真夏の二十四日 作:夏草
もともと短編だったので明後日には最終話投稿していると思います。
「ほえー、意外とちゃんとした祭りじゃないか」
辺りを見渡せば色取り取りのカラフルな出店が列をなしていた。ど田舎の夏祭り何てちゃっちな物だと高を括っていたが、これはいい意味で予想を裏切られた。祭りの開催場所は神社。伏見稲荷系の系列らしく石段には鳥居がいたるところに並んでいた。出店は境内に上る石段の下にも並んでおり、人の数も多い。ウチの祖母の家の周りには禄に民家も無いと言うのにどこからこれだけの人数が湧いてきたのだろうか。村の全人口が集まってきたと言われても納得するぞ。
人が生み出す雑踏、蝉時雨、そして出店の自家発電機の音に、どこからか聞こえる祭囃子。数々の音が入り乱れるその光景は夏の風物詩そのものであり、地元の夏祭りと大差はない。花火は残念ながらないようだが、これは十分に期待できそうだ。
「……うん、そうだね」
結局穂乃果はお祭り会場につくまで顔を赤らめたまま下を向いて歩いてきた。意外と耐性ないのな。今でもほら、なんかしおらしいし。
「なんだまだ照れてるのか? ほれさっさと見て回るぞ」
「だ、だって、お兄ちゃんが……」
「ん? ガキんちょ過ぎて今までそんな風に言われたことなかったか?」
それなら穂乃果の周りの男はそうとう見る目の無い奴か意気地なしばかりなのだろう。まぁ、これだけの美少女だ。恐らく後者の可能性が高い。
「ち、違うの……。お兄ちゃんが……お兄ちゃんに言われたら」
顔を赤らめたままごにょごにょと呟くように口を動かす穂乃果。色々な音が混じるここでは残念なことに俺の耳にはほとんどその呟きは入ってこない。恐らくどうせろくでもないことを言っている可能性が高いため無視して先に行くことにする。
「って、待ってよ。穂乃果を置いていかないでよーっ!」
金魚すくい、イカ焼き、たこ焼き、はしまき、かき氷、射的、型抜きなど夏祭りにはこと欠かすことのできない出店が立ち並ぶ。そんな通りを穂乃果を連れ添ってゆっくりと楽しむように歩く。
「このはしまき美味しいよ、お兄ちゃん」
横を歩く穂乃果の手にはさきほど買ったはしまきが一つ。
「そうか、それはよかった」
「お兄ちゃんは何か食べないの?」
「俺は……俺はいいや、実は家で夕ご飯食べてきてな」
「えぇー勿体ない! 夏祭りに来て出店で買い食いしないと何しに来たのか分からないよ!」
その言葉の通り、穂乃果はこの祭りにいてすでに結構な物を食べていた。イカ焼き、たこ焼き、リンゴ飴、かき氷、そして今のはしまき。覚えていないだけで他にもパクパクいっている可能性もある。まぁ、さきほどのしおらしい穂乃果よりもこうやって物をバクバク食べながら笑う穂乃果の方がらしいと言えばらしいので、俺としては元に戻って良かったと思うばかりだ。
「まぁ、俺のことは気にしないでガキんちょはガキんちょらしく一杯食えばいいぞ」
「むぅ、また穂乃果のことをガキんちょって言った」
ぷーっと頬を膨らませる動作は出会ったころと何も変わっていない。その口元にははしまきのソースがついていた。こう言う所がまだまだ子供っぽい。
「そう言われたくないなら少しはレディーっぽくするんだな。ほら、口元にソースついてるぞ」
そう言って立ちどまり、ポケットに入っていたティッシュを二三枚取り出すとその口元を拭いてやる。
「ふにゃ!? な、何してる、お、お兄ちゃんっ!?」
「何って口元についたソースをとってやってるだけだ。よし、いいぞ」
「……うぅ、そんなの自分で出来るよ、穂乃果もう高校生だし、一人前のレディーだもん」
再び顔を真っ赤にしてモジモジモードに入る穂乃果。顔を真っ赤にしたり普通に戻ったり、また顔を赤く染めたり、色々と忙しいな。
「はいはい、一人前のレディーは口元にソースはつけないの。分かるか? まだまだお前はガキんちょだ」
「うぅー、自分だってさっき照れたくせに」
ジト目でこちらを見る穂乃果。
確かに先ほどは言葉に詰まったが、あれは穂乃果の普段見慣れない服装に戸惑っただけで、見慣れてしまえばただの妹分でしかない。そう、妹なら恋だの、愛だのいう情は生まれないのがこの世の常である。
「何言ってんだ気のせいだろ」
「うぅー! お兄ちゃんの意地悪ぅ!」
あっはっはっは、一度平常心に戻ってしまえばこっちのものだ。何とでも言えばいいさ。
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「あっ!?」
そんな少し間抜けな声とともに穂乃果の持っていたポイが破ける。上に載っていた金魚はそのまま波紋を立て水槽に戻る。大量の赤い金魚の中に混じって数匹だけいる黒い見た目のやつだ。
「あぁ、残念だねお嬢ちゃん。また失敗だね」
「うぅー」
かれこれこれで三回目。その全てで彼女は同じ黒い金魚を狙いそして、ことごとくポイを破っている。ちなみに黒い金魚も赤い金魚も大きさは同じなので例え赤い金魚を狙っていたとしても全てで失敗しているだろう。
「俺もサービスしたいんだけどね。商売だから……もう一回やるかい」
「――――」
「俺がやるよ。おっちゃん、はい300円」
穂乃果が何か言う前にかぶせておく。散々やったのだもう満足だろう。出店のおっちゃんに300円を手渡しポイを受け取る。
「穂乃果、あの黒い奴がいいんだな?」
「う、うん。あの黒い金魚がいい」
「分かった」
金魚すくいなんて言うものはコツさえつかめば誰でも数匹は簡単に取れるようになっている。知識と場数がものをいう遊びだ。まず、ポイは斜めに水に入れ、貼ってある紙全てを水につける。中途半端だと破れやすくなるまでだ。金魚を救うときは尾びれをポイの外に出す。尾びれが一番動きが激しくポイが破ける原因になるからな。そして、水から出すときも水に入れるときと同じく斜めに出す。これでOK。もしも夏祭り等で金魚すくいをやるときがあったらやってみてほしい。
「うわーすごいっ!」
「ほう、兄ちゃん、うまいもんだな」
ほれみろ、簡単なもんだ。
「他に欲しいやついるか?」
「あの、小さな赤やつも」
穂乃果の指さす先には集団の中で少しだけ小ぶりな赤い金魚。
「任せとけ」
数匹くらいなら訳はない。たまには年上らしいところ見せないとな。
「えへへっ、ありがとう。お兄ちゃん」
そう笑う穂乃果の手には透明の袋に入った二匹の金魚。赤と黒の二匹が自由に仲良く泳ぎ回っていた。
「まぁ、別にそれくらい気にするな」
「えへへ」
穂乃果は二匹の金魚を見ながら顔をほころばせる。何が楽しいのやら。
「しかし、なんでその金魚なんだ。他に一杯いたじゃないか」
「うーん、それはね。この金魚、お兄ちゃんに何だか似てない?」
そう言って穂乃果は黒い金魚を指さす。
「似てる?」
「うん、ほらこの素直じゃなさそうな顔とか、人を小ばかにしてそうな顔とか」
金魚に顔が似ていると言われて俺はどう反応すればいいのだろうか。穂乃果に限ってそんなことがないだろうが、もしかして俺って穂乃果に嫌われているのだろうか。
「じゃあ、そっちの赤いのはなんだ」
黒いのが俺と言うのは分かった。では、もう一匹の赤い金魚はなんだろうか。
「それは穂乃果だよっ!」
「ん?」
「ん、じゃないよ。だから穂乃果! 赤い金魚が穂乃果で黒い金魚がお兄ちゃん! 仲が良そうでしょ!」
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