「ついに奴らの本拠地を見つけたぞ」
「MSの量産体制も各国では整いつつある。我々の反撃も開始されるというものだ」
「まずは太平洋と大西洋を繋ぐ運河の奪還作戦を行わなければな」
各国首脳が通信越しに今後と事について話し合っていた。まずは革命軍に占拠されている。キール、スエズ、パナマ運河の奪還が急務である。
オーストラリアの研究所、そして革命軍本部は太平洋に存在する。あれだけの強大な軍隊、舐めてかかればこちらが手酷い損害を受けるのは目に見えている。文字通り、総力を挙げて革命軍を潰すのだ、だからこそ大西洋の艦隊も太平洋に集めなければならない。
「運河の奪還の後、各国は歩を合わせてまずはオーストラリアの研究基地を占拠、そこを橋頭堡として敵本部へと進撃する」
現在、手持ちの戦力は各国の艦隊とIS約300、MSは約1000とかなりの戦力だ。各国から収集したMSデータを元に生産コストの低い、ダガー系、ウインダム、ジム系が生産の八割を超えている。
その他は高級量産機や施策量産機それでも十分すぎるが。
「IS騎乗経験者全てに声をかけていますが、やはり我々が女性主義団体を蔑ろにしているせいか、集まりが悪いようです」
IS経験者の方がMSの運用が効率的になるのだがやはりまだ女性が頂点という考えを持っている人は少なくないという事だろう。
現役の軍人に訓練を積ませているがやはり機体を作るように上手くは行かないようだ。
「機体性能も機動戦における練度もこちらは劣っている。時間をかけて確実にさせましょう」
「そんな悠長な事をいっていてもな、時間は余りかけられないだろう」
敵の情報といえば敵の基地の情報と機体の名前ぐらい。敵のハッキリとした戦力も分からない上にどれぐらいの速度で拡大しているのか不明だ。
「とにかく戦力を整えつつ運河の奪還を行う。ひとまずはそれでいい」
その言葉に全員が黙って頷くのだった。
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「…そうですか。まったく、良くも悪くもあの方によく似てしまわれた」
「お兄様」
花柳家本家、そこにはユイトの母であるユミエと妹であるユイカが楯無の話しを聞いていた。
「ユイトはもう止まりません。革命軍の本拠地が世界に伝わった今、大規模な戦闘は避けられません」
「あの子が自分の意思で決め、行動しているのです咎める理由などありません。ですが…一目だけでもあの子に会いたかった」
ユミエはユイトが死んだことについて疑いを持っているわけではない。あの事件の後、しっかりと確認し葬ったからだ。だが現実に彼は生き返り事を成そうとしている。
自分で自分を決められる自慢の子に育ったという母の誇りと息をして、言葉を放ち、肌の暖かい息子に触れたいという母としてのわがままが渦巻き、彼女は静かに涙を流すのだった。
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その頃、義眼の移植作業に取り掛かり麻酔をかけられ天上を見つめていたユイトは昔のことを思い出していた。
この世界に彼が来る前、彼の死因は頭部を銃撃された事による死。防衛大臣暗殺事件、当時彼の父は次期総理候補筆頭格で国民からの信頼も厚い政治家だった。
そんな彼に恐れを成した当時の現総理大臣は繋がっていた裏の組織と結託し彼の家を襲撃、たまたま家に居たユイト共々、殺されたのだ。
ISの世界においては次期総理に女性主義団体の息のかかった女性議員に就任させるために主義団体が彼を襲撃、その際にこの世界のユイトも死亡したことになっている。
「……」
「動かない」
昔のことを思い出して腸が煮えくりかえるユイトだが今は手術中、傍で様子を見ていたカゲトに咎められてしまうのだった。
それを映像越しに見るクリアの表情はとても暗かった。
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「クリア…」
「断る…」
手術を終え、一服しようと私室に入ったユイトはクリアに押し倒されそのまま彼女は彼の胸に顔を埋めて動かなくなってしまった。
「恐いんだ、近づいてくる。ユイトが私の全てなのに、考えないようにしていた…でも手術を見ていたときに…」
「人はいつか死んでしまう。それが遅いか早いかだ、それは人それぞれだろう?」
「ならユイトは遅くてもいいじゃないか。なんで…」
涙を流しながらユイトを叩くクリア、転生してきた5人以外は恐らくクリアしか知らない計画。開示されていない第7段階
通称《
「覚悟はこの世界に来たときからしている。だがお前に泣かれると迷うじゃないか」
「それでいいじゃないか。迷って止めれば良いんだ!」
泣きじゃくるクリアは泣きながらも彼の右手を優しく撫でる。彼には顔以外にも火傷の痕が残っている箇所があるそれが右腕だ。これはスコールに付けられたものではない、クリアを助け出すために受けた火傷なのだ。
「俺を困らせるなよ、クリア」
「なら、最期まで一緒にいかせてくれるのか?」
「それは…」
クリアの透き通るような瞳に思わずたじろぐユイト。
あの時から彼女を泣かせないと決めていたのに結局は泣かせてしまった。それに対し心の中で侘びるのだった。
ーーーー
ユイトとクリアが出会ったのは革命軍が発足して間もない頃だった。
《第一次救出作戦》と賞された強化人間を作っている研究所の殲滅、及び強化人間の救出を目的とした作戦にてロシアの研究所がその対象となった。
作戦は順調であったが一つだけトラブルが発生した、証拠の隠滅を測って研究所が自爆したことである。
「自爆…」
「救出状況は?」
「奥の区画に1人、取り残されています!MSで無理矢理こじ開けると部屋が崩れてしまいそうで」
兵の報告を受けてユイトは歯嚙みする。人の手でゆっくりとこじ開ければ部屋も保つかも知れないが既に扉の温度は人が触れる温度を超えている。
「俺が行く、各員は撤退しろ」
「おい、ユイト!無茶な事をするな!」
「俺らは世界をひっくり返すほどの無茶をするんだぞ、これぐらいで怖じ気づくなら止めた方が良い!」
リョウの制止も聞かずに炎の中を突き進むユイトは問題の区画に辿りつくと迷わず高熱の扉に体当たりをする。皮膚が溶け、肉が焼けるのも気にせず彼は体当たりし続ける。
ーー
炎の中、ガンッと扉を叩く音が聞こえる。培養液の中で長いこと居続けた時、ガラスの壁が割れ、炎に包まれる。
体をいじられ、手酷い暴力も受けて、もてあそばれて、生というものにも既に執着はない。なにもない、なにもない、私にはなにもない、助けは乞わない、それが無駄だと知っている、知っている筈なのに…。
「おい、無事か?」
そんな時、彼は現れた。文字通り、私の救世主が目に見える存在となって現れたのだ。あの時、優しく触れられ、運ばれたことは今でも覚えている。
あの燃え盛る炎の中、彼は迷わずに助けてくれたのだから。
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「分かった、先にくたばるんじゃないぞ」
「あぁ、当然だ」
互いが生きていると、それを感じるように互いの体温を確かめる。この時だけはユイトも彼女を強く抱きしめるのだった。