ボクのお父さんの話をしよう。
お父さんの名前はバーダック。職業は下級戦士。
王族を頂点としたピラミッドを形成する惑星ベジータの社会制度では上級戦士と順に身分が下がっていき、最後に来る土台の部分が下級戦士だ。
社会を根本から支えていると言えば聞こえは良いのだけど、その実態は酷いものだ。
なんせ、他の身分の人たちとは住む場所すら分けられている。お仕えする王様にだって直接お目見えする事はできないし、バッタリ道で上級戦士と会おうものなら、上級戦士が通るまで道の脇で頭を下げていなければいけない。
ナッパさんの家は農園を開けるほど土地を持っているみたいだったけど、これは上級戦士の家に生まれたからだろう。下級戦士はそもそも、自分の土地を持てない決まりになっているからだ。
少し極端な表現になるけれど、上級戦士は貴族階級って奴で、下級戦士は農奴って言えば分かりやすいかな。
生れついた身分は変える事が出来ない。下級戦士に生まれた者は、どれほど努力しようが一生死ぬまで下級戦士のまま、上級戦士に頭を下げて生きなければならない。
だからかは分からないけど、プロレタリアたる下級戦士の多くは己の境遇に対する不平不満をはち切れんばかりに持っている人が多かったと思う。
どうしようもない社会の枠に無理矢理押し込められたストレスの向う先は、だいたい征服先の惑星へと向けられる。その惑星の住人には迷惑な話。
ボクのお父さんも、そんな例に漏れず常に何かにイライラしていて、仕事が決まると家庭の事なんて全部放って侵略に向かっていった。
惑星ベジータに巨大隕石が衝突した時、多くのサイヤ人が生まれ故郷と運命を共にした中。
混乱に乗じてお父さんは、救難活動の陣頭指揮に訪れていたフリーザさまを暗殺しようとしたらしい。
その時、お父さんが何を思っていたのかなんて知るよしもない。
結局、暗殺は失敗して、お父さんはフリーザさま直々に手討ちにあった。
顛末を聞かされたのは、運良く助け出された救助船の中だった。
「汚らしい猿が、飼い主へ恩を忘れて歯向うとは」
ボクにその事を話したフリーザさまの家来の人は、お父さんを口汚く罵った。
シュラフに包まったボクが、口にした言葉。
現在のボクを形成するきっかけとなった言葉。
なんの慰めにもなりはしない発端。
「…………すみません」
ボクは、卑劣な反逆者の息子なのだ――
翌日。
授業終了のベルと同時にボクは行動を起こした。
音を立てないよう。
目立たないよう。
不審に思われないよう。
手早く素早く。
しかし注意深く。
地味に。
コソコソしていると逆に目につきやすくなる事を、ボクは経験上知っていた。
大丈夫。ボクは空気だ。
空気は緊張なんてしたりしない。
だから脈拍を上げたりもしない。大丈夫大丈夫大丈夫。
心の中で繰り返す。
誰にも見つかったりはしない。クラスメイトにも。当然、最悪の相手キュイくんにも。
『逃走ルート』は何度もシュミレーションした。大丈夫大丈夫。
一度上の階へと上がり、棟を変えて人気のない場所へ。
よし。大丈夫。いや、まだだ。まだ気を抜くな。
細心の注意を払い、非常階段を一気に下りる。
着いた先は、昨日、ナッパさんと会った場所。校舎裏の花壇だ。
「ケケー!」
気配だけでボクに気がついたのか、茂みがガサガサと揺れて、栽培マンのゴミ太郎が飛び付いてきた。
「よしよーし。良い子にしてたかー?」
顎の下をくすぐってやるとゴミ太郎はゴロゴロと喉を鳴らして目を細めた。
まあ、なんと言いますか。ボクたちすっかり仲良しです。あ、ゴミ太郎。あんまし顔近付けないでくれるかな? 怖いから。
「ん?」
しばらくゴミ太郎と遊んでいると、園芸用具を持ったナッパさんがやって来た。
ボクとゴミ太郎がいる事に、多少なりとも驚いているようだった。
「どうした?」
「あ、いやー。あの、あの」
言え。言うんだ。頑張れラディッツ。男だろ。
「ケケケ」
ゴミ太郎が背中を叩いた。大丈夫。分かってる。忘れた訳じゃない。昨日の夜、あんなにゴミ太郎相手に練習したじゃないか。
「えーっと、その。手伝おうかなーって思って……」
言えた。最後の方は尻きれ気味だったけど、ちゃんと言えた。
「好きにしろよ」
口調こそぞんざいだったけど、ナッパさんの顔はしっかりと白い歯を見せて笑っていた。