魔法大戦リリカルなのはWizardS   作:かぜのこ

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#5

 

 

 

 平和な午後。

 

 過酷な戦いを忘れ、友だちと過ごす大切なひととき。

 

 そんな穏やかな時間を切り裂く一筋の雷鳴。

 現れたのは黒衣の魔導師――たい焼き?

 

 ま、まあ、いろいろ台無しだけど……

 

 魔法少女リリカルなのは、始まります。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ♯5 「魔剣少女とはじめての死闘」なの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜が明けて間もない海鳴市。

 地平線から顔を出した太陽が、朝靄に包まれた街を幻想的に照らしていた。

 時間は午前六時頃。

 ベランダに面したガラス窓から日の光が室内に射し込む。

 部屋の規模に見合った無駄に広々としているシステムキッチンで、僕は眠い目を擦りながらとあるお菓子を作っていた。

 焼き上がった“それ”をオーブンから取り出して、味見に一口。

 

「……んむ。よし、上出来だ」

 

 “それ”を崩れないように気を使って、竹製の大きめなバスケットの中に詰める。これで作業は一段落だ。

 

『ご主人様、気合い入ってますね~』

「そんなことないよ」

『でも、今作ってたのは“とっておき”なんじゃ?』

「よそ様のお宅にお邪魔するんだしさ、半端な物なんて持ってけないって」

 

 本日はなんと、月村さんちのお茶会にお呼ばれしているのだ。

 実はあまり乗り気ではじゃなかったのだが、高町さんの強引さに押し切られてしまった。この前の日曜日のことを気にしてたりするのだろうか。

 

『またまた~、どうせおいしいお菓子でポイント稼ごうとか思ってるんでしょう』

「ぐっ」

『この前だって見ず知らずの女の子をひっかけたりして。ひどいっ、私とのことは遊びだったんですね? ぐすん』

「誰が無機質と恋に落ちるか」

『もう、私だって女の子なんですよ!?』

「はいはいすごいすごい」

『むきー、もっとマジメにかまってくださいっ!』

 

 どうせよっちゅうねん。

 

 

   *  *  *

 

 

 月村すずかさんち――紺色の屋根に赤茶のレンガ造りの三階建て。これ何平米あるんだ?――の庭先にあるサンルームにて。

 おなじみ三人娘以外に、大人が数人同席していた。

 一人め、高町さんと彼女のお兄さんである恭也さん。初めましてな恭也さんは、好青年的な雰囲気な人だ。

 二人め、月村さんのお姉さんの忍さん。かなりお美しいおねーさまだが、どうやら恭也さんと恋人同士らしい。残念。

 お二人はどうやら聖祥大の学生さんらしいのだが、ルー姉さんとの面識はないとのこと。学部が違うのだろう。

 

「お茶をご用意いたしましょう。何がよろしいですか?」

 

 とはメイド長のノエルさん。傍らには同じくメイドのファリンさん。何故だか雰囲気に違和感を感じるお二人も、かなりの美人さんだ。

 というか、リアルメイドさんとか初めて見たよ。いるところにはいるもんだね。

 とりあえず高町さんと恭也さんはお任せ、だそうで。

 んじゃあ、僕は……

 

「シトラス&アップル、あります?」

「ええ、ございますよ」

「じゃあそれで」

「かしこまりました」

 

 シーン、と天使が通り過ぎる。

 あれれ? なんかみんなから引かれてるよ?

 

「あんた、普通そういうこと言う?」

「いや、何がいいかって聞かれたし。床屋さんでも痒いところがあったら言うし。あとここはお約束的に指定するところかな、と」

「ホンット、図々しいわねあんた。むしろ尊敬するわ。ていうかお約束ってなによ」

 

 バニングスさんナイスツッコミ、ぐっじょぶ。

 

「この子、おもしろい子ねー」

「あはは……」

 

 感心するお姉さんと苦笑する妹さん。好対照な姉妹ですね。

 

「じゃあ、私と恭也は部屋にいるから」

「はい、そちらにお持ちします」

「またな、なのは」

 

 目線を交わし合う恭也さんと忍さん。すでに桃色空間を作り出しているのですが、砂吐いていいですか?

 まさに絵に描いたような美男美女カップル、という奴である。海鳴市に来てからこっち、珍しいものばかり目にしているような気がする。常識はどこ行った、常識は。……あ、一番非常識な存在は僕か。

 そんな彼らを見ながら、ちょっと気づいたことを高町さんに聞いてみた。

 

「ねえ、高町さん。恭也さんってさ、武術か何かやってる?」

「うん。家に道場もあるんだよ」

「やっぱり。どうりで身のこなしに隙がないと思った」

 

 妹の高町さんは典型的な運動音痴だってのに、不思議なこともあるもんだ。

 

「攸夜くん、よく見ただけでそんなことがわかるね」

「ん、まあね。ヒトを見る目にはちょっと自信があるんだ」

 

 堅気の人じゃないってことは一目見てわかった。ついでになんだか僕を見る眼光が無駄に鋭すぎるし。

 さておき、三人娘は今し方出て行ったカップルについて、興味津々といった感じで語り合っていた。さすが幼くても女の子、恋バナの類は大好物なのだろうか。

 僕はとりあえず空気化して背景に溶け込んどいた。コメントを求められても、その、困る。

 ちなみにユーノは猫に目をつけられて冷や汗を流してたり。おもしろくなりそうだから助けてやらないけど。

 

 その後、話題は変わって高町さんが最近元気がないという話に。

 前回ジュエルシードの封印には成功したが、街には痛々しい破壊の爪痕が残った。発生した被害を目にして高町さんは決意を新たにしたようで、それが原因なんじゃないかと思う。相変わらず気負いすぎだ。

 ――僕はそこまで思い込むことはできない。せいぜいルー姉さんや高町さん、ユーノなど自分に親しい人たちが傷つかなければ、それでいい。

 「もしなにか心配事があれば、話してくれないかな」とは月村さんの言。バニングスさんもよく見ている。まったく、本当にいい娘さんたちだことで。

 

「きゅ~~ッ!?」

 

 となにやらユーノが猫に追いかけられはじめた。

 うむ、予想通り。相変わらずおいしい役回りだね、ユーノ君は。

 

「ユーノくん!?」

「あ、アイ、ダメだよ!」

「はーい、お待たせしました~。イチゴミルクティとシトラス&アップル、クリームチーズクッキーでーす」

 

 そこでファリンさんがお茶とお菓子を持って登場。室内を追いかけっこするユーノと猫が足下を通り、バランスを崩した。

 な、なんてベタな展開。おいしすぎるだろうッ! ――って、そうじゃなくて!

 

「ファリン、危ない!」

 

(〈魔力錬磨〉ッ!)

 

 瞬時に魔力で身体強化。茶器の方は高町さんと月村さんが届きそうなので、僕は飛び上がった小皿などに集中した。

 

「ふー、なんほかなっはか」

 

 両手両足、ついでに口と頭を使って回収完了。リフティングの要領で、バランスを取る。

 

「「「おー」」」

 

 ぱちぱちぱち。

 みんなから感心されてしまった。つーか、体勢とか息がめっちゃ苦しいんで、早く手貸してください。

 

 

   *  *  *

 

 

 屋敷前の庭園に移動して。

 

「ああ、そうだ」

 

 僕は持参したバスケットをテーブルに上げる。

 バスケットに並んだ20個ほどのマドレーヌを、三人娘が物珍しそうに覗きこんでいる。

 

「ほぇぇ、おいしそー! これ、攸夜くんが作ったの?」

「そうだよ。今朝、ちょっと早起きしてね」

「へー、ホントおいしそう。意外な才能ね」

「お弁当も作ってるんだし、ありえるじゃないかな、アリサちゃん。でも、男の子がお菓子作れるのって珍しいね」

「あはは、まあそんなとこ。たくさん作ったからみんなでわけてよ。味は保証する」

 

「「「いただきまーす」」」

 

 ぱくっと、高町さんが一番最初に。若干おっかなびっくりにバニングスさんが。一番最後に月村さんがおっとりと口に運ぶ。

 

「わぁっ、おいしい!」

「くっ、負けた……」

「このマドレーヌ、ほんとうに攸夜君が作ったの? お店で出してもおかしくないよ」

 

 女性陣からの反響は上々。

 ちなみに上から高町さん、バニングスさん、月村さんの感想だ。てか負けたってなにさ。

 

「うん、母さんの直伝でね。まあ、オリジナルにはまだまだ程遠いけど」

 

「「「へぇ~」」」

 

 わざわざ早起きして作った甲斐のあるリアクションで満足だ。

 

《――ユウヤ》

 

 お菓子に夢中な娘さんたちを眺めてニヤニヤしてたら、最近やっと使えるようになった念話によるユーノからの呼びかけがあった。

 しかし、この念話という奴にはなかなか慣れない。思考の中に無理やり割り込まれるというか……、そう言えば以前にもこんな感覚を味わったような?

 

《なんだい、小動物》

 

 テーブルの上のユーノに視線を向け、少し茶化した風に言葉を返す。

 

《真面目な話なんだよ。……君はいったい何者?》

《……その心は?》

《この前、君とアイン・ソフ・オウルが見せたあの“力”――あれははっきり言って異常だ。あの時君たちは、ジュエルシードと同等……いや、それ以上の魔力を発揮していた》

《…………》

 

 それは自分でも感じていたことだ。“剛毅の宝玉”の解放が引き起こした現象はあまりにも圧倒的で暴力的だったから。

 

《……さあね。僕だってそれがわかれば苦労はしないよ》

《…………わかった、僕もこれ以上は聞かないよ。だけどこれだけは覚えておいて、君の力はきっと――》

 

「なぁーお」

「きゅっ!?」

 

 何かシリアスで重要なことを言い掛けたユーノはしかし、猫の視線に充てられて硬直する。

 僕はそれを見ながらため息をついた。

 

「あーあ」

「どうしたの?」

「いや。ユーノ君のイジられキャラっぷりに感服してただけ」

「そうなの?」

「そうなのです」

 

 そんな会話を交わしている感じたジュエルシードの気配。まだ発動はしていないようだ。

 

《これって……》

《ジュエルシードだね。かなり近い、すぐ側だ》

 

 僕と高町さんは顔を見合わせる。

 

《どうするの、なのは?》

《えっと、えっと》

 

 ユーノの問いに高町さんは二人を見回し、逡巡する。何の理由もなしに離れるのは心配をかけさせるだけ、いい判断だ。

 

《――そうだ!》

 

 そう言うや否や、ユーノが一目散に森の方へ駆けていく。

 

「ユーノくん!? あっ」

 

 なるほど、そういうことか。ユーノも考えたな。

 高町さんもユーノの意図に気づいたようだ。

 

「ユーノ、どうかしたの?」

「なにか見つけたのかも。ちょ、ちょっと探してくるね」

「一緒に行こうか?」

「まあ待ちたまえ、僕が行こう。エスコート役は任せてよ」

 

 キザすぎる気もするけど、これくらい茶化した方が逆に疑われないだろう。

 不本意だけど、僕のキャラらしいから。不本意だけど。

 

「……攸夜、なのはにへんなことしたらただじゃすまないわよ」

「しないってば」

「にゃはは、だいじょうぶだよ、攸夜くんやさしいもん」

 

 冗談めかした軽口もフォローしてくれる君の方こそなかなか優しいと思うよ、高町さん。

 

「すぐ戻ってくるから待っててね、アリサちゃん、すずかちゃん」

 

 

   *  *  *

 

 

 森の中。木々の間に出来た獣道を駆ける。

 

「――発動した!」

「ちっ、間に合わなかったか!」

「っ、ここだと人目が――結界を創らなきゃ」

 

 ユーノはそう言うと、目を閉じ念じる。

 前方に緑色の円状魔法陣が展開。中心の菱形が回転し、発する光が一段と強くなると、周囲の景色が色を失う。

 周りの空間から違和感を感じる。……なるほど、魔導師戦用のバトルフィールドってわけだな。

 

「やるじゃないか、ユーノ」

「得意、だからね」

「あっ」

 

 高町さんの声に視線を向ける。発生した白い光の中から現れたのは――――

 

 

「猫、だ」

「うん、猫だね」

「にゃはは……」

 

 でっかい猫でした。

 アイとか月村さんが言ってた子だ。

 ユーノいわく、彼あるいは彼女の大きくなりたいという願望が、ジュエルシードによって発現したのだと。

 ちなみに僕は犬派である。

 

「台無しだな、いろいろと」

「そうだね。……んー、襲ってくる様子もないし、ささっと封印しちゃお」

「賛成。今回、僕の出番はなしかな」

 

 苦笑しつつ、高町さんが首に下げた紅い宝石を手に取った。

 

「レイジングハート! ――っ!?」

 

 刹那、後方から金色の閃光が迸り巨大猫に直撃した。

 僕は即座に術式を構成、遠見の魔法〈ロケーション〉を発動。左眼の視野に魔法を撃ち出した張本人の姿が映る。

 ――電柱の上。

 灰色と青色の混ざったマーブル色の空を背景に、黄金のツインテールと漆黒のマントをははためかせた黒衣の少女が佇んでいた。

 僕は音まで拾える最大出力の〈ロケーション〉で、乱入者の情報を探る。……うん、激しくどっかで見たことある。ていうか心当たりアリアリ。

 ――彼女は先日出逢ったお姫様みたいに綺麗な女の子だった。

 

(あの娘、魔導師だったのか……しっかし似合ってるなぁ、あの格好。……際どいけど)

 

「バルディッシュ、フォトンランサー連撃」

 

 女の子が淡々とした口調で、斧状の黒いデバイス――“バルディッシュ”に命を下す。

 

『Photon Lancer,Full auto fire』

 

 デバイスの先から雷電を伴った弾丸が速射砲のように発射される。

 それらは全弾余すことなく巨大猫に直撃した。

 

「魔法の光――!?」

「レイジングハート! お願い!」

『Standby lady,Set up』

 

 桜色の光に包まれ、高町さんは即座に白いバリアジャケットに身を包む。

 

『変身、かっこいいですよねえ。私もやりたいです、魔法少女的な意味で』

「僕だってやりたいよ。マスクドライダー的な意味で」

 

 目の前に展開しているアインと呑気な会話を交わしているその横で、高町さんが飛行魔法を発動。巨大猫を守るべく飛び上がると、広範囲防御魔法を張り巡らした。

 降り注ぐ金色の弾雨。防御魔法と魔弾が桜と金の光を散らせて空中に揺らめく。

 

「魔導師……」

 

 さらに撃ち出した二発の魔弾が巨大猫の足下に着弾、体勢を崩す。

 

「う、うわ、うわっ」

 

 足場を崩された高町さんは軽く悲鳴を上げながら、何とか着地した。

 

(……戦い方が巧いな)

 

 黒衣の少女が頭上の木の枝に着地する。

 

「同系の魔導師、ロストロギアの探索者か――って、あっ、タイヤキのひと?」

「た、たい焼き?」

 

 黒衣の女の子――以後、“金色の娘(きんいろのこ)”と呼称する――が僕を見て発したセリフで、シリアスなムードが一瞬にして台無しになった。

 どうやら彼女、かなりの天然さんらしい。

 

「あー……やあ、こんにちは、奇遇だね」

「攸夜くん、知ってる子?」

「たい焼き潰されて、たい焼き奢った」

「えっと、ごめん、ちょっと意味わかんないかな」

「……私も、わからなかった」

 

 君まで言うか。

 というか、ふたりして生暖かい視線を向けるんじゃないよ。案外君ら、気が合うんじゃない?

 

『大丈夫です、ご主人様! ご主人様には私がついてますから!』

 

 アインまで加わって、なんというカオスな空気。え、なにこれ? これって僕が悪いの?

 

「こほん……バルディッシュ、インテリジェントデバイス」『Scythe form,Set up』

 

「バル、ディッシュ……?」

 

 “金色の娘(きんいろのこ)”のかわいらしい咳払いの後、漆黒のデバイスが男声の機械音を発して変形。三日月状の金色に輝く魔力刃を発生させ一振り、青眼に構えた。

 〈サイズフォーム〉。その形は文字通りの戦鎌――彼女の黒を基調とした(結構際どい)服装も相まって、さながら姿は死神のよう。可憐で華奢なかわいい死神だが。

 

「ロストロギア、ジュエルシード――」

「っ!」

「――申し訳ないけど、いただいていきます」

 

 始まるのはシリアスな雰囲気の空中戦。紆余曲折あって、最終的には猫に気を取られた高町さんが撃墜された。

 ……まあ、僕は見てただけだけどさ。

 援護とか無理無理。やったら最後、ふたり纏めて穴だらけなるっての。

 

 高町さんを下した“金色の娘(きんいろのこ)”が音もなく着地する。

 僕に向けられた紅い眼は氷のように冷たく、機械のように感情が希薄で――けれど、僕にはどこか()()()()()()()()()()()()ようにも見えた。

 

「……あなたは、どうするんですか?」

「封印の邪魔はしないさ。そもそも僕にはそんなことできないしね」

「……? そうですか。邪魔をしないならいいです」

 

 彼女は淡白に言うと、デバイスを変形させ、地面に叩きつける。雷撃が地を這うように走り、猫を捕らえた。

 

「ロストロギア・ジュエルシード、シリアルⅩⅣ。封印」

 

 天に撃ち上げた砲撃が雷雲を創り出す。そこから轟音とともに無数の雷撃が降り注ぎ、大地を蹂躙。

 次いで、高町さんやユーノのそれと同じデザインな円状魔法陣から、極太の光の柱が撃ち降ろされた。

 閃光が収束する。

 跡に残ったのは倒れ伏した猫と、鈍く光る青い宝石(ジュエルシード)。金色の彼女がジュエルシードを回収しようと近づく。

 僕は彼女が気を抜くそのタイミングを見計らって、密かに魔法の術式を構築・発動した。

 

「あっ!?」

 

 青い宝石がすぅーっと彼女から逃げるように宙を飛び、僕の手中に収まる。

 

「ご苦労様。悪いね」

 

 ジュエルシードを掲げて見せて、どや顔でのたまってみる。

 僕が発動させたのは、不可視の手を作り出し、遠くの物を引き寄せる〈インビジブルハンド〉という魔法。比較的簡単な魔法だし、実生活でも使えそうだったので修得してみたのだが……まさかこんな風に使う機会が来るとは夢にも思わなかった。

 

「邪魔しないって!」

「封印の邪魔はね。回収の邪魔をしないなんて、僕は言った覚えはないよ」

「っ!!」

 

 “金色の娘(きんいろのこ)”が苦虫を噛みしめるように顔を歪めた。

 おうおう、睨まれてるね、思いっきり。ふふ、狙い通りだ。

 

「ジュエルシード、返して!」

「おっと」

 

 鎌を振り上げて飛びかかってくる“金色の娘(きんいろのこ)”をひらりと躱し、走る。

 ここで戦うのはあまりよろしくない。彼女は優しそうな感じがするしまあないとは思うが、気絶している高町さんに危害を加えられては困る。

 僕の狙い通り、木々の隙間をすり抜けるように追いかけてきた彼女を気配で確認しつつ、分割思考(マルチタスク)でユーノへ念話を繋げる。

 

《ユーノ、高町さんの様子は?》

《大丈夫、気を失っているだけだよ。それより君の方こそ大丈夫なの? その子、かなりの実力者だよ》

《うーん……ダメかも》

《ちょっ!?》

 

 あんなド派手なビームを放てるヤツに勝てるわけないだろう、常識的に考えて。

 どないせよっちゅうねん。

 

 

   *  *  *

 

 

 天より降り注ぐ金色の弾雨。

 防護服(バリアジャケット)なんて高尚なものを持っていない紙装甲の僕が喰らえば、一発で昏倒である。

 上空という戦術的に優位な位置を取られ、僕は無様に逃げ惑うしかできない――わけじゃない。

 

「行け!」

 

 魔法の技後硬直を突くように振り向き、〈賢明の刃〉を順次浴びせかける。が、“金色の娘(きんいろのこ)”は何気ない仕草でそれを回避していく。

  高町さんとの戦いからわかっていたことだが、彼女が 真っ当な戦闘訓練を受けていることがわかる。

 

「フォトンランサー!」

 

 カウンターとばかりに、デバイスから金色の魔力弾が乱射される。

 それを地面に転がって回避しながら、僕は冷静に分析していた。

 

(ヤバいな。地力が違いすぎる)

 

 こちとら魔法をちょっとかじっただけのド素人。

 かたや向こうは、専門的な訓練を受けた魔導師。

 その上、地べたと空中という絶対的な落差まで存在する。この戦力差、飛車角落ちどころの騒ぎじゃない。

 彼女もそれをわかっているのだろう、不意に攻撃の手を取めて僕を見下ろす。諭すような、それでいで拒否を許さない断固たる意志を感じさせる声色で、言葉を発する。

 

「あなたじゃ、私には勝てない。大人しくそれを……、ジュエルシードを渡して」

「――勝てない、ね。まあ、確かにそうだろうな、実際」

 

 立ち上がり、彼女を見上げて睨み返す。大粒のルビーを思わせる真紅の瞳と視線が交錯した。

 負けたくない、屈したくない。胸の奥のほうにしまっておいた反骨心が疼き出す。僕の命運は僕自身の手で選び取って決めるんだ。強請らず、勝ち取って……たとえそれが敗北――死であっても。

 

「だが断る! アイン!!」

『賢明の刃っ!』

 

「……っ、なら私も、容赦しません!」

 

 殺到する七枚の“羽根”を、最低限の体重移動だけで回避した“金色の娘(きんいろのこ)”が戦鎌(バルディッシュ)を振りかぶる。

 魔力を関知、直感が危機を知らせる。稲妻が迸ったかと思った刹那、彼女が目の前、近接距離(クロスレンジ)に現れた。

 間一髪、直感を信じた僕は数瞬先に斬撃の内側へと飛び込む。紙一重、髪の毛が数本斬り飛ばされた気がする。

 刃を潜り抜けた勢いのまま、彼女の脇を通り過ぎ、振り向く。振り下ろした格好で硬直した“金色の娘(きんいろのこ)”の背中に、左の人差し指を突きつける。

 練り上げた魔力、撃ち放つは蒼白い光弾〈スピットレイ〉。

 甲高い発射音。間一髪で飛び退いた“金色の娘(きんいろのこ)”のマントの端をスピットレイが打ち抜いた。

 ――ちっ、避けられたか。

 まあ、距離を取らせただけ上等だ。

 

(勝てないなら勝てないで、“引き出し“を少しでも暴かせてもらう!)

 

 我ながらいささかセコい真似だが、この先ジュエルシードを集める上で彼女と敵対することは避けられないだろう。ならば、有利に事を運ぶために相手の手札を探る。セコかろうがなんだろうが、最終的に勝てばよかろうなのだ。

 それにユーノに対する義理もあるし、高町さん(友だち)を傷つけられたのも気に食わない。何より勝てないからって「はいそうですか」と諦めるなんて癪な真似、まっぴら御免だ。

 女の子と戦うってのはちょっと気が引けるけど、やるからには徹底的にやってやる!

 

「くうっ、この、しつこいっ!!」

 

 執拗なアインによる牽制でこちらへの意識を削り、手頃な木の幹を一気に駆け上がる。重力その他は置き去りだ。

 適当な高さに到達したら、術式で制御された魔力を足の裏で爆発。その勢いを持って一気に跳躍し、宙返りするようにして彼女の頭上を取った。

 “金色の娘(きんいろのこ)”もこの行動に驚いたのか、一瞬動きを止める。

 チャンス!

 

「ヴォーテックス!」

「ッ!」

 

 闇の魔弾を投射。

 しかし金色の娘は魔弾をひらりと避けると、手に持った黒いデバイスから金色の刃を展開、ふたたび鎌の形にして振り上げる。

 魔法――!

 頭から自由落下している僕は回避することができない。

 

「アーク――ッ!?」

 

 しかし、彼女と僕の間を遮るように一枚の“羽根”が飛来、発動寸前の魔法を阻止。

 僕はその隙に空中で体勢をくるりと入れ替えると、下で待機させていたアインの一枚に着地した。

 

「デバイスを、足場に!?」

 

 “金色の娘(きんいろのこ)”は僕の行動に動揺を見せた。思いつきの付け焼き刃でも、虚を突くには成功したらしい。

 再度術式を構成、魔力を炸裂させた勢いで彼女に向かって肉薄する。

 

「せいッ!」

「くっ!」

 

 右の回し蹴り一閃。

 戦鎌の柄で受け止められるが、構わす身体をねじって蹴りの勢いまで乗せた左の掌打を顔面に向けて放つ。それを首を捻って回避されたのと同時に柄を蹴って跳躍、離脱する。

 当然のように待ち受けるアイン。

 着地、爆発。

 “金色の娘(きんいろのこ)”は迎え撃つようにデバイスを振るうが、今度は身体をひねって横をすり抜けて後ろに回る。

 やや高い位置を取り方向転換、追撃の飛び蹴り。すでにパターンを見切られたのか、ひょいと(たい)を反らされて避けられた。

 が、本命はあらかじめ死角に隠して用意しておいた四枚の“羽根”。アイン・ソフ・オウルが青い光跡を残して突撃する。

 突然現れたアインに“金色の娘(きんいろのこ)”は回避できない。

 

『Defenseor』

「きゃあっ!?」

 

 デバイスが展開したであろう障壁に〈賢明の刃〉が直撃し、一撃で粉砕する。どうやら彼女、疾さに反比例して防御は思いの外薄いらしい。

 これはいけるか? ――そんな油断が頭を過ぎった瞬間、“金色の娘(きんいろのこ)”の全身から大きな魔力が迸った。

 

「この! バルディッシュ!!」

『Thunder Smasher,Get set』

 

「サンダーーっ!」

 

 デバイス変形、彼女の足下に展開する金色の円状魔法陣。放電する稲妻。

 黄金の燐光が舞い散る。あきらかな大技の予兆に、思わず全身が強ばる。それがいけなかった。

 

「あー……」

 

 槍のように変形したデバイスの尖端に魔法陣が展開、砲撃体勢。

 落下中、足場を確保してももはや回避不可能だ。

 

「こりゃダメだ」

 

「スマッシャーーーッ!!」

 

 漆黒のデバイスから轟音を響かせて、夜闇を斬り裂く雷鳴のような金色(こんじき)の光が放たれた。

 瞬間、視界のすべてが黄金に染まる。

 襲い来る衝撃と痛みに意識を失う寸前。

 まばゆい光に包まれた僕はその絢爛豪華な輝きに見惚れ、心から純粋に綺麗だと思った――――

 

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