――一時間後。
ボクとナッパさんの二人は、大の字になって校舎裏に倒れていた。
ケンカの体裁があったのは最初の三分ほどだけで、後は二人揃ってひたすら殴られた。
もう、けちょんけちょんのフルボッコ。
三人組は二十分ほど前にボクらを痛めつけるのに飽きたのか、財布だけちゃっかり盗って去って行った。なんか居酒屋行くって言ってたなぁ……。
体中が痛くて熱を持ち、どこがどう痛いのかいまいち判断が付かない。
少し湿った地面が冷たくて気持ちいい。それにもう立ち上がる元気もないよ……。
花壇も破壊し尽くされてしまった。キュイがマンガの必殺技のマネをして、ナッパさんを抱えて高高度から背面落下したのだ。今は大きなクレーターが一つ大穴を開けているだけで、当時の面影を探す事すら難しい。
パンパンに腫れ上がった重たい瞼の隙間から、輝く夜空が見えた。 夏の星座は不思議と澄み切って見える。
「なあラディッツ……よお……生きてるか……」
「うん……なんとかね……ナッパさんは……」
隣で寝ているナッパさんにも見えてるかな。今日は星空がキレイだよ。繁華街に行っちゃったキュイたちにはきっと見えないよ。こんなキレイな空なんて。
「俺は、平気だよ……。お前とは鍛え方がちが――いててて……」
のっけからバイタル的な意味でクライマックスだったナッパさんが強がる姿はなんだか妙に可笑しくて、ボクは小さく笑ってしまった。ああもう。痛いなあ。お腹に響くよ。
「ボクね。キュイの顔殴ってやったんだ。バチコーンって。そしたらね、アイツ鼻血出しながら、「こんなにナメられたのは生まれて初めてだ」だってさ。ふふ、あの時のキュイのビックリした顔って言ったらないよ。傑作だよ」
ま、その後数倍返しでパンチをもらって、ボクの顔も原形を留めているか怪しいんですけどね。
「やるじゃん」
ふひー、と間の抜けた音がした。見えないけど、ナッパさんは多分口笛を吹こうとしたんだと思う。
「俺は噛みついてやったぜ」
「うん。それは見てた。その後、ナッパさん口から怪光線出してたよね」
ボクたちは笑った。
痛いけど構わずに笑った。
ケンカに負けて、ボコボコにされて、惨めに地面に倒れたまま。それでも笑った。
不意に、隣から聞こえる笑い声が止まる。
「ラディッツ。お前バカだなぁ。花檀の事なんて放っておいて、さっさと逃げれば痛い思いをしなくて済んだのに」
そんな事、出来る訳ないよ。
だって、ナッパさんがいつ来るか分からないじゃないか。
「ゴミ太郎の事、残念だな」
「うん……後で、お墓作ってあげないと」
しばしの沈黙。
「なあラディッツ。あの時よお……こないだの土砂降りの雨ん時、ケンカ売ってきたチビだけど」
「うん……」
髪をツンツンに逆立てた、小柄な体で傲岸不遜を表現する少年を思い出した。
「あいつ、ベジータ王子だ」
「へ?」
え? ベジータ王子って、王子様? つまり――
「ベジータはサイヤ人の王子だ。あいつはよ、これから力を着けて、サイヤ人の国を再興するって言ってた。生き残りは他にもきっといるはずだ。そいつらを探して、仲間にして、いつかフリーザからも――」
あの少年が王子様だった事が衝撃的過ぎて、話しの後半を耳に入らなかった。
サイヤ人の国再興。
生き残りを探す。
それほどまでに、ベジータ王子の言葉は、
「でっけえ夢だよなあ……」
「そうだね……」
ボクたち二人の意見は一致していた。国を取り戻す、一言で言えばそれだけの事に、どれほどの努力が必要になるのか見当もつかない。
「実は俺、ベジータに一緒に来い、って誘われてよお」
「へえ」
「お前も来いよ、ラディッツ」
思わず「いいの?」と声に出していた。だってボク、すごく弱いし泣き虫だし弱虫だし。
「お前の弟――カカロットだっけか。カカロットを探すんなら、人手は多い方が良いだろ。俺も協力するし、言えばベジータも手伝ってくれるだろ」
覚えていてくれたんだ。
「じゃあ、ナッパさんはどうするの?」
星いっぱいの栽培マン農園を開く夢。
「俺の夢はよ」
ナッパさんはむっくりと起き上がり、ボクに顔を向けた。
殴られまくってベコベコのひどい顔をしている。歯だって折れて鼻も曲がって唇も切れている。
「後で良い。今はそう思うんだ。ラディッツの弟を探して、ベジータと一緒にサイヤ人の国を再興して。それで、でっかい土地を貰って農園を開くんだ。それからだ。俺の夢は」
自分の夢は後回し。
「農園を開いたらよ、手伝いに来いよな、ラディッツ。こないだみたいによ。なんせ、でっかいでっかい土地を貰う予定なんだからな。一人じゃ、さすがの俺も大変だ」
ボクは寝ころんだままだったけど、
「うん!」
と大きく返事をした。
ナッパさんは満足げに笑った。
ああ、本当にこの人は豪快な笑顔が良く似合うなあ。
「うし。そうと決まれば、さっそく行動開始だな!」
ナッパさんは完全に起き上がると、スコップの代わりになる物を探し始めた。
もう次に向かって進み始めるなんて。
やっぱり。
やっぱりすごいよナッパさん!
「あ、待ってよ!」
ボクも負けてられないと、痛む体で起き上った。