千葉ラブストーリー   作:エコー
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すみません。
私、嘘をつきました。

続き……書いてしまいました。

良ければ読んでやってください。


迷えるぼっち

「あちぃ……」

 梅雨明け宣言が下された途端、太陽のヤツ調子に乗りやがって。
 ジリジリとアスファルトを焼き、屋根を焼く太陽。
 夏の太陽は暴君である。
 もうキミには「お日様」なんて様づけで呼んであげないんだからねっ。

 それでも夕方になると幾分かは過ごしやすくなる。
 ま、ずっとエアコンの効いた実家に引き籠もってるから関係ないけど。

 総武高校も今日から夏休みとのことで、小町は今日はご学友(女子)と共に図書館で夏休みの課題をやっつけるつもりらしい。
 ふっふっふ。そう思い通りにいくかな?
 勉強というものは一人でするに限る。勿論誰かに教えを乞うのも大事だが、こと課題に関しては一人で当たるのが効率的だと思う。
 俺の脳内に浮かぶのは、今日終わらせる筈だった課題が八月末に大量に繰り越されて涙目の小町の姿だ。
 高校の夏休みって思うよりも短いのだよ、小町くん。

 そんなこんなで、実家には俺一人が居座る状態である。
 暇つぶしの読書を終え、暇つぶしのアニメ鑑賞も終え、今は少々物思いに耽っている。
 ザ・シンキングターイム。

 大学が夏休み入ってすぐのこと。
 俺と川崎は互いの想いを交わした。

 今迄の鬱屈した人生は終わり、眼前には薔薇色の未来が広がる……はずだった。

 だが、あの日から一週間。
 俺と川崎沙希が会うことは無かった。

 だって。
 思いっきり舞い上がっちゃって連絡先交換するのも忘れちゃったんだもん。

 小町と大志を経由して連絡をとることも考えてはみたが、その案は却下した。
 どうせ小町のことだから、理由を根掘り葉掘り聞いてきて、勝手に憶測を立てて勘違いして突っ走るに決まってる。
 その恥ずかしさとリスクを考えると、その選択肢は選べない。
 あと、どんな理由があっても大志には連絡させたくない。

 実家では毎夕、小町がメシを作ってくれるのだが、気のせいだろうか、高校の時よりも若干メニューが豪華になっていた。
 以前ならば一汁一菜にメインのおかずが並ぶ程度だったのだけれど、この夏に帰郷してからは三品四品は当たり前、時には食後のプリンまで用意されていた。

 何より、小町はすこぶる機嫌が良い。
 帰郷早々の手料理お預けがまるで嘘のように、お兄ちゃんお兄ちゃんと事ある毎にくっついてくる。
 ま、今日はたまたま友達優先だったってことだ。
 そう……だよな?
 構う相手がいなかったから俺に引っ付いてた訳じゃないよね、小町ちゃん?

 尤も、そんな歓待ムード全開なのは小町だけで、両親は安定の通常営業。何なら早くアパートに戻れ、家賃が勿体無い、バイトして金を入れろ、などなど様々な罵詈雑言で俺を家から追い出したがっている。
 カマクラに関しては……言わずもがな、である。

 ホント、家族やペットに愛されてるな……俺。
 ちょっぴり悲しくなるぜ。

  * * *

 両親が帰宅してきて少々家に居づらくなった俺は、小町お手製の豪華な晩飯を堪能した後、着の身着のまま家を出る。
 持ち物は財布とスマホだけ。別に何処に行く宛てもある訳ではない。
 ただ、一人になりたかっただけ。

 また俺は嘘をついた。
 本当は一人になんかなりたくない。
 誰かと、できれば川崎と一緒にいたい。
 言葉にすればそれだけのこと。それが今の俺には遥か彼方の蜃気楼の如く思えてしまう。
 カッコつけた言い回しをしたが、要するに「絵に描いたモチ」ってことだ。

 街灯だけが照らす中、ぶらぶらと足の向くまま歩き続けて、大通りに近い公園に辿り着く。
 別段、実家の近所でもないこの公園に足を運ぶのは三回目だ。
 一回目は五日前、二回目は一昨日。
 つまり帰郷してから今日で三回目となる。

 一回目、二回目と同じく自販機で御神体、もといマッカンを購入して目についたベンチに腰を下ろす。

 空を見上げると星は瞬きを繰り返している。今夜は月は出ていない。
 マッカンを煽る。甘ったるい冷たさが喉を通り、刹那の涼を与えてくれる。
 その涼しさも、あっと言う間に湿った夜風に取り去られる。
 余談だけど、何で「あっ」と言う間なんだろうね。
 別に一文字だったら何でも良いんじゃないのかね。
 例えば「ぬっ」と言う間、とかでも。
 ……うん、間違いなく余談だったわ。

 何をするでもなく、ただ夜空を見上げる。
 あっちで嫌味ったらしく光り輝くのはアルタイルか。じゃああっちがベガだな。
 ふっ。七夕が過ぎた今、お前たちは会うこともままならないんだろ。
 ざまぁみろ、クソリア充め。

 あの日。
 俺は確かに川崎と触れた。
 川崎は、俺の他には何もいらないなどと云っていたな。

 ならば俺は。
 俺にそこまでの気持ちがあるのだろうか。

 会いたい気持ちはある。
 同時に、このままでもいいかとも思ってしまう。
 俺に対する川崎沙希の気持ち。覚悟。
 それと同等のモノを持ち合わせていなければ、川崎に会うのは失礼ではないのだろうか。

 なんせ、生まれて初めてのこの状況だ。

 俺には解らないことだらけ。

 今迄は蚊帳の外でリア充共を小馬鹿にしていれば良かった。大学に通い出してからも、新歓コンパだのサークルだの、青春を謳歌せし輩たちを陰で嘲笑ってきた。

 だが、もう俺にはその権利も無くなった。
 あれは、独り孤高を自負する捻くれ者のみに許された特権。
 一度でも触れ合う幸せを感じてしまった俺には、もう彼ら彼女らを揶揄することは憚られる。

 ふと気づく。
 この公園は、あの日帰りに見た公園だ。つまり、気づかぬまま俺は川崎沙希の家の方向に足を向けていたのだ。
 何それ、気持ち悪い。まるでストーカーじゃんか。

 川崎は、こんな俺を嗤うだろうか。蔑むだろうか。
 それとも。

 答えは、彼女だけが知っている。

  * * *

「帰るか」
 時刻は夜十時過ぎ。良い子は寝る時間。
 俺は「どうでも良い子」なので起きていても全然へっちゃらである。
 何ならこれから実家に戻って「僕らはみんな河合荘」とか全話ぶっ続けで見るつもりすらある。

 ベンチから立ち上がってカーゴパンツの尻を叩く。
 マッカン様の亡骸ーー空き缶をダンクシュートで供養して、公園の外周の道に出た。

 ーー!

 息が止まる。
 鼓動が強く速く、踊り出す。
 どうして。
 どうして突然現れる。
 何の心構えもしていない、何の準備もしていないこの状況で、何故お前は此処にいる。
 そして。
 どうして、一目見ただけで心が踊るんだ。

 二つ向こうの街灯の下。
 スポットライトを浴びるように照らし出された川崎沙希がいた。

  * * *

「へえ、お前免許取ったんだな」

「うん、京華の保育園の送り迎えに便利だし」

 どうしてこうなった。

 今俺は、川崎沙希の運転する車の助手席に座っている。
 川崎は運転に集中しているようで、前方しか見ていない。
 つーかそれって危なくね?
 標識とかミラーとか見た方が良いんじゃないのかね。

「ひ、比企谷は……免許、とか」

 何だよ。緊張するなよ。
 こっちまで緊張しちまうじゃねえか。

「あ、ああ。先月取った」

「く、車は?」

「んー、もうすぐタダでもらえる予定だ。軽自動車だけど」

 別に軽自動車だからといって下手に出るつもりはない。だが所詮俺の車は親父の知り合いからの貰い物、しかも十年以上前の車で、二人しか乗れないらしい。
 何それ、まさか軽トラックなのかな。
 そんなこんなで、恐くてまだ車種を聞き出せてはいない。
 ま、来週には貰えるようだし、それまでには覚悟を決めておこう。
 もし軽トラックだったら、荷台に積む物も決めておかなきゃ。

 いつの間にか川崎の運転する車は国道14号線を走っている。
 こいつ、運転上手いな。
 少し余裕が出てきたのか、川崎が鼻歌を歌い始める。
 視線を向けるとすぐに顔を真っ赤にしてやめてしまったが。

「け、軽自動車でもいいじゃん。タダでもらえるんでしょ?」

「ま、そうだな。タダっていい響きだよなー」

 うん、オーケー。普通に話せてる。

「それに今あんたが乗ってるこの車、これも軽自動車なんだよ」

 な、なん、だと……?

「嘘、超広いじゃん。天井高いし、シート全部倒したら大人二人が余裕で寝られそ……」

 二人で、寝られる車。
 その車内に、俺と川崎。
 あらためて状況を確認してしまった俺が思うことはひとつ。

 これって、やばい。




お読みいただき、ありがとうございました。

短編で終わらせる筈だったのですが、ついうっかり調子に乗りまして……はい。

今回はプロットも何も決めていない、見切り発車的な物語なので、至るところに齟齬や矛盾が発生するかと思いますが、そこは優しく教えていただけたら嬉しいです。

お手間で無ければ、感想、評価など、よろしくお願い申し上げます。







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