真夏の二十四日   作:夏草

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これで最終話になります。

最終話は話の流れを考えて分けておりません。なので少しだけ長いかも……お叱りはうけます。

そして後日談を入れるか考え中です。入れるべきかなぁ、いれないべきかなぁ。

うーむ、悩ましい。


真冬のエピローグ

「これで俺と彼女の物語は終わり、ご清聴ありがとう」

 

彼は全てを話し終えるとゆっくりと息を吐いた。外の雲はいつの間にか分厚い雲に覆われていた。

 

手にもつ紙コップにはもう水は入っていない。暖房が効きすぎた部屋に長い事いたせいか喉が何時もより多く乾く気がした。

 

「そう、そんなことがあったんだよ、ほら見て見な」

 

彼はそう言ってテレビを指さす。そこにはラブライブ優勝は『音ノ木坂学院 μ’s』の文字と喜びを露わにする九人の少女の姿。

 

「やっぱり優勝したね。俺の目に狂いはなかったわけだ」

 

彼はそう言って笑う。笑う彼の漆黒の瞳は何を映しているのだろうか。いやいや、そんなことは考えるまでも無く分かり切っている。

 

「このμ’sってグループなんだその高坂 穂乃果っていうガキんちょは……ってまぁキミにはそんなこと言わなくてもいいだろうな。――なぁ、高坂 雪穂ちゃん」

 

え……?

 

その言葉は自然と口から漏れていた。何時からこの人は私の名前を……。

 

少なくとも私は彼に自らの名前を名乗ったことは無い。

 

「どうして、私名前を知っているんですか?」

 

「似ていたからさ……それは、キミが彼女にね」

 

「似ていたって……貴方は今はもう」

 

真っ黒な瞳が私を映す。でも、私は知っている。

 

「うん、その通り今でこんな目ただの飾りだ」

 

彼の目がもう何も映し出してないことを。

 

「でも、キミと初めて出会った時はまだうっすらと見えていた。だから、一目でわかったよ、キミが高坂 雪穂だってね」

 

「…………と言うことは」

 

「うん、キミがここに来た、その意味も分かっている」

 

彼はそう言うと状態を起こす。腕についていた体中についている様々な管やら点滴やらが一斉に揺れた。

 

「ちょっと、大丈夫なんですか!?」

 

「あははは、心配しないでくれ、これくらいはどうにでもなる。それに幾ら棺桶に九割方突っ込んでいるとは言え寝たままだと失礼だろ?」

 

彼はケラケラと笑った。その顔はとても重病人には思えない。まるで、悪戯好きな子供のような無邪気な笑みだ。

 

「それで、携帯電話か何か持って来ているんだろう?」

 

彼はそう言いながら私に右腕を差し出す。随分と細いその腕には点滴の針が三本、痛々しく刺さっていた。

 

「携帯は持っていますが、ここは病院なので電源は切っています。意外と常識人なんですよ、私」

 

「ん? どういうことだ。キミは中継役で来たんじゃないのか?」

 

「ねぇ、知ってました? このラブライブの中継って実は生放送じゃないんです」

 

「…………」

 

「確かに今日はラブライブ本戦です。でもテレビでは撮影したものを一時間遅らせて放送してたんです」

 

「と言うことは……」

 

彼はしばらく考えるそぶりを見せたあと、

 

「まぁ、まずったな電話なら、何とでもやりかわせる自信があったのに……でも、いいのかい、こんな後わずかな命しかない冴えない男のために……優勝したんなら祝賀会やインタビューなんていっぱいあるだろうに」

 

心底罰が悪そうに口端を上げた。

 

「僅かなんて……僅かなんて言わないでください! 生きて、生きて下さい!」

 

それがお姉ちゃんの望みであり、私の望みでもある。

 

「……悪かったな」

 

「例え低くても今日の手術が成功すれば……」

 

確率は確かに低いと聞いた。でも、彼を執刀するのは日本で一番の腕を持つと言う西木野先生。可能性は日本中の誰よりも高い。

 

「そうだね、そこは西木野先生に期待しますかね。そう言えば晴海ふ頭。ならこの病院まで」

 

「はい、お姉ちゃんのとことだから直ぐに向かっていると思います。だから――」

 

その時だった。ドタドタと騒がしい足跡が扉越しに聞こえる。

 

間違いない、噂をすれば影ってやつだ。

 

足音の犯人はノックなんてものはせず、いきなり扉を開け放った。

 

 

 

―――――――――――――

 

―――――――――

 

―――

 

「お兄ちゃんっ!」

 

ノックも無しにいきなり扉を開け放った主は入室して開口一言目に元気にそう言った。

 

顔を確認するまでも無い。

 

「部屋に入る前はノックをするもんだぞ」

 

「そうだよ、お姉ちゃん」」

 

「うっ……ごめんなさい」

 

急にしおらしくなった彼女の声を聞いて思わず笑ってしまった。横からも笑い声が聞こえるのでどうやら妹さんも同じく笑っているようだ。

 

「あぁ、雪穂にお兄ちゃん、何笑ってるの!」

 

「ごめんごめん、お姉ちゃん。それじゃあお邪魔な私は消えるから、後は頼んだよ」

 

「うん」

 

「それじゃあ、失礼します。また、必ずあいましょう」

 

その声におう、と気軽に返事をする。しばらくして、扉が動く音が二回した。どうやら言葉通り妹さんは出て行ったようだ。

 

「とりあえず、そこに妹さんの出した椅子があるはずだからそこにでも座りなよ。飲み物は冷蔵庫に入ってるし、コップはそこらの棚に紙コップがあるはずだから適当にやってくれ」

 

「うん、ありがとう」

 

そして、俺は彼女と二人きりになる。今回は一年振りではなく僅か四か月ぶり、真夏ではなく真逆の真冬の再開。

 

「まさかこの季節に会うなんて新鮮だな」

 

「そうだね、いつもお兄ちゃんと会うのは夏だから何だか変な感じだよ。四か月ぶりだね」

 

「あぁ、そうだな。ちゃんと暖かい恰好してるか? 馬鹿は風邪を引かないと言うけど引いたらことだぞ」

 

「大丈夫、いっぱい着てるからさ。それに穂乃果は馬鹿じゃないもんっ! 馬鹿は……馬鹿はお兄ちゃんだよ! 病気の事を今まで隠して! 穂乃果……穂乃果本当に心配したんだから……」

 

暖房の動く音に紛れて聞こえてくるのは少女の嗚咽。昔なら迷わず抱き着いてきたのに流石に今日は遠慮したらしい。それはそれで何だか嬉しいような悲しような何ともい言えない気持ちだ。

 

「すまなかった。俺は馬鹿だ」

 

そこで会話は途切れる。部屋には少女の鳴き声と暖房の風を送る音だけが響く。テレビは何時のにか消えていた。妹さんが消していったのだろうか。

 

あの夏の日同じ二人きりなのに、あの時とは違う。クマゼミの声も聞こえなければ、殺人的な日差しも無い。草の匂いを運ぶ生ぬるい風もなければ、うっとうしい蚊の羽ばたきも聞こえない。

 

あの活力溢れる夏と違い冬は死の匂いが濃いのだ。

 

「ねぇ、お兄ちゃん」

 

どれほど、時間がたったのだろうか。漸く泣き止んだのか彼女は小さく口を開いた。

 

「なんだ」

 

「穂乃果、約束通りラブライブ優勝したよ」

 

「あぁそうだな、聞いてたよ。スノーハレーションだっけ? いい曲だったぜ」

 

見ることは叶わなかったが聞くことは出来た。今の俺にはあの夏の約束の半分はどうにか守れたようだ。

 

「うん、ちゃんと見ててくれたんだね、ありがとう」

 

「気にするな、約束だ」

 

思い返す。あの夏の日々を。高坂穂乃果と言う少女と過ごした合計でも二十四日しかない、あの八年間を。

 

「それでね、約束通り聞かせてほしいんだ――」

 

あの夏祭りの夜の様に都合よく誰かの介入があるなんてことはもうない。これから先の言葉を止める権利はもう誰にも残されていないのだ。

 

「私、高坂 穂乃果は――」

 

そして、俺はもう、今年の夏の様に沈黙を選ぶことは出来ない。

 

あの夏の日、俺は確かに約束したから。

 

「――あなたのことを心から愛しています。付き合ってください!」

 

彼女は最後の言葉を紡ぎ終わる。

 

あの夏と何もかも違うこの季節で、彼女の声だけはあの夏と同じく穢れを知らないまま純白だった。

 

完璧だ。ぐうの音も出ない位完璧だ。ここまでまっすぐ言われたらには俺もしっかり返さないと、心の底からの言葉を返さないといけない。それが誠意だ、それが人情だ。

 

 

「はははははは」

 

「どうしたの、お兄ちゃん急に笑い出して」

 

「悪い悪い何も可笑しく笑ったわけじゃないんだ。やっぱり先越されちゃったなと思ってさ。本当に俺ってかっこ悪いなぁ」

 

「ん?」

 

目が見えなくても分かるきっと今の彼女の頭の上にはハテナマークが浮かんでいることだろう。

 

「さて、告白の答えだがそれはもう少し待ってほしい」

 

「え……でもお兄ちゃんあの時」

 

「いや別にあの時の様に逃げるような真似はしない。お前も知っての通り、俺は今日大きな手術だ。成功率はあまりよくはない。でも、成功しなきゃ俺は死ぬ。このままでも死ぬ。死なない為には避けて通れない手術だ。その手術が終わるまで返事は待ってほしい」

 

「それっていったいどういう意味?」

 

「そこまで言わないと分からないか? 恥ずかしいから一回しか言わないぞ――

 

 

 

 

 

   ――――愛している、付き合ってくださいっていうセリフはな、男の方から“レディー”に言う言葉なんだよ。本当に一人前のレディーになったな、穂乃果」

 

目が見えなくて困る事ばかりだったが今ばかりは感謝したい。恐らく今の俺の顔は何時の日かの穂乃果顔負けに真っ赤だろう。そんな笑える顔は自分自身でも見たくない。

 

「それって!? それに穂乃果の名前呼んでくれたよね!? ガキんちょやお前じゃなくて穂乃果って!」

 

「うるさい、たった一回だから蒸し返すな。だから、お前には祈って欲しい。今日の手術が成功するように」

 

手術の成功確率は多く見積もっても二割。あの名医として有名な西木野先生でも二割だ。

 

「うん、病気が治ったらまた言って貰うんだ!」

 

「あぁ、一回だけな」

 

「えぇー! ダメだよ。何回でも言ってよ! 穂乃果は何回でも言えるよ、お兄ちゃんのこと愛してるって!」

 

なんでこの少女はここまで感情の表現がストレートなのだろうか。聞いているこっちが恥ずかしくなってくる。

 

「あぁ! お兄ちゃん顔真っ赤だ! もしかして、照れてるのー?」

 

「お前もどうせ顔真っ赤だろ……」

 

「べ、別にそんなことないもん! ふ、普通だよ! う、うん、真っ赤なんてそんなはずないし」

 

「残念だな、嘘をつくなんて」

 

「う、嘘じゃないよ」

 

「実は俺うっすらだけど目が――」

 

「ごめんなさい、穂乃果もさっきから恥ずかしくて顔真っ赤です」

 

「――見えるわけないんだどな」

 

「あぁ、お兄ちゃんが穂乃果のこと騙したっ!」

 

「悪い悪い。でも、最初に嘘ついたのはお前だろ?」

 

「うぅー、でも……」

 

「唸るな唸るな。悪かったって、機嫌直してくれよ」

 

「うぅー、じゃあ手術終わったら何回でも穂乃果に大好きって言ってくれる?」

 

「あぁ、何回でも言ってやるよ」

 

「本当!?」

 

「本当本当、だから手術の成功を祈ってくれ」

 

成功率二割。きっと、俺一人だったら失敗していただろう。

 

でも、今なら大丈夫――

 

「うん、穂乃果祈ってるよ、お兄ちゃんが元気になることを!」

 

だって、女神の御加護がついているんだぜ。

 

「お兄ちゃんっ! ファイトだよっ!」

 

ーーちゅ。

 

唇に触れた柔らかい感覚の正体は考えるだけ野暮だろう。

 

また一つ死ねない理由が出来てしまった。

 

それから、これは後から聞いたらしいが俺が手術を受けた十二月二十五日の午後は雪がちらつくホワイトクリスマスになったそうだ。

 

snow halation

 

神様もなかなかどうして分かっているじゃないか。

 

 

 

     ――――――――The End




駆け足でしたが無事に完結です。後は後日談を入れるかどうか……。

天から降ってきた三連休で気晴らしがてら書いてみました。また連休が手に入ったら何か書きたいですね、アイデア絞らないとなぁ。

それでは皆様、またお会い出来ればどこかで。

追伸 感想待ってまーす。
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