IS ー血塗れた救世主達ー   作:砂岩改(やや復活)

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ちょっと最後だけ付け足しました。



第八十二革 仇

「……」

 

「……」

 

 戦闘が終盤に移った頃、世界中の人々は言葉を一言も発さずに流れる映像を見つめる。

 映像の音声は国連軍、革命軍問わずオープン回線で流れている全ての音声を垂れ流している。兵たちの悲鳴や断末魔ももちろんのこと、マドカの叫びやユイトの大演説も流れていた。

 

 この映像を見た全ての者達は、彼らに魅せられ完全に意識を映像に向けていた。

 

ーー

 

「武装だけ剥げれば!」

 

 デルタカイのライフルは簪の打鉄弐式を貫きミサイルポッドを破壊、接近しサーベルで電磁砲と薙刀を破壊した。

 

「きゃ!」

 

「簪ちゃん!」

 

「簪!」

 

 ユイカの注意が逸れた事を利用して蜻蛉切りを足で砕きスラスターを切り飛ばしたクリアは、ユイトと合流するために反転し基地に戻る。

 

「待ちなさい!」

 

「刀奈さん、行ってください。私達の変わりにお兄様に」

 

「お姉ちゃん」

 

「……わかったわ」

 

 煙を噴いている機体をなんとか制御しつつ刀奈に行くように促す2人を見て、刀奈は強く頷き基地に向かうのだった。

 

ーー

 

《推奨BGM 機動戦士ガンダム めぐりあい》

 

「よし、取り付いた!対空砲の破壊を急がせろ!」

 

 橘中佐を含む主要メンバーも次々と本部に取り付いていき、基地に設置された戦艦や対空砲が火を噴きながら破壊されていく。

 

「陸戦隊を上げろ!基地を制圧するぞ!」

 

 次々と崩壊する塔、敵味方問わずその崩壊に巻き込まれていく。

 

「マリアぁ!!」

 

 次々と降下してくるMS隊に押される革命軍、メインゲートを護っていたケイニが悲鳴に近い声でカゲトに報告する。

 

「カゲト、こっちはもう100機ちょっとしかいないよ!」

 

「自分も行くっす、全部隊を基地内部に下がらせるっす。基地の自爆まで持ちこたえるっすよ!」

 

 戦闘開始から11時間、基地が陥落するまで時間の問題と言うところまで来ていた。

 

「このぉ!」

 

 バエルソードを振るい鈴の一撃を弾くと共に、接近してきた箒を蹴り飛ばす。そんな時、一夏たちを牽制するようにビームが放たれる。

 

「リョウさん」

 

「お前も退け」

 

「しかし!」

 

「作戦は最終フェーズに移行している。俺はマドカを拾ってから行く」

 

 リボーンズキャノンの砲撃のせいで近づけない一夏たちを見て、フィーリアは基地に帰投する。これが本当に最後の戦い、互いに悔いのないようにせねば。

 

「マドカ、マドカ!撤退だ!!」

 

ーー

 

「はぁ!」

 

「ぜあぁ!」

 

 着実にドラグーンが潰されマドカが押されている。だが彼女は止まらない。自身を突き動かす信念がそうさせるのだ。

 

「このぉぉぉ!」

 

 マドカはサーベルで千冬の白雷を薙ぎ飛ばして蹴りを入れるが、銀花でライフルを両断され、着実に武装がなくなっていく。

 

「もう終わりだ。革命軍は負ける、それでもまだ戦い続けるのか!?」

 

「もはや勝敗などどうでもいい。この場にいる同士たちは死を恐れない、それ以上のもので動いているからだ。それで死ねるのなら望むところ!!」

 

 マドカに残されているのは僅かなドラグーンと左手の複合兵装のみ、機体は度重なる無理のせいで全身から火花を出している。

 

「ここまでするしかなかったのか!?」

 

「いつかは、誰かがやってくれると、そんな甘い毒を撒き散らして汚染しきった世界を綺麗にするためには汚物を焼き払う他ない!」

 

 サーベルと銀花がぶつかり、マドカは千冬の顔面を殴るが指に仕込んであった刃に切り裂かれ、マニピュレーターが吹き飛ばされた。

 

「もはや止める術はない!我々が流した血と涙は新たな世界の糧となる!」

 

 機体からはエラーが続出し、左手も切り裂かれる。

 

「人が数多持つ予言の日だ!!」

 

 後悔も懸念もない。自分の死は無駄にはならない、戦うために作られた自身がこんな気持ちで逝けるとは思わなかった。

 残ったドラグーンで千冬を牽制するが、彼女はそれを難なく避け、マドカの背後に回ると銀花を目にも映らぬ速さで振るい、ドラグーンのプラットフォームを切り裂いた。

 

「はぁ……」

 

 バックパックが爆発し、マドカは爆発に巻き込まれ、その姿が炎で包まれるのだった。

 

「マドカぁ!てめぇ!!」

 

 落ちたマドカを見て激昂するリョウ、そんな彼の虚を突いて背中にビームが直撃する。

 

「うお!」

 

「千冬!」

 

 駆けつけたのはイルフリーデとイギリスの精鋭部隊。その中にはビームライフルを装備し、戦線に復帰したセシリアの姿もあった。

 

「てめぇら全員、地獄への道連れにしてやるよ!」

 

ーー

 

「リーオー大隊上陸しました。後2個大隊で全て上陸します!」

 

「よし!」

 

 降下を指定されていた部隊のほとんどは基地に着地し各所にあるゲートに殺到していた。

 

「くそっ、ここは地獄か!?」

 

「フィーリアは!」

 

 フィーリアを追いかけて上陸したラウラたちも、敵ゲートを突破しようと攻撃を開始する。血とオイル、鉄屑の山が視界を埋め尽くし、炎からは血と肉の焼ける匂いが立ち込めていた。

 すると目の前のゲートが派手に爆発。我先にと攻撃していた部隊が進んでいく。

 

「俺たちも…」

 

「待て、一夏」

 

 先行していた部隊が基地内部からの攻撃を受け全滅、味方機の破片や飛び散った血が再び周囲を汚す。

 

「そそっかしいからよ、こういう時は臆病でちょうど良いのよね」

 

 そう言うと鈴は追加装備されたグレネードをゲートに投げる。

 

ーー

 

「研究所エリア内のエネルギー処理容量、上限まで達しました。もう間もなく始まります」

 

「基地が爆発を開始するまであと30分ほどか、各隊。あと少しだ、持ち堪えろ!」

 

 ジムⅢをショットガンで蜂の巣にしたケンプファーは見えてきたゴールに少し安堵すると、周囲から湧いてきたMS隊に囲まれ襲われる。

 

「なっ!」

 

「モルドウィッチ殿!!」

 

 ケンプファーは護衛のドムと共に国連軍のMSのサーベルにメッタ刺しにされる。

 

「ただで死ぬかよ…」

 

 モルドウィッチは持っていた3つのチェーンマインを同時に起爆させ周囲にいたMSを巻き込んで死んでいった。

 

 Sポイントメインゲート、フェネクスのビームマグナムがゲートを護っていた革命軍機を薙ぎ払い進入路を切り開いた。

 

「この感覚…」

 

「ラウラ!」

 

「あぁ、最下層になにかあるな」

 

 基地内部に侵入を果たしたラウラとシャルは、頭に何かが過ぎる感覚を感じた。バンシィとフェネクスのサイコフレームが危険を察知したのだ。

 

「この基地は自爆するつもりか、全ての秘密を抱え込んで」

 

「とにかく最下層に行かなきゃ!」

 

「そうだな」

 

「フィーリアも最下層にいるはずだ」

 

 ユニコーンのサイコフレームはフィーリアを察知したようで目標が定まる。最下層、革命軍本部エネルギー管理エリア、そこで全てが待っている。そんな気が3人にはしていた。

 

ーー

 

「メインシャフトを占拠しろ!敵基地の中枢を制圧できればどうとでもなる!」

 

「メインシャフトは絶対に死守するっす!エネルギー管理エリアまで行かせるなぁ!」

 

「このまま押しこめぇ!」

 

 侵入部隊を指揮していた指揮官機は突如、胴体を切り離され爆発する。光学迷彩による奇襲、ケイたちの部隊が帰ってきたのだ。

 

「遅くなった」

 

「遅いっすよ!」

 

 革命軍機はもう2桁程しかいない。なだれ込んでくる大群を押し止めるのは不可能であった。

 

ーー

 

「くそっ、基地が…」

 

「いただき!」

 

 ヘンリーとティルミナと交戦していたカラミティはセラヴィーとの火力勝負で敗北し、その身をビームで焼き尽くされる。

 

「ナナ、このぉ!」

 

「ぐっ!」

 

 レイダーがそのハンマーでAGE3を吹き飛ばすとフォビドュンの曲がるビームが機体に直撃し黒煙を上げる。

 

「ヘンリー!」

 

「偽装解除!!」

 

 黒煙から姿を現したのはAGE3-FX。FXはダイタルバズーカーを構えるとレイダーに向けて撃ち、直撃する。

 

「グハァ…」

 

「トウカ!」

 

「喰らえ!!」

 

 悲鳴すら上げる暇なく撃墜されたトウカをみてシーレが激昂するがティルミナの放ったビームのせいで足止めを喰らう。

 

「無駄ですわ、このゲシュマイディッヒ・パンツァーがある限り、ビームは…」

 

 その瞬間、FXのCファンネルの攻撃でゲシュマイディッヒ・パンツァーが機体から切り離され、その効力を失ってしまう。

 

「ナナ、トウカ…。総帥!!」

 

 骨すら残らず消え去った親衛隊を見て一瞬だけいたはずの空域を見つめるが、すぐに機体を動かし主戦場と化した基地に向かうのだった。

 

ーー

 

「くるぅぁ!」

 

「ぐはぁ!」

 

 明桜に装備された形状記憶ナノマシンの異常な修復能力のおかげで機体には目立った損傷はないものの千冬自身はかなり疲弊しており簡単に蹴り飛ばされる。

 

「千冬!」

 

 ビギナ・ロナの強力なビーム砲で牽制しつつ、ランサーを使い接近戦に持ち込む。その隙にビギナ・ギナとダギ・イルスが背後から接近するが、リボーンズガンダムの背中のビーム砲が彼女らを墜としていく。

 

「喰らえ!!」

 

「ぐっ!」

 

 激しいつばぜり合いと共にイルフリーデはショットランサーを射出。リボーンズの肩装甲を吹き飛ばし、ビーム砲をゼロ距離で発射する。

 

「この距離ならフィールドは張れまい!」

 

「舐めるな…」

 

 リョウはビーム砲を掴むとビームを発射される前に銃口を上に向けさせ外させる。そして彼女の右腕を掴み直し強く握る。

 

「ぐ、ああぁ!」

 

 装甲ごと骨を握り潰され苦悶の悲鳴を上げるイルフリーデ。右の前腕を砕かれビーム砲を落としてしまうが、虎の子のバスターランサーを左手に展開させる。

 

「セシリア!」

 

「はあぁ!!」

 

 セシリアはブルーティアーズを展開させて突っ込ませるが、リョウのファングに全て落とされ、ライフルも破壊される。ブルーティアーズもライフルも破壊され武装はもう少ない。セシリアはショットランサーを展開させて突っ込む。

 

「この…っ!」

 

「私と死ね!!」

 

 逃げようにも取り付いてきたイルフリーデが邪魔で逃げられない。リョウは頭突きを繰り出し腹に膝を入れる、力が少し緩んだのを感じると引き剥がし顔面に肘を入れて離れる。

 その衝撃でビギナ・ロナの頭部の装甲が剥がれ、イルフリーデの顔に大きな傷がついた。

 

「簡単に死ねるか!!」

 

 リョウが放ったライフルのビームがショットランサーを破壊。背部の大型フィンファングが稼働しセシリアを狙い撃ちにした。

 

「きゃぁぁぁ!!」

 

「いい加減に…っ!」

 

「くたばれぇ!!」

 

 イルフリーデはバスターランサーを構え撃ち放つ。7つのランスが同時に放たれリボーンズガンダムに高速で飛来する。

 

「うおおおおぉぉぉぉ!!」

 

 ほぼゼロ距離で放たれたランスはリョウの超常的な反射神経を持ってして2本は避けたものの、残りは避けられず突き刺さる。

 ビームライフル、左肘のGNドライブ、右脚、胴体に2本のランスが突き刺さりリョウは雄叫びを上げる。

 

「があぁぁぁ!」

 

 わずかに動く左手で胴体に突き刺さったランスを引き抜くと、そのランスでイルフリーデの左肩の関節に突き刺した。

 

「まだ動くのか!?」

 

「母と…」

 

 満身創痍のリョウにインターセプターを振りかぶりながら接近したのはセシリア。

 

「父の仇ぃぃぃ!!」

 

「このぉぉ!!」

 

 バックパックを切り裂いたセシリアだったが、ビームサーベルを逆手にした攻撃で自身も切り裂かれ、切られた部分が焼ける。

 

「キャァァァ!」

 

 体の前面部に下から上に横断したような切り傷が出来た彼女は、限界が来ていたサイレント・ゼフィルスと共に落下していく。

 

「参ったな、これは…」

 

 若干、困ったように呟いたリョウ。制御を失ったリボーンズガンダムは、海中に沈むと大きな水柱を作り出す。

 

「やったのか…」

 

 落ちるセシリアを受け止めたイルフリーデは、水柱を見てそう呟くのだった。

 

ーー

 

「……来るか」

 

 光り輝くエネルギー体を見下ろしていたユイトは静かに閉じていた目を開け、エネルギー処理施設の唯一の出入り口を見つめるのだった。

 

 


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