魔法大戦リリカルなのはWizardS   作:かぜのこ

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#4

 

 

 

 順調に集まっていく青い宝石(ジュエルシード)

 僕と高町さんもまた、着実に力をつけていった。

 

 そんな中、偶然に出逢った金色(こんじき)の少女は、僕たちの“運命”に何をもたらすのか――――

 

 今回はちょびっとシリアスに……

 

 魔法少女リリカルなのは、始まります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ♯4 「それは“運命”との出逢い」なの?

 

 

 

 

 

 

 

 

『賢明の刃っ!』

 

 静まり返った夜の学校に凛々しい声が響く。

 それに続き、青い光を纏った五十センチほどの白い盾状の物体――アイン・ソフ・オウルが七本の光跡を残して黒いバケモノに殺到する。

 七枚の“羽根”が形成する青い刃でズタズタに斬り裂かれたバケモノが、リノリウムの床に叩きつけられた。

 僕はそれを少し離れた場所で見据えながら、右の拳に左手を添え眼前に突き出す。拳の甲に、不可思議な紋章がゆらりと光った。

 

『ご主人様、今です!』

「ヴォーテックス!!」

 

 かけ声とともに黒い拳大の魔弾、〈ヴォーテックス〉を投射する。

 それなりの速さで飛翔するそれは、体勢を崩していたバケモノに着弾。黒い膜を形成してバケモノを閉じ込め、甚大なダメージを与えた。

 

「高町さん、とどめは任せたよ」

 

 後衛として後ろに控えていた高町さんに声をかける。

 再度言うが、僕ではジュエルシードを封印出来ないのだ。アインいわく、“破壊”なら出来るらしいが。

 

「うん! レイジングハート!」

『了解です、マスター』

 

「リリカルマジカル! ジュエルシードシリアルⅩⅩ封印!!」

 

『sealing』

 

 

 ジュエルシードの封印を無事に終え、月明かりの照らすほの暗い夜道を高町さんとてくてく歩く。

 なお、ユーノは高町さんの頭の上に乗っかっている。髪の毛でもふもふしやがって……ちょっと羨ましいじゃないか。

 今回封印したもので累計五個、なかなか順調と言えるだろう。……ん? 数が合わないだろうって? まあ、その辺は察してください。

 ちなみにこの間に、アインも青色の“賢明の宝玉”の力を取り戻している。

 

「ごめん、ふたりとも。迷惑ばかりかけちゃって」

 

 そんな言葉とともに申し訳ないようにしゅんとするユーノ。

 責任を感じるのは大いに結構。それはいいのだが、見る限り僕と同年代の少年が異国?の地でひとり気張るっていうのはどうも少々歪な気がする。大人はどうした大人は? いや、連絡がつかなって聞いてはいるけどさ。

 ミッドチルダってのはいったいぜんたいどうなってるんだろう。今のところ、僕はあまりいい印象は持てていない。

 

「そんなこと思ってないよ、ユーノくん。私たち、自分で手伝うんだって決めたんだから、ね?」

「ああ。気にするな、僕は気にしない」

「ありがとう、なのは。それからユウヤはどの口がそんなこと言うのさ」

「この口」

「~~~っっっ!!」

 

 肩を怒らせるユーノをさらにおちょくってみる。

 んむ、ユーノ君をいじるのはたいへん愉快だね。これからももっといじってあげよう。

 こうしてバカやってれば少しは気が紛れることだろうし。

 ……どうやら高町さんは喋るフェレットだとしか思ってないようだけど、僕は君の正体を見抜いているよ、ユーノ君。武士の情けでバラしてないけど。効果的なタイミングを待っているとも言う。

 と、高町さんがなにやら足取りがフラフラと覚束無いことに気がついた。

 そっと肩を支えてあげると、彼女はちょっと顔を赤らめた。

 

「高町さん、疲れた?」

「だ、だいじょうぶだよー? ほら、元気元気! なのはは元気いっぱいですっ」

 

 ブンブンと腕を回す高町さん。しかしその動作は力ないし、顔色もよくないように感じる。

 僕はそんなあからさまな空元気に軽くため息をついて、彼女の頭にぽんと左の掌を乗せた。

 

「うにゃっ!?」

「んー……アイン」

『はい。慈愛の癒し』

 

 左手首に収まったアインがぽわっと橙色に発光し、徐々に左手全体を包む。

 最初不思議そうにしていた高町さんは、いつしか気持ちよさそうに目を細めた。心持ち顔色がよくなっているのがわかる。

 〈慈愛の癒し〉。最初に取り戻した“慈愛の宝玉”の持つ力の一つで、あらゆる状態異常を治療することができる権能だ。

 本来は害毒だったり魔法的な重圧だったりを中和する能力みたいなのだが、どうやら上手くいったみたいだ。後日、アインが言っていたことだが、〈慈愛の癒し〉は精神的な疲労も癒すことができるるらしい。

 

「これで少しは楽になったと思うけど、どう?」

「あ……ホントだ。ありがと」

「ほら、やっぱり疲れてたんじゃないか」

「っ! 攸夜くん、引っかけたの?」

 

 ぷくーっと軽く頬を膨らませる高町さん。

 その仕草があまりにかわいくて。ほっぺをぷにぷにしたくなったがなんとか自重した。

 

「ふっふっふ、引っかかる方が悪いのだよお嬢さん。……気負う気持ちは分からないでもないけど、頑張りすぎはよくないんじゃないかな」

「!! でも……」

 

 高町さんが語尾を濁してわずかに不満そうな表情をした。

 この娘ってば責任感が強いというか、頑固なんだよなぁ。なんでもかんでもひとりで背負うってしまっていたら、いつか潰れてしまうんじゃなかろうかと心配になってしまう。

 

「少なくとも、ユーノや僕に頼るくらいしても罰は当たらないと思うよ。そうだろ? ユーノ」

「うん。そうだよ、なのは。原因を作った僕が言えることじゃないけど、出来る限り力になるよ」

 

「――うん! ふたりとも、ありがとう!」

 

 僕たちの言葉に高町さんは花が咲くようににこりと笑う。

 暗い夜道がそこだけひだまりのように明るくなった気がした。

 

 

   *  *  *

 

 

 翌日、日曜日。

 今日の予定は、ルー姉さんと海鳴市の繁華街に繰り出して、買い物――ルー姉さんいわく、デートの日――である。前日からやけにルー姉さんが張り切っていたのが印象的だ。

 朝食にベーコンエッグとチーズトースト、シーザーサラダ。食後の紅茶にケニルワース――よくこんな貴重な銘柄を仕入れてきたな、と感心した――をお気に入りの蒼いカップで楽しみ、ちょっとまったり。

 そしてサクッと着替えた僕は、ルー姉さんの準備が終わるまでの時間つぶしにテレビを見ていた。

 

「――変身のかけ声がなしってのも味気ないよな~。必殺技がキックじゃないのも肌に合わない」

『ご主人様は去年のに熱を上げてましたね』

「うん。巷での評価は低いみたいだけど、前作のは好きだよ。主人公青いし、テーマ曲かっこいいし」

『滑舌悪いですけどね』

「剣崎のことを悪く言うなよっ!」

 

 うん、オチがついたね。悪くないやりとりだ。

 こちらの言いたいことを理解して、うまく合いの手を返してくれるアインとの思いの外会話は楽しい。時々、「お前は僕の母親かっ!」と思うくらい口うるさかったり、過保護だったりするのが玉にきずだけどさ。

 しかし……、こいつは本当に不思議な奴だ。

 いつの間にか腕に収まっていたのも不思議だし、僕が言うのもなんだがその能力は反則級。ユーノいわく、「ミッドチルダのデバイスとは明らかに別物」だそうだし、本当によくわからない。

 以前……というか初めてアインが発動したその夜に諸々問いただしてみたことがある。そのときのアインの答えは……、

 

 

『禁則事項ですっ☆』

 

 

 だとさ。

 もう馬鹿らしくなって訊くのを止めた。

 ――だけど、アインのことはなぜか嫌いになれない。だから、いろいろと気になることはあるけど、不審な無機質だけれども。今のところは現状維持でいいかな、と思う。

 

『あ、ご主人様。ルーさんがいらっしゃいましたよ』

 

 つらつらと考えていた僕に、小声で注意を促すアイン。それに従い振り向く。

 部屋から出てきた姉さんは、かなりおめかしをしていた。

 

「攸くん、準備できたわよ」

「わ、よく似合ってるよルー姉さん。すごくきれいだ」

「まあ、ありがとう。ふふふ、お上手ね」

「本当の感想を言ったつもりなんだけど」

「もう、本当に上手なんだから。きっと攸くんはたくさんの女の子を泣かせるのね」

「大丈夫、僕は一途だよ。しつこいくらいにね」

 

 しょうがない子ね、って感じでため息をついているルー姉さんの服装は、白いワンピースにやや袖の短い紅色のカーディガン。まさしくエレガント、ザ・お嬢様的な格好である。

 もともと超☆一級な容姿を持つルー姉さんだ。何を着ても抜群に似合うが、やはりこういう上品な装いが一番よく似合うと個人的には思う。

 お姫様とかお嬢様とか、そんな高嶺の花的な女の子に弱いんだよね、僕って。

 他方、僕の服装はといえば普段から着ている青いパーカー――例の血がついてしまったのとはもちろん別物――に、クリーム色のハーフパンツという至って普通な格好。

 別にこれしか持ってないというわけじゃないけど、お気に入りの組み合わせなんだから仕方ないのだ。

 

「それじゃあ行きましょう?」

「うん。……ってちょ、恥ずかしいからそんなにくっつくのはヤメて」

「ふふふ、ダーメ♪」

 

 などとじゃれ合いながら、マンションを後にした。

 

 

   *  *  *

 

 

 春麗らかな日曜日。

 天気は晴れ、まさに行楽日よりといった陽気。休日とあって、街には親子連れの買い物客などで溢れかえっている。

 そんな中を、僕はルー姉さんに手を引かれ歩いていた。

 正直かなり恥ずかしいが、前に心配させてしまったという負い目から強く拒絶できない。

 

「攸くん、学校にはもう慣れた?」

「うん。友だちも結構できたし楽しいよ」

 

 勘違いしてはいけないが、別に高町さんたちだけと仲良くしているわけじゃない。男子とだって普通に親しく話すし、昼休みには遊んだりもする。クラスのみんなを煽って、けいどろとかまる踏みとかに参加させるのだ。

 僕は人見知りしない方だし、猫かぶって相手に合わせるくらい簡単だからそれなりに友人を作れている。……まあ、放課後に一緒に遊んだりとかはしてないけどさ。

 ああ、高町さんと言えば。今日は地元のサッカーチームの応援に行くんだそうな。

 僕も誘われたが丁重に断った。

 いや、サッカーは好きなスポーツなんだけどさ、見るよりやる方がいいんだよね。それにこの通り、今日はルー姉さんのご機嫌取りで忙しいのだ。

 

「よかった、お姉さん安心したわ。攸くんって、人嫌いなところがあるから心配してたの」

「……」

 

 そんなことはない――そう言いたくても言い返せない。

 足を止めた姉さんは、いつもの優しげな表情を消し去り、どこか傲慢で酷薄な笑みを浮かべていた。

 

「ヒトは醜い。愛や勇気、希望なんて理想を掲げて、その実奪い取ることしかしない不完全な生き物」

「……」

「妬み、恨み、怒りに恐れ、憎しみや欲望に塗れてヒトは大罪を犯す。犯し続ける。自らの愚かさに気づきもしないで喰い合い、いつか身を滅ぼす」

「ねえ、さん……?」

 

 僕は銀色の瞳に言い知れない恐怖を感じた。

 思わず屈服してしまいそうなほどのオーラは、優しく上品な普段の姉さんのイメージに反していて。何故か逆に全力で刃向かいたくなる。

 

「……ふふ、変なこと言ってごめんなさいね。今のは忘れてちょうだい。あなたには――、“攸夜”には必要のないものだもの」

 

 そう言うと、ルー姉さんが纏っていた息苦しい威圧感はいつの間にか消えていた。

 ふぃー、と息を吐く僕を見るルー姉さんの瞳はおもしろそうに。……なんか、身の危険を感じるんですけど?

 

「さ、行きましょう。攸くんには、お買い物につき合ってもらうつもりなんですからね」

「えっ、ああ、うん……」

 

 豪奢な髪を揺らす黄金の女帝に、僕は引きずられるがままついて行く。

 とりあえず、いまのやりとりの記憶には蓋をしようと思う。だって、さっきのことは考えない方がいいと脳裏にうるさいくらい、警告音が鳴り響いていたから。

 

 

   *  *  *

 

 

 市内の大手百貨店。

 やはりというか当然というか、店内はかなり混雑していて、はぐれたら迷子は確定。小三にもなって迷子の呼び出しをされるなんて最悪である。

 おもちゃ屋――健全な男子小学生は皆、理由が無くてもここに寄るのだ。異論は認めない――に立ち寄って、発売されたばかりの某荒野と口笛のRPGの四作目を地雷認定してみたり、今日の格好がお気に召さなかったたらしいルー姉さんに着せかえ人形のごとく遊ばれたたりと。

 姉さんも僕も、休日をそれなりに満喫した。……ぐすん。

 

 二時間ほど姉さんにおもちゃにされたあと、レストランで少し遅めの昼食をとることになった。

 ルー姉さんが頼んだのはカルボナーラで僕がオムライス。食後のデザート、チョコレートパフェのチープな味も悪くないかも。

 

「おいしかったね、姉さん」

「ええ、たまにはこういう庶民的なお店も悪くないわね」

「庶民的って……」

 

 姉さんに言わせたら、三ツ星レストランだって庶民扱いされそうだよ。

 それはともかく、異変が起きたのはぜんぶ食べ終えて、まったりしていたときだ。

 

「――ッ!?」

 

 突然感じた強い魔力の波動。

 それに少し遅れてやってきた地響き。十中八九、ジュエルシードが発動した余波だろう。

 この様子だと、街にはかなりの被害が出ているかもしれない。正直、被害が大きかろうが僕的にはどうでもいいんだけど、姉さんに危害が加わるってんなら黙ってられない。

 

「あら、地震かしら?」

「……ゴメン、ルー姉さん。すぐに戻ってくるから、ここで待ってて!」

「え、ちょっと攸くん!?」

 

 ルー姉さんの返事を聞かずに、僕はレストランを飛び出した。

 どうやら僕は高町さんとユーノに随分と感情移入しているらしい自分に、苦笑しながら。

 

 

   *  *  *

 

 

「ええい! 鬱陶しい!!」

 

 アスファルトを突き破り迫る樹の根を、〈賢明の刃〉と〈ヴォーテックス〉で薙ぎ払う。

 倒壊したビルの残骸や、ひしゃげた車に鎮座する中を通り抜け、元凶であろう巨大な樹に向かって突き進む。

 空を飛べない僕は、練り上げた魔力で強化した自分の脚で走って接近しなければならない。もっとも、その速度は小学三年生とは到底思えないものだったりするのだが。我ながら、なかなかにバケモノじみてきてるね。

 

「っ、ちぃ!」

 

 樹の根が吹き飛ばしたのだろう、頭上からひしゃげた自販機が二つ降ってきた。

 僕は素早く身をひるがえし、前転気味にドッジして一つめを回避。二つめが迫る中、近くにあったバス停の標識をひっ掴んで振りかぶる。

 タイミングはドンピシャ! 全力で鉄の塊を振り抜く。

 

()()ターホームランッ! ――なんちゃって」

 

 ガキンッ、と鈍い音が響き、ブン殴られた自販機はいずこかへと吹っ飛んでいった。

 うわーい。自販機の原形もなく壊れて、ジュースをブチ撒けてら。……中身がちょっともったいないな。

 ふーむ、しかし思いつきで魔力を通して強化してみたんだが、思った以上にうまくいったな。魔力というものは、なかなか奥が深い。いろいろいじくりまわしたら楽しめそうだ。

 

「ったく、今回はやけにド派手なことで。これじゃ近づけないな」

 

 執拗に襲いかかる樹の根を躱して移動を続けながら、つい愚痴る。

 アインもため息混じりに応えた。

 

『まさかの大スペクタクルですね。……どうやらご主人様の魔力に反応した防衛行動のようですが、まったく迷惑甚だしいです』

「それは何が原因で迷惑という意味?」

『えーと……ご主人様?』

「お前ね……。ん?」

 

 携帯に着信。ディスプレイには「高町なのは」の表示。

 

「もしもし、高町さん?」

 

《あっ、攸夜くん? た、たいへんなの! ジュエルシードが、マネージャーさんで、ビルが壊れて……!》

 

 どうやら高町さん、かなり動転しているようだ。

 まあ、無理もない。この規模の被害を見て落ち着けって方が無茶だ。

 

「わかってる、落ち着いて。まずは深呼吸しよう、さんはい」

《え、えと……すぅー……はー……深呼吸したよ?》

「よし、じゃあ今どこにいるか教えてくれる?」

《うん、えっと……――――だよ》

「……確認した。そっちに行くからそこで待ってて」

 

 とりあえず何か事情を知ってるみたいだし、合流を急ごうか。

 

 

   *  *  *

 

 

 とあるビルの屋上。

 街の被害がよくわかるこの場所で、聖祥大附属の制服をベースにしたらしい白い防護服〈バリアジャケット〉姿の高町さんとユーノに合流、情報の交換。

 

「つまり、アレの核は人間ってこと?」

「うん。人間の強い想念がジュエルシードを活性化させてるんだと思う」

「はやくなんとかしないと!」

 

 高町さんが息巻く。見つけていながら、みすみすジュエルシードの発動による被害を許したことを悔やんでいるらしい。

 あいかわらず、危うい背負い込みぐせだこと。

 

「それにはまず、大元になっている場所を見つけないと駄目だよ」

「元を見つければいいんだね」

「えっ?」

 

 間の抜けたユーノの声を余所に、高町さんはレイジングハートを構えると桜色の円状魔法陣を創り出した。

 中心の菱形部分がゆっくりと回転している。

 

『Area Search』

「リリカルマジカル! 探して、災厄の根元を!!」

 

 その言葉と同時に、魔法陣から発生した、魔法陣と同じ色をした光の帯が街全体を包み込んでいった。

 それにしても、「リリカルマジカル」ってちょっとアレなかけ声だよな。

 

「――見つけた!」

「本当!?」

 

 高町さんが示す方向の大樹はここからかなり距離がある。

 少なくとも現状の僕じゃ手も足も出ないかな。

 

「すぐに封印するから」

「ここからじゃ無理だよ、もっと近づかないと」

「できるよ! だいじょうぶ! そうだよね、レイジングハート?」

『All right.Shooting mode,Set up』

 

 レイジングハートが変形する。それは“シューティングモード”の名に相応しい砲撃に適した形。

 高町さんはレイジングハートの銃口を大樹に向け、魔力の塊を撃ち出した。

 

「これで!! ――えっ!?」

 

 放たれた桜色の奔流はしかし、突如地面より延びた無数の根とそれに引き上げられたビルの残骸によって、だいぶ相殺されてしまった。

 愕然とした様子の高町さん。なんともいえないビミョーな空気がその場に蔓延する。

 

『どうやら、ご主人様が下手にちょっかいを出したことで、防衛能力が向上してしまったようですね』

「ちょっ、これ僕のせいかよ!? ――ハッ!?」

 

 殺気を感じて振り向くと、そこには瞳のハイライトが消えている高町さんの姿。

 

「攸夜くん……?」

 

 僕の頭の中はエマージェンシーコールで真っ赤っか。

 何か入れてはいけないスイッチを入れてしまった気がする!

 

「……どうして余計なこと、するのかな? いまのが決まれば封印できたんだよ? ちょっと――」

「わ、わかった、僕が何とかする。アイン!」

 

 身の危険を感じ、慌てて左拳を突き出す。

 左腕に平行になるように一枚の盾が、その両脇に二枚、さらに両側二枚ずつがアーチ状に配置された。

 それはまさしく巨大な弓――――

 一枚一枚の盾を繋ぎ、そして弓の弦の代わりをしているのは、内部結晶体と同じ色の蒼白い光。大きさが明らかに僕の体格と不釣り合いなため、地面と水平に構えている。

 

『アイン・ソフ・オウル〈弓形態〉、完成です。覚醒の仕方がかっこわるいです

けどね~』

「いいから、障害全部ぶち破るぞ!」

『はーい。――私の光、戻りなさい』

 

 いまいちやる気が感じられないアインの言葉が響き、宝玉のひとつが紫色に染まる。

 

「ヴォーテックス――」

 

 僕は開いた右手に闇の塊を発生させ、握りつぶして圧縮。ひとつの形に造り上げた。

 

「――ランスッ!」

 

 生成された僕の身長ほどの黒い槍、〈ヴォーテックス・ランス〉を矢として魔力でできた弦につがえる。

 同時に、弓の張りに相当する部分が前方に広がり、長大な“矢”に相応しいサイズに補正された。

 

『“剛毅の宝玉”、解放』

 

 膨大な魔力の解放とともに溢れ出す紫紺の光が周囲を包む。

 

「きゃっ!?」

「……すごい、こんな魔力見たことない」

 

 不思議な高揚感を感じながら矢を目一杯まで引き絞った。

 

「貫けええええッッ!!」

 

 限界ギリギリまで引いた矢を離す。

 音の速さで解き放たれた紫の光を纏う漆黒の矢は、空気を斬り裂き、物理法則すらねじ曲げながら、射線状に存在する全てを喰らい尽くして飛翔した。

 

「高町さん!」

「う、うん! 行って! 捕まえて!!」

 

 再度、レイジングハートから放たれた桜色の閃光が見事、ジュエルシードと核となっている人間に届いたようだ。

 

「リリカルマジカル! ジュエルシードシリアルⅩ封印!!」

 

『sealing』

 

 ――――こうしてなんとか封印に成功し、高町さんと別れてレストランに戻った僕だったけれど、案の定というか、ルー姉さんはお冠。お詫びに白のティーセットを選んでプレゼントしたのがよかったのか、許してはもらった。

 しかしまあ、何とも締まらないオチがついた一日だった。

 

 

   *  *  *

 

 

 日曜日の一件から数日後の放課後。

 僕は一抱えほどある紙袋を抱えてご機嫌で帰路を歩んでいた。

 

『そんなうろうろしてると、また迷いますよ?』

「もう迷わないよ……たぶん」

『ならいいんですケド。……しかしご機嫌ですね、ご主人様』

「ん、まーね♪」

 

 ついさっき、偶然見つけたたい焼き屋さん――店長が髭のおじさんじゃなくて残念――で大量のたい焼きを買い求めた僕のテンションは、現在天井知らず経験値上昇中なのである。

 数あるお菓子類の中でも一二を争うほど好きなのがたい焼きだ。アンコはもちろんチーズなどの変わり種も大好きだ。

 

「~~♪」

 

 ――だからこの時浮かれていた僕は、激しく注意散漫だった。

 

「うわっ」

「きゃっ」

 

 突然、わき道から勢いよく出てきた誰かにぶつかり地面に尻餅をついた。

 その時、ぐしゃあっと嫌な音がする。

 

「あ」

「あっ」

 

 恐る恐る顔を上げる。

 僕の目の前には、誰かさんのお尻に潰されているたい焼きさんたちの哀れな姿。

 キッ、と怒りを覚えて元凶に睨みつけた。

 ――そして、別の意味で息をのんだ。

 黒いリボンでツーサイドテールにした、上品なシルクのように美しい黄金の髪。ビスクドールがごとき整った容姿に、憂いを帯びたつぶらな真紅の瞳。赤いリボンの黒いワンピースを着た、童話の世界から抜け出したお姫様みたいに綺麗な女の子が、目の前にいたから。

 

(か……かわいい……)

 

「ご、ごめんなさいっ!」

「や、こっちの方こそごめん。怪我なかった?」

 

 立ち上がり、座り込んだ女の子に手を差し伸べる。動揺がショックを超越して内心パニックに陥っている僕だが、思いの外紳士的に行動できてると思う。

 

「あ、だいじょうぶ、です」

 

 かわいらしい綺麗な声だ。おどおどと僕の手を取る姿がまたいじましくて、なんだか嗜虐心がムズムズする。

 いじわる、しちゃおうかな……。

 

「でもさ、食べ物の恨みって深いと思うんだよ。…………台無しにして悪いと思うよね? 思うよね?」

「う、うん、思う、かも?」

「よし、なら君にはそれ相応の罰を与えよう。というわけでちょっとついてきて」

「え、え? ええぇぇ~っ!?」

 

 目を白黒させる彼女の手を引き、問答無用で近くのそれなりに大きい公園にやってきた。

 ちょっぴり寂れてるけど、桜の木がたくさん植えられてるから満開になったらさぞや美しいだろう。まあ、残念なことに花はぜんぶ散っちゃってるけどね。

 

「えっと……」

 

 当然というか警戒されているが華麗にスルーして、ベンチに腰掛ける。

 辛うじて生き残ったたい焼き――全部で三つだった――のひとつを差し出すと、女の子はきょとんととした風に小首を傾げた。

 

「たい焼き、食べていいよ」

「……いいの?」

「どうせ三つしかないし、君みたいにかわいい娘と一緒に食べられるなら、犠牲になったたい焼きたちも浮かばれると思うんだ」

「っ!? か、かわっ、かわいい……私、かわいい……?」

「うん。とっても」

 

 そう微笑むと彼女は白皙の肌をほんのりと朱に染め、たい焼きを受け取る。おずおずと隣に座って、じーっとたい焼きを見つめだした。

 意を決したのか、小さな口でしっぽに小さくかぶりつく。

 

「どう?」

「……おいしい、です」

「それはなにより」

 

 よほど気に入ったのか、女の子ははむはむもぐもぐと擬音が聞こえてくるくらいの勢いで、たい焼きを平らげている。

 僕も頭から食べてやった。海に逃げ込む隙など与えないのだ。

 

「…………」

 

 じーっとこちらを凝視する彼女。その目線は、最後のたい焼きに注がれていて。

 

「ん? もう一つ欲しいの?」

「ち、違うよ! そうじゃなくて――」

「しょうがないなぁ。最後の一個は君に譲るよ」

「えっ……いいの?」

「いいよ。僕はいつでも食べれらるしね」

 

 返答を遮り、たい焼きを手渡して「じゃあ僕は帰るね」と逃げるようにその場を立ち去った。

 ……なんだか急に、恥ずかしくなったから。

 

 

「あ、名前聞き忘れた……ま、いっか」

 

 この金色(こんじき)の女の子――フェイト・テスタロッサと再会することになるだなんて、このときの僕は、夢にも思ってなかったんだ。

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