二人の訪問者(前編)   作:肝油

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原作8巻「ナザリックの日常」より、
森に出向いたのがアウラとシャルティアだったら・・・という妄想二次創作です。



第1話

夜の森の中を、一体の魔獣が音もなく駆け抜けて行く。

 

巨大な狼のような姿をした漆黒の魔獣フェンリル。

「フェン」と名付けられた、ナザリック地下大墳墓第六階層守護者である双子の闇妖精、その姉であるアウラ・ベラ・フィオーラのお気に入りの魔獣の一体。

「土地渡り」という、月明かりも届かないような深い森の中でも平地を行くが如く移動可能な特殊能力を持つ為、頻繁に彼女に追従し、

階層内の見回りや、こうした外での任務に伴われることが多い、ナザリック内でも高レベルに位置するシモベである。

 

フェンの背には二つの小さな影が揺られていた。

一つは当然、自らの直属の主人であるアウラ・ベラ・フィオーラ。そして今一人は・・・

 

「はぁ~あ」

 

アウラの口から、本日何度目かの盛大な溜息が漏れる。

もちろん彼女の持つ特殊技術による吐息とは違い、成分的には一般的なそれと同様ごくごく普通の呼気の筈だが、

腹の奥底に溜まった不満共々搾り出したような溜息には、まるで何らかの効果を付与されたかのような黒い感情が篭もっている。

フェンが、一瞬身を縮みこませるほどの不機嫌さ。

 

そんな高レベル魔獣すら慄かせる怨嗟の溜息を向けられた先に座るもう一つの影、

銀髪の少女からも、やはり苛立たしげな声が返って来る。

 

「さっきから、一体どうしたんでありんすか?言いたいことがあるならハッキリ言いなんし」

 

こちらはこちらで、その美しい顔に憮然とした表情を浮かべている。

 

彼女はシャルティア・ブラッドフォールン。

アウラと同じく、ナザリック地下大墳墓第一から第三までを守護する階層守護者の一人である。

 

階層ごとに様々な特色を有するナザリック地下大墳墓の中でも、アンデッドモンスター中心に構成された最も"墳墓"らしい第一~第三階層にあって、

対アンデッドに極特化されたアンデッド絶対殺すウーマン。その戦闘能力は階層守護者の中でも随一を誇る真祖トゥルーヴァンパイア。

 

この時間帯であれば明らかに必要がない日傘を手に、優雅に揺られる姿は妖艶にして可憐。

不自然に盛り上がった胸が、幼さを残すほっそりとした肢体と相まって倒錯的な淫靡さを醸し出している。

元より自然発生した膨らみではないのだが・・・

 

しかしアウラは何も答えない。もちろん言いたいことなら山とあるが、今は隠密行動中の身だ。

こんな所で喧々諤々やり合って、自分たちが接近している事が相手側に露見するだけならまだしも、逃げられでもしたら目も当てられない。

 

あるいは既に気付かれている可能性もある。

 

というか、自分であれば2キロ先にいても異変に感付くだろう、シャルティアが全身から漂わせる香水の匂いに鼻を顰めながら、その無神経さにまた一つ溜息を漏らす。

 

そんなアウラの物言わぬ物言いたげな態度が癪に障ったのか、今度はシャルティアから煽ってくる。

 

「・・・何でもいいでありんすけど、ちゃんと前を見て走りなんし。ぬしの役目は、わらわを目的地まで案内すること。アインズ様からのご命令、しっかりと果たすでありんすえ」

 

「ご命令」の部分を殊更に強調しながら、まるで御者を顎で扱う主人のような尊大な言い回しに、首から上だけを180度旋回させるような勢いで振り返り、噛み付かんばかりに睨みつけるアウラ。

迎え撃つシャルティアの真紅の瞳も危険な光を帯び、一触即発の様相。

両者の視線が交錯し、バチバチと火花が散る。

 

 

「「(アインズ様のご命令でなければ、誰がこんなヤツと相乗りなんてっ・・・!!!)」」

 

 

両者から放たれる、物理的な質量すら感じさせる怒気。

100レベル守護者同士の喧嘩に巻き込まれては堪ったものではない。

背中の上の剣呑な気配に、凄惨な殺し合いが始まり兼ねない危険を察したフェンは、まるで巨大な岩でも括り付けられているような全身を苛む疲労感を必死に振り払いながら、密かに足の運びを早めるのだった。

 

目的地である東の巨人の住処に、一秒でも早く到着する為に。

 

 

 

 

――話は3時間ほど前に遡る。

 

 

 

カルネ村の監視任務に就いている戦闘メイド、ルプスレギナ・ベータからのほうこくによって、

トブの大森林内に棲息する「東の巨人」、そして「西の魔蛇」なる未知のモンスターの存在が判明。

その力は、現在はアインズのペットとしてナザリックに属しているかつての「南の大魔獣」=ハムスケに比肩するほどで、

三竦みの勢力関係を築いていたといわれる強大なモンスターだという。

 

興味を持ったアインズ自ら品定めに出向くことになり、

道案内としてナザリック内では最も森のことに詳しいアウラが指名されたのだが、

どこかでその話を聞きつけたらしいシャルティアが、自分も同行したい旨申し出てきたのだ。

 

アウラからすれば心の底から招かれざる闖入者。

シャルティアとすれば汚名挽回の機会を得たいが為の必死の懇願。

そして、そう言われてしまえば、アインズとしては無下に出来ようはずもない。

 

それはシャルティアがワールドアイテムによる精神支配を受け、アインズに対し一時的な敵対行動を取ってしまったあの事件に起因する。

 

アインズ自身は、あれはあくまで自らの失態であり、シャルティアに非があるとは考えていない。

それに一応の罰(結果的にご褒美になっていた感は否めないが)も与え、贖罪は果たされたのだ。

シャルティアをそのような目にあわせた未知なる敵に対する憎悪は未だ胸中で渦巻いているとはいえ、一件落着。

そう思っていたのだが、シャルティア自身の中では杓子定規に昇華できることではなかったらしい。

 

当然である。

至高の四十一人。創造主たる彼らに尽くし、その身の全てを捧げる事こそが守護者たる彼女の存在理由そのもの。

彼女のしたことは、それが例えアイテムにより強制されたものであったとしても、決して許せることではない。

今やただ一人、ナザリックに残られた最後の至高の存在であるアインズ・ウール・ゴウンその人が許したとしてもだ。

それは永久に消えることはないだろう過ち。彼女の心に深々と刺さった棘なのだ。

 

だからこそ彼女は求めていた。

汚名を雪ぎ、自らの価値を、忠誠心を証明するその機会を。

 

しかしながら残念なことに、彼女の能力は良くも悪くも戦闘特化。ある意味で潰しの利かない能力故に、発揮する機会も限られてしまう。

特に今現在ナザリックが主に行っている異世界における情報収集活動。現状必要とされる潜伏・探索等諜報任務にはすこぶる不向きであった。

先の失敗も、そもそもが消去法で割り当てられた任務の最中に起こったもの。

また同じ轍を踏まないとも限らない以上、再び外での活動に送り出すのは、アインズとしても躊躇われたのだ。

 

結果として彼女に委ねられるナザリック外での仕事といえば、専ら<転移門>を使った人員・物資の運搬に限られていた。

 

もちろんそうなった原因は自身の失態にある。

それでも、ナザリック内の見回りとて重要な仕事と頭では分かっていても、

他の守護者達が精力的に勤めを果たす様をただ指を咥えて見ているだけしか出来ない状況に、忸怩たる思いは膨らむ一方だったのだ。

 

そんな折りであった。

たまたま第九階層を歩いていた際、ルプスレギナ・ベータを引き摺って歩くナーベラル・ガンマと出くわし、

聞けばアインズ自らが「アウラを伴って」敵情視察に赴くというではないか。

 

ちょっと待った!である。

 

デートじゃん!それってデートじゃん!!

アルベドは?あのアルベドがそれを許したでありんすか!?え?謹慎中!?

さっきまで一緒に「休日を過ごしていた」筈でありんすが、一体この数時間の間に何が?

いや、そんなことよりそれは聞き捨てならないっていうか抜け駆けは許さないでありんすえアウラのヤツゥ~!!!

アインズ様のお側に侍るのは、わらわの役目でありんす!!!

 

呼吸をしないアンデッドにもかかわらず、息せき切ってアインズの執務室に駆け込んで来たシャルティアの迫力に気圧され、

ならばと下したアインズの命令に、片や渋々と、片やしてやったりの表情で、それぞれに了解の意を示すアウラとシャルティア。

 

「・・・・・・・・・・・・うん?」

 

しかし冷静になった辺りで、下腹部でゴロつく不自然な出っ張り以外の違和感を覚えたシャルティア。

承服の姿勢を取りつつギロリとこちらを睨み付けてくるアウラの視線を受け、ようやくその致命的な失敗に思い至るも後の祭り。

主人の下した命令に対し「違う、そうじゃない」などといえるはずもなく・・・

 

結果、アウラとシャルティアの二人で森へ赴く事になったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

シャルティアの申し出は、実はアインズにとっては非常に困った行為だった。

 

たしかに主人の役に立ちたいという彼女の気持ちは非常によく分かる。

未知のモンスターを見てみたい。そして殺してしまうよりは支配下に置く方が今後何かに使えるかもしれない。

アインズからすれば、今回の件はそんな興味本位からの思いつきであり、

必ずしも彼自身が直接赴かなくてはいけないほどの事情があるわけではない。

それこそアウラ一人に任せてもよかったのだから。

 

しかし、シャルティアを同行させるとなると、そう易々とは許可できない理由があった。

先の件を挙げるまでもなく、それ以上の不安要素を彼女は常に抱えているからだ。

 

<血の暴走>――それはシャルティアの持つ能力ペナルティの一つ。

大量の返り血を浴びると、攻撃力が跳ね上がる代わりに精神の抑制を失い、殺戮衝動にまかせた暴走状態に陥ってしまうというもの。

 

今回赴いた先で仮にそんな状態になれば、任務遂行の妨げとなるばかりではない、

場合によってはアウラにさえ危険が及びかねない。

 

いくら何でも単騎でその状態のシャルティアと正面切って渡り合うなど、アウラをしても自殺行為に等しいだろう。

 

例えば、対アンデッドに有効な能力を持つシモベを帯同させる等、対策はいくらでもあるが、そこまでの手間と保険をかけてまでシャルティアを送り出すことにメリットがあるだろうか。

何も血の暴走を根拠にせずとも、いくらでも彼女の申し出を却下することはできたのだ。

 

それでも敢えて彼女の嘆願を受け入れたのには、

シャルティアに名誉挽回の機会を与える事――その原因を作ってしまった自身の引け目も否定はできないが――

何よりも、いつまでも臭いものに蓋をするその場しのぎでは何の解決にもならないのではないかと考えたからだ。

 

コキュートスなどが好い例だろう。

それまでは、良くも悪くも命令に愚直に従うだけの”一振りの刀”としか自分を認識していなかった彼が、

リザードマン達との戦いを経て、自ら思考し、時に具申し、そしてリザードマンの村をまとめあげ導くという、

それまでの彼であれば絶対にしなかったであろう未知の経験に臆することなく身を投じ、それを着実にこなしている。

 

そう、彼らは成長できるのだ。

 

この世界はゲームではなく現実なのだ。

NPC達も単なるデータの塊ではなく一個の人格、個性を持っている。

それは即ち成長の可能性を持っているということ。

 

与えられただけの力。与えられただけの知識。

だが、知識を有効に使うには知恵が必要だ。そしてそれらは経験によってのみ得られる。

時に痛みを伴うことがあっても、変化を恐れていては未来はない。

一時の安寧などいつか必ず崩壊するのだから。

 

失敗を恐れず未知を求めよ。

 

この世界にもユグドラシル同様の縛りが存在する以上、種族的なペナルティはどうしようもないかもしれない。

それでもやってみなければ分からない。

完全な解決には至らずとも、何度も経験を重ねる事で何らかの対処法が見つかるかもしれないのだから。

 

だからこそ、一歩踏み出してみるべきなのかもしれないとアインズは考えたのだ。無論、十重二十重に対策は講じた上で。

三人で行っても良かったが、ほとんどの守護者が外に出ている現状、これ以上ナザリック内の警護を手薄にするわけにはいかない。

かといって、その為に誰かさんの謹慎を解くのは・・・・・・この状況では三人行が四人行になるだけだろうなと即座に却下。

 

森の中という地の利。何よりアウラの能力に対する信頼から問題はないと判断する。

それに、この二人は何だかんだで仲が良い。自分がでしゃばるよりは、案外良い方に転がるのではないだろうか。

 

そんな、子供の成長を願う親心で二人を送り出したアインズであったのだが・・・・

 

 

(後編に続きます)

 

 




諸々は近日投稿予定の後編にて。
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