オーストラリア湾内に各国軍が集結、無数の艦船は過去最大の大艦隊。なにより目を引くのはMSの数だ。空母艦内だけでは収まらず、甲板に固定されているのもそうだが。
空母を護る護衛艦にも搭載されている点から見てMSのその数の膨大さがよくわかる。
「第一次攻撃隊は発進準備を済ませろ!」
「作戦開始時刻まで1時間もないぞ!」
「なんて数だ…」
忙しく動き回る兵たちを横目に艦隊を見つめていたクロスは思わず言葉を失う。
「それはそうだろう、MS、ISの機動部隊の総数は7000機を超えている」
「まさに連邦とジオンだな…」
肉眼では確認出来ない距離には革命軍研究所が存在する。相手の重要拠点、当然、激しい抵抗が予想される。それにオーストラリア国内と言う事もあって報道陣がその様子を見守っているのだ。
「クロイ・フォン・ドュートリッヒ准尉、死ぬなよ」
「はい、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐」
クロイとラウラは互いに敬礼し静かに笑う。第一次攻撃隊としてドイツ軍はクロイを中心とした一個中隊が参加するのだ。
この艦隊の中には軍人だけではなく有志で参加した者も含まれている。共に学園生活を謳歌した一夏たちの安全を祈りつつラウラはクロイの背中を見つめるのだった。
ーー
《推奨BGM 脱出 ガンダムΖ》
「ドイツ軍、フォルガー大隊所属、クロイ・フォン・ドュートリッヒ、ウーンド・ウォートEX、出る!」
空母に外付けされていた電磁カタパルトに脚を乗せるとウーンド・ウォートは勢いよく射出される。
「ヘイズル改、行きます!」
「ウィンダム、出るぞ!」
「105ダガー、発進します!」
各国から選出された第一次攻撃隊、計1200機が空母から次々と射出される。
「これより、30秒間にわたる援護砲撃を開始する。各艦、撃てぇ!」
指揮官の命と共に無数の砲弾とロケット弾が放たれる。研究所から約10数㎞地点から放たれた弾は先行していたクロイたちを追い越し研究所に着弾する。
地上に仕掛けてあった対空、対地砲が破壊され派手に爆発する。その爆煙から次々とMSが姿を現し、第一次攻撃隊に突っ込んでくる。
「HQ。こちら先鋒、敵機を肉眼で確認。間もなく交戦に入る」
「こちらHQ、作戦内容に従い速やかに敵機を排除せよ」
「了解!」
爆煙から姿を現したバクゥは進撃していたジムたちを視認、背中に背負っていたミサイルランチャーやレールガンを撃ち始める。
「ごぁ!」
「怯むなぁ!第二次が来る前に進入路を確保しろ!」
レールガンが直撃して体勢を崩したウィンダムは地面に激突、金属と骨が砕ける音が無線で鳴り響く。だが進撃は止まれない、各々がライフルを構え迎撃を開始する。
「くっ!」
サーベルを構え、接近してきたガザDの一撃を避け、撃ち落としたクロイはサーベルを抜刀しバクゥの胴体を切り飛ばす。
「流石は重要拠点、わんさかでて来るな」
「ぐわぁ!」
ジムⅢが見えない壁に吹き飛ばされたと思いきや、巨大なクローで胴体を挟まれ引き千切られる。姿を現したのは拠点防衛用MAゲルズゲーだ。
「流石は研究所、ゲテモノも用意してたか」
クロイは様々なMSたちが入り乱れている光景に興奮を覚えつつも迫り来るMSをなぎ倒していく。
「第一次攻撃隊、損害あれど軽微」
「第二次攻撃隊、発進させろ!」
初手としては良好な手応え、やはり戦力はあまりこの研究所に集中していないようだ。ならば、圧倒的な数で一気に攻め落とす。まだ敵の本拠地が残っているのだ。多く見積もっても被害は100前後で抑えたい。
第二次攻撃隊はやや有利な戦況下で有志に集まった者達に戦場の空気を味会わせるための洗礼のようなものだ。そのためその攻撃隊には千冬や一夏、箒たちも含まれている。
「織斑千冬、明桜。出るぞ!」
「織斑一夏、ユニコーンガンダム出ます!」
「篠ノ之箒、赤椿が出る!」
約900程のMS、ISが出撃。第一次攻撃隊の支援に向かう。
「解せねぇな…」
「ラサ基地のようになにか仕掛けているのでしょうか」
そんな状況にフォルガー大佐は苦虫をかみつぶしたような顔で戦況を見つめ、ラウラもそれに同意する。
「うまく行き過ぎていると思わないか。オルコット」
「はい?」
「確かに運河奪還の時点で我々がここに押し入ろうとしているのは明白。防衛戦力が少なすぎます」
フォルガーと同じ考えに到っていたゴルドウィンとイルフリーデは、少し理解していないセシリアを横目に考え込む。
「なら敵は研究所ではなく本部に戦力を集中させたかったのではないのですか?」
「そうであれば良いのだがな…」
ゴルドウィンはそう呟くと黙って戦況を見守るのだった。
「よっしゃあ!」
「行けるぞ!」
「はぁ!」
千冬の一撃にてゲルズゲーは文字通り真っ二つに両断され爆発する。
「やはりこいつらは無人機か」
「千冬姉!」
「一夏、箒も私から離れるなよ」
「「はい!」」
2000越えのMS隊に対し、研究所の防衛戦力は全て無人機で構成された上に100程とかなり少ない。完全に数に押し込まれていた。
「こちら先遣隊、敵基地内部侵入に成功!」
「敵のメインゲートを突破!」
次々と良い報告が上がり、国連の指揮官も満足げな表情を浮かべる。思ったより拍子抜けだったがこれほどの過剰戦力を投入しているのだ。ある意味当然と言える。
「准尉、どうする? 船に戻る?」
「いえ、敵基地の内部にある司令部に向かいます」
「分かった、付き合うわ」
「ありがとうございます!」
国連軍の損害は40ほど、大きな目で見れば大した数ではない。だがこの状況、ラサ基地に似ている節がある。敵内部をその眼で見ないと安心できない、そう踏んだクロイは随伴のヘイズル4機引き連れ基地内部に突入するのだった。
そこら中に突入した部隊が基地に侵入し、散策を開始している。暫くすれば陸戦隊も突入して本格的な基地制圧に向かうだろう。
「准尉、どうしたんだ。そんなに急いで」
「嫌な予感がするんです。基地内部がもぬけの殻過ぎる」
隔壁を無理やり突破し壁を突き破り司令部に到達する。大きな隔壁ばかり選べば何とか着くと思ったがビンゴのようだ。
「本当にここは司令部か?」
「やっぱり」(このシーンどこかで…)
完全にもぬけの殻であった司令部に随伴部隊員は困惑してしまう。その時、クロイはとあるガンダムのシーンを思い出し強烈な悪寒に襲われる。
「嘘だ、嘘だ嘘だ!」
視聴者にトラウマを植え付けたシーン。アラスカにて行われた惨劇が頭の中を過ぎり、司令部のコンソールを操作する。
「さ、サイクロプス…」
当たって欲しくない予想が当たってしまった。
「おい、准尉。どうしたんだ?」
「至急、大佐に通信を!」
必死に叫ぶクロイに押され、フォルガーに通信を繋げるヘイズルのパイロット。
「どうしたクロイ?」
「大佐、すぐに全部隊を退かせて下さい!」
「どうしたんだ、説明しろ!」
「サイクロプスが基地に仕掛けてあったんです!このままでは直径10キロが溶鉱炉と化します!急いで!」
「分かった、待ってろ!」
クロイのただならぬ態度に危機感を覚えたフォルガーが、急いで司令部に通信を繋げる。
「こちら、ドイツ軍。フェング・フォルガー大佐だ。こっちの隊員がサイクロプスといった自爆システムを見つけた。直径10キロまで部隊を下がらせろ!」
「バカな。自爆だけで直径10キロも巻き込めるか!」
フォルガーと司令部の通信は他の国の指揮官たちも耳にしている。ほとんどの者がフォルガーの発言に首をかしげるが、それを耳にしたイルフリーデは顔を青ざめさせた。
「ゴルドウィン准将、部隊を退かせて下さい!」
「どうしたのだ」
「お願いします、早く!」
「…第一次、及び第二次攻撃隊に参加していた我が国の者達は至急退かせろ!最優先命令だ!」
「戦闘に参加しているフォルガー大隊各員に通達しろ!直ちに退避!」
ゴルドウィンとフォルガーの指示で急速反転する所属部隊。それを行っていたのはこの二つだけではなかった。
「橘少将、こちらも退かせて下さい!」
「分かった…全隊に撤退命令」
光一の言葉に橘少将が従い部隊を下げさせる。その時、現場に居た者達も他部隊が逃げるのを見て順次、撤退を始める。
だが、それは革命軍参謀であるハルトが思い描いた通りの展開だった。研究所の全ての出入口にはセンサーが取り付けられており、許可の無いMSが一定の間隔以上の速度で基地を出るとサイクロプスが起動するように仕掛けてあったのだ。
「全軍撤退!撤退しろぉ!」
「な、なんだ?」
「私たちも退くぞ」
現場の異常さに気づいた千冬は一夏たちを促し全速で撤退を始める。
―センサーに感あり。サイクロプスを起動します―
「フォルガー大佐!基地内部から強力なエネルギー放射を確認しました!」
「クロイ、一夏!」
ただならぬ気配に思わずラウラもモニターを見ながら叫んでしまう。
「な、なんだ?」
研究所内部に仕込んであったサイクロプスが起動し、そのエネルギー放射が基地内部に残っていた部隊に襲いかかるのだった。