黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)と共に異世界へ   作:ヴィヴィオ

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第13話

 

 

 バルテンのハンターギルドへと向かう途中、様々な人の姿を見かける。平民の農民や商人、親子連れの買い物客、柄の悪いハンターや立っているだけで気を抜いている兵士などだ。治安維持の為に街頭に立っているはずの兵士ですら、気を抜いている。

 彼の目の前で子供が大人にぶつかって弾き飛ばされる。

 

「なにしやがるっ! このクソガキがっ!」

「ごめんよっ」

 

 逃げる子供を見送る大人の容姿を確認した兵士は、そのまま放置した。かと思えば、裕福そうな別の人がぶつかられると子供を殴って捕まえ、子供が盗んだ持ち物を返す。

 

「すいませんね」

「いえいえ、気を付けてくださいね」

「ありがとう。これは少ないけれど一杯でもやってください」

「どうも、すみませんね」

「離してっ、離してっ!」

 

 小遣いを貰った兵士に連れられて路地裏へと連れて行かれる。

 

「どうしましたか?」

「少し気になったのよ」

「ああ、アレですか。何時もの事ですよ。兵士はお金を持っている人の味方ですから」

「それだけならばいいのだけれど」

 

 少しして路地裏から悲鳴が聞こえて来る。普通なら雑踏に紛れて聞こえない声だけれど、アタシにはしっかりと聞こえる。

 

「おすすめしませんよ」

「構わないわ」

 

 路地裏の方に進んでいくアタシにアニタが警告してくるけれど、無視して進む。

 

「まあ、あれだけ強いなら大丈夫でしょう。私はここで待っていますね」

「ええ」

 

 アニタに馬車を任せて裏路地に入る。少し入り組んだ道を進んだ先の路地で先補の兵士が、捕まえた子供の服を脱がし、口に脱がした服の切れ端を加えさせていた。子供の両手は上にあげられて纏められ、これも切れ端で縛られていた。

 

「なるほど、これが助けた理由ね」

 

 最初のスリは男の子で取られたのはお金を持ってなさそうな男性だった。次はお金の持っていそうな人で、取ったのは女の子だった。つまり、こいつは職務にかこつけて悪事を働いている奴ね。

 

「あ? お前らも混ざ……おいおい、ここはお嬢ちゃんが来る所じゃないぜ? なあ?」

「そうだぜ。じゃなきゃ、怖いおじさん達の玩具にされるからよ」

「まあ、もう遅いけれどな」

「違いねえ」

 

 男の声にアタシの後ろから別の汚らわしい声が混じる。同時に一人がアタシに肩に手を置こうとしてくる。

 

「その子を置いて失せなさい。今なら殺さないでおいてあげるわ」

「おいおい、違うだろ。お嬢ちゃんが命乞いをする場面……」

 

 アタシの背後の男が肩に手を置こうとした瞬間、身体が硬直して崩れ落ちていく。

 

「なっ、なんだっ!?」

「どうなってやがるっ!?」

「貴方達は殺して欲しいのね。わかったわ」

 

 アタシの両手が隠れた服の袖から大量の黒い風を放出しながら、両手を振るう。

 

「さようなら」

「まっ!?」

「ひっ!?」

 

 アタシの位置に近かった数人は纏めて黒い風に触れて死に絶え、倒れていく。

 

「魔術師だっ! にっ、逃げろっ!」

 

 くるりとその場で回りながら黒い風で立っていた男達を薙ぎ払う。残ったのはしゃがんでいて助かった最初の兵士だけ。

 

「お、お前っ、こんな事をしてただですむと思っているのか! 俺はバルテン子爵の兵士だぞ!」

「関係無いわ。貴方達はアタシに殺される事を選択した。だから、殺した。それだけよ」

「た、助けてくれっ、頼むよっ! 俺には妻子が……」

「そう、残念ね。貴方は選択を誤った。運が無かったのね、可哀想に」

「やっ、やめろぉおおおおぉぉぉっ!?」

「さようなら」

 

 黒い風に飲まれて男はズタズタに切り刻まれて死亡した。残ったのは恐怖で震える女の子だけ。

 

「たっ、助けて……」

「ええ、助けてあげるわ。代わりに街の案内をお願いしたいわ」

「それぐらいなら……」

「あと、貴女みたいな孤児とかは多いの?」

「孤児じゃなくても、多いよ。税金が払えなくてスラムに逃げ込んだり、売られるのが嫌で逃げ出したりしてるから……」

「そう。でも、捕まったら売られるのかしら?」

「そうだよ。だから、逃げたり隠れたりしてるの」

 

 話を聞きながら殺した男達からお金や服を剥ぎ取っていく。服は女の子に与える。お金は後であげましょう。

 

「なるほど。ありがとう。先ずは宿屋に案内してくれるかしら?」

「うん」

 

 子供の案内に従って宿を教えて貰う。

 

「アニタは宿の手配をしたらこの子を綺麗にしてちゃんとした服を着せておいて。お金はこれね」

「畏まりました。それで、ペスト様はどちらに?」

「アタシはハンターギルドに行って来るわ」

「ハンターギルドはあのおっきな建物だよ」

「そう、ありがとう。このお姉さんのいう事をきくのよ。まだこれから案内して貰う場所があるから、ここで着替えたら食事でもして待っていなさい」

「いいの?」

「ええ」

「ありがとう」

「任せるわ」

「はい」

 

 アニタに任せてさっさと教えて貰ったギルドへと向かう。飛んだら速いのだろうけれど、流石に不味いわね。それに盗賊達も連れていくのだから。

 

 

 34分ほど歩いてハンターギルドであろう大きな建物に入る。入った瞬間、視線が集まって来るのだけれど、無視してそのまま受付カウンターに進んでいく。女性の受付には人が並んでいるのだけれど、こっちを気持ち悪い視線で見て来る男よりはましと思いたい。けれど待つのは嫌なので若い少女の所にしておきましょう。

 

「いらっしゃいませ。バルテンのハンターギルドへどのような御用件でしょうか?」

「賞金首の確認とギルド施設の派遣よ」

 

 カウンターの上に盗賊の首を取り出して、名前など必要事項を記入していく。

 

「ひぃっ!? なっ、生首っ!?」

 

 少女は後ろに扱けて動かなくなった。

 

「申し訳ございません。確認させていただきますね」

「ええ」

 

 別の職員が来て、さっさとサイコメトリーの魔導具を使って確認していく。このサイコメトリーで犯罪経歴を調べたりする事が出来、各ギルドや詰所などに置かれているのよね。

 

「かっ、確認が取れました。赤熱の山賊団の頭領、エグモントとその一味ですね。壊滅させたのでしょうか?」

「そうよ。こいつらが生き残りね」

 

 男達は黙って立っている。彼らを見た受付嬢は少し震えているわね。何かあったのかしら?

 

「それと救助した人も居るわ」

「わ、わかりました。しっ、しめて54万になります」

 

 それなりの金額なのだけれど、おかしいわね。確か、盗賊団の規模で決まるはずなのだけれど。

 

「安いわね」

「ハンター証はお持ちですか? お持ちでないなら金額は減ってしまいます」

「そう。なら、正式な手配書を見せてちょうだい」

「え?」

「聞こえなかったの? ギルドの本部が発行している手配書を見せて、と言ったのよ」

「そっ、それは出来ませんっ」

「何故?」

「規則ですので……」

「おかしいわね。どこのギルドでも見せて貰えるはずだけれど?」

「それでしたら、あちらに張られている方をご覧ください」

 

 指さされた先を見ると、手配書が張ってある。でも、金額の部分は切り取られている。

 

「はぁ、そういう事ね」

「あの、それでは手続きに……」

「結構よ」

「え?」

「聞こえなかったのかしら? 手続きは要らないと言ったのよ」

「で、でも……」

「ここでお金に変えるのは止めにするわ」

 

 さっさと首をバックに仕舞っていく。

 

「まっ、待ってください!」

「待たないわ」

 

 だいたい、値段が低すぎるのよ。それで値段の書いてないない手配書だけとか、ふざけているわ。すくなくとも30人は居たし、三桁はいくはずなのよ。どんだけピンハネしているのかは知らないけれど、別の街のギルドで売った方がいいじゃない。

 

「こっ、困りますっ!」

「何故?」

「……そっ、それは……手配書が残ったままになってしまいます……」

「別に被害が出ないのだから問題ないわね」

「の、ノルマが……」

「知ったことではないわ」

「わっ、わかりました。別室でお話しましょう。派遣の件もありますし」

「いいわよ」

「それでは、こちらへどうぞ」

 

 案内された応接室で少し待っていると、大きな太った男と先程の女性が入って来た。

 

「ほほぅ、これはまた可愛らしいお嬢さんだ。特別な方にお出しするお茶を持ってきなさい」

 

 こちらを舐めまわすように見てくる豚が、女性にお茶を入れてくるように言うと、女性はさっさと出て行った。

 

「誰?」

「おお、これは失礼しました。私はバルテンのハンターギルド、ギルドマスターをしているヨルダン・アーメントです」

 

 苗字があるという事は貴族ね。他の貴族に関してはあんまり詳しい事は知らないのだけれどね。リーゼンフェルトは辺境の男爵家で夜会とかにも滅多に出ないし、出たとしてもお父様やお兄様くらいだから。

 

「それで、ギルド施設の派遣という事でしたが……場所はどこですかな?」

 

 両手を机の上に乗せながら答えていく。

 

「お茶です」

「どうぞ」

 

 出されたお茶は飲まずにそのまま話を進める。一秒でも早く、ここから出たいし、会話も出来ればしたくない。

 

「場所はここから南に下がったリーゼンフェルト領にある魔の領域よ」

「あの討伐を失敗した所ですな」

「ええ」

「でしたら、費用は8億になりますな」

「高すぎるわね」

「しかし、こちらとしましてもそれだけ費用がかかります」

「二年前に2千万と言われたのだけれど?」

「そちらは討伐に失敗する前ですから。それに我れらも財政難でして」

「財政難ねぇ……」

 

 豚を見る限り、それはないわね。

 

「そうですな。赤熱の山賊団を引き渡して頂けるなら、こちらも勉強させて貰って2億まけて6億にしましょう」

「それでも高いわよ」

「でしたら、私の女に……」

「結構よ。アタシは結婚していて旦那様のものなのはわかるでしょ」

「一晩だけでも……」

「黙りなさい、豚」

「なっ!? 無礼ですぞっ!」

「どちらがかしら? まあ、どうでもいいわ。こちらの要件は終わったのだから、帰らせて貰うわ」

「派遣はいいのか!」

「ええ、別の街のギルドに頼めばいいだけなのだし」

 

 そういうと、勝ち誇ったようないやらしい笑みを浮かべた。

 

「どこも変わりませんぞ。それに暴言を吐いた貴女はブラックリストに入れさせて貰いますからな」

「勝手になさい」

 

 部屋を出てカウンターがある表に移動すると、兵士が居て盗賊団の生き残りを連れていこうとしていた。

 

「何をしているのかしら?」

「何って、引き取りに来たのですが……」

「交渉は決裂したわ。引渡しはしない」

「そんな……」

「黙りなさい。そうね……欲しければ8億で売ってやると貴方達の主に伝えなさい。いくわよ」

 

 男達を連れてギルドから出て、宿へと戻った。

 

 

 

 宿に戻ると、アニタが待っていた。女の子の方は食堂で急ぐように食事をしている姿が遠目にわかる。

 

「売らなかったんですか?」

「そうよ、悪い?」

「いえ、ご機嫌斜めですね」

「まったくよ。まさか、豚と会話させられるとは思ってもみなかったわ。悪いけれど、直ぐに動くのは無理だから、もう少しゆっくりしておいて」

「ええ、わかりました。彼らはどうしますか?」

「こっちで安全な場所に送っておくわ」

「畏まりました。部屋はこちらです」

「ありがとう」

「いえ」

 

 案内して貰った部屋に入ると、扉を閉めて男達とアタシだけになる。と、思ったら壊れた人形のような女の子がベッドに寝かされていた。まあ、動かないから放置で問題ないわね。

 

「さて、お前達は眠りなさい」

「「え?」」

 

 男達を殴りつけ、気絶させた後はバッグに頭から突っ込む。これで大丈夫だろうし、問題ないわ。

 

「ああ、いらつく! なんでハンターギルドまで腐敗してんのよっ! ほんとっ、使えない塵共ねっ!」

 

 地団駄を踏むと、急にグラグラと宿が揺れて慌てて止める。

 

「はぁ、あっちのアタシがアタシを倒したければ星を砕けって言っていた意味がわかるわね」

 

 もっと力を使いこなせるようになれば、本気を出して星を砕く事も可能になるんでしょうね。そうじゃないとあんな言葉は出ないでしょうし。

 

「まあ、いらついていても仕方ないわね。ここは本でも読んでゆっくりしましょう」

 

 ベッドに座って女の子の頭を膝に乗せ、バッグから適当に本を取り出す。出て来たのは黒い分厚い重厚な本で、表紙には金色の縁が取られており、中心部には深紅の魔法陣があり、魔法陣の中心部には紫の宝石が嵌められている。

 

「これは……相当高位な魔導書ね」

 

 出鱈目なほど膨大な魔力を持つその魔導書は触れるだけで、精神を浸食してくる。

 

「黙りなさい。鬱陶しいわ」

 

 黒い風を浸食させていくと、大人しくなってきた。例え、なんであれ、生きているものなら殺してみせるわ。大人しくなった魔導書を開けて読んでみる。

 

「ふむ……さっぱりわからないわね。そもそも読めないし。どこの言語よ」

 

 魔導書ごとベッドに倒れる。そのまま眼を瞑って少ししてから魔導書を置いてベッドから起き上がって鞄からカードみたいなのを取り出して魔力を流す。

 

「キャロル、聞こえる?」

『……んんっ……ペストか、どうした……?』

「お母さん、もしくはママでしょ」

『……』

 

 少し待っても返答がない。もう一度魔力を流す。でも、返事が無い。また魔力を流す。今度は多めに。

 

『鬱陶しいわっ! ちょっ、やめてっ! いまっ、連絡中だからっ!』

 

 向こうから聞こえて来るキャロルの声は上ずっていて、どこか辛そうね。まあ、やってるんでしょう。あっ、向こうで爆発音が聞こえたわね。

 

「キャロル、ハンターギルドの交渉が失敗に終わったの」

『はぁっ……はぁっ……ハンターギルド? ああ、あれか。失敗って?』

「8億も要求されて、減らすなら身体を差し出せとか、馬鹿な事を言って来たから」

『よし、そいつ殺そうぜ。なに、ちょっと局地的な台風が襲うだけだ。なんの問題も……』

「あるでしょ」

『ちっ、なら倉庫にある赤い水晶をギルドに適当に投げ込んでくれ。それで解決だ』

「中身は?」

『ただの労働力だ』

「戦闘力は?」

『奇跡の神器を分解する程度だな』

「それ、程度じゃないから」

『なんだ、アルカノイズは駄目か。相手を触れただけで神器を身に纏った物以外を炭素にかえてくれるクリーンな兵器なんだが』

 

 確かにクリーンでしょうけれど、かなりえげつない兵器ね。

 

「駄目でしょ。それより、ハンターギルドを誘致出来ない事が問題よ」

『なんでだ?』

「なんでって……」

『森や山の防衛や開拓なんて、オレ達でなんとかなる。特にドラゴンが住んでる山なんて、あのムカつく女の独壇場じゃないか』

「倒した素材はどうするのよ?」

『オレが加工すればいいだけだろ。ほら、ハンターギルドなんて要らない。商品の出荷は商人に任せればいいし、金が貯まれば船を買うかガチャで手に入れて輸送すればいいだけだ』

 

 確かにその通りね。ええ、別に要らないわね。なにこれ、接触損?

 

「殺人的な量になるわよ」

『現在、生産用のクローンを制作中だから問題無い』

「そう、それじゃあお願いね」

『ああ。っと、そろそろ戻る』

「ええ、頑張ってね」

『そっちも気を付けろよ……まま』

「今なんて言った?」

 

 聞き返したら既に切られてた。仕方ないから真っ赤になってるキャロルでも想像しましょう。うん、少しは怒りがましになったわ。

 

「でも、この街……もう要らないわね……」

 

 そんな事を思っていると、扉がノックされた。

 

「どうぞ」

「ペスト様、領主の使いという者が参っていますが……」

「要件は?」

「晩餐の招待だそうです」

「晩餐、ね」

 

 どうせその間に襲うつもりなのでしょうね。でも、倉庫に預けているから無駄骨になるわね。しかし、宿の客達の被害は……まあ、どうでもいいわね。

 

「話を聞きにいくわ」

「はい」

 

 下に降りると馬車が止まっていて、騎士達が威圧するように整列していた。

 

「貴女がアーデルハイト・リーゼンフェルトですな」

「そうよ」

「バルテン子爵様が貴女を晩餐にご招待なさるとの事です。これは光栄な事であり……」

 

 使者はつらつらとどうでもよい事を話していく。私はいらいらがつのってつい、足踏みをしてしまうと宿がまた揺れた。

 

「ふぅ……お断りよ」

「なんですと!?」

「あのね、事前連絡もなしに今日いきなり来いと? ドレスも持ってきてないのに?」

「それは……その、こちらで用意しますゆえ……」

「そう。なら……っ!?」

 

 禍々しい気配を感じて振り返る。

 

「どうなさいましたか?」

「なんでも……いえ、これは……しまったわっ!」

「どうなさったのですか!?」

「おいっ!」

「うるさいっ! ちょっと待ってなさいっ!」

 

 急いで部屋に戻る。部屋の前に到着すると、中から禍々しい魔力が溢れ出している。扉を蹴破って中に入ると、ベッドの上には膨大な魔力を巻き散らかしながら黒っぽい紫色の髪の毛を靡かせる少女が立っていた。服装は黒いドレスのような服で、頭にヘッドドレスがある。その少女は碧眼をこちらに向けて来て……こちらを見るなり、犬耳と尻尾を生やし頭を抱えて蹲って涙目で震えながら恐る恐るこちらを伺ってきたのだけれど、どうしたらいいのかしら?

 

 

 1.始末する。

 2.とりあえず、撫でる。

 3.見なかった事にする。

 4.抱きしめる。

 5.キャロルに助けを求める。

 

 

 

 さて、どれにしようかしら?

 

 




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