欲しかった日々。あたたかな日常。
たいせつなひとたちとのふれあいは、からっぽだった私の心を満たしていく。
失いたくない、かけがえのない私の“居場所”。
……だけど、永遠に欠けてしまったピースはもう戻らない。
それでも、私は――――
♯15 「ガラスの華」
青々とした空、真っ白い雲。
少し肌寒さを感じる冬の空の下、屋上に出てみんなと一緒のお昼休み。
朝はほんとに大変だった。クラスメートの子や、どこから聞きつけたのか余所のクラスの子たちから質問責めにあったのだ。
引っ込み思案だと自覚している私は応対に大わらわ。アリサがフォローしてくれなければ、ぐるぐるでパンクしていたと思う。アリサ、ありがとう。
閑話休題。
席順は私から見て、右隣になのは、左隣にアリサ。斜め左前にすずかで、その隣がユーヤだ。……ユーヤの横に座りたかったのに、またもや逃げられてしまった。
あ、私のお弁当は、リンディ提督が朝早くから起きて作ってくれたものだ。
「それでねそれでね、アリサちゃんたらね――」
「それはなのはが――」
「そんなことないよ! だって――」
「まあまあ。ふたりとも、落ちついて」
食事中はあまりおしゃべりしない私は、なのはたちの会話の聞き手に回っている。正直、めまぐるしい会話についていけないのが実情だ。
黒一点のユーヤはと言えば、ひとり黙々とお弁当のライスボール――彼は“おむすび”だ、と強く主張してた――をほおばっていた。リスみたいでかわいい。
あ……ユーヤの頬にごはん粒がついてる。かぶりつくときについちゃったのかな?
「ユーヤ、ほっぺにごはん粒が残ってるよ」
勉強したから知ってる。こういうのをこの国では“お弁当”って言うんだ。
「え、どこ?」
ちょっとまぬけな顔をして、見当違いに手を動かすユーヤ。その姿に手巻き寿司パーティーでのことを連想して、なんとなしにひょいとユーヤの頬へ手を伸ばす。
「ほら、ここだよ」
頬からごはん粒をとってパクリと口に入れる。……ん、おいしい。ユーヤの味
は、たぶん、してない。
「!?」「にゃっ!?」「えっ!?」「ちょっ!?」
「……あれ? みんな固まっちゃってどうしたの?」
なのはとすずかは凍ったように動きを止め、アリサとユーヤは薄く頬を染めていた。
とりあえずみんなに共通しているのは、なにやら恥ずかしそうにしていること。
「……?」
みんなの反応の意味がわからず、私は首を傾げることしかできなかった。
* * *
何事もなく授業が終わり、放課後はなのはのお家へおじゃますることになった。もちろん、アリサやすずか、それにユーヤも一緒だ。
なのはのお家ははなんと、前に読んだ本に出てきた“武家屋敷”という感じのお宅だった。返し戸とか落とし穴とか隠し通路はないらしく、すごく残念だったけど。
リビングに案内されて、おいしいケーキをお茶請けにご家族と雑談したりする。なのはのお姉さんの美由希さんに、愛想を振りまくユーヤの態度がなんだかむかっときた。
そんな態度にどうにも気がおさまらないので、ぎゅっと思いっきりほっぺをつねったらすごく痛がってた。いい気味だと思う。
それからいろいろあって、アリサたちが帰ったあと。夕日の射し込むなのはの部屋で、シグナムたちのことを話し合う。
私はなのはに、なのはと戦っていたころの気持ちを打ち明けた。うまく言えたかわからないけど、どうやら私の想いはちゃんと伝わったみたいだ。
……ただ。一言もしゃべらず、冷たくて醒めた瞳をしていたユーヤのことがひどく頭に残った。
――――それがまるで、私を見るときの母さんの瞳にそっくりだったから。
「またね、フェイトちゃん! あ、ついでに攸夜くんも」
「またね、なのは」
「僕は次いでか。まあ、いいけどさ」
なのはと別れ、ユーヤと一緒の帰り道。
茜色の夕焼けに彩られる帰り道、ふたり並んでゆっくり歩く。
私もユーヤも、不思議とのんびりとした足取りで進む。……それはきっと、この時間を一秒でも長くたいせつにしたいからだ。
「……あ、あのね、ユーヤ」
「うん?」
ユーヤが顔をこちらに向ける。ちょうど夕焼けに照らされて、彼の整った面差しが普段よりもずっと大人びて見えた。
(っっっ!!!)
唐突に鼓動が高鳴る。冷たい外気なんて関係ないくらい、顔が熱くなる。
動揺して二の句を継げない私を、澄みきった海に似たサファイアの瞳がいぶかしげに見つめていた。
「あっ、えと、きょ、今日、その……」
あわてて口を開くけどカミカミで。がんばれ、私! と心の中で自分を叱咤して、なんとか言葉を続ける。
「ゆ、ユーヤの家に、行ってみたいな、って思って。……ダメ、かな?」
「そういえばそんな約束してたっけ。もちろん、ダメじゃないよ。歓迎する」
柔らかな笑み。
安心した。ドキドキも、もう気にならなくなった。
「うん、よかった。それでね、ユーヤに勉強を教えてほしいんだ」
アースラで予習してたから、ある程度読み書きできるので今日の授業にはなんとかついていけた。
だからこれはただの言い訳――
「いいけど。別に、なのはたちから教えてもらってもよかったんじゃないの?」
「え、あっ、そ、それは、その……ゆ、ユーヤじゃなきゃダメっていうか……ユーヤに教えてもらいたいっていうか、その……」
「ふーん……。リンディさんあたりに焚きつけられたとか?」
「はうっ!?」
ズバリ図星をつかれて奇声が口をつく。
蒼い眼を細められる。ユーヤは納得顔だった。
「……なるほどね、まあいいさ。僕も、君に頼られるのは悪い気しないし」
「あ、あうぅぅ…………。ゴメンね、ユーヤ、わがまま言って」
申し訳ない気持ちでいっぱいで謝ると「こんなのわがままのうちに入らないよ」とユーヤは苦笑した。
それから彼は、すこし考えるそぶりをする。
「そうだな……せっかくだから、夕飯も食べてくか?」
「えっ、悪いよそんな……」
「一人分も二人分も手間は大して変わらないよ。気にするな、僕は気にしない」
「ちょっと、アタシのことを忘れないどくれよっ」
「「あれ、アルフ居たの?」」
「ちょっ!? フェイトまでそりゃないよっ!?」
ユーヤの察したとおり、私が彼のお家に行きたいと言いだしたのにはちょっとした裏がある。
それは、昨日の夜のことだ――
「私がユーヤの家に、ですか?」
夕食の片づけを手伝っていた――といっても、お皿をシンクに持って行くだけだったけれど――私は、リンディ提督の提案に首を傾げた。
「ええ。学校帰りでいいから、時々様子を見に行ってくれないかしら? 遊びに行くだけでもかまわないし」
ユーヤの家にはまだ行ったことない。
でも、約束はしているからいつかおじゃましようと思ってた。それにしても、どうしてわざわざ言うのだろうか。
「えっと、それは構いませんけど、どうしてですか?」
疑問を言葉に込めて投げかける。エプロン姿のリンディ提督は、「そうね」と物憂い様子で手を頬に当てた。
さすがというか、ライトグリーンのエプロンがよく似合っている。
「攸夜君、ここに顔を出すの避けてるみたいなのよね。まあ、あの子の立場や性格から考えればアースラ――いえ、
でもね、と少し悲しげにまぶたが伏せられる。
「息子を持つ一人の母親として、十歳にもならない男の子がひとりでお家に居るっていうのはすごく心配なの。クロノにあまりかまってあげられなかった私が言うのも、おかしな話だけどね」
「リンディ提督……」
自嘲する笑み。
リンディ提督の胸中を伺い知ることはできない。でも、クロノをたいせつに思っていることだけは、私にもわかる。
「彼、フェイトさんには特に気を許しているみたいだから、私たちが行くよりずっといいと思うわ。――それにフェイトさんだって、攸夜君と一緒に居たいでしょう?」
「っ、は、はい……」
内心の願望を読まれ、動揺。リンディ提督はそんな私に暖かい視線を向けて微笑んだ。
「じゃあ決まりね。あぁそれから、攸夜君がどんな生活をしているのか教えてくるとうれしいわ」
「はい、任せてください!」
――そのときは雰囲気に流されてリンディ提督のお願いを受け入れたものの、あとで冷静になってみると「これって、もしかしてスパイ?」とか、思った。
マンションの前でユーヤと別れ、いったん部屋に戻る。
リンディ提督に夕食はユーヤの家でごちそうになりたいということを伝えると、あっさり許してくれた。どうやら読まれていたらしい。
それから私服に着替えて、いくつかの教材とノート、文房具を持って階下へ。
アルフは気を利かせてお留守番してくれた。ゴメンね、アルフ。あとで埋め合わせはちゃんとするからね。
「ふぅ……」
「MORGENSTERN」と書かれた表札が下げられた部屋の前、私は意味もなく深呼吸する。またドキドキしてきたのを感じながら、呼び鈴のブザーを押す。
少しの間のあと、カチャッとカギの開く音がドアの裏側から聞こえた。
「いらっしゃい、フェイト。よくきたね」
ドアの影からボサボサな黒髪が覗く。
出迎えてくれたユーヤは、黒いシンプルなトレーナーの上からブルーのプリントTシャツ――「000」って書いてある――を重ね着していて、下は黒に白いラインの入ったスウェットの部屋着姿。ユーヤらしくて似合ってると思う。
「えっと、おじゃまします」
「どうぞ、おじゃまされます」
彼の変な言葉づかいに頬が緩む。
整理整頓された玄関を見回すと、ちょうど黄色いスリッパがあったのでそれを使わせてもらった。あと、ユーヤのはやっぱり青だった。
案内されたリビングは、テーブルからソファーまで木目が暖かなアンティーク調の家具だけで揃っていた。
電化製品もそれらしいものという念の入れよう。きれいに整理整頓されていて、上品な、でも不思議とぽかぽかするような雰囲気はまるで童話に出てくる古いお城みたいだ。
「今お茶煎れるから、適当にそのへんに座っててよ」
「うん」
言葉に従い、どこかに腰を落ち着けようとリビングを見回す。
すると、キャビネットの上に乗ったテレビの前におかしなものを見つけた。フローリングの上にたたみを敷いた一角、低いテーブルの天板の下に暖かそうな布団が挟まってて、一見してそれが暖房器具だと言うことがわかる。だけど、明らかにこの部屋の雰囲気に不釣り合いで異質な家具だった。
「ねえ、ユーヤ。あれって……?」
「ん? ああ、それはこたつだよ。ミッド人のフェイトにはやっぱり珍しいかな」
青いエプロンを下げたユーヤが、キッチンの方からひょこっと顔を出した。奥からはお湯が沸かす音が聞こえる。
「うん、実物を見るのは初めてだよ。でも、これ……すごく、浮いてるね」
「まあ、ウチは洋風だからね。でもさ、日本の冬は何はなくともコタツがないと始まらないと、僕は思うわけなんだ。どうよ?」
「え、えっと……そうなの、かな?」
「そうなのです」
「そうなんだ。……あ、ユーヤ、お湯は?」
うわちゃ! と変な声を上げてキッチンに戻っていくユーヤ。意外とおっちょこちょいな彼の姿に笑っちゃったりしつつ、コタツに入ってみる。
足先からほんのりとぽかぽか暖かくなって気持ちがいい。なるほど、たしかにユーヤの言うとおりこの寒い季節には不可欠かもしれない。
「うーん、と……どうしよっかな」
ユーヤが来る前に、筆記用具とか教材とノートをコタツの上に広げておくことにしよう。
真新しい教科書とほとんどページの埋まっていないノート。それから、飾りっけのないシンプルなペンケースとシャープペンシル、消しゴム。……なのはたちに言わせると、地味で女の子っぽくないらしい。わたしとしては、機能的で使いやすければそれで十分なのだけれど。
理数系は、正直言うといまさら習うようなことなんてない。私は仮にもミッドチルダ式魔導を修めた魔導師、管理外世界の子ども用の教材の知識はすでに身につけているから。
でも、だからといって、勉強しなくていい理由にはにはならないから、きちんと授業を聞いていこうと思う。
「っしょっと」
……。
準備をしてしまったら、途端に手持ちぶさたになってしまったので、不躾だけど部屋を見回してみる。リンディ提督から、ユーヤの暮らしぶりを見てくるようにさりげなく言われてもいるし。
パッと観察したところだと、しっかり一人暮らしできてるみたいだ。家事とか料理とか、やったことないから素直に尊敬できる。……私も、覚えたほうがいいのかな?
と、ティーセットの乗ったアルミ製らしいトレイを器用に扱うユーヤがやってきた。
「少々時季外れですがマロンティーをお持ちしました、お嬢様。お茶請けはそれにあわせてマロングラッセでございます」
気取ったセリフを得意げに口にするユーヤ。それがやけに様になっていて。
でも、ユーヤ……その格好で執事のマネはどうかと思うよ。
コタツの上に開いた教材で、私たちは勉強の真っ最中。
カリカリ、カリカリ。シャープペンシルの芯がノートの紙を走る音が室内に響く。いくぶん控えめな、コタツのファンの駆動音がそれに彩りを加えていた。
いま、私とユーヤは肩がくっつくくらいの距離にいる。
どうしてか、彼は私の隣に座りたがらない。でも「いやなの?」と聞くと「そんなことないって!」と強く否定するのだ。
そんな彼の言動の真意がわからず、悲しくて困惑していた私にアイン・ソフ・オウルはこう言った。
『ご主人様は照れ隠ししてるだけで本当はうれしいんですよ、フェイトさん』
それに勇気づけられて、いまにいたる。というか、そのときまで彼女?がいるの忘れてたけど。
とりあえず、アイン・ソフ・オウルの言葉の真偽はわからない。でもユーヤはとくにいやがってないみたいだし、今の状況を楽しむことにしておいた。
「うぅん……?」
漢字のドリルをぱぱっと片づけて、書き取り問題を進めていると意味のわからない言葉づかいに突き当たり、ペンが止まる。うう……、日本語って、いろいろ複雑でむずかしい。
「えっと、ユーヤ、これは?」
「ん、それはね――」
自分の予習をしていたユーヤが手を止め、わからないところをひとつひとつ丁寧に解説してくれる。つたない私に、いやな顔一つしないで。
もっとも、理数系に弱い彼に私が教えられる部分もたくさんあるからおあいこだ。
解説を終えると自習に戻るユーヤ。私も彼に習ってノートに向かう。今度はわりとすらすら解けた。
「……」
ちらりと、隣をうかがう。
ユーヤは眉間に深々としたしわを寄せ、難しい表情でうんうんうなってた。……あれはたぶん、図形の面積を計算してるんだ。
ほんとユーヤって、数学が苦手なんだなぁ……ミッドの魔法が使えないのもうなづける。リンカーコアはあるのに、不思議だ。
勉強の手をとめて、ちらりと隣をうかがう。
(――ユーヤって、けっこう鼻すじ高いんだなぁ……)
こうして改めて見ると、とても印象的な顔立ちをしていてついつい魅入ってしまう。
エキゾチックというか、なんというか。私のセンスじゃうまく表現できないけれど、海のように深いブルーの瞳は私の視線を捉えてやまないということはたしかだ。
「……ん? どうした、フェイト?」
「あ、うん、なんでもないよ」
「そう? またわからないところがあったら、いつでも言ってね」
「う、うん、ありがとう」
私の視線を感じ取ったのだろう、ユーヤがこっちを向いてくる。あわてて否定すると、納得した彼は再び視線を落とす。
彼の温度をすぐそばに感じて、胸のもやもやは次第に増していく。
その気持ちをうまく言葉にすることは、やっぱりできない。……でも、いやじゃない。むしろもっと近くにいたいと、思う。
なのはとももっといっしょにいたいなって思うけど、この気持ちとは違うような、同じような…………なんだかよくわからなくなってきた。
このようなことを、マルチタスクで分割した思考の片隅でつらつらと考えながら、書き取りに精を出した。
――そんなこんなで、壁に掛けられた時計の針がちょうど六時を指し示したころ。
「っと、もうこんな時間か。夕飯の準備するから、テレビでも見て待ってて」
「あっ……うん」
ユーヤが不意にそう言って、プッとリモコンのスイッチを押す。それから立ち上がると、パタパタとスリッパがフローリングの床を叩く音を響かせてキッチンの方へと行ってしまう。
彼の体温が近くに感じられなくなったことを残念に思いながら、大きく見える背中を見送った。
それからしばらくして、トントントンとキッチンから聞こえる軽快な音をBGMに、テレビに映るアニメーションをぼーっと眺める。
ブラウン管の中では、緑の髪の男の子が腕を大砲に変えて戦ってる……途中からだから、話の内容はよくわからないけど。
キッチンから漂ってくるおいしそうな香りに、いったいどんなものを食べさせてくれるのだろうと期待で胸を躍らせて。
コタツの上の容器に入ってた小ぶりのみかんを手に取る。皮を剥き、身をひとつわけて、ぱくり。
もぐもぐ……。
小ぶりなせいか、予想よりずっとあまくておいしかった。
* * *
一目見て、丈夫な作りをしているということがわかる長方形の大きなダイニングテーブル。それに合わせたような風合いのイスに、私とユーヤは対面する形で座っている
「「いただきます」」
声を合わせて、食前の挨拶。
「じゃあ、食べるね」
「どうぞ。さて、お姫様のお口に合うかどうか……」
「もう、茶化さないで」
「あはは。ごめんごめん」
目の前にある白いお皿に乗った黄色い山を、シンプルなアルミのスプーンがカチャリと小さな音を立てて崩す。その中から、きれいなオレンジ色に染められたほかほかのライスが姿を現した。
今夜のメインはオムライス。ユーヤいわく、私の好みがわからなかったので無難なメニューを選んだとのこと。たぶん、多少は彼の好みも入ってるんだと思う。
「……」
きれいな、きらきらと
崩すの、ちょっともったいなかったかな、とか思いつつ。
「……あむ」
口を小さく開いてひと思いに含む。
もぐもぐ。もぐもぐ。
たまごの奥深い甘さとケチャップの酸味、鶏肉とかにんじんとかの味が口いっぱいに広がる。
「どう?」
探るように言うのは、不安を隠しきれない様子のユーヤ。こんな顔もするんだ、とすこし意外だ。
ここは素直な感想を伝えて、彼には安心してもらおう。
「おいしい……うん、すっごくおいしいよ! こんなにおいしいオムライス食べたの、私はじめてだよ!」
アースラの食堂のメニューにもオムライスはあったけど、きっとユーヤのにはかなわない。これは、ぜったいのぜったいだ。
「そっか、よかった。――フェイトのために作る料理だから、普段の五割り増しで気合い入れたおかげかな」
ユーヤは不安そうだった表情を緩めて微笑む。
真顔で私のためだ、なんて言われたらうれしくないわけがない。……なんだかずるいなぁ。
「他のも食べてみてよ」
「うん」
ご機嫌なユーヤに促されて、サイドメニューにも手を出してみた。
食べやすいサイズに切りそろえられた、ニンジン、ジャガイモ、キャベツにタマネギなどなど――たくさんの具が入った野菜たっぷりのミネストローネ風スープ。具の味がスープにしっかりとけ出して、コクがある。
それと、サラダ菜や細く切ったタマネギ、キャベツ、ミニトマトとシーチキンのシンプルなサラダ。かかっているドレッシングは自家製なのかな?
どれも文句のつけようがないくらい、すごくおいしい。
ただ、その……チキンライスの中に紛れ込んでいた緑色の丸っこい“アレ”は、いやだ。食べたくない。
作ってもらって残すのは行儀が悪いけど、ユーヤの目を盗んでお皿の隅に追いやっておこっと。
「ごちそうさまでした」
心もお腹いっぱいで、私はいま、とってもしあわせだ。
なのはたちの話どおり、ううん、話以上のだった。ひいき目が入ってるかもしれないけど、ユーヤの料理の腕はプロ級だと思う。
余韻の幸福感を楽しむ私を見るユーヤの視線は、やさしくてあたたかい。
けれど――
「お粗末様でした、と言いたいところだけど――」
言葉を切り、スッと眼を細め、口元を軽く歪める。彼の蒼い双眸は、お皿の隅に残した緑色の小さな球体に注がれていた。
ぞくり――背筋に悪寒が走る。
獲物を狙う蛇みたいに笑うユーヤの姿は、まるでヒトをそそのかし、扇動し、ワナに陥れる“あくま”のようだった。ていうか、“あくま”そのものだよ! “あおいあくま”がいるよっ!?
たっぷり間を取って、“あくま”が口を開いた。
「――グリンピースも、ちゃんと食べような?」
「はうっ!? だだだ、だってこれ苦いし、まずいし……」
「だーめ。ちゃんと食べないと大きくなれないよ? 君はただでさえ細いんだから」
「でも……」
「デモもストもありません。好き嫌いよくないよ、残さず食べなさい。いいね、フェイト?」
「ぅぅ……」
わざわざぜんぶ食べ終わってから言い出すなんて、ユーヤは人が悪い。
あ、そういえば、すずかの家でジュエルシードをかけて戦ったときも引っかけられたっけ。……思い出したらなんだかむかむかしてきた。
そんないじわるされると、なおさら食べたくなくな――
「食べきったら、何か食後のデザートを用意するからさ」
――ううっ。
デザー、ト……デザート…………。
「――――はぁい……」
「んむ、よろしい」
いたずらっぽい勝ち誇った笑みを見せるユーヤに、私は力なく返事する。
……べ、別にデザートの誘惑に負けたわけじゃないもんっ、と自己弁論して私は強大な緑の敵に挑むのだった。
* * *
学校に通うのもそれなりに慣れてきたある日の休み時間。
私の席の側に集まったいつものメンバーとの他愛ないおしゃべり――といっても、私はほとんど聞いているだけなんだけど。やっぱりめまぐるしくてついてけない。
ちなみにユーヤは、自分の席でつっぷして死んでるみたいに居眠りしてる。いつものことだとはアリサの言葉。
「あ、そうだ。アリサちゃん、プレゼントはもう決めた?」
プレゼント? クリスマスって行事にするパーティーでの話だろうか。……私もなにか考えなきゃ、あとでリンディ提督とエイミィに相談してみよう。
「もっちろん。そういうすずかはどうなのよ」
「うん、私ももう用意してあるよ」
「わたしは、まだ悩んでるかなぁ……ほら、攸夜くんってなに考えてるかよくわからないところあるから」
「そうねぇ、半年たった今でもあいつの突飛な思考回路にはついていけないわ」
……うん? なんでここでユーヤを特定する話題が出るのだろうか。クリスマスって、白い髭を生やした赤い怪人“三卓・ロス”がよい子のいる家に不法侵入して、無理やりプレゼントを置いていくイベントだって、エイミィから聞いたけど。
わからないことは臆せずに聞いてみる。「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」、この前予習で覚えたこの国のことわざを実践だ。
「みんな、なんの話してるの?」
「え? なんのって……あっ」
なのは。そんなあからさまに忘れてました、って顔されるとさすがにキズつくよ。
「あのね、今月の17日が攸夜くんの誕生日なんだよ。それでね、攸夜くんにはナイショにして、みんなでお祝いをしようってことになって――」
「ええっ!? ユーヤの誕じょもごもご!」
「しっ! フェイト、声が大きい。あいつに聞かれちゃうじゃない」
私の口を手で塞ぐアリサは横目でユーヤをうかがっている。
幸い、彼は居眠りしたまま動いていなかった。……あれ、ほんとに息してるんだろうか。
「ご、ゴメン、アリサ。――誕生日、誕生日か……」
誕生日。生まれた日を記念する日、バースデー。――――知識としては知っている。
知ってはいるけど、あまり馴染みがない。時の庭園にいたころはそれどころではなかったし、なにより“アリシア”の生まれた日にちは、私の誕生日にはならないだろうから。
そもそも、“代替物の人形”には“製造日”という方がびったりに違いない。
つまるところ、フェイト・テスタロッサは“誕生日を祝ってもらったこと”がないのだ。
別に、それをひがむつもりも、ふてくされるつもりもさらさらない。たいせつな友だちであるユーヤの誕生日を祝ってあげたいって気持ちの方が、ずっとずっと大きいもん。
「ごめんね、フェイトちゃん、教えてあげてなくて」
「ううん、気にしないでなのは」
心苦しそうにしゅんとするなのは。笑顔のなのはもいいけれど、こういう表情もかわいいな。
「そういうことなら、私もなにを贈るか決めないとだめだよね。アリサとすずかは、なにをユーヤにプレゼントするつもりなの?」
参考になるかわからないけど、と前置きするアリサ。
「私は万年筆風のボールペンを贈るつもりよ。色はもちろん、あいつが好きなブルーね」
「私は外国の料理が乗ってる本かな。攸夜君、料理好きだから参考になればいいかなと思って」
私となのはは揃って、へー、と感心した声を出した。どちらもふたりらしい、いいプレゼントだと思う。
「うー……私、どうしよう。ぜんぜん決まらないよ…………」
「うん、困ったね……」
感心してる場合じゃない。
彼の誕生日まで約二週間、私は完全に出遅れているのだから余裕なんてないのだ。
……なにが出遅れているのかは自分でもよくわかってないけど。ともかく、みんなに負けない特別な贈り物をしなきゃいけない気がするのはたしか。
でもそれは、シグナムに勝つことよりも大変なことのように思えた。
「「はぁ……」」
思わずこぼれた吐息が、なのはと見事にユニゾンした。
こんなのがお揃いでもうれしくもなんともないよ…………。
* * *
とある日の放課後。
紙袋を抱えたユーヤに連れられて、清潔でチリひとつない廊下を歩く。消毒薬かなにかの刺激臭が、微かにして少し鼻につく。
今日はおみまい。ユーヤのたいせつな人との初対面……だからかな、私の緊張は否が応にも高まっていた。
「ルー姉さん、来たよ」
「どうぞ、入って」
ドアの向こう側から、鈴の鳴るように美しい声が聞こえる。ユーヤの手で、カラカラと音を立てて病室の引き戸が引かれた。
白が基調のすっきりとしたイメージの室内に、軽く開いたカーテンから小春日和のあたたかな陽の光が射し込でいる。
部屋の中心、備えつけの大きなベッドに横たわるのは白い病院着を着たすごくきれいな黄金の髪の女性だった。
「やあ、姉さん。元気してた?」
彼女へ向けてユーヤが親しさ感じさせる声を発した。
彼の表情は、私やなのはたちに見せるものよりもずっと柔らかい。親愛のこもった顔に、胸が締めつけられるような切ない気持ちを感じるのはなぜだろう。
「ええ、おかげさまで。でも、それは入院中の病人に言うセリフじゃないわね」
陶磁器のように真っ白い、病的と言えるくらいに透き通ったきめ細かい肌。きらきらと輝くきめ細やかな砂金のような髪は、くるくるとカールのかかった特徴的な型。きりりとした印象の切れ長の瞳は黄金と対比するような白銀。
――同姓の私ですら、思わず息をのんで見とれてしまうほどの美貌の持ち主だった。
「そりゃごもっとも。っと、紹介するよ、ほら、フェイト」
「……あっ、うん」
部屋の入り口立ち止まって、ぼーっと惚けていた私は、ユーヤに促され、あわてて進み出た。
「えと、は、はじめましてっ! フェイト・テスタロッサっていいますっ!」
言いながらおじぎ。ツインテールの髪の毛がはずみでぶんと跳ね上がるのを感じた。たぶん、学校で自己紹介したときよりも勢いがよかったと思う。
というか、緊張のあまり言葉尻が上擦ってしまった。恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
「はい、はじめまして。私はルーチェ・モルゲンシュテルン、この子の母親の妹で、つまり叔母に当たるわね。……親しみを込めてルーって呼んでくれると、お姉さんうれしいな」
「えと……よろしくお願いします、ルーさん」
「ええ。こちらこそよろしくね、フェイトさん」
ルーさんの笑顔はとてもきれいで、また見入ってしまう。――でも、そのすごくきれいな笑顔に、強い敗北感みたいなものを感じている私もいた。
「はいこれ、いつもの」
心中のもやもやを持て余している私を知ってか知らずか、ユーヤは抱えていた紙袋をにこやかにルーさんに手渡した。
中身は、途中のパン屋さんで買ってきた焼きたてほかほかのチョココロネだ。
「ありがとう、攸くん。そうだ、せっかくだし、あなたたちも食べていったらどうかしら」
「いいんですか?」
「ええ、もちろん、一緒にいただきましょう。フェイトさんのこと、いろいろ知りたいもの」
「は、はい」
ふわっとやさしく微笑まれて、私は生返事を返すことしかできなかった。
お茶を用意するユーヤのお手伝いをする私。
部屋に備えつけのシンクでティーセットの準備をしている私の隣では、ユーヤがお茶の葉の包みのラベルを見て顔を盛大にしかめてる。とてもいやそうな感じだ。
「……これ、ペパーミントティーじゃないか」
「ユーヤ、それ苦手なの?」
自他ともに認める紅茶党の彼が、紅茶についてこんなリアクションするだなんて珍しい。
「いや、苦手っていうかさ。これの匂いを嗅いでるとなんかこう……古傷に、塩とかわさびとか唐辛子をこれでもかっ!と塗りたくられてるような気分になるんだよ」
「そうなんだ」
苦々しい顔でそう評するユーヤ。これはあまり深く聞かない方がいいかな、と返事の言葉を濁しておいた。
それからイスに座り、チョココロネと紅茶を味わいつつルーさんとおしゃべり。私自身のこと、家族――リンディ提督たちのこと、住まいのこと、普段の生活、学校でのこととかをいろいろと根ほり葉ほり聞かれた。
なんというか値踏みするような、探るような、試すような、それでいてなにもかも見透かしているような視線に。
私を見つめるルーさんの笑みは、
手のひらは汗でびっしょりだ。
「――なるほどね。攸くんの話通り、かわいらしい器量良しなお嬢さんでひとまずは安心したわ」
「えっ、あの、その……かわいいとか、えっと……ぁぅ……」
「姉さん! あんまりフェイトをからかわないでよ。怖がってるじゃないか」
冷や汗をだらだらかいて、あうあうと困惑しきりの私をユーヤはかばってくれた。やっぱり、ユーヤはやさしい。
「あら、からかってるなんて人聞きの悪い。私はただ、攸くんの将来のお嫁さん候補が、いったいどんな娘さんなのか見定めていただけよ?」
「「っ!?」」
ぼんっ、と音が聞こえるくらいに一瞬で耳まで真っ赤に茹だったユーヤ。きっと、私もお揃いで赤くになっていることだろう。――あ、ユーヤとお揃いって響き、なんかいい。
「ななななな、なにを言ってるのさルー姉さん! ふ、フェイトとはそんなんじゃないよ! た、たた、ただの友だちというか、その……」
……私は、“ただの友だち”――? 彼の言葉にはなにも間違ってるところなんてないのに、ズキリと胸の奥が痛む。じわりと視界が涙でにじむ。
「そうかしら? お姉さんが聞いてた話とはずいぶん印象がちが――」
「わー! わー!! わーっ!!!」
「攸くんは、面食いだものね」
「勝手なこと言わないでよっ!?」
「その点、フェイトさんは今もそうだけど、大人なったらもっと綺麗になりそうだし」
「うん、そうだね。すごい美人さんになると思う」
「ほらー、面食いじゃない」
「うぐぅ……」
……もしかして、ユーヤって年上のひとの方が好きなのかなあ。美由希さんとかエイミィとも仲がよさそうに見えるけど――って、あれ? なんで私、ユーヤの女の子の好みが気になるんだろ。彼の言うとおり“ただの友だち”なんだし……でもやっぱり、その、胸とかも大きい方がいいのかな?「男の子はみんなおっぱいが好き」だってエイミィが言ってたしルーさんもけっこう大きいし私ぺったんこだから見向きもされていないのかももし胸が大きかったらお嫁さんにしてくれ――――
「……きゅう」
「ちょっ、フェイト? フェイトー!?」
「あらあら、初心ねぇ」
混乱のあまり、目を回して気絶してまう私。薄れゆく意識の中、ユーヤに抱きとめられた感触と安心感だけは、しっかりと深層意識に刻み込んだのだった。
夕方。
面会を終え、病院の玄関に出てきた私とユーヤは揃ってぐったりとしていた。
「ううー……、私、なんだかすごく疲れたよ……」
「ルー姉さん、悪ノリしてたみたいでさ。ごめんな」
心底申し訳ないという顔をしているユーヤ。
思い返すと、ルーさんとおしゃべりしていたときの記憶の一部が飛んでいる。なにか、とっても恥ずかしいことを考えていたような気するけど、よく覚えていない。
「――よし。じゃあ気分転換に、とらやのたい焼きでも買って帰るか」
「え、タイヤキ!? うん、食べたいっ」
とらや、というのはユーヤがいつもタイヤキを買い求めるお店のこと。私もこっちに来てから彼と何度か一緒に行って、店員さんと顔見知りになっている。
すこし曇りぎみだった気分は、彼の一言で、すぐさまぱああっと明るくなった。
そんな浮ついた気持ちを見抜ぬかれたのか、苦笑するユーヤ。ちょっとだけむっとした。
でも、元気になっても仕方ないことだと思う。
――――だって、
* * *
土曜日。
週休二日制ということで、学校はお休み。
なので、子犬サイズのアルフと一緒に朝からユーヤのお家へ遊びに来た。午後からは、なのはたちも来る予定だ。
もうすっかり慣れてしまった動作でドアを開け、玄関に進入。いわゆる「勝手知ったる他人の家」ってところかな。
「おじゃまします」
「ほー、意外にキレイにしてるじゃないか」
なんて感想を言ってるアルフを抱き抱えたまま、いつも使っている黄色いスリッパを取り出していると、廊下に誰かが近づいてくる気配を感じた。
ユーヤかな?なんて期待して顔を上げると――
「いらっしゃい。フェイト、アルフ」
「あれ、ユーノ? どうしてここにいるの?」
出迎えたのはライトグリーンのパーカー姿のユーノだった。
彼はなのはのところでお世話になってるはずなのに、私より早く来てるなんてこんなのぜったいおかしいよ。私の期待感を返してほしい。
「ああ、それはね。昨日はここに泊まったからだよ。ずいぶん前からときどき泊めてもらってるんだ」
「泊まった? ユーヤの家に?」
それは、とてもうらやましくて魅力的なことに聞こえた。……ユーノ、ずるい。
「……僕も、たまには元の姿でごはんとか食べたいときもあるんだよ……」
遠い目をして言うユーノ。
アルフが腕の中で「わかるわかる」と頷いている。私にはよくわからないけど。
「まあ、いいや。ユウヤが中で待ってるよ。さあ、上がって」
私以上に勝手知ったる他人の家、とばかりにユーノはリビングの方へと行ってしまう。あわてて私も追いかけた。
見慣れたリビング。家独特の匂いが鼻を刺激する。
黒髪の男の子がリビングのコタツに陣取り、テレビを見ている。テレビの画面にはまたもやアニメーション。まあ、彼が結構なアニメ好きなのはこの数日でわかったから、いまさら驚かない。
どうも彼、アニメだけじゃなく映画とかドラマの映像メディアをレンタルしてきて、夜遅くまで見てるらしいんだよね。だから、学校で居眠りするんだよ。
「おはよ、ユーヤ」
「ん、おはようフェイト」
挨拶すると逆さまにこっちを向くひょうきんな格好で応じるユーヤ。アルフを床に下ろして彼の隣に座る。もう逃げてしまわなくなったので、捕まえるのは簡単だ。
あとユーノは私の反対側に座り、アルフは私のすぐ側でコタツに潜っている。熱くないのかな?
そんなこんなで、なんとなくテレビを見る流れになった。
ユーヤとユーノが目の前のアニメについて、感想を言い合っている。
「ふむ、やはりユーノくんは赤い方か」
「そういうユウヤは青い方が好きなんだよね」
画面の中では、赤い髪をツインテールにしたピンクを基調にしたドレスを着た子と、青い髪をポニーテールにしたブルーを基調にしたドレスを着た子がかわいらしく踊っている。顔立ちが似てるけどふたごなのかな?
というか……どう見てもこれ、女の子向けの番組だよね。
「その通り。まあ、色もあるけど、ぽんこつだし」
「……前から不思議に思ってたんだけどさ。“三下”とか“ぽんこつ”って言うのはどうして?」
「いや、どう聞いても三下とぽんこつじゃないか。なあ、アイン」
『ええ、この声は三下とぽんこつでしかありえませんね』
ふたりはごく自然に見てるけど、なんかおかしいよ?
「あの、ユーヤ。これって、女の子の見る番組だよね?」
「まあ、そうだな。でもほら、最大級の敬意を払わなきゃいけない気がするんだよ。この番組がなければ存在していない的な感じ?」
「そ、それはちょっと大げさなんじゃないかな」
「フェイト、こういう話題でユウヤになにを言ってもムダだよ」
呆れた顔でユーノがため息をこぼす。
なんでも、以前にそれとなくたしなめたところ、逆にどれだけおもしろいかを延々と説明されてファンになってしまったんだとか。こういうのを「ミイラ取りがミイラになる」っていうんだよね。
「ま、細かいことは気にするな。僕は気にしない」
ね?と視線で問いかけるユーノに、私は苦笑いを返した。
このあと、ユーヤたちといっしょにテレビを見た。……ふたりがおもしろいっていうのがなんとなく理解できた気がする。
そのあとしばらくして、なのはたちがやってきてみんなで遊んだ。
遊んだと言っても、基本的には室内でテレビゲーム。自然が豊かなアルトセイムという地方で育った私としては、外で身体を動かしたりして遊びたかったんだけど、まあ外は寒いし、しょうがないかな。
ちなみにユーノが、ちゃっかりほんとうの姿でアリサたちと知り合ってた。
私の遠い親戚で、ユーヤとなのはの友人という作り話をユーヤがしていたんだけど、案の定というかペットのフェレットと同じ名前ってことをつっこまれてた。――他ならぬユーヤが率先して。
友だちと集まって、とくに目的もなく騒いだひととき。
どたばたしたけど、楽しかった。楽しくて、おかしくて――涙が出るくらい。
――こういうなんてことない時間を、あたたかな場所を守りたいって心から思う。
なのはを、アルフを、ユーノを、アリサやすずかを、アースラのみんなを……そして、ユーヤを。たいせつな人たちと、たいせつな場所とを守れるだけの“チカラ”がほしい。
もう、たいせつなモノを失いたくないから。
心が砕けて、真っ暗な深い闇の中にひとり取り残されて……あんな気持ちになるのは、いやだから。
私にはもう、立ち止まることなんて、諦めることなんてできっこないのだから――――