ー武偵高ー
結局始業式には間に合わず、俺たちは憂鬱な気分で教務科[マスターズ]にチャリジャックの報告を済ませ、新しく配属された2年Aクラスに向かっていた。
「うぁ~、結局間に合わなかった~。」
「だなぁ・・・」
「キンジさえ足手まといにならなきゃなぁ・・・」
「俺のせいなのか!?」
「モチのロン!」
「ふざけんな!」
「俺はいたってまじめだ。」
「なお悪いわ!」
「「・・・・・・」」
「「はぁ~~。」」
別に俺はチャリジャックにあったから落ち込んでいるわけではなく、武偵を始めてから任務で金を貯めて初めて買った記念のチャリが木端微塵になったから落ち込んでいるのである。
ちなみにそのチャリ、買ったときは三万円もした。これで落ち込まない奴がいたらよっぽどの成金か、バカである。
あーあ、また新しくチャリ買わなきゃなー・・・・・・
「先生、あたしあいつらの間に座りたい」
うん、もう俺は今朝見たテレビの占いはぜってー信じない!
黒板に 神崎・H・アリア と自身の名前を書いたあのピンク髪の少女がこっちを指さしている。
あのときは気づかなかったが神崎は髪をツインテールにしていた。
クラスの奴らはこっちを見て神崎を見て、またこっちを見て「「「わぁーー!」」なんて言ってやがる。
担任の高天原ゆとり先生が「去年の三学期から編入したかわいい子を紹介する」なんて言っていたもんだからどんな子だろうかと思っていたら、まさかのこれだ。
「・・・なっ!?」
俺がなんかしたか!?俺じゃなくてキンジだろ!?
それはキンジも承知のようで、ガタガタ震えながら
「な、なんでだよ・・・!」
絞り出したような声で呟いてる。
見ている限り神崎がキンジを好いたわけではないらしい。ではなんだろうか、それに何よりも不可解なのはそこに俺も混ざっているということだ。まったくもってわけわからん。
「よ・・・よかったなキンジ、昌輝!なんか知らんがお前らにも春が来たみたいだな!先生!オレ、転入生さんと席変わりますよ!」
アホみたいに大声で言ってキンジの右隣、俺たちの間の席を立つ、身長が190近いツンツン頭のコイツは武藤剛気、強襲科[アサルト]にいたときのキンジや俺たちアサルトを現場に運んでくれる車両科[ロジ]の優等生で、乗り物と名のつくものならスクーターからロケットまで操縦できる特技を持つ俺たちの悪友だ。
「あらあら、最近の女子高生は積極的ねぇー。じゃあ武藤君、席を代わってあげて」
いやいや、ダメでしょそーいうの!
しかし先生はうれしそうに俺たちとアリアを交互に見てから、武藤の提案をOKしてしまう。
あの先生、俺たちの意見は無視ですか?
キンジが何かを抗議しようとした時、アリアが、
「キンジ、これ。さっきのベルト。」
と、キンジを呼び捨てにしつつ・・・・ん?ベルト?しかもキンジの?
いやでも、キンジがあのちっこいアリアにそんなことするわけが・・・・まさかな
キンジがベルトをキャッチするのを見つつ、俺が親友の過ちについて考えていると、
「理子分かった!分かっちゃった!これ、フラグばっきばきに立ってるよ!」
キンジの左隣に座っていた峰理子が、騒がしく席を立った。
「キー君、ベルトしてない!そしてそのベルトをツインテールさんが持ってた!でも、ツインテールさんは、キー君だけじゃなくりゅーりゅーの隣に座りたいとも言った!これ謎でしょ謎でしょ!?でも理子にはできた!できちゃった!」
アリア同様の背のちっこさの峰は探偵科[インケスタ]一のバカだ。
比較的校則が自由とはいえ制服そのものを改造しているバカは峰ぐらいだ。
ちなみに、りゅーりゅーというのは、バカな峰が俺につけた残念な渾名だ。
キンジのキー君も同じ理由らしい。
「キー君は彼女の前でベルトを取るような何らかの行為をした!そして彼女の部屋に置いてきた!さらにさっきキー君とりゅーりゅーは廊下でケンカをしていた、つまりこれはキー君とりゅーりゅーで彼女を取り合うケンカなんだよ!ということは、熱い熱い三角関係の恋愛真っ最中なんだよ!」
ツーサイドアップに結ったゆるい天然パーマの髪をぴょんぴょんさせつつ、峰はバカ推理をこれでもかと披露する。
三角関係?あるわけねぇだろ?んなもん。
だがここはバカの吹き溜まり、武偵高。
捜査官などを教育する学校なのにクラスは大いに盛り上がっている。
大丈夫か?この学校。
「キ、キンジがこんなかわいい子といつの間に!?」
「しかも昌輝と取り合いになっているんだろ!?」
「影の薄い奴だと思っていたのに!」
「昌輝は、俺はもっと大人の女性に興味がある、なんて言ってやがったのに、裏でこんなことを!?」
「フケツ!」
・・・おい、最後から二番目の奴でてこい、俺はそんなこと言った覚えねぇぞ!?ロリにも興味ねぇけど!
武偵高の生徒はこの一般科目でのクラス分けとは別に、それぞれの専門科目で部活のように組や学年を超えて学ぶ。だから生徒同士の顔見知り率は高い、高いんだが・・・・
にしても息合い過ぎだろ、まだ新学期初日だぞ!?
「はぁ・・・やれや・・」
俺がいい加減疲れ果てて首を横に振ったとき
ズダァンダァン!
鳴り響いた二連発の銃声が、場の空気を凍らせた。
その銃、ガバメントの持ち主であるアリアが抜きざまに発砲したのだ。
「れ、恋愛なんて・・・・くっだらない!」
翼のように広げたその両腕の先には、左右の壁に1発ずつ弾痕があった。
チンチンチチーン・・・・・・
拳銃から排出された空薬莢が地面に落ちる音がやけに大きく響いた気がした。
バカ峰はなんかのダンスみてーなポーズのまま着席。
・・・・武偵高では、射撃場以外での発砲は<必要以上にしないこと>となっている。
ようはしてもいいわけだ。まぁここの生徒はドンパチが日常茶飯事の部偵になろうというんだから、日頃から発砲に対する感覚を軍人並に麻痺させておく必要があるのだが・・・
だが新学期初日から発砲するのは、コイツだけだろうな・・・・
「全員覚えておきなさい!そういうバカなことを言うやつには・・・・」
それが、神崎・Hアリアが武偵高の奴らに言った最初のセリフだった。
「・・・・風穴あけるわよ!」
昼休みには神崎についての質問攻めに遭うのは目に見えていた。
俺はキンジを措いて窓からワイヤーを使い屋上まで逃げ、空を見上げながらのんびりしてっと、しばらくしてからクラスの連中をまいたらしいキンジが屋上へやってきた。
「おつとめごくろーさん。キンジクン。」
「うるせぇ、人のことを生け贄にしやがって。」
「はいはい、にしても神崎はいったい何を考えてんだろうな?」
「だなぁ・・・」
ため息混じりにしょぼくれてると・・・・屋上に、何人かの女子がしゃべりながらやってきた。
声を聴く限り、俺たちのクラスの強襲科[アサルト]の女子だな。
俺たちは犯罪者っぽく物陰に隠れた。
「さっき教務科から出てた周知メールさ、2年生の男子が自転車を爆破されたってやつ。あれ、キンジとマサキじゃない?」
「あ、あれあたしも思った。始業式でてなかったもんね。」
「うわっ。今日のキンジとマサキってば不幸。チャリ爆破にしかもアリア?」
1・2・3と並んで金網の脇に座った女子たちは、俺たちのことを話題にしているようだ。
俺とキンジは苦虫を噛み潰したような顔を見合わせ、とりあえず身を潜めておく。
「さっきのマサキたちちょっとカワイソーだったね。」
「だったねー。アリア、朝からマサキ達のこと探って回ってたし。」
「あ、あたしもアリアにいきなり聞かれた。マサキってどんな部偵なのかとか、実績とか。
<昔も今もアサルトのトップクラスで結構すごいよー>って、適当に答えといたけど。」
てきとーって・・・・
「キンジについても聞かれたから同様に<昔はアサルトですごかったんだけどねー>って答えといた。」
「でもどっちかっていうと、キンジよりマサキのほうが気になってたっぽいよね。」
「だねー。」
・・・・・マジかよ?めんどいなぁ。
「アリア、さっきは教務科の前にいたよ。きっとマサキの資料漁ってたんだよ。」
「うっわー。ガチでラブなんだ。」
ありえねー、朝から俺ストーキングされてたのかよ。げんなりするな。
「キンジもマサキもカワイソー。二人ともそこまで馴れ合うタイプじゃないのに、まさかのアリアだもんね。アリアってさ、ヨーロッパ育ちかなんか知んないけど、空気読めてないよねー。」
「でもでも、アリアって、なにげに男子の間では人気あるみたいだよ?」
どうやらも俺の話題はもうでないらしいな。俺がばれないよう降りようとした時、
「ていうかあの子さ、トモダチいないよね。しょっちゅう休んでるし。」
この言葉で俺の動きは止まった。・・・・トモダチが、いない?
「お昼も1人でお弁当食べてたよ。教室の隅っこでぽつーんって。」
「うわっ、なんかキモぉー。」
ワイワイ盛り上がる女子どもの会話は、もはや俺の感情を逆なでするもの以外の何物でもなかった。
トモダチがいないつらさは俺もわかる。昔、秋田武偵高付属中にいた頃は俺も浮いていたから。
しかし、まさかここで同じようなやつに出会うとは・・・・。
アリアは、ここ奇人変人の巣窟である武偵高でも浮くぐらいの目立つキャラらしい。
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