真夏の二十四日 作:夏草
いるんですが、投稿はどうするか考え中です。
毎日一話ずつ更新するかなぁ。
時刻は昼と夜の境目の黄昏時。空は鮮やかな茜色に染められ、西の地平線には大きなオレンジが沈もうとしている。辺りにはいつも通りクマゼミの声が鳴り響き、生ぬるい風が駆け抜ける。辺りを見渡せば一面に見える緑色の世界。都会とは本当に大違いだ。
「あいつ、遅いなぁ」
そんな中俺は祖母の家のブロック塀に寄りかかりある人物を待っていた。俺がここにきて待つ人物なんて一人しかいない。もう既に分かっているかも知れないが、高坂 穂乃果その人だ。理由は単純、ここから20分ほど歩いた場所で開かれる夏祭りに行くためだ。何時も何やかんやで日程が合わず二人で行く事はなかったのだが、今年は時のめぐり合わせが良く俺と穂乃果がいるときに開催となったので、これを気に行こうという話で落ち着いた。勿論言い出したのは穂乃果で俺ではない。
少しばかり昔の事を思い返す。俺は流されるように大学に入り、今年でもう三年。穂乃果も今年高校生になった。初めて会った時はあれだけ小さかったと言うのに今では身長もすっかりと伸び俺の肩まではあるだろう。身長だけではない、体付きももう大人そのものだ。昨日あった時なんてドキッとする動作が増えた。本人には絶対に言ってやらないが本当に美少女に成長したものだ。これで、中身も落ち着いてくれれば言うことはないのだが、それは言ってもしょうがない。それにあの活発で馬鹿なところが穂乃果のいいところかも知れないし。
「お待たせ、お兄ちゃんっ! ごめん、準備に戸惑っちゃって」
噂をすれば影。凛と珠のなるような純白の声はもうはや聞き間違える筈もない。
よほど急いでいるのかカツカツとした音が蝉の合唱の合間に聞こえてくる。
「遅いじゃね――――」
結構待ちぼうけを食らったのだ一言何か言ってやろうと、ブロック塀に預けていた体重を自身へと戻し、穂乃果の方を向く。
その刹那
――俺は言葉を失った。
夕日をバックにこちらに小走りで駆けてくるのは見慣れた顔。大きな瞳は光の加減で青く見え、黒と言うよりかは茶髪の地毛が体の動きに合わせサラサラと揺れる。髪型は肩の辺りまで伸びた髪を右サイドを一つリボンで留めるスタイル。リボンは俺がいつかプレゼントしたやつだ。
顔の輪郭はとても整っており、その顔の良さをスラリと伸びた高い鼻が強調していた。どこからどう見ても昨日見た高坂穂乃果だ。
服装は何時ものワンピースではなく、淡い赤の浴衣。オレンジの金魚が数匹泳いでいるデザインの浴衣だ。
夕日をバックに浴びるその姿はとても風景に調和して、まるで一つの芸術作品のようだった。
今の穂乃果を文字であらわすとどうだろうか、容姿端麗、純情可憐、絶世独立、そのどれもが当てはまる気もするし、そのどれもが当てはまらない気もする。ならこれはどうだろか。琳瑯璆鏘の美人、俺がもつ最上級の言葉だ。でも、どこか当てはまらない気がする。
そうだ、この時俺は漸く気付いた。つまり、今のこの穂乃果を現す言葉は今の俺には用意できないのだ。ならば沈黙をするほかない。語りえぬことについては沈黙をするほかない。そう、そういうことだ。
「どうしたの、お兄ちゃん?」
俺が言葉を止めたことが気になるのか首を傾げこちらを見上げる穂乃果。随分と可愛らしい。……ってそうではない、彼女は俺の妹分なのだ。可愛いと言っても小さい子を見て可愛いと言う意味だ、はき違えないでくれ。
「い、いや何でもない」
「ふふふ、変なお兄ちゃん」
彼女はそう言って笑う。
「ねぇねぇ、どうこの浴衣! おばあちゃんに着つけても貰ったんだ!」
穂乃果はそう続けるとその場でくるりと一回回った。なんだ、やけに足音が響くと思ったらこいつ下駄を履いていたのか。
「ま、まぁガキんちょの割には随分似合っているんじゃねぇか?」
「くすくすくす」
「な、何笑ってんだよ!」
「お兄ちゃん、顔真っ赤だよっ! もしかして、照れる?」
「ば、馬鹿、これは夕日のせいだよ。それに、早く行くぞ。誰かのせいで時間が少し押してるからな」
全く自分で自分を子供っぽいと思う。これではどっちが兄貴分か分からないではないか。俺としてはこう、年上の余裕を持ちたいところだが、一度張った意地は中々引っ込まない。踵を返し一人目的地に歩き出す。
「あぁ、待ってよー。お兄ちゃん!」
まぁ、でも――――
追いついてきた穂乃果の方を振りむと目線を合わせる。青いみがかかった瞳と俺の黒の瞳が交差する。
「な、なに、お兄ちゃん」
「本当に美人になったな」
ぽんぽんと二回ほど頭を軽く叩いておく。
「え……」
顔をいきなり夕日よりも赤く染める穂乃果。まるでトマトみたいだ。
「どうした? 顔が真っ赤だぞ」
「う、うぅ……これは夕日のせいだもんっ!」
――――意趣返しくらいはしておきたいところだ。
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