IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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第五十七革 元国連捜査官

 

 

 

 人々が寝静まった深夜

 とある街の歩道を数人の人が群れをなして歩いていた。

 

「楠木少将、一体どこへ?」

 

 鼻歌を歌いながら歩く楠木を見て光一は疑問の声を上げる。いきなり呼ばれたかと思ったら、なんの説明もせず歩き始めたのだ。ある意味当然の反応と言える。

 

「ん?あぁ、元国連の捜査官に会いに行くんだよ。ここだ…」

 

「え?」

 

 光一の言葉に答えるようにして顔を上げると、そこは古臭い何処にでもあるような肉屋だった。

 

「さぁ、行くよ」

 

「あ、待ってください!」

 

 予想を斜め上に行く場所に全員が疑問の声を上げるが、楠木は気にせずに入店した。

 

「お前か楠木…」

 

「やぁ、久しぶりだね下関。連絡した件について彼らに教えてあげたいんだ」

 

「……」

 

 入店するなり店主と思われる男性は2、3と話すと話が通じたのか、楠木の後ろに居る者達を怪しげに見渡す。

 

「信用できるのか?…」

 

「大丈夫さ」

 

「ふん、そうかい。ついて来い」

 

 そう言うと下関は店を見渡すと奥に案内する。

 状況を全く飲み込めない千冬たちは黙って見守るしかなかった。

 

ーーーー

 

「うわ、なによこれ…」

 

「肉の冷凍室だな…大きな豚だ」

 

「こんな生臭い所に来させるなんて……」

 

 通されたのは肉の冷凍室。鈴が驚くとラウラが冷静に解析し、セシリアは場所が場所なだけに嫌な顔をしている。

 

「いいか、ガキどもよく聞け。ここから先はトップシークレットだ。誰にも言うなよ」

 

 下関は念を押し、全員が頷くのを見て冷凍室の床にあった扉を開ける。そこには地下に通じる梯子が地下に伸びていた。

 

ーーーー

 

 地下室を降りると広場の様な円形の空間と、その先には狭く長い廊下があり、目的他と思われる場所は明るくなっていた。

 

「何よ、随分と狭いわね」

 

 一番最後に降りてきた鈴は素直な感想を述べるとアリエスは静かに解析をする。

 

「成程、これはIS対策ですね…」

 

「そうか…この狭さなら、ISを展開しても身動きが取れない…」

 

「ほう…よく分かったな二人とも」

 

 アリエスとラウラの言葉に下関は賞賛の声を上げる。

 

「その通りだ。この廊下は高さが180センチ、横幅は90センチ…人がギリギリ通れる高さだ。横幅は広めだがな」

 

 下関の声が廊下中に響きうるさいが全員は我慢して目的地であろう場所にたどり着く。

 

「なんだここは…」

 

 目的地にたどり着き、一番最初に驚きの声を上げたのは以外にも千冬だった。

 そこには古臭い資料が山のように積まれ、アンティークの本棚が壁を埋め尽くしている。

 

「ようこそ、我が居城へ」

 

「本当に凄いな…」

 

 下関は感心する光一達を適当な所に座らせると楠木を見る。楠木の方も軽く頷くと、下関は資料の山からファイルを取り出し机に置く。

 

「教えてやろう、私は8年前からMSの捜査を行っていたんだ!」

 

「MS!そんなに前から存在していたのですか!?」

 

「あぁ、間違いない。これは8年前にドイツの試作型ISが初の実戦を行ったときに、ISが記録していたデータの欠片だ」

 

「ドイツが」

 

 ドイツと言う言葉に反応したのはラウラと同伴していたクロイだった。

 

「そうか、お前はドイツの関係者か。そうだ、これは最重要機密として保管されているがな。正真正銘ISで行った初の実戦だと思っている」

 

 下関が出した画像は、粗いが確かに何かのパワードスーツだと分かる。

 しかし全員の目が行ったのはそんな所ではない。写真の中心部にあるピンク色の点、これは間違いなく革命軍のMSに共通して見られるモノアイだ。

 

「これを初めて見た時は震えたよ。こいつは世界を震撼させたISとは違う物だと確信した」

 

「この写真だけでですか」

 

「それだけじゃない、戦闘時間だ」

 

 机の上に山積みされた資料の中を漁り取り出したのは、当時、ドイツ軍が政府に提示した報告書のコピーだ。

 

「戦闘が行われたのはドイツのシュバルツバルト。広大な森だがその中でも国の内陸部で戦闘が起きた。国はISの性能テストもかねて、不審な影が報告された森へと進軍したらしい」

 

 下関の話に全員が固唾をのんで見守る。それだけ彼の話には引き寄せられるものがあるのだ。

 

「運用試験に出された2機のISは敵を発見、すぐさま戦闘行動に入ったが…1分も経たずに2機の反応は消失した」

 

 性能実験機とはいえISが瞬殺された。この事実はISの存在を揺るがすものだったのだ。

 

「もうこの時点で!MSは完成されていたんだ!ISを上回る能力と完成度を奴らは持っていた!」

 

「ッ!」

 

 テンションが上がっているのか大声で話す下関は、新聞をまた山から取り出し置く。

 それを見た瞬間、セシリアは立ち上がり小さく悲鳴を上げる。

 

「どうしたのよ?セシリア?」

 

「セシリア?…お前はまさか!セシリア・オルコットか!?」

 

 鈴の言葉に下関は大きく反応し、セシリアは驚きながら小さく頷くと下関はバツの悪そうな顔をする。

 

「そうか…アイツの娘か。居るとは聞いていたがこんなに大きくなって…いいのか?」

 

「えぇ…それで皆さんのお役に立つなら…」

 

「そうか…」

 

 下関は新聞を広げて皆に見せるように机に置くと、話を進める。

 

「これは数年前の英国の新聞だ。とある列車事故に関する記事だが…これは事故じゃあない。MSによる襲撃だ」

 

「えぇ…私も知ったのは父と母が死んで数年後の事でした…」

 

「どう言う事だ、セシリア…」

 

 突然のセシリアの言葉に千冬は疑問を口にする。

 

「私の親は恐らく革命軍によって殺されたのです…」

 

「「「「え!」」」」

 

 セシリアの突然の告白に全員が驚きを隠せずに居た。

 

「これがその時の写真だ…鉄道マニアが偶然撮った物だがな…」

 

「これは…」

 

 そこに写っていたのは赤い粒子を放つツインアイの機体、手には大剣が握られている。

 この姿にいち早く反応したのは千冬だった…何故ならこれと似たMSと交戦しているからだ。

 

「スローネツヴァイか…」

 

「へぇ、知ってるのかい?」

 

「えぇ…オレンジ色の装甲に赤い粒子、大剣ならコイツしかいません…そしてコイツの発展期がアルケーガンダム」

 

「小原さん、まさか貴方も…」

 

「え、君も…」

 

 光一の言葉に皆と違う反応をしたのはクロイ。彼はその言葉で光一も転生者だと気付いたのだ。お互いがその状況を察し驚いていると、セシリアは苦しそうに言葉を発する。

 

「アルケー、そうやってフィーリアさんも言っていましたわ」

 

「フィーリアがか?」

 

「はい、あの代表戦の時に乱入してきた紅い機体をアルケーと呼んでいました。その時は気にも止めませんでしたが」

 

 資料の山から再びいくつもの資料を引っ張り出してくる下関。散らかっているように見えるがしっかりと整理して配置されているようだ。

 

「私はこの事件を上層部に調べるべきだと進言した。だが上のバカどもは私の妄言だと言って進言を退けたんだ!」

 

 悔しそうに呟く下関は資料を新聞の上に広げながら話を続ける。

 

「私はすぐに調査を行った。粉々に吹き飛んだのはあの部屋だけだ、同じ車両の奴らは無事だった。当時の客、車掌、全ての人に当たり、探った」

 

 そして資料の中からとある人物が映った写真が皆の前に姿を現した。

 

「この人物だけが正体を掴めなかった」

 

 当時の写真、その人物には今あるやけどの跡はなく、その顔をしっかりと確認できる。その人物に反応したのは二人。

 

「ユイトさん!」

 

「お兄様!」

 

 花柳ユイカと更識簪だった。二人の予想外の反応に全員が理解できずにキョトンとしていた。他人のそら似ではない確信を持って言える、彼は花柳ユイトだと。

 

「あり得ない、お兄様は日本にいたはず。しかもこんなに成長していないはずだし。でも間違いなくこれはお兄様…」

 

 混乱する二人に対しクロイと光一はある可能性を浮かべ目を合わせる。

 

「ユイカさんだよね」

 

「はい…」

 

 光一は攪乱されないようにゆっくりと優しく話しかける。

 

「失礼だけど、君のお兄さんは生きてる?」

 

「いえ、父と一緒に殺されました」

 

「じゃあ、彼は本物の君のお兄さんだろうね」

 

「准尉、お前の言う事が分からないのだが」

 

「光一さん、どう言う事ですか?」

 

 納得したと言わんばかりの二人の表情に疑問を隠せないラウラとアリエスは疑問を投げかける。

 

「つまり彼は平行世界(パラレルワールド)の彼である可能性が高い」

 

 全ての始まり、それはISが登場する10年前より1年前まで遡る。

 


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