遊戯王なカルデア 〜シャトー外伝〜   作:スラッシュ

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3年ぶりの投稿です。また再び、遊戯王じゃない投稿をする日が来るとは思いませんでした。

今回は音フェチの話となっています。苦手な方はご注意下さい。


マスターの睡眠事情

 

 人理焼却を防ぎ、魔術王の元を去って異なる場所へと散った魔神柱達を倒した人類最後のマスター。

 

 彼の束の間の平穏は音を立てて崩れ去る事となった。

 

 拠点であった人理継続保障機関カルデアは突然の襲撃で失われ、取り戻した筈の世界は白一色に覆われ人間の住む惑星ではなくなってしまった。

 

 しかし、この事態をシャドウ・ボーダーと僅かに残ったスタッフと英霊の力を借り、人理の敵である異聞帯を切除する事に成功し、一度は海に落ちて絶体絶命のピンチを迎えるがそこで新たな仲間と拠点を得たのだった……

 

 

 ……と、此処まではあくまでも唯の前提。

 これから話すのは魔術王との最終決戦でもなければ、剣豪同士の死合でもなく、また彼の記憶に新しい果てしない再生と破壊でもなく――――彼の、睡眠の話である。

 

 

 

「失礼します、先輩」

 

 この日最初に彼を見たのは、彼の後輩でありデミ・サーヴァントであるマシュ・キリエライトだった。

 彼女は数回のノックに返事を返さなかったマスターを心配し、彼の部屋に入った。

 

 しかし、彼女の心配とは裏腹に彼は寝ているだけであり、寝返りをうったので奇妙な悪夢を見ているという事もない。

 

「先輩……昨日はハードでしたからね。

 ですが、マシュ・キリエライト! 先輩の健康の為にも心を鬼にして……あれ?」

 

 尊敬する先輩の寝顔に、マシュは違和感を覚えた。

 彼の枕元に置かれている小さな端末から線が伸びており、その先端はマスターの片耳に繋がっている。

 

(イヤホン、でしょうか? 先輩は音楽を聞いて眠る習慣は無かった筈ですが……

 ですが、睡眠時のイヤホン使用は、鼓膜を傷付ける恐れがあります。ここは一度外しましょう)

 

 マシュはそーっと手を伸ばして彼のイヤホンを取り外した。

 

 電源の点いている端末から音が流れている様で、彼女の中で好奇心が疼いた。

 

(先輩が寝ている時に聞いている曲……一体、なんでしょうか?)

 

 そっと、マシュは自分の耳に近付けて見た。

 

『ちゅぅ、はぁあ……んんっ』

 

 水音……いや、あまりその手の経験の無いマシュでも分かる。

 何かを舐める様に、まるで実際に行われている響く音。

 

 彼女はイヤホンを耳から離しながら赤面した。

 

「り、立体音響……でしょうか? た、多少意外ですが、先輩の好みであるなら後学の為です! マシュ・キリエライト、ちゃんと聞いて見せま――」

 

 そこで、ベッドの上で寝ていた先輩が起きていることに気付いた。

 

「おはよう、マシュ」

「お、おはようございます先輩!」

 

 なので、彼女は彼に手に持った端末の音声について聞いてみる事にした。

 

「これ、先輩は聴きながら眠っているんですか?」

「うん。あんまり眠れない時とかに聞いたりするよ」

 

「そう、なんですか?」

「うん、これを聞けばいい夢が見れるからね」

 

 疑問が浮かんだ。普段の先輩なら、こんなイヤらしい音声を使用していると言われたら慌てて誤魔化すのでは……

 

「でも、緊急の呼び出しとか聞き逃したりするかもしれないし、あんまり良くないのかな?」

 

「そ、そうですね! 睡眠時のイヤホンの使用は思わぬ怪我の危険性がありますし、控えて頂いた方が良いかと」

 

 自分の中の疑問を取り敢えず無視して大事な先輩の安全を優先すべきだと話を続けた。

 

「……でも、どうしようかな。

 何が起きるか分からないし、偶に本当に寝れない日があるから……」

 

「でしたら、不夜城のキャスターさんにお願いしましょう! 彼女のお話を聴きながら眠れればきっとぐっすりと熟睡できるかと!」

 

「うん。彼女には悪いけど、本当に寝れない時はお願い――」

「――旦那様の夜のお供なら、この清姫が!」

 

 突然、部屋に侵入しようとするサーヴァントにマシュは冷静に時刻を確認した後に、胸元からホイッスルを取り出し吹いた。

 

「――ストップです! 清姫さん、貴女には夜9時から朝9時にかけて、先輩の部屋への侵入禁止が言い渡されています!」

 

「う……あ、紅先生! どうかお許しを!」

「安心するでち。お淑やかな花嫁になれる様に一から教育するでち」

 

 断末魔の様な悲鳴を上げながら、清姫は廊下の向こう側へと消えていった。

 

「……だけど、そうだね。不夜城のキャスターだけに任せるのも悪いかなぁ」

 

『ふふふ、話は聞かせて貰ったよ! 随分と面白そうじゃないか!』

 

 楽しげな笑い声と共の、ダ・ヴィンチちゃんの姿がモニターに現れた。

 

「ダ・ヴィンチちゃん……」

「あの、何か考えがあるんですか?」

 

『第一回、マスター催眠選手権を開催しよう!』

 

 2人はお互いに顔を見合わせ、幕を開けてしまったお祭りに期待と不安の籠もった笑みを見合わせた。

 

 

 

「薬物は禁止だからね! あと、過度な運動も!」

 

 一応、マスターの安全を考慮して危険そうなサーヴァントを予め弾いておく。

 

「あ、勿論出禁組もね!」

「うぐぐぐ……!」

「清姫、邪念が漏れてるでち」

 

 先ず、ダ・ヴィンチによって危険人物は弾かれる。

 

「な、なんで私が駄目なのよ! 私、子守唄を歌わせても完璧なアイドルなのよ!?」

 

「夜は静かにしなくちゃいけないからね。不採用だよ。勿論、後ろの2人もね」

 

「「「なんでよーぉ!?」」」

 

「ふふふ、一人で寝れない可愛そうなマスターさんを、愛に溺れさせる良い機会ですね」

 

「オッケー! 君は参加しても良いよ!」

「え……いやいやいや……私、愛の神ですよ? ラスボスですよ? こんな危険人物をマスターに近付けるとか、頭おかしいんじゃないですか?」

 

「問題なしだよ」

 

「……うっ、い、今に見てなさい……! そんな風に甘く見られるのも今の内です!」

 

「では私も――」

「君は出禁だよぉ?」

 

「あぁ……そんな、お預けだなんて……」

 

 こうして……参加資格を手に入れたサーヴァント達は先ず最初に数名の職員にどんな風にマスターを寝付かせるのか実演する事になる。

 

「――では、儂の武勇伝を聞かせてやろうかのぉ!」

「はいアウト」

 

「なぜじゃぁ!?」

「めっちゃ気になる」

「それな」

「俺だったら途中で寝れなくなるな」

 

 武勇伝を語るのが禁止になると、戦闘向けのサーヴァントの多くが落ちる事になった。

 

「では、酒盛りを――」

「18歳未満の飲酒は禁じられております」

 

「このマスター好みの体型で誘惑を――」

「風紀の乱れを感じました! 拘束します!」

 

「何で先の審査を通したんですかぁ!?」

 

 

 問題ありそうなサーヴァントが弾かれていく中、一足先に最終審査に向かった者達がいた。

 

「……大丈夫なんでしょうか? あの方達は第二審査を受けていないんですよね?」

 

「新しく召喚されたばかりのサーヴァントは、ちゃんと知りたいから先に通して欲しいって言われちゃったからね。まあ、万が一の時は対処出来るだけのサーヴァントが控えてるし、大丈夫だよ」

 

 時刻は夜10時……を再現したシュミレーションの中。現実の時間は午後7時なので少し早い時間ではあるがカルデアのサーヴァント相手に苦労が絶えないマスターは十分な睡魔を感じていた。

 

「失礼します、マスター」

 

 寝間着に着替えて何時でも寝る準備の出来ているマスターの部屋に入ってきたのはアサシンクラスのサーヴァント、シャルロット・コルデー。

 

「ああ、ごめんね。こんな事に付き合わせちゃって」

「いえいえ、私の様な村娘にはこれ位が丁度良いんですよ」

 

 モニターから見えるサーヴァントの姿に、僅かながら緊張が走った。

 

 シャルロット・コルデーは暗殺の天使と呼ばれ、歴史に名を残した暗殺者だ。その功績は入念に練られた計画通りに事を運べた訳ではなく、確かな経験があった訳でもない。

 

 偶然、幸運、驕り……全ての可能性が彼女に味方した結果、唯の村娘であった筈の彼女は、カルデアに召喚される英霊となり得たのだ。

 

「それでは、マスターの安眠の為、朗読をさせて頂きますね?」

「うん、頼むね」

 

 だから、決して目で見たままの彼女を信じてはならない。

 

「――小鳥の囀り、心地の良い日差しと共に」

 

 しかし、心地の良い声で紡がれる音読に、マスターの瞼は、徐々に重くなる。

 

 監視している職員も、流石に自分のマスターには危害を加えないだろうと気を緩ませ始めていた。

 

「――マスター」

 

 ――瞬間、抜き見の包丁が彼の前に突き付けられ、ほんの少し目を見開いた。

 

「起きてて下さらないと、他の方の審査が行えないのでは?」

「あー……そうだったね」

 

 一度欠伸をして返事をしたマスターとは違い、カルデア職員は少し遅れて焦った。

 誰も彼女が包丁を出す前兆が見えなかったのだ。

 

「うんうん、流石は我がカルデアのマスター、動揺してないね」

「それはそうですけど、あの起こし方は心臓に悪いです!」

 

「まぁ、彼女なら安心じゃないかな? 取り敢えず合格にしておこうか」

 

「あれ観た後でそんなこと言っちゃうダ・ヴィンチちゃんって、やっぱり天才だけど馬鹿だと思う」

 

「ふふ、日常の間に潜むスリル、いいじゃないか」

 

『いやはや、事前に情報を聞いていなければ暗器を抜く暇も無かったでしょう。不意を突く事に関しては、恐るべき才能の持ち主です』

 

 隠れて護衛に付いていた呪碗のハサンに高く評価されながら、彼女は部屋を後にした。

 

 

 

「――こうして、騎士とお姫様は幸せに暮らしました! めでたしめでたし!」

「ありがとう、ガレス」

 

「えへへ……」

 

 頭を撫でられて嬉しそうに笑う少女だが、当初の目的が達成されていない事は彼女自身、気付いていない。

 

(別に本読みのテンポが悪い訳じゃないけど、感情たっぷりに、声量も上げて読むから全然眠れない……)

 

 満足げに笑って廊下へ小走りで行った彼女に、敢えて指摘するのも意地が悪いだろうと何も言わずに見送った。

 

『次で最後だよ。決して油断はしないでね』

「うん、分かってるよ」

 

 最後に残ったサーヴァント……その狂気と異常性は召喚して直ぐに察した。

 

 狂愛、執着……それが自分に向けられようと平然としていられる事こそが、カルデアのマスターたる証なのかもしれない。

 

「マスター、ふふふ、久しぶりね」

「うん、こんな事で呼び出してごめんね」

 

「あら、なんで謝るの? 私、マスターに会えて嬉しいわ」

 

 微笑むサロメは赤と金の下着の様な踊り子衣装で現れ、その手にはドクロ型の水晶を持っている。

 

 己の叔父である王を誘惑し、愛しい聖人の首を手に入れた伝承を持つ彼女が、ヨカナーンと呼び手放さないドクロ……それが本来はなんであったかは想像に難しくないだろう。

 

「今日はマスターを寝かし付ければいいのね? ふふふ、一人で寝れないなんて、マスターは可愛いね?」

「いや、寝れない訳じゃないけど……」

 

 事情が正しく伝わっていない様なので補足しようとしたが、彼女が口の前で人差し指を立てたのでそれ以上は言わない事にした。

 

「一応……確認するけど、俺に触ったら終了だからね?」

 

「マスターはイケずね。良いわ、私に任せて」

 

 サロメはヨカナーンの口を開くと、中から紙を取り出し、2つのドクロをベッドの両隣に移動させた。

 

『『じゃあ、読むね?』』

 

(これは……)

 

 左右で浮いているドクロから声が聞こえる。耳元で立体的に彼女の声が響き、体が自然と睡眠する準備を始めた。

 

(ASMRみたいだなぁ……)

 

『好き、大好き、愛してる』

 

『顔が好き、声が好き、唇が好き』

 

『レイシフトする貴方が好き、覚悟を決めた瞳が好き、指示をくれる声が好き』

 

『美味しそうに食べる口が好き、どんな話も聞いてくれる耳が好き、楽しそうに笑う口が好き』

 

『困った時にはにかむ口が好き、私に合うと手が隠す首が好き、そんな私から逃げずに真っ直ぐ見つめてくる貴方が好き』

 

『ずっと貴方の魔力を感じられる隣が好き、サーヴァントと一緒に厳しい鍛錬をする貴方が好き、狂ったサーヴァントに怯まない貴方が好き』

 

『眩しいくらいの善性が好き、困難に苦しむ姿が好き、乗り越えた先の笑顔が好き』

 

『でもやっぱり一番は……貴方の首が好き』

 

 

 

「危険な女性に好かれていますね、マスター。ええ、仕える騎士としてはやめて頂きたいですが、同じ男性としては羨ましいなと」

「今の言葉、ガレスとアルトリアにチクろうか?」

 

「ハッハッハッハ、冗談ですよ」

 

「あー! もうちょっとでマスターの首、取れたのに!」

 

 ガウェインに羽交い締めにされたサロメは悔しそうにジタバタしているが、まるで動かないのでやがて諦めた。

 

「サロメ」

 

「むー……私、今は機嫌が悪いの」

 

「今度は一緒に沢山話そう」

 

 首を取ろうとした自分から他のサーヴァントに守らせておいて、何の躊躇いもなくまた会おうと誘うマスターに彼女の顔は赤くなった。

 

「…………マスターの命知らず……ますます、好きになっちゃう……」

 

 そして、彼女は連行された。

 

 その後、マスター端末は帰ってきた。

 職員の誰かが「て言うか、部屋は防音だしイヤホン付けなくてもいいんじゃね?」と言った結果、イヤホンを使わなくても立体的に聞こえる様に改造されて帰ってきた。

 

 しかし、その使用容量は8GB程増していた。

 

「問題がありそうなのは取り除いたけど、サーヴァント達が君の為にと語り、歌い、喋った物さ。大事に使ってね」

「うん、勿論」

 

 受け取ったマスターは早速その日の夜に再生した。最初はやはり愛すべき後輩、マシュ・キリエライトの物から――

 

『――先、輩……んっ、っちゅん……はぁ……んん、ふはぁ……ん……こ、これで良いんでしょうか……』

『うんうん、良いよマシュ! マスター君はもうメロメロさ! さあ、続けて!』

『は、はい……失礼しますね…ん、んん……ちゅう……んぁ』

 

 驚き、困惑…………端末を握りしめダ・ヴィンチちゃんの元に駆け出すまで、そんなに時間は要らなかった。

 

「ああ、あれかい? どう、興奮したかい?」

「いや、マシュに何させてるの!?」

 

「あれー? おっかしいなぁ、マシュが君の端末からこんな感じの音フェチ音声があったから同じ物を取りたいってリクエストされたんだけど? 実際に君の端末の30曲中、生活音と自然音は最初の10曲だけで、あとは全部耳舐めだったよ」

「え……」

 

 それを聞いたマスターは、端末を渡した人物を思い出し、笑った。

 

「……ドクター……」

 

「……だろうね。アイドル物があったからそんな事だろうと思ったよ」

 

 それでどうする、戻す? と聞いて来たダ・ヴィンチにマスターは首を振った答えた。

 

「ドクターの事、忘れたくないけど、今はこの端末があれば十分だよ。ドクターのくれたこれが、サーヴァント達との絆を覚えててくれるなら、それでいい」

 

 ダ・ヴィンチはその言葉に満足げに頷いた。

 

「……じゃ、代わりにマシュの朗読の音声を入れておくね?」

「最初からそうしてよ」

 

「ふふふ……天才のお遊びさ」

 

 

 

 

 

「所で、今のマシュの耳舐め音声のメイキング動画があるんだけど……マナプリズム1000個でどうだい?」

 

 

[買います]

 

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またこの外伝を投稿する日が来るのか、それ自分も分かりません。
ジャックちゃんとのデュエルも書きたいです。
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