IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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第四革 龍虎 -black side-

太平洋上に浮かぶ島、その島に停泊していた空母がゆっくりと沈んでいく。島自体を要塞化したこの基地は地下に空母の格納庫がありそこで補給を行っている。

 

地下格納庫から小走りで走る二つの人影、革命軍総帥、花柳ユイトとその親衛隊長、クリアだ。二人は走りを止めずにエレベーターに乗り込みさらに地下に降りる。

 

「ハルト!彼女たちは!」

 

「…ユイトか……」

 

MS格納庫に隣接して造られた医療スペースに駆け込んだ二人は息を荒げながら細胞活性化装置の機械を操作していたハルトに声をかける。

 

「大丈夫だ…半分ほどは治療を終えて隣の部屋で休んでいる」

 

「よかった…」

 

ハルトの言葉にクリアは喜び腰を抜かす。よく見れば隣の部屋を見れる窓からベットで眠る者達が医療班の看護のもとで眠っているのが見えた。

 

「どうだ?全体的には…」

 

「良好だ…ただ…」

 

「ん?」

 

急に声を潜めたハルトにユイトは思わず疑問の声を上げる。

 

「その…体だけの年齢で言うと19の子が3人いたんだが……どうやら…」

 

「ッ!まさか!!」

 

「あぁ…これで治せるのは体だけだ…正直、心が壊れている可能性が高い…」

 

その事を聞いたユイトは反吐を吐きそうな顔になるが抑える。横で安心しているクリアも同じ経験をした被害者だ、トラウマを刺激するのはよくない。

 

「そうだな…マザーのもとへ連れて行くのはしばらくしたらの方が良いだろうな」

 

「あぁ…」

 

マザーとは、革命軍と繋がりのある児童養護施設の管理者の事である。実際にはマザーは革命軍の実態は知らない、向こうからしてみれば孤児を沢山連れてくる人ぐらいの認識だろう。

これまで五つの人体実験施設を襲い、何百の戦場で暗躍し少年兵を保護し、助けを求めてきた孤児を助けた。

そのほとんどをマザーとその知り合いの施設に移してきたのだ。そのごく一部が革命軍に自主志願、兵として活動している。

 

「マザーが知ったら怒られるかな」

 

「さぁな…すまないが俺は寝る…限界だ……」

 

「あぁ、ありがとう…」

 

ユイトが帰ってきて安心したのかハルトはたどたどしい歩き方で自室へ戻っていった。そうとう眠かったのだろう、話しているときもほとんどを目を開けていなかった。

 

「参謀長は大丈夫か?」

 

「大丈夫だろう…たぶん……」

 

クリアの問いにすぐに答えたユイトだが正直、自信が無い。1週間以上眠っていないハルトは初めて見たからだ。

一応ギネスブックに記載されていた最高記録は11日だがハルトの状態を見るとやってのけた人物はそうとう凄いとしか言いようがない。

 

「総帥!大変です!!」

 

「どうした!?」

 

ハルトの心配をしていた二人のもとに兵が一人、息も絶え絶えにやってきた。

 

「先ほど連絡があり、アメリカ軍の部隊らしき部隊に発見されたと一番隊、第一部隊から連絡が!」

 

「なんだと!」

 

ユイトは思わず場所も忘れて叫んでしまう、この時点でこちらの存在を発見される訳にはいかない。

 

「通信遮断は行いましたが、状況は分からず…」

 

「司令室に上がる」

 

「はい!」

 

「私はデルタカイに向かう」

 

「頼む!」

 

またしても駆け足で司令室に向かうユイト、それとは反対方向の格納庫にクリアは向かうのだった。

 

ーーーー

 

カナダ北東部、そこでは数機の機体が交戦していた。

米軍の特殊部隊、通称《名も無き兵士たち(アンネイムド)》米軍の奥の手であり最強の隠密部隊だ。

研究所を消し飛ばした犯人の捜査に駆り出されたその部隊はたまたま革命軍の施設に派遣されていた一個小隊と会敵、交戦したのだ。

 

アメリカの新型機、ファングクエイクを隠密用にカスタマイズされた機体を駆るのが隊長と呼ばれる女性、名前も宗教も民族も国籍もない人物の集まりであるこの部隊は確かに最強と呼べる実力を持っていた。

 

「なんなんだコイツら!」

 

しかし隊長は焦っていた、冷静で一言も発しない隊長がだ。最高の腕と機体を手に入れ、戦闘開始時の状況は確かにこちらに有利だった。

 

「たった一機に!」

 

隊長たちの戦力は精鋭の地上歩兵部隊とファングクエイク、徹底的にチューンされたラファールだ。

だが地上部隊は蹂躙されつつありこちらは2機がかりでかかっても1機を倒せない。

 

「無様だな…米軍の特殊部隊がこの程度か…」

 

「キサマァ!!」

 

「グボベズブェ!」

 

「ッ!」

 

対峙した機体、サザビーはビームサーベルでラファールをパイロットごと切り裂いた。血反吐を吐き出して血涙を流しながら血ではない吐瀉物をさらに吐いて死んでいく。機体が爆発しないぶん余計にグロテスクだった。

 

ーー

 

「クソッ!クソッ!」

 

地上の森では名も無き兵士たち(アンネイムド)がエネルギー弾に焼き尽くされ紙人形のように倒れていく。

自身達を殺りに来ている機体は一つ目(モノアイ)を細かく動かし決して見逃さない。

通常のISより少し大きい機体は地上で滑るように高速で移動する。ドライセンの腕に仕込まれた三連装ビームガンから放たれたビームは兵士たちを文字通り消滅させる。移動用の車もザクⅢによって破壊され逃げ道もない。

 

対人戦なら勝っていたかもしれない…だが戦場にもし、だったならと言う言葉は存在しない。これは戦いではなく一方的な蹂躙だった。

 

(報告しなければ!)

 

その中の兵の一人は仲間を楯にして必死に逃げ回った。誰が死のうともこの様な機体があることをなんとしても報告しなければならない。自身達の存在意義が失われてしまう。

 

(繋がれ、繋がれ繋がれ繋がれ繋がれ!)

 

必死に端末を操作するもどこにも接続できない。全てが手遅れ、通信関係は既に革命軍が完全に遮断していた。

 

(バカな…我々が使っている回線までも浸食されているなんて…こんな組織が……)

 

敵の圧倒的技術力に気づかされた兵士はドライセンの装備、トライブレードで文字通りミンチにされたのだった。

 

ーー

 

サザビーの腹部から発射されるメガ粒子砲を避けつつ展開したマシンガンで迎撃。ファングクエイクの活躍の場は本来、接近戦であるが…

 

(近づけない…)

 

圧倒的な性能と操縦者の技能を合わせ持ったサザビーは正に鬼神そのものだった。

 

(やるな…)

 

その時、サザビーのパイロットであるヴォルツは内心彼女を高く評価する。手負いの機体ながらよく動き一太刀入れようとしてくる。

 

(だがこれは決闘ではない…)

 

ヴォルツはほんの少し悲しそうな顔をするとモノアイを光らせるのだった。

 

(今だ…)

 

一瞬だけサザビーの動きが止まった。瞬時加速(イグニッション・ブースト)を行い距離を詰める、間合いに入ればファングクエイクの独壇場だ…そんな確信と共に隊長はナイフを振るう。

 

「ッ!!」

 

そんな瞬間、突然後ろから衝撃を受ける。

 

「な…に……」

 

攻撃を受けながら隊長は瞬時に状況を把握した。

 

「BT兵器…だ…と……」

 

サザビーのファンネルが体勢を崩させた、ヴォルツはサーベルを振るい殺そうとするが隊長はナイフでそれを受け止める。伊達に特殊部隊の隊長はやっていない。

 

「グプッ!」

 

しかしサザビーのパワーに押され押し込まれ蹴られる、内臓全体が響き鼻血が漏れ吐瀉物を吐き出す。

追撃されたら殺られる…一時、間合いをるために後退した隊長の目に映ったのはモノアイ…サザビーとは違う機体。

 

(援軍!)

 

地上部隊を蹂躙したドライセンはビームランサーでファングクエイクを切り裂く。シールドエネルギーを大幅に削られたがもう退路はない、空いていた左拳でドライセンを殴り飛ばす。

 

「な"め"るな"ぁ"ぁ"ぁ"」

 

ドライセンの巨体は吹き飛ぶがそれと同時にファングクエイクにビームが直撃する、ザクⅢのフロントアーマーに内蔵されたビーム砲だ。

ボロボロの体に次々と襲いかかる援軍、だが彼女は抵抗をやめない。

 

ザクⅢの銃剣とファングクエイクのナイフが激しいスパークを起こす。瞬時加速で押し切り、殺してやる…そんな考えと共に行動しようとした隊長は目の前に浴びせられるビームを見て視力を奪われた。

 

「うあ"あ"ぁ"ぁ"」

 

ザクⅢの顎部ビーム砲が顔に直撃したのだ。絶対防御によって守られたがハイパーセンサーで鋭敏化された視覚でビームの光を見たのだ…ある意味当然の結果だと言える。

 

「ごのぉぉ!」

 

視力を失い、シールドエネルギーすら尽きた状態でも戦意を失わない。素晴らしい兵士だ…だからこそ敬意を持って殺そう。

ヴォルツはそう思って隊長ごとファングクエイクをビームサーベルで切り裂いた。

 

「…!……!…!?!」

 

絶対防御を破壊し体を焼き斬られた隊長は言葉にならない叫びを上げて死んでいくのだった。

 

「……」

 

機体から炎を上げながら墜ちていく隊長の姿にヴォルツは敬礼を送るとすぐに命令を伝えるのだった。

 

「総帥に連絡だ!敵を殲滅、情報の漏れは一切なしとな…」

 

「ハッ!了解いたしました!」

 

たった3機のMSでIS2機を要する特殊部隊の殲滅…戦果は十分だった。

 

ーーーー

 

短期間で研究所と特殊部隊を失ったアメリカダメージは酷く甚大なものだった。

それが原因でイスラエルと合同開発が進められていた機体、銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の開発が加速したのはある意味必然なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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