黒死斑の魔王(ブラック・パーチャー)と共に異世界へ 作:ヴィヴィオ
日が昇り、正午となるとリーゼンフェルトの街の前にある平原にペストの兄であるドミニク・リーゼンフェルトが率いる防衛隊900人が集まり、1キロくらい先でバルテン子爵軍の約2800人が待ち構えている。人数差、1900人。でも、リーゼンフェルト防衛軍はまともに戦えるのが500人でその中で騎士は200人。では、残り400人は何かと言えば戦えない女や年寄りだ。なんのつもりかと言えば、こちらの人数を誇張させて見せ、更に自らの勇志を見せつける為だそうだ。
「ほんと、くっだらないわね~」
「何か言ったか?」
「気のせいじゃないかな~」
さて、これからどうしよっかな? っと、敵軍の中から誰かが出て来たわね。
「やあやあ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ、
我こそは、バルテン子爵の次男、ヨーゼフ・フォン・バルテンなり! 卑劣なるリーゼンフェルトの者よ、臆さぬのならば出て来るがよい!」
作法なのか、相手が名のるとドミニクも出ていったわね。ばっかじゃないの? いえ、馬鹿だったわね。
「我こそはリーゼンフェルト男爵家、嫡男であるドミニク・フォン・リーゼンフェルトである! 言われも無き無実の罪を着せる傲岸無知なる愚かな侵略者共よ、死にたくなければ即刻立ち去るがよいっ!」
え? そんな事言っちゃうんだ? ブーメランじゃないかしら?
「何を言うか! そちらが……」
「馬鹿な事を……」
低レベルな罵り合いが続く中、一つのひらめきが有った。
「言葉などいいじゃない。それよりも一騎打ちで決着をつけたらどうかしら?」
「良かろう!」
「ふむ。確かに。では、こちらは……」
「皆っ、大将同士の一騎打ちだって!」
大声で叫ぶと、一気に回りから歓声が上がる。
「何を言って……」
「良かろう! 我とて武門のバルテン子爵家に生まれし者よ! その勝負、乗った!」
「なななっ! 何を言っているんだ!」
「む、まさか臆したか! これは片腹痛いわ!」
「まったくよね。ヘタレにもほどがあるわ。へ、た、れ! へ、た、れ!」
「へ、た、れ! へ、た、れ!」
こちらの思惑を理解した部下達も叫び、直に他の人も続いていく。こうなればやるしかないでしょ。
「貴様っ、どっちの味方だ!」
「何言ってるのよ、ルサルカちゃんはご主人様であるコルネリウス・フォン・リーゼンフェルト様の味方に決まってるわよ~」
指を唇にあててクスクスと笑う。ドミニクは真っ赤だけれど気にしない。
「コルネリウス……確か、シュタインフェルト伯爵家より、無能がリーゼンフェルト家へと婿入りしたと聞いたな」
「あ?」
「なんだ、貴様等はあの無能の穀潰しの手の者か!」
「ちょっと、アンタ……今なんて言ったのかしら?」
「怒ったのか? しかし、仕方ない事よ。なんせギフトを使えぬ者など貴族にあらず、平民にすら劣る畜生よ」
よし、その喧嘩、勝ってやるわ。私の、私達のようやく出会えた愛しい夫を貶(けな)すとか、許さないわ。
「おい?」
「黙れ。こいつはアタシが痛めつけて殺す」
「あ、ああ……」
「ふん、小娘が何を吠えるか……」
「何をって、決まってるじゃない。アンタを無残に殺してやるのよ。数百年間の時の中でようやく出会えた人を侮辱されたら、許せる訳ないでしょ?」
「何を言って……」
男を無視して詠唱を開始する。
「
深紅に光り輝く魔法陣が私の回りの地面に展開される。
「
「貴様っ、魔術師かっ!」
男がわめきながら騎馬に乗って突撃して来る。
「
だけど気にしない。
「|Durch die nun zerbrochene Stille, Rufen wir unsere Namen《澄める大気をふるわせて、互に高く呼びかわし》
魔法陣から黒い影が噴き出し、風圧で私の服の裾を捲りあげる。
「
影が人の形を取り、溢れ出て来て私を守る壁となる。
「
「この程度の雑兵っ、突破してくれるわっ!」
突撃してくる馬鹿が、影に触れた瞬間。一切の間もなく完全に停止した。
「な、なんだこれはっ!?」
「お、おい、周りがおかしいぞ!」
「どうなっている!?」
創造は異界を創り出す。ジャンヌに言わせれば固有結界となるでしょうね。赤く染まった世界に影の食人が動き出す。振れれば止まる。たかだか魂を一つしかもっていない連中ならばよほどの事が無い限り突破される事はない。
「誰に喧嘩を売ったか、教えてあげる」
動けなくて恐怖に染まるヨーゼフの頬を撫でる。
「ぜ、全軍突撃! 我を助けよっ!」
「あれ、一騎打ちじゃないの? そっか、じゃあ遠慮はいらないわね。私の力ってこっちで強化されてるのよ?」
「何を言って……」
「だって、ねぇ? こっちじゃ人より強い魂を持つ者なんて、沢山いるんだから。こんな風に」
指を鳴らすと、影から人ではなく影で作られた巨大な翼を持つモンスター、ワイバーンやドラゴンが出現する。もちろん、多数の拷問器具が現れて影達がそれらを使って敵軍に襲い掛かる。
「ねぇ、もしかして自分はここで死ぬ人間じゃないーなんて思ってる?」
「当たり前だ! 我は貴様等とは違うのだ!」
「そう。それじゃあ死にたくなるまで遊んであげる」
ルービックキューブを身体の中から取り出す。
「んっ、んんっ……ふふ、さあお前の力を示しなさい。3000人を拷問し、絶望に染まった魂を美味しく食べちゃいましょう」
多数の拷問器具が出現して襲い掛かる。私は自ら愚か者を拷問する。だけど、その途中で私の世界はーーあっさりと壊れた。
「え?」
「あんた、なにしてんの?」
「ペスト。何って……」
周りを見ると、血の海の中に居て目の前には貼り付けにされて、爪を剥がされ、杭が身体の至る所に打ち付けられて
「やり過ぎちゃった。てへ」
「てへじゃないわよ! どうすんのよ、これっ!」
ペストが後ろを指さす。そこには蹲って私を震えながら見詰めてくる兵やリーゼンフェルトの街の人達。
「えっと、後悔はしているわ。でも、反省はしていないわね」
「あんたは……」
「まあ、いいじゃない。遅かれ早かれこうなるんだか。どうせ軍は暴力装置よ」
「まあ、そうだけど……それで、コレはどうするの?」
「どうしよっか。どうしてほしい?」
私が声を掛けると、殺してくれ、としか言ってくれない。だから、魂を取り込んで永遠の地獄を苦しんで貰いましょう。
「さて、こっちだけれど~」
「ば、化け物めっ! 近寄るんじゃない!」
「あらあら」
「ペスト、はやくその化け物をどうにかしろ!」
「お兄様、ルサルカは化け物じゃないわ」
「いいよ、ペスト。私は化け物。それは事実だからね。それよりもちゃっちゃと残りの処理もしちゃうわ」
「ルサルカがそう言うなら仕方ないわね」
「気にしちゃ負けよ」
それよりも、アリエッタの事を……忘れていたわね。探しに行ってみると、地面に杖でのの字を書いて悲しそうにしているアリエッタを見つけた。他の部下たちも必死に慰めている。
「ごめん、ごめんね、アリエッタ!」
「……うぅ……どうせ、アリエッタは……」
「よ、よーし、このままお姉ちゃんと一緒に侵攻しちゃおう! そうしよう!」
「また勝手な事を……」
「いいじゃない。それにこのままだと不味いわよ」
「そうね。私は後処理をしておくから、進みなさい」
「はーい」
即座に魂を回収して目的の場所に移動する。
しばらくして、敵の防衛拠点が見えて来た。なのでアリエッタがかなり距離があるのに杖を構えた。そして、数秒後には基地を飲み込むほどのクレーターが出現していた。どう考えても火力が過剰すぎる武器ね。