えたハルトが声をかける。
「MK-Ⅴを墜とされてのなら新たな機体が必要になるな。カゲトに手配して貰え、戦闘データも揃ったんだ。お前にあった機体が手配されるだろう」
「……」
今だに眠るリョウを見つめるマドカを横目にハルトは静かに病室を後にするのだった。
「私は無力だ…」
千冬とリョウの戦いに自分は介入できなかった。その時はそれが最良の判断だと思っていたが違っていた。あの時、自分がしっかりしていればリョウがこれ程の重傷を負う必要も無かったのだ。
「私は必ずお前の荷物にはならない」
オリジナルである織斑千冬を超えることより自分は自分なりの戦いを見つけ出す。その事を堅く意識した瞬間だった。
ーー
「花柳ユイト、花柳家の跡継ぎ。花柳家は暗部の更識と深い繋がりを持つ」
ケイは自身の端末を通してスナックを食べる感覚で日本の重要サーバーに侵入していた。
「だからユイトの事が分かったのか。ユイトの奴、黙ってたな」
彼女が荒れていたのは深い憎しみではなく深い愛情から来ていたものだとしたら納得がいく。
「まぁ、言う事でもないか…」
「騙された?」
まるでボディーガードのように常にケイに付き添っているカリナは彼のベットの上で彼愛用の抱き枕を抱きながら視線を向けてくる。
「いや、違うよ。ちょっとユイトの事が知れて良かったなって話」
「そう……」
まぁ、ボディーガードと言うより人懐っこいネコの様に見えてくるがわざわざ口に降すことでもない。
「ごはん食べる?」
「オムライス…」
「いいよ」
ーー
「やはりエネルギー兵器一辺倒では不安ですね」
「実践的な事を考えるなら実弾、実刃兵器が欲しいな」
第4MS研究区画、そこには元デュノア社のメンバーが招待されユニコーン3号機、フェネクスを弄っていた。
「これ程の代物の調整を任されたんだ。あの子にもしっかりしてる所を見せなきゃな」
「娘さんは利口ですからね」
笑いながら作業をするエルワンたち、自分たちがテロリストたちの機体を完成に導いているのを知らずに作業を進めるのだった。
ーー
一夏たちが本部に来てから一夜が明け暫くした頃、アンドロイド兵が牢のドアを開け一夏とシャルを立たせる。
「総帥ガ、オ呼ビダ」
「総帥…」
その言葉に1番反応したのは楯無、彼女は連れて行かれる2人を見守ることしか出来ないのだった。