魔法大戦リリカルなのはWizardS   作:かぜのこ

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#14

 

 

 

 不意の再会。新しい出会い。

 

 次の戦いへの休息期間。

 私にとってはじめての経験、はじめての生活で――――

 

 期待と不安、わくわくとドキドキが入り乱れる。

 

 ……地球での暮らし、ちゃんとできるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

  ♯14 「Transfer Student of a Scarlet Eye」

 

 

 

 

 

 

 

 

 時空管理局〈本局〉、病院施設通路。

 自分の治療となのはとの再会を終えた私は、ユーノと一緒に通路を歩いている。

 謎の襲撃者の片割れ――シグナムとの戦い。

 事前の戦闘で受けたダメージが残っていたのか、彼女の動きは精彩を欠いていて。けれど結局は地力の差と、それからあの“弾丸”……あれのせいで私とバルディッシュは傷を負った。

 そして、彼女に負けた私は、無理を押して結界を破壊して倒れたなのはともども本局へと運ばれたのだった。

 

 私のケガは大したことなかったけど、なのはの方は……心配だ。

 魔法の素、〈魔力素〉を取り込む体内器官〈リンカーコア〉が縮小してて、回復するまでは魔法が使えないんだそうだ。……これ、クロノが前に話していた魔導師襲撃事件と症状が同じだ。もしかしたら、アースラがこの事件を担当することになるかも知れない。

 ――そういえば、ユーノが一度地球に戻って行ったのはなんだったんだろ?

 

 ともかく、私はユーノと一緒にもうひとりの友だち――ユーヤを探している。

 

「……クロノは、ユーヤが嫌いなのかな」

 

 そんなことを、雑談のつもりでユーノに聞いてみた。

 どうやらクロノはユーヤが苦手みたいなのだ。

 さっきも「いっしょにユーヤを探しに行こう」と誘ったのだけれど、なんだかいやな顔をされて「僕は報告があるから君らだけで行くといい」と断られてしまった。なのはのところにはついてきたのに、不公平だと思う。

 

「うーん……、単純に反りが合わないんだと思うよ。フェイトは知らないだろうけど、初対面が最悪だったからね、あの二人は」

「さいあく?」

「そう、最悪」

 

 二人の初対面っていうと……あの公園かな、やっぱり。

 

「君との決闘を横から邪魔されて、ユウヤはあれで結構キてたみたいだし。クロノの方もコケにされて怒り心頭、ってわけ」

「そうなんだ」

「案外、お互いにライバル視してたりするのかもね。二人はなんて言うか、水と油って感じだし、余計に意地を張っちゃうんだよ」

 

 ふーん……男の子って、なんだかよくわからない。

 でも、私のために怒ってくれたのはうれしい、かも。……えへへ。

 

「……」

 

 ふと思った。私はユーヤのことほとんど知らないな、って。

 彼について知っていることといえば、男の子で、髪が黒くてぼさぼさで、蒼い瞳がきれいで、口が悪いけどやさしくて、強くて頼もしくて、タイヤキが大好きってことくらい。

 ビデオレターでも自分のことをあまり話してくれなかったし……あ、あれ、私もしかして嫌われてる?

 ネガティブな想像をしてしまい気分が沈む。

 と、通路の隅に設置されたソファーの上で、膝を抱えて座っているぼさぼさ頭の男の子の姿を発見した。

 私はすぐさま立ち直り、はやる気持ちを抑えて彼に近寄る。抑えきれずに小走りになっちゃった。

 

「ユーヤっ! こんなところに居たんだ、探したんだよ?」

「……や、フェイト、元気してた?」

 

 私の声に顔を上げたユーヤは、暗い表情をしてた。

 心なしか、彼の周りの空気もどよんりとしている。……シグナムから受けた傷が痛むのかな。心配だな。

 

「うん、元気だったよ。それでユーヤ、ケガとかだいじょうぶ?」

「ん、いや、自分であらかた治したし、大丈夫」

 

 そっか、ユーヤは治療魔法も使えるんだった。クロノと遭遇したときに癒してもらったのを思い出した。……あのときのことをよく覚えてないことが、なにかすごく損をしているような気がしないでもないけど。

 ケガじゃないとすると、どうして元気がないんだろう。……ユーヤのそんな顔を見ていると、心臓がきゅっと締めつけられるみたいで、すごくいやな感じだ。

 

「……ユーヤ、どうしたの? 元気ないよ?」

「うん……放置、されてたんだ」

「え?」

「みんな、こっちに来て……ぶっ倒れてた僕も、悪いんだけどさ。それにしたって放置とか酷くない? アインが居なかったら、結界空間と通常空間の矛盾に潰されるところだったし……」

 

 ……? ああ! だからユーノは一度戻ったんだ。なのはの身体が心配だったからすっかり忘れてた。

 こういうときはちゃんと謝らないとダメだよね。

 

「えと……忘れててごめんね?」

「…………ぐすっ」

 

 ……あれ、もしかしてユーヤ、泣いてる? 私、なにか変なこと言ったちゃったの?

 ユーノがポンポンと彼の肩を叩いて慰めてる。

 

「僕はどーせいらない子なんだよねジュエルシードの封印とかできないから見てるだけだったしさ最初っからこういう役回りばっかなんだよ大して役にも立ってないしあはは……」

 

 ユーヤの目から光がなくなって、ぶつぶつと恨み言をつぶやく。私はそんな彼の様子にあわあわと困惑することしかできなくて。

 ユーノが苦笑混じりで口を開いた。

 

「フェイト、気にしなくていいよ。ユウヤのこれはただの病気だから」

「ええっ、病気っ!? 大変だ、医務室に連れていかないと!」

「いや、今のはそういう意味じゃなくてね……」

 

 違うの? ……うー、言いたいことがよくわからないよ。それってやっぱり、私が“出来損ない”だからなのかな……。

 ……あ、涙でてきた。

 

「あーあ、泣かした。ほらユウヤ、君がそんなことやってるからフェイトにまで飛び火しちゃったじゃないか。いつまでもふざけてないでシャキっとしなよ」

「うぇっ!? あー……その、フェイト、飴、食べるか?」

 

 ユーノに言われて一瞬で立ち直ったユーヤは、鼻白んでポケットの中をごそごそと探り、大粒のアメ玉を取り出した。

 黄色で透き通ったそれを手のひらに乗せて、私に見せてくる。

 

「…………うん」

 

 私はこくりとうなずいて、アメ玉を受け取った。

 包み紙をはがしてからはむ、と一口。

 もこもこ。口の中で転がしてアメの味わう。

 …………おいしい。

 その甘さに自然と表情もほころんで。ユーヤも心底安心したように微笑んだ。

 それは私の好きな彼の笑顔だった。

 なんだか毎回、食べ物で釣られててばかりでくやしいけど。甘くておいしいからそれでもいいか、と納得しておく。

 

「それからそのリボン、よく似合ってるよ」

「あ……」

 

 なのはからの大切なプレゼント。それをユーヤにほめられて、うれしくて顔が熱くなる。

 やさしい表情を浮かべるユーヤへ、私はたくさんの想いを込めて言葉を紡いだ。

 

「――うん、ありがとう!」

 

 ちなみに、彼からもらったアメはレモン味だった。

 

 

   *  *  *

 

 

 用事があるというユーノといったん別れ、休憩室でユーヤとおしゃべり。

 半年の間にあったこととかをなのはといろいろと話したけど、ユーヤとだって話したい。むしろユーヤと話したい。

 

 自動販売機からがらんと音を立てて缶が吐き出された。

 私のともう一つを持って、ベンチに座っている彼に近づく。

 

「はい、コーラでいいんだよね」

「ありがとう。……なんか悪いな、奢ってもらっちゃって」

「ううん、ミッドのお金もってないんだもん、しかたないよ」

 

 なんてことないと笑ってみせて、缶ジュースをユーヤに手渡す。ちなみに私のは、オレンジジュース(果汁30%)だ。

 それから隣に座ろうとすると、ユーヤはさりげなく拳一つ分くらい横にずれた。

 

「……?」

 

 首を傾げ、間を詰める。

 ユーヤがまた横にずれる。

 詰める。

 ずれる。

 詰める。

 ずれる。

 ――そんないたちごっこの末、ついにユーヤがベンチのはしっこまで辿りついてしまった。

 

「……ユーヤ」

「な、なにかなフェイトさん?」

 

 どもりながら答えるユーヤに、不安な気持ちで視線を向けて問いかける。

 

「私がとなりに座るの、そんなにいや?」

「そ、そんなことないって! 嫌なわけないよ」

「じゃあ、どうして逃げるの?」

 

 ユーヤは「うー」とか「あー」とか「えー」とか答えを窮したように唸ってる。頬に少し赤みが差してるのはなぜだろう?

 ……ともかく、いやじゃないんなら隣に行ってもいいよね。

 私は、改めて間を詰めてユーヤのすぐ側に寄った。

 

「……えへへ」

 

 自然と漏れた笑み。

 横を見ると、ユーヤは困ったように笑ってて。さっきよりも朱くなった頬をカリカリとかいている様子に、私はなんだかかわいいな、と思った。

 

 

「そうだ、ユーヤはグレアム提督には会った?」

 

 いろいろお話する中で、ふと思い立ったので聞いてみた。

 ギル・グレアム提督――ユーヤを探しに行く前に、なのはとふたりで面会した管理局のえらい人だ。おだやかで、やさしそうな、それでいて威厳があるお髭の似合う老紳士だった。

 ユーヤは「ああ、あのオッサン」とちょっと失礼な前置きをしたあと、微妙な表情をして話しはじめた。

 

「会ったよ。……何かこう、背中がムズムズするような人だったけど」

 

 グレアム提督に不思議な評価を下し、さらに続ける。

 

「いい人なんだろうけど、たぶん僕とは一生相容れない。まあ、クロノさんのお師匠さんってのには納得したかな。よく似てるよ、あのふたり。言い方は悪いけど、リンディさんよりもよほど親らしい」

 

 リンディさんは笑顔で清濁併せ呑めるタイプだからね、と苦笑して彼は言葉をしめた。

 ユーヤにはリンディ提督がそう見えるらしい。うーん……私はとてもいい人だな、と思っているんだけど。

 ――ちょうどいい機会なので、ユーヤに“あのこと”を相談してみよう。

 

「……あのっ、あのね? ユーヤに相談したいことがあるって言うか……その――」

「ん、いいよ、なんでも言って」

 

 なんだか言いづらくてモゴモゴと言いよどむ私に、ユーヤは柔らかな声色で諭すように言ってくれた。

 そんな彼のやさしさにに勇気をもらって悩みを打ち明ける。

 

「私、リンディ提督に、養子ならないかって言われてるんだ。でも……」

「“お母さん”のことが気になる?」

「っ!? う、うん」

 

 引っかかっていたことをすぐさま言い当てられて、はっとする。一瞬、ユーヤは読心術の魔法を使えるのか、なんておバカなことを考えてしまった。

 

「そっか……。あの人のこと、まだ好き?」

「うん」

 

 私は考える間もなく即答した。その気持ちに、嘘偽りなんてない。

 大嫌いとか、出来損ないとか……散々いろいろ言われて、最後まで拒絶されたけれど、それでもやっぱり“母さん”は私の母さんなんだ。

 だから私は、“母さん”が最期に残した言葉に従うつもりだ。……ユーヤみたいに何事にも諦めず、投げ出さず、足掻き続けたい。

 

 閑話休題。

 リンディ提督がお母さんになるっていうことがあまりピンとこない。

 いやなわけじゃ、ないんだけど――――

 

「迷ってるんだ。リンディ提督のお誘いはすごくうれしいんだけど……」

「そうだな――」

 

 少し考えるように間を置いて、「地球の、それも一般論だけど」と彼は前置きする。

 

「僕らくらいの子どもが、誰からの庇護もなくひとりで生きるのは無理があるよね。まあ、君の場合はアルフがいるけど。ともかく、今日日衣食住どれにだってお金は必要だ。身体が未成熟で弱いから、病になったら看病してもらわなきゃだし、力も弱いから重い物を持ったりなんてこともできないね」

 

 そこで言葉をいったん切って、ゴクッとコーラをひと飲み。

 

「ミッドチルダではどうなってるのか知らないけど、社会的信用がないから普通仕事には就けないし。……子どもは親に守られるもの、甘えるものだと思う。だから、リンディさんの提案を支持するよ」

 

 彼の言葉は正論に聞こえた。

 甘えたりとか看病してもらったりとか、そんな経験はないけど、味わえたらいいな、と思う。

 でも…………踏ん切りはつかない。

 

「まあ、今すぐ決めなきゃいけないわけじゃないんだろ?」

「うん。ゆっくり考えなさいって、リンディ提督が」

「なら、大いに悩めばいいんじゃないかな。……僕も、一緒に悩むことくらいならできるからさ」

 

 隣に座る黒髪の男の子は、ほっとするような笑顔を柔和な顔立ちに浮かべてくれて。胸の奥の方が、ほんわかぽかぽかあったかくなった。

 ――――やっぱり、ユーヤの笑顔はなのはのと同じくらい、大好きだ。

 

 

   *  *  *

 

 

 改装中のアースラを望むことができる休憩室。

 この部屋に入ったとき、ユーヤは興奮を隠しきれない様子で艦を眺めていた。

 管理外世界生まれの彼には次元航行艦が物珍しかったのだろう。表面上は興味がなさそうにしてるのに、蒼い瞳をキラキラ輝かせてるユーヤの姿がかわいいな、と思ったのは私だけのヒミツだ。

 

 私とユーヤは並んで座って、リンディ提督とクロノと面会している。

 クロノから、魔導師襲撃事件はなのはたちの世界から個人転送できる範囲内で起きていること、アースラが改装中で使えないこと、そして代わりの艦船は二ヶ月先まで空きがないこと、などの説明をおとなしく聞く。

 アースラが使えないのは大きな問題だ。どうすればいいのだろう?

 

「ところで、君たちはどうするつもりだ?」

 

 気づかわしげな口調でクロノが問う。

 私は管理局の〈嘱託魔導師〉――管理局のお仕事を手伝う民間の魔導師のこと――だけど外部の人間だし、ユーヤはユーヤで前に協力を拒んだことがあるそうだから、彼は私たちの考えを聞きたがっているのだろう。

 

「クロノやリンディ提督が大変なのに、呑気に遊んでなんていられないよ。アルフもつき合ってくれるって言ってるし、手伝わせて」

 

 だから、私は思ったことをそのまま伝えた。

 ふたりには――ううん、アースラのみんなにはいろいろとお世話になっているんだ。私だけ、知らないふりなんてできっこないよ。

 

「有り難くはあるんだが……。攸夜、君はどうなんだ」

 

 眉を少しだけ落としてすまなそうな表情のクロノは、今度は視線をユーヤへと向ける。

 話をふられたユーヤは、気だるそうな半眼をして口を開いた。

 

「僕は別にどうでもいいんですけど」

 

 そんなことを平然と言いのけてしまうユーヤに頭痛でも感じたのだろうか、手を額に当てるポーズをするクロノ。

 君な、と呆れたように言葉が続く。

 

「リンカーコアを持つ魔導師が狙われているんだ。君にだってもちろんそれはある、現実に襲撃されてもいる。……次も無事で済む保証はないぞ?」

「冗談です、それくらい僕だってわかってますよ。……今回は、謹んで協力させていただきます」

 

 今の冗談だったんだ、私は本気かと思ったんだけど。

 ジュエルシードのことも「興味ない」って一言で切り捨ててたし。

 

「謹んで、か。……それほど君に似合わない言葉はないな」

「似合わなくて悪ぅございましたね」

 

 呆れたように発せられた言葉にユーヤは顔をしかめ、私は内心でクロノに同意した。

 私の中のユーヤのイメージは、大胆不敵・泰然自若。間違っても控えめとか自重とか遠慮なんてこと、ふさわしくない。

 

「あら、そんなことはないわよ、クロノ。攸夜君はちゃんと弁えるべきところはわかっている子だもの。……ねえ、攸夜君?」

 

 今まで黙っていたリンディ提督が笑顔でユーヤに問いかける。

 とても清々しい笑顔のはずなのに、なぜか背中に冷や汗が流れるのを感じた。

 

「……ええ、自分の身の丈くらいは理解してるつもりです。それはそうと、アースラが使えないのはどうするんですか?」

 

 ユーヤもなにかを感じ取ったみたいで、若干引きつった顔つきで話の流れを無理矢理に変えた。

 

「それは……」

「…………」

 

 その指摘にクロノと私は沈黙。

 解決する方法が思いつかず、諦めのようないやな空気が流れる中、リンディ提督がなにかを思いついたように口を開く。

 

「――やっぱり、あれで行きましょうか」

「あれ?」

 

 小首を傾げる私。リンディ提督は「うふふ……」と口元を隠して意味深に笑うだけで要領を得ない。

 困ってほかのふたりに視線で助けを求めてみれば、ユーヤとクロノは揃って微妙な表情で……。

 

「……なんか、嫌な予感がする」

「奇遇だな、僕もだ」

 

 と、うんざりしたふうに言い合い、同時に吐息をこぼした。

 そんなふたりの様子を見て、けっこう息が合ってるんじゃないかと心の中で思う私だった。

 

 

   *  *  *

 

 

 メゾネットタイプの広々とした造りの室内に、冬晴れの青空から降り注ぐぽかぽかとした日の光が射し込んでいる。

 

「――で、こうなると」

 

「攸夜くん、どうしたの?」

「いや、なんでもない」

 

 海鳴市のとあるマンション、その最上階を拠点にしたアースラのみんな。当然、私とアルフもここに住むことになる。

 なのはとユーヤにいつでも会えるようになるなんて、夢みたいだ。

 

「あっ、あそこがわたしんちだよ。すごく近くだね!」

 

 玄関の外、踊り場の欄干から身を乗り出すようにして自分の家の方向を指さすなのは。彼女のうきうきとして日だまりのような笑顔につられて、私もうれしくなる。

 

「うん、すぐ側だ。ユーヤの家も近くなんだよね?」

「というか、ここの真下が僕のウチだよ」

 

 そうこのマンション、実はユーヤの住んでいるところなんだ。

 なのはの家の近くで、なおかつユーヤの保護もできるという一挙両得な立地なのである。リンディ提督、そこまで考えてたのかな?

 

「そうなんだ。……ユーヤのお家にも、行ってみたいな」

「ん。もちろん招待するよ。まあでも、すぐ下なんだからいつでも来れるし、また後でな」

「うん」

 

 言い聞かせるような口調で、ユーヤが私に笑いかけた。

 そんな彼の格好は、暖かそうな明るいシアンブルーのフルジップパーカーに、黒っぽいシンプルなジーンズ。靴は青と白のスニーカーだ。なのはもパーカーを着ているけど、ユーヤのはジッパーを首もとまで完全に閉め切ってる。

 ……そういえば、なのはがユーヤは青い色が好きって言ってたっけ。服装から日用品、文房具までほぼブルーで揃えているんだとか。バリアジャケットは黒かったけど、明るいブルーが印象的だったし。

 

 さておき、いったん室内に戻って。

 そこでひさしぶりにフェレットになったユーノと、小さくかわいくなったアルフのおひろめ。

 「これではますますわんこだな」とユーヤが憎まれ口を叩き、それにアルフが怒って噛みついて。……どうして二人は仲良くできないのだろう、と私はすこし悲しくなった。

 

「三人とも、友達だよ」

 

 シャツの上から黒いセーターを着たクロノが私たちを呼ぶ。

 

「「はーい」」

 

 なのはと連れ立って玄関へ。ユーヤが二歩くらい下がってついてくる

 そこには、私のより濃い色の金髪をツーサイドテールにした女の子と、紫色のふわりとしたロングヘアーに白いカチューシャを乗せた女の子が立っていた。

 

「こんにちは」

「来たよー」

「あっ、アリサちゃん、すずかちゃん!」

 

 女の子たち――アリサとすずかに私は挨拶をするために近づく。

 ビデオでお互いの顔とかは知ってるけど、こうして直接顔を合わせるのははじめてだからちょっと緊張する。

 

「えっと……」

「フェイト」

 

 言葉に詰まり軽く混乱しちゃって、どう言い出そうか悩んでいると、ユーヤがポンと私の肩に手を乗せた。

 振り向くと、やさしい微笑みをこぼす黒髪の男の子の姿。澄んだ海原のような蒼い瞳には気づかいの色が浮かぶ。

 

「大丈夫」

 

 最近あまりなかったユーヤの真面目な表情と声色に、私は顔が熱くなるのを感じる。彼の発した言葉はたった一言だけだったけれど、その中に込められた想いに胸がいっぱいになった。

 ユーヤに「うん」と笑みを返して周りを見回せば、なのはやアリサ、すずかも同じようにやさしく微笑んで私の言葉を待っていてくれた。

 私はみんなに心の中で感謝して、口を開く。

 

「はじめまして。アリサ、すずか」

「はじめまして……っていうのもなにか変ね」

 

 お互いの顔とかはもう知ってるから、たしかになんだか変な感じだ。

 ふたりも私と同じことを思ったのだろう、苦笑し合った。

 

「ビデオメールで何度も会ってるもんね」

「うん、でも会えてうれしいよ。よろしくね、ふたりとも」

 

 新しくできた“友だち”へとめいっぱいの笑顔を贈る。

 アリサもすすがも私と同じくらいの笑顔を返してくれて。――こうして仲良くなって、笑顔を交わし合えるってこと、すっごく幸せなことだなぁと私は思う。

 

「フェイト、黄色い方がツンデレなお嬢様で、紫の方がはらぺこ猫神様だ。覚えておくように」

 

 しんみりとした空気を吹き飛ばすように、ユーヤの軽快なセリフが発せられる。

 

「へー、そうなんだ。うん、覚えた」

 

 私は素直に感心して、そう答えると、

 

「ツンデレ言うな! ちょっと攸夜、フェイトに変なこと吹き込んでるんじゃないわよ」

「それは人違いだって前に言ったよね、攸夜君?」

 

 ユーヤの特徴的な紹介を即座に否定して、肩を怒らせるアリサと壮絶な笑顔を見せるすずか。一斉に食ってかかられても、ユーヤはへらへら軽薄に笑って余裕な態度を崩さない。

 私は思わず、呆れたような笑みをもらすなのはに視線を向けた。

 

「……ねえ、なのは。ユーヤって、いつもこんな感じなの?」

「にゃはは……うん」

 

 なんだか最近、私の中のユーヤのイメージがガラガラと音を立てて崩れていっている気がする。

 さっきまではかっこよかったのに……。

 

「まあまあ、そう怒りなさんなおふたりさん。これでも食べて落ち着きなさい」

「誰のせいで怒ってると思って――うぐっ、それは……!」

 

 口々に責められてたユーヤは、両手でごそごそとパーカーのポケットを探ってなにかを取り出す。

 それは緑っぽいパンと、白くて柔らかそうなお菓子だった。

 

「ここに取り出したるは何の変哲もないメロンパンとイチゴ大福。……どうよ?」

 

 ニヤリと意地の悪い、勝ち誇ったような笑みをするユーヤ。なにが「どうよ?」なのかはよくわからない。

 

「く、くれるって言うならもらってあげなくもないわよ?」

「そうだね、アリサちゃん。もぐもぐ」

「アリサちゃん、そんなだから攸夜くんにツンデレって言われるんだよ? すずかちゃんもごく自然にイチゴ大福受け取っちゃダメなの」

 

 なのはの鋭い指摘に、ふたりはまったく同じタイミングで目をそらした。うん、ふたりとも息が合ってて仲がいいんだね。

 

「……ねえ、すずか。どう見てもあのポケットにこんなもの入らないわよね?」

「私もそう思うよ、アリサちゃん。もぐもぐ」

 

 パンを持って言うアリサと、白いお菓子を食べながら同意するすずか。……すずか、お菓子もらえていいなぁ。

 

「あはは、やだなぁバニングスさん、ギャグパートにそんな無粋な指摘はナンセンスですよ?」

 

 ユーヤの言葉に「ギャグって……、もういいわ……」と疲れたようにつぶやくアリサは、やけくそ気味にパンにかぶりつく。むむ……、アリサのパンもふかふかしててとてもおいしそうだ。――よし、あとで私もユーヤからもらおう。

 と、心の中で決めた私は、明らかにおかしかったいまの現象の真相が気になって、《ほんとのところはどうなの?》とユーヤに念話で聞いてみた。

 

《ん、種はあるよ。いつの間にかできるようになった小技でさ。アインから聞き出したところによると僕が常時纏っている個人結界みたいなもので、その中にいろいろな物を収納できるんだ。あまりおおっぴらには使えないけど、結構便利だよ》

《ふーん……ユーヤって、変わってるね》

《……よく、言われるよ》

 

 その説明はあまり腑に落ちなかったけれど、思ったことを素直に伝える。

 苦笑して返事をするユーヤの表情が、私にはどこかつらそうに、悲しそうに見えて、それがやけに印象的に残った。

 

 

 

「ところで、攸夜くん」

「ん?」

「わたしのぶんは、なにかないのかな?」

「ない」

「はにゃ!? ていうか即答!?」

「気にするな、僕は気にしない」

「私は気にするよっ!!」

 

 

 

   *  *  *

 

 

 みんなでなのはのお家が経営しているという喫茶店、翠屋へ。ユーヤは病院にお見舞いに行くとかでいったん別行動だ。

 なのはのご両親とご挨拶したたり、みんなと同じ聖祥大附属に通えるというサプライズがあったり。それからなんと、この場で制服姿を披露することになったのだ。私もはやく着てみたかったので、こころよく了承した。

 ――と、いうわけで、私は翠屋のバックヤードを借りて、パリッとのりの利いた真新しい白い制服に袖を通していた。

 

「っと」

 

 姿見の前でおかしなところがないかをしっかりと確認。……うん、だいじょうぶだ。

 最後に、なのはと交換したピンク色のリボンを結びなおして。

 

「……よし、できた」

 

 鏡に映る金髪紅眼の女の子は、真っ白なワンピースの制服に身を包み、満足そうに微笑んでいる。

 私は、“私”の姿にすこしだけ暗鬱となった気持ちを心の片隅に押しやって、バックヤードから出た。

 ちょっぴりの不安を勇気で打ち消して、みんなの前におずおずと姿をさらす。視線が一斉に私に集まって、なんだかすごく……はずかしい。

 

「わ、フェイトちゃんかわいい! すっごく似合ってるよっ!」

「そうね、ちょっと嫉妬しちゃうくらい」

「みんなで学校に行くの楽しみだね」

「うん、ありがとう。なのは、アリサ、すずか」

 

 三人の感想に笑みを返す。

 リンディ提督やなのはのご両親である桃子さんと士郎さんからもおおむね好評でよかった。

 と、いつの間にやってきたのだろうか、みんなの輪から離れたところにぽつねんと立ってる男の子に気がついた。

 

「ユーヤ?」

 

 名前を呼んで側によると彼はビクッと一瞬、身をこわばらせた。

 

「お、おう」

「えと、どう……かな」

 

 不安な気持ちを隠しきれず、上目づかいになる形でユーヤを見つめる。ドキドキ……。

 

「いや、その……なのはじゃないけど、す、すごく、かわいいと思うよ、フェイト」

 

 少しつまりながら言ったユーヤの言葉、その意味を私の頭が理解するのにたっぷり十秒くらい時間を要した。

 

(かわ、いい……かわいい……? 私が、かわいい? ユーヤが私を――~~っっっ!?!?)

 

 かあああっと、沸騰したように顔が火照る。ドクドクばくばくと鳴る心臓の音はうるさいくらい。

 なのはたちに「似合ってる」と言ってくれたより、前に「かわいい」と言われたより。ずっとずっとうれしくて、しあわせで――胸がいっぱいになった。

 

「あらあら」

「まあまあ」

 

 桃子さんとリンディ提督が口に手のひらを当てて笑い合う。それを見て、ユーヤは渋面を作ったように見える。

 

「なんです、その生暖かい視線と胡散臭いセリフは?」

「なんでもないわよ、攸夜君。ねえ、桃子さん?」

「ええ、リンディさん。フェイトさんと攸夜君のやりとりが初々しくてほほえましい、だなんて思ってませんよ?」

「何思ってるのか口に出てるじゃん! つーか、なのはたちもニヤニヤこっち見んなっ!」

 

 ユーヤはなにか騒いでいたけど、ぽけっと惚けてた私の耳には届かなかった。

 

 

   *  *  *

 

 

 その日の夜。

 こちらに越してきてはじめての夕食は、みんなで集まってささやかなパーティーを催すことになった。

 

 大きなテーブルに置かれた大きいお皿に並ぶ色とりどりの具材。色の違うマグロが二種類にサーモン、名前はわからないけど白身のお魚が何種類か。全部、生の切り身だ。

 それからキュウリ、たまご焼き、カニの身っぽいもの、アボガドなどなど。色鮮やかな食材が細く切りそろえられて、キレイに盛りつけられている。

 

「悪いわね、攸夜君。手伝ってもらっちゃって」

 

 小皿とかしょうゆ差しなどをテーブルに置くリンディ提督。ライスのたくさん入った大きな桶を抱えたユーヤが、キッチンから顔を出した。

 漂ってきたつんとした香りが私の鼻を刺激する。

 

「いえ、夕食をご馳走してもらうんですからこれくらいはやらないと。それに、料理するのは嫌いじゃないですし」

「いやー、それにしてもおねーさん驚いちゃったなー。九歳児にしては堂の入ってる包丁捌きに目を疑っちゃったよ」

「正確にはまだ八歳ですけどね。エイミィさんもなかなかのお手前で……これならいつでもお婿さんがもらえますね」

 

 「えー、やだー、気が早いよー」と恥ずかしそうな、でもちょっとうれしそうな様子のエイミィは、ユーヤの背中をバシバシと叩いた。

 陣頭指揮はリンディ提督、実働部隊にユーヤとエイミィで作られた今夜の献立は“手巻き寿司”。みんなで食べられるこの国のパーティーメニュー、ということでこれが選ばれたらしい。

 お寿司はアースラで一度だけ食べたことがあるけど、こういうふうな食べ方があるなんて知らなかった。

 ……でも、お客様扱いで手伝わせてもらえなかったのは納得いかない。私にだってうちわでライスをあおぐくらい、できるのに。

 ちなみに、アルフには豪勢に牛肉のステーキだった。

 

「さて、みんな。いただきましょう」

 

 リンディ提督の合図で、いただきますとあいさつした。いわゆる立食パーティーのような形で、何人か欠けてるがアースラの他のみんなもいっしょだ。

 たくさんの具をテーブルの上に乗っているけれど……どうやって食べればいいんだろう。ほかのみんなは思い思いに具を取っている。内心、どうしたらいいのかまごまごと困り果てていた私に気がついたユーヤが救いの手をさしのべてくれた。

 

「フェイト、貸してみて」

「う、うん」

 

 私からノリを受け取ると、木べら――あとでしゃもじという名前だと聞いた――で桶からライスをすくい、その上に乗せる。

 

「っと、具は何にする? 生魚は大丈夫なんだよね」

「うん。えっと…………ユーヤに任せるよ」

 

 ユーヤは「りょーかい」と短く応じて、手慣れた様子で菜箸を使い具材をライスの上に乗せていく。マグロとサーモン、たまご焼きにアボガド、キュウリ。鮮やかな色合いのそれらをくるくる器用に巻いて。

 

「はい、完成。あ、あと、醤油の小皿はこれな。あんまりつけすぎると垂れて汚れちゃうから気をつけて」

「うん、ありがとう」

 

 きれいな円錐形になった巻き寿司を受け取る。

 言われたとおり、しょうゆを少しだけつけてかぶりついた。

 もぐもぐ。もぐもぐ。

 ……お酢の酸味と具の味がよく合わさって、とても深い味を醸し出していると思う。ちょっとお魚が油っぽいけど……。

 

「おいしいよ」

「そっか。よかった」

 

 うれしそうな微笑み。ユーヤは、やさしい。

 要領はだいたいわかったので、今度は自分でやってみる。

 ノリにライスを引いて、具材をとって、と。……むむ、ユーヤみたいに上手に巻けない……失敗、かな。

 とりあえず、できあがったこの不格好な巻き寿司?を食べてしまおう。

 

「って、言わんこっちゃない。口にしょう油がついちゃってるよ」

「ええっ、ほんと?」

「ああ、ダメダメ。手が汚れちゃうから、僕がやるよ」

 

 慌てて手で拭おうとする私を制したユーヤは、ポケットから青いハンカチを取り出して口元を拭ってくれる。

 彼の細やかな気遣いがうれしくて。いたわるような布の感触がくすぐったくて。

 

「んっ……」

「はい、きれいになりました」

「あ、ありがと……」

「うん」

 

 急に恥ずかしくなって、お礼の言葉は消え入るようになってしまう。

 ユーヤはそんな私に笑顔で一つ頷くと、自分の分にかぶりついていた。

 

「ははーん、なぁるほどねー。攸夜君ってばさぁ――」

 

 私たちの近くで食事をしていたエイミィがチシャネコみたいに笑って、たっぷり間を取ってから口を開いた。

 

「――フェイトちゃんのお父さんみたいだよね」

 

 うぐっ、と食べていた巻き寿司をのどに詰まらせたユーヤ。げほげほと苦しそうに咳をしているので、私はあわてて背中をさすってあげた。

 

「ありがとう、フェイト。……エイミィさん、そこはせめてお兄さんにしといてくださいよ」

 

 本人は眉間にしわを寄せて否定してるが、エイミィの言うとおりユーヤは“お父さん”って感じかもしれない。……といっても、父親というのがどういうモノなのか、私の中ではイマイチはっきりしないのだけど。

 それに、“お兄さん”ならクロノの方がぴったりだと思う。なんたって真面目だし、あれで結構面倒見がいいみたいだから。

 ……そういえば、リンディ提督と養子縁組みをしたら兄妹になるんだ。とじっとクロノを観察してたら怪訝な顔をされてしまった。

 

 楽しかったパーティーもお開き。

 食事、私、ユーヤ、エイミィ、それからリンディ提督はソファーに座ってまったり談笑する。クロノは分析があるとかで部屋に下がってしまった。

 彼のそういう真面目なところ、好ましいと思う。ユーヤも少しは見習ったらいいのに。

 

「そういえば、攸夜君」

 

 自宅から持ってきたというオーシャンブルーの湯飲みで、食後のお茶――お砂糖は入れてなかった――を楽しんでいたユーヤに、同じくお茶をしているリンディ提督が話しかける。

 

「なんです?」

「攸夜君のお家の人はどうしてるのかしら。たしか……、親戚の方のところにお世話になっているのだったわよね?」

「ええ、母の妹に当たる人が僕の保護者です。もっとも、先月の半ばくらいから入院中で、今ウチにいるのは僕だけですけどね」

「えっ。ユーヤ、いまひとりなの?」

「まあ、一応そうなるな」

 

 特に気にしていないふうに答えるユーヤ。私は、心配になって疑問を投げかける。

 

「寂しく、ないの?」

「んー……たまに、ね。家に帰っても。それに、学校行きながら家の仕事を片付けるのは結構しんどいんだよ」

 

 そう言って苦笑いを浮かべる。

 寂しさの度合いとか方向性は違うかもしれない。でも、私も寂しかったことがあるからなんとなくわかる、いまのユーヤは無理をしているんじゃないかと思う。

 私にはアルフが居てくれたけれど、それでも半年前、ジュエルシードを追っていたころの仮の住まいに帰るのがいやだった。寒々していて、心が凍りつくようだったから。

 なにか、力になりたいな……。

 

「ふーん、じゃあほとんど一人暮らしみたいなものなんだね。攸夜君のご両親、心配してるんじゃない? 連絡とかは?」

 

 ようかんをいじりながらエイミィが発言する。

 

「え? ――――いえ、えっと、ウチの親は放任主義なのでそういうのはあまり……」

 

 言葉を濁す、らしくない様子に私は首を傾げ、リンディ提督が「なるほど」と意味深に微笑み、私とユーヤを見比べていた。

 ……ユーヤの「イヤな予感がする」っていっていた気持ち、ちょっとわかったような気がする。

 

 

   *  *  *

 

 

 週明け。

 ついに、学校へと登校する日がやってきた。

 教室のドアの前に立って呼ばれるのを待っていた私は、ぎゅっと制服の裾を握る。ありていに言えば、私は緊張のあまり軽いパニックに陥っていたのだった。

 

(どどど、どうしようちゃんと挨拶できるのかな途中で噛んじゃったらどうしよう変なこと言っちゃうかもああやっぱり第一印象は大事だって――――)

 

《フェイトちゃん》

 

「ひゃいっ!?」

 

 突然、念話で話しかけられて変な叫び声を上げてしまう。

 慌てて口を押さえるけど、もう出てしまった言葉は引っ込まない。

 

《落ち着け、フェイト。たかが自己紹介じゃないか》

《う、うん》

 

 苦笑混じりにユーヤに諭された。なのはもユーヤも、私を心配してわざわざ声をかけてくれたみたいだ。

 

《そうだよ、フェイトちゃん。攸夜くんでもできたんだから、だいじょうぶだいじょうぶ!》

《ちょっと待て、なのは。僕でもできたっていったいどういう意味さ》

《そのままの意味だよ》

《…………よし、わかった表出ろ。今度こそ完膚なきまでに叩き墜としてくれる》

《ふふーん、攸夜くんなんて何度やっても返り討ちだよ》

 

 あわわ……なんだか物騒な流れになっちゃってるよっ!

 ふたりのセリフからわかるように、なのはとユーヤの模擬戦はなのはの四戦全勝だそうだ。ユーヤが負けてるのは、くやしいからって砲撃戦に躍起になるからだと思うんだ。

 私と近接戦(クロスレンジ)で五分なんだから、距離を積めれば――って、そうじゃなくて!

 

《だ、ダメだよふたりとも、ケンカなんて!》

 

 言葉や雰囲気から剣呑な空気を感じたので、あわてて制止。ふたりとも、妙に好戦的だから今からでもはじめかねない。

 と、本気で心配したんだけど……。

 

《ふふ、これでちょっとは落ち着いたか?》

《ていうかフェイトちゃん、私っていま、魔法使えないんだよ?》

 

《あ……》

 

 そういえば、そうだった。

 どうやらふたりは、私を落ち着かせてくれようとひと芝居打ったのだった。おかげで、いくらか平静に戻ったような気がする。

 それを自覚したとき、ちょうど先生の呼ぶ声が聞こえた。

 

「あ、はい。失礼します」

 

 ガラッ、と引き戸を開ける。

 教室に入ると小さな歓声があがった。私の見た目は、やっぱり物珍しいらしい。

 たくさんのひとの視線を集めるという生まれて初めての経験に緊張しながら教壇に近づくとき、祈るように手を胸の前で組むなのはと眠そうな半眼で頬杖を突くユーヤの姿が視界の隅に入る。

 ふたりと目が合い、なんとなく「がんばれ」と言われたような気がした。

 先生に促され、軽く深呼吸して間を取る。

 

「あの、フェイト・テスタロッサといいます。よろしくお願いします」

 

 言いながら、ぺこりとお辞儀。

 パチパチと拍手が教室の中に響く。

 恐る恐る顔を上げると、花の咲いたように頬をほころばせたなのはが見えて。私は胸の奥が暖かくなるのを感じて、たいせつな友だちに笑顔で応えた。

 

 ――――ここが、私のスタートライン。母さん遺してくれた言葉のとおり、無様でもとことん足掻いて生きていく。

 生きることを投げ出して、諦めたくないから。

 ――最後まで、諦めないでがんばったら……いつか私は、“私”になれるかな?

 

 

 

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