真夏の二十四日   作:夏草

13 / 13
これはいつかの日にくるかもしれない話 2

「ここか」

 

穂乃果の言う店は俺の家から歩いていける距離にあった。大通りから一本外れた路地にあるオシャレな店。普段なら絶対に入らない、というか入れない店の雰囲気に二度ほど手にもつメモを確認してしまった。

 

悩むこと数分。意を決して中に入り通されたのは一枚の扉。何でも外見だけでなく中身もそれなりの店のようで玄関先にあるカウンター以外は個室になっているようだった。

 

扉を越しに聞こえるのは楽しそうな声。聞きなれた声が聞こえてきた。どうやらここで間違いないようだ。

 

――トントン。

 

控え目に二度ノックして扉を開ける。

 

「あっ! お兄ちゃん!」

 

目的の人物は一番手前に座っていた。

 

「ほ、穂乃果に男……。ほ、ほんとにいたニコ……」

 

「ハラショー……」

 

「穂乃果っちも中々やるやんっ!」

 

部屋の中には穂乃果ほどの年の女性が九人。非常に入りにくい……。

 

生まれてこの方、こんな入りにくい場所はなかった。男の俺がこの空間に入るには相当の勇気と度胸が必要だ。せめて知り合いがもう一人、雪穂ちゃんくらい居てくれれば非常に嬉しいのだがないものを強請ってもどうしようもない。部屋に入らなくてもここから穂乃果に用件を聞けばいい。

 

そう思い口を開こうとしたその時、

 

「貴方が穂乃果を誑かしているという男ですかっ!」

 

すぅーっと一人の女性が目の前に現れた。

 

「は、はい」

 

丹誠な顔立ちに綺麗な腰まで伸びる黒髪。まごうことなき美人が目と鼻の先、具体的には俺の10cm程度前。酔っているのかアルコールの匂いが漂ってきている。

 

ギロリと射抜かんばかりの迫力を持った目と合った。

 

――下手なことを言えば殺される。

 

そう勘違いしてもおかしくない迫力が彼女には備わっていた。

 

「ごめんなさーい。ちょっと彼女飲みすぎたみたいで……。ほら、海未ちゃん行くよ。流石にいきなりそれは迷惑だよぉ」

 

そんな彼女を止めたのはこれまた長髪が綺麗な女性だった。大きな目に柔和な印象を与える彼女は後ろから今にも俺に襲い掛かりそうな女性を後ろから抱きつくようにして後退する。

 

その様子をみて少しばかり安心する。

 

「ちょっと、ことり離してください。――私は彼が穂乃果に相応しいか見極めないといけないのですっ!」

 

いきなり、あんな美女に詰め寄られるとどう反応すればいいのか分からんからな……。でも、何となくだがどう答えても駄目だった気がする。

 

「それは穂乃果ちゃんが十分にやっていると思うから大丈夫だよぉ! それよりも、海未ちゃん、酔っ払いすぎだよぉー」

 

「何を言っているのです!私は酔ってなど……」

 

ワーワーキャーキャーと席に戻っていく美女たちを見送る。

 

しかし、あの彼女どこかで見たことが……。凛とした顔立ちに芯の強そうな瞳、そして綺麗な腰まで伸びる黒髪。まるで大和撫子を体現したような容姿。

 

ん? 大和撫子……?

 

さっき確か、海未ちゃんって言ってたよな……。ん? んん?

 

ま、まさか……な。

 

「もしかして、園田流の園田 海未さんですか?」

 

恐る恐るといった形で口から出た言葉に動きが止まった。

 

「えぇ、私がその園田 海未ですが……」

 

返ってきたのは肯定。

 

――園田 海未。

 

日本無形文化遺産 日舞 園田流の継承者にしてその若さですでにその殆どをものにしていると言われる天才。日舞の腕もさることながら彼女の容姿も物凄い。立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花と言う言葉しっくりくるのは彼女くらいなものだろう。そしてその素晴らしい容姿も組み合わさり、よく雑誌なので特集を組まれるほどだ。その影響力は凄まじく、新しく日舞を習い始めた人は彼女の影響が九割以上あるといわれるほどである。最近巻き起こっている日本舞踊ブームの立役者だ。

 

「え? お兄ちゃん、海未ちゃんこと知ってるの?」

 

「知ってるの何も有名すぎるだろ! 日舞の最大派閥だぞ、園田流は!」

 

「へぇーさすがお兄ちゃん! じゃあことりちゃんのことも知ってる?」

 

「……ことり?」

 

「うん、ほらことりちゃん!」

 

そう言って穂乃果は隣で園田 海未さんに抱きついて席まで戻ってきた女性を指す。

 

「えへへ……」

 

温和な笑みを浮かべている女性。優しそうな大きな瞳、そしてこれまた特徴的な長髪。それにことりと言う名前……。ここまで揃うとなれば、

 

「もしかして、デザイナーの南 ことりさん……?」

 

「あ、はい。……いちおう」

 

返ってきたのはまたもや肯定。

 

「さすがお兄ちゃん、ことりちゃんのことも知ってたね!」

 

「知ってるも何も今、日本で……いや世界でもっとも有名なデザイナーだろ!」

 

南 ことり

 

今最も世界的に有名なデザイナー。その範囲は洋服から始まり、ドレス、和服、靴、そして家具、インテリアなどなど多岐に及ぶ。そのシンプルかつ高級感あふれるデザインは幅広い層で人気で、新しいモデルが出るたびに直ぐに街の流行になる。服においても家具においても彼女が世界の流行を作り出すといってもいまや過言ではない。

 

「次の流行は南 ことりが新しい服を考案したときに出来る」そう言われるだけの影響力が彼女にはある。

 

しかし、人気がある分彼女のデザインした物は高価になり、服なんてTシャツだけでも一着数万、家具に限ればどれだけ小さな物でも俺の半年分の給料はくだらないだろう。

 

服や家具に興味のない俺のような人間ですら知っているのだ。もはや日本中で彼女を知らない人はいないのではないだろうか。

 

園田海未と南ことり。

 

まさか世界規模で有名な人が穂乃果の友人だったとは……

 

「へぇーことりちゃんってそんな有名だったんだぁー。凄いね!」

 

俺の驚きをよそになんとも本人は気軽なものだ。

 

「ううん、穂乃果ちゃんに比べたらまだまだだよ……。この中じゃ絶対穂乃果ちゃんが一番有名だって」

 

しかし、有名人が二人もいるとなれば、

 

「ま、まさか他に凄い人がいたり……」

 

狼狽を隠せないながも部屋の中を見渡す。

 

「ま、ま、まさかかと思いますが、――モデルの綾瀬 絵里さん?」

 

「ええ、そうよ。私も有名になったものね」

 

一流モデル。

 

「――占い師の東條 希さん?」

 

「そう、うちが東條 希なのです! 占ってほしいことがあれば何でも占ってあげるよ!」

 

外れることはないと海外から訪れる人が多いと聞く人気占い師。

 

「――医師の西木野 真姫さん?」

 

「ええ、そうよ」

 

神の腕を持つという名医。

 

「――陸上の星空 凜さん?」

 

「その通りだにゃー!」

 

陸上の世界記録保持者であり人類史上最も速いと言われる女性。

 

「――女優の小泉 花陽さん?」

 

「あ、はい。一応、じょ、女優を少々……」

 

今最も人気の女優。

 

「そして……」

 

「もちろん、私のことも知っているわよね」

 

扉の対角線上に居る女性。小柄で、両サイドで結んだ髪が特徴の彼女は――

 

「――すみません、どちらですか?」

 

「そうそう、日本で一番有名なアイドル、あの矢澤 にこよ……って知らないの!?」

 

あぁ、俺あまりアイドルとかに興味ないんだよなぁ。穂乃果に付き合ってラブライブだけは毎年みるけど……。

 

まだまだ夜は長い。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。