魔法大戦リリカルなのはWizardS   作:かぜのこ

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#26

 

 

 

 時は遡り、冥魔が首都全域に発生し始めたその頃――

 激烈な戦場と化したクラナガン中央、ビジネス街の片隅を悠然と行く長身の人影。周囲に完膚なきまでに粉砕された冥魔の死骸が散乱する中、癖の強い黒髪と濃紺のコートを靡かせて、まるで王者のように君臨している。

 払うように両手を二回打つ。

 

「さて、と、この辺りの掃除はこれで終わりかな。しかし……今回もまた随分とド派手な催しをしてくれやがったもんだが、一体何が目的なのやら。まったく、奴らの考えは理解出来ん」

 

 蒼黒の王――攸夜は独り言をぼやきつつ、地面に突き刺さっていたデモニックブルームを引き抜く。

 彼自身、常人と価値観がいささかかけ離れていることは自覚しているが、気狂いの考えていることなどわからないし、わかりたくもなかった。

 不測の事態を想定し、待機していた攸夜の耳に冥魔出現の一報が入ったのは、フェイトを送り出して直ぐのことだった。

 攸夜は、いち早くレジアス地上本部中将と最高評議会から許可を取り付けると、即座に行動を開始、こうして地上部隊に混じって掃討に参加していたのだ。以前から指揮系統など投げ捨てて暴れ回っているので、あまりいい顔はされなかったが。

 時空管理局との軋轢、魔王の道理や美学などを弁えている攸夜は、このような差し出がましい真似は本来好まない。要請がなければ傍観を決め込んでいただろう。

 しかし今回は妙な胸騒ぎというか、虫の知らせというか、とにかく表現しづらい第六感のようなものに突き動かされ、傍観者でいることが出来なかったのだ。

 実際、ジュエルシードが発見されただの身元不明の少女が保護されただの、奇っ怪な報告も聞こえてくる。それらと冥魔出現との因果関係は不明だが、無関係とも言い切れず、雲行きが怪しくなってきていることだけは間違いない。

 

「……ま、考えても無駄か。俺はただ、全てを破壊するだけだ」

 

 いつもの自虐を吐き、攸夜はだらりと自然体に構えた右手のデモニックブルームの刀身の根本から先にかけて左の爪を滑らせ、オリハルコンブレードを纏わせる。

 

「断空一閃ッッ!! ――なんてな」

 

 蒼い魔剣を左脇から右上へ、無造作に振り上げた軌跡が斜めに()()()

 その延長線上、遙か彼方で群をなしていた鳥獣型冥魔が空間ごと、世界ごと数十匹まとめて斬り落とされ、同時にその奥に浮かんでいた絹積雲が寸断されていた。

 この現象も空間を斬り裂く異能〈次元斬〉の応用である。

 敵を撃破した攸夜は、けれども何故か無感動に眉を顰める。何かを睨むように、鋭い目つきで虚空をじっと見つめていた。

 

「……しかし何だ、この肌に粘りつくようなプレッシャーは」

 

 攸夜の意識を捕らえていたのは、先ほどから感じている正体不明の不快感。

 誰かに視られている――強いて言えばそんな感覚だろうか。未だ具体的な性質は判然としないが、もしそうであるならば魔王を探ろうなど不埒極まりない。万死に値する行為である。

 別に全知全能を気取るつもりはないが、わからないことがあるのは不愉快だった。

 

「……散れ」

 

 不愉快ついでに手近な冥魔を手当たり次第に粉砕しつつ、攸夜はコンクリートジャングルを疾風のように駆け抜ける。

 八つ当たりの的にされた冥魔の方はたまったものではない。碌な抵抗も出来ぬまま、一方的に破壊されては消滅していく。

 また一群が、炸裂する〈サンライトバースター〉の爆光に巻き込まれて消し飛んだ。

 ストレス解消とばかりの駆逐作業を続ける中、攸夜がピタリと動きを停止した。

 冥魔の真っ直中である。

 何かに気を取られた破壊者に、これ幸いと襲い掛かる冥魔たち。もっとも何処からともなく飛来したアイン・ソフ・オウルがめったやたらに打ち倒していたが。

 

「――これは……、“世界”がざわめいている……?」

 

 魔力や神秘に対して極めて鋭敏な感覚が異常を訴えてた。

 周囲に漂う精霊が、目には見えない霊魂たちが戦慄におののいている。以前、パール=クールが特大魔法を放った時とは比べものにならないほどの恐怖に駆られて悲鳴を上げている。

 とびきり不吉な予感だ。

 攸夜は顔をしかめる。

 金の三重円が描かれたの背から数センチの空間を空けて、蒼白い半透明の魔力翼が閃く。

 トンッ、と軽快に地面を蹴り、攸夜の長身が浮き上がると、近くで一番高いビルの給水棟の上へゆっくり降り立った。

 

「……」

 

 激しい戦いを示す極彩色の魔力光が聳え立つ摩天楼を鮮やかに色付く。

 暫しの間、視線を険しく細めた紺碧の双眸が異変を捉えた。

 

「あっちは確か……廃棄都市群、だったか? ますます嫌な予感がしやがる」

 

 疑問は小さく。行動は迅速に。

 蒼銀の翼に寄り添い、七枚の“羽根”が放射状に展開する。毎度おなじみ、高速空戦仕様の高機動形態(ハイマットスタイル)だ。

 空路で一気に距離を稼ぐつもりなのだろう、ダークグレーのロングブーツの足先が給水棟からふわりと離れた。

 瞬く間に放出される魔力の粒子。

 純白の装甲が太陽の光を照り返し、透明な七色の宝玉の内部で陽光が乱反射する。

 一際強く光の粒子をバラ撒いた後、ひゅん、と独特の透き通った飛行音を響かせて“獣”が飛び去っていく。

 いくら超の付く方向音痴の攸夜でも、さすがに見えている場所に一直線で向かって辿り着けないほど狂ってはいない。……たぶん、きっと。

 ――――残された蒼白い粒子の軌跡はまるで、虹のような美しい弧を描いていた。

 

 

   *  *  *

 

 

 風を切るツインローターのくぐもった音が響く機内。

 

「やっぱり難しいかな、アルト。このまま突っ切るのって」

「ええ。かなり中央は混戦になっちゃってるみたいですし、ヘタすると味方に誤射されかねませんよ」

「そっか……、無茶言ってごめんね」

「いえ」

 

 この機のパイロット、アルト・クラエッタが答えると、なのはは納得したふうに瞼を伏せ、手慰みに隣の座席で丸まっている少女の髪を軽く撫で梳いた。

 明るいブロンドの手触りは妙にごわごわとしていて。なんとなく、「あとで洗ってあげなくっちゃ」と思う。なのは自身、そう考えた理由はいまいち判然としなかったが。

 現在、彼女らは空路でミッドチルダ北部ベルカ領自治区へ向かっていた。

 最寄りの地上本部傘下の病院に移動するという当初の予定も、冥魔の出現と共に始まった混乱の中では難しく。ティアナたちと同様の理由で戦場を大きく迂回して進んでいる。

 目的地は、戦域から距離があり、なおかつ比較的安全な聖王教会関連の病院施設だ。

 

「なのはちゃん、エンジェルハイロゥからの映像が回って来たわ」

 

 シャマルの声に、はたと顔を上げる。

 

「それで、どうなんですか?」

「フェイトちゃん、かなり苦戦してるみたい。相手も相当の手練れね、レイジングハートに回線を回しておくわ」

「ありがとうございます、シャマル先生」

 

 胸元のデバイスが展開した空間モニターに、軍事衛星が撮影したヘリポートの様子が映る。

 魔力反応から未だ戦闘が続いているのはわかるが、常識外れの速度で機動する両者の姿は肉眼では捉えきれない。なのはたちは、処理された映像でその動向を確認しているにすぎなかった。

 

「フェイトちゃん……」

 

 なのはは孤軍奮闘している大切な親友の安否を想い、その一方では不思議と納得していた。

 自分たちの判断は間違っていなかった、と。

 金髪の親友と速さで争えるほどの強敵――そんな相手との戦闘では、部下たちはもちろん、なのはとて足手纏いになってしまう可能性が高い。

 二対一だとか、気心の知れた親友同士だとかいう問題ではなく、単純になのはでは機動力や運動性が足りなくて追いつけないのだ。

 例えばこれが近接に強いだけの――シグナムのような――タイプであれば、砲台として援護程度のサポートは充分にできただろう。けれども今回の場合、要求される戦闘機動があまりにも高度で、小回りの利かない移動砲台はとろくさくって役にも立たない。――というのがなのはのやや自虐的な意見だが、それほど的外れというわけでもない。

 故に、内心忸怩たるものを感じつつも親友に任せるしかなかったのである。

 彼女、フェイト・T・ハラオウンが一流の魔導師であることは疑いようのない事実だ。

 ジュエルシードの一件でなのははフェイトを破ったものの、あの時の彼女のコンディションは最低最悪、常識的に考えればとてもまともに戦えるような状態ではなかった。

 あの勝利はもちろんなのはの多大な才能と真摯な研鑽、それから僅かな幸運によるものだが、同時に必定の結果であったとも言えた。

 その後――攸夜が“世界”から消失してから――、幾度も行われた模擬戦でのなのはとフェイトの戦績はほぼ五分五分。内容的にはややフェイトの優勢であったことが証明している。

 もっとも、なのはが手酷く撃墜されてから二人の模擬戦は行われていないし、今戦えば手も足も出ないままに下されるだろうけれども。

 全力全開トップスピードのフェイトと速度で張り合える人物など、あのイジワルな黒髪の幼なじみくらいだ、となのはは思う。

 あまつさえ最高速で阿吽の呼吸な連携までしてみせるのだから、感心を通り越して呆れてしまう。「どれだけ仲がいいのかな、君たちは」と。…………自分もあやかりたいくらいだ。

 

(――って違う違う)

 

 逸れた思考に自分でツッコミを入れ、なのはは隣ですぅすぅと規則正しい寝息をたてる不思議な少女に目を向けた。

 

「それにしても。この子、いったいなんなんだろ……」

 

 今ある情報から、素性を推測してみる。

 蜂蜜色の髪に、紅と碧のオッドアイ――これだけ特徴的なら、行方不明者届けとかが出ているだろうか。いや、状況から見てジュエルシードを所持していたわけだから、ただの民間人とは到底思えない。

 

(まさか、“人造魔導師”? ……って、それこそまさかだよね)

 

 脈絡もなく浮かんだ思いつきを即座に否定する。

 教導隊では、訓練生と犯罪者に魔法をぶっ放すのが主なお仕事だったので込み入った事情は把握していないが、概要くらいならフェイト経由で知っている。もっとも情報元の方も、例によって事後処理の段階で魔王なカレシから裏事情を聞かされたのだが。

 時空管理局の暗部に纏わる後ろ暗い歴史の多くは、人知れず闇に葬られることになるだろう。

 

「ううー、ぜんぜんわかんない……」

 

 小さく呻いて、ため息をつく。

 いくら考えてみても、答えは出そうにない。というか、彼女はこういう難しくてドロドロとしたことが極めて苦手なのだ。

 もともとあまり賢い方ではないし、もっとシンプル――例えば砲撃をズドンで済むよう――な事件構造の方がいろいろな意味で気が楽だった。

 

「まぁどっちにしても病院についてから、かな」

 

 とりあえず疑問についてはそう自己完結しておく。

 なのはが考えるべき課題は他にもたくさんあるのだから。

 フェイトのこと。ティアナたちのこと。そして冥魔のこと。

 もう状況に、周囲に流されるだけではいられない。自分で考え、自分の責任で決めていかなければ――

 

「!!」

 

 不意に、なのはの全身が総毛立った。

 

 ――何か、よくないものが降ってくる。

 

 確証は何もないけれど、確信した。

 今までに感じたことのないほどの巨大な、禍々しい“チカラ”の――破滅の到来を。

 ……この時、なのはがいち早く予感を抱いたのは宿命だったのかもしれない。

 

「アルト、避けてっ!!」

「ええっ?」

 

 突然の警告に、操縦士が怪訝な声を上げる。

 

「――っ、うそ、次元跳躍攻撃!!?」

「は、はいいぃ!?」

 

 一拍遅れてシャマルが、さらに遅れてアルト――正確にはブラックスターの計器類――が、空間の異常と尋常でない魔力を捉えた。

 回避はもう、間に合わない。

 なのはは咄嗟にオッドアイの少女に覆い被さり、振り絞るようにしてドーム状の魔法障壁を張り巡せる。

 それは奇しくも四年前、ユーノが見ず知らずの少女を護るためにとった行動と同じだった。

 

「――……マ、マ……?」

 

 抱きしめられた少女がそう呟くのとほぼ同時に、猛烈な暴虐の奔流が訪れた。

 

 晴天に紅炎の花が咲く。

 直径約200メートルの巨大な炎とドス黒い噴煙は、さながらを真っ青な空を汚す汚泥のよう。魔力爆発の余波か、黒煙に青い稲妻が幾条も迸っていた。

 上空に吹き荒れる風によって煙が晴れていくと、薄緑色の膜に包まれたヘリコプターの機体が無傷の状態で現れる。

 

「――っ、……あ、あれ? なんで……?」

 

 襲い来る衝撃と痛みに堪えようと、ぎゅっと目を瞑っていたなのはが恐る恐る顔を上げる。

 少女を庇う体勢のまま、キョロキョロと落ち着かない様子で機内を見回すと、自分と同じように困惑顔で辺りを窺っていたシャマルと目が合った。

 どうやら咄嗟に防御結界で機体全体を守ろうとしていたらしいクラールヴィントが、涼やかな魔力光を放っている。さすが腐ってもヴォルケンリッター、緊急時でも冷静に対処できていた。かなり涙目で格好がついてないが。

 しかし、自分たちが無事なのは、彼女の魔法のおかげというわけではないようだ。

 ふと人の気配を感じて、背後を振り返る。

 

《よお》

 

 窓ガラスの外、蒼白い魔力の翼を背負う背中は広く、頼もしく。奥には攻撃を防ぐのに用いたのだろう、白亜の大楯が見えた。

 はためく紺青のコートはいつかとは違う色だったけれど、なのはにはどこか懐かしく思えた。

 きっとそれは、なのはがイメージする“彼”の姿そのものだったからだ。

 

「攸夜くん!?」

《間一髪だったな。怪我ないか、なのは》

 

 しかし、念話で聞こえた気遣う声はひどく張り詰めた印象で。

 

「う、うん、みんな無事だよ。でも攸夜くんはどうしてここに?」

 

 らしくない幼なじみの違和感に少し戸惑いつつ、疑問を呈す。

 どこの誰から攻撃されたのか、なぜ? どうして? ――なのはにはわからないことだらけだった。

 

《俺は神出鬼没が信条でね。と、そんなことよりなのは、今のうちにここを離れろ》

「え、でも……」

《いいから行ってくれ。正直、お前たちを護りながら“ヤツ”と戦える自信がない》

 

 自信過剰な彼ではあり得ない弱気なセリフが飛び出し、親友を見捨てざるを得なかったことを愚図っていたなのはがギョッとして目を剥く。

 攸夜はその驚動をあえて無視して、蒼白い魔力を解放した。

 ぱきんっ、と甲高い音を立てて分離する“羽根”が、二対の盾と残りの一枚に分かれて背後から攸夜に覆い被さる。そして蒼銀の翼の面積が広がり、ネイビーブルーのコートを神々しい純白と金色が染め上げた。

 

 ――蒼銀の粒子に、金色の粒が混じる――――

 

 アイン・ソフ・オウル強襲形態に、白金のリミットブレイク――アジ・ダハーカ戦以来、数年に渡って使用されなかった現時点での最強形態を披露してもなお、攸夜の横顔は険しいままだ。

 

「……!?」

 

 なのはは見た。

 真っ青な大空に、大きな裂け目が開くのを。

 そのスキマから現れた、二対の真っ紅な翼を広げる黒い天使の姿を。

 そして、強化ガラス越しでもわかる絶対的で絶望的な力量の差を。

 いや、正確には感じ取れたわけではない。“ソレ”が自分の計り知れない存在であるということを、辛うじて理解しただけ。

 ――なのはは、自分の中の大切な何かが折れる音を聞いた。

 

《“冥刻王”……また厄介なのが出てきたな》

 

 危機感の籠もった声を最後に小さくなる攸夜の背中。シャマルの指示で、ヘリがその場から離れていく。

 それを見送るしかできない悔しさを噛みしめ、なのはは黒い天使の姿を紫水晶の瞳に食い入るように焼き付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ♯26 「冥刻王、蒼天に君臨す」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はじめましてなのかな、キミとは。……ねぇ、シャイマールの()()()()クン?」

 

 去っていく大型ヘリを見送って、紅い翼の黒い天使――メイオルティスが人懐っこい微笑みを浮かべた。

 彼女は、“冥魔王”と呼ばれる存在だ。

 元々は、ベール=ゼファーたち裏界魔王と同じ主八界創世の際に創造された存在。至高神――生みの親に叛逆し、そして破れた古き神々の成れの果てである。

 同じく叛逆した古代神、ベルたちとの違いはその後の幽閉場所。どこまでも傲慢で欲深いが、比較的世界の管理者であった頃から変質していない裏界の魔王たちとは異なり、世界の深淵――“混沌”へ堕とされた者たちは、生存することすら困難な途方もない“負”の要素に本質までもを汚染され、逆にそれを喰らって力とした。

 人における魂の部分を根底から歪められた彼らは、全てに破滅をもたらす正真正銘のバケモノと成り下がったのである。

 ちなみに、「第八世界(ファー・ジ・アース)に封じられたものたちは、至高神の特にお気に入りであった」、という俗説も存在するが真偽のほどは定かではない。

 

「……ふん」

 

 あからさまな挑発に、ぴくり、と攸夜の眉尻が吊り上がる。

 

「これはこれは。彼の“冥刻王”に名を知られていたとは光栄だね。ウィザードたちに負け続けてこちらに逃げてきたのかい? 情けないことだ」

 

 こちらも、負けず劣らずの挑発をやり返す。

 

「むぐっ、んなわけないじゃん! あたしはベルちゃんのいるところ、火の中水の中混沌の中、どこにだって行くんだから!」

 

 ちょっと向こう側へ逝っちゃった感じのお嬢さん。どこぞでぽんこつ魔王が怖気を感じてたりなんだり。

 

「ふん、質の悪いストーカーめ。()を愛でることの何たるかをわかっていないな」

「ストーカーじゃないもん! キミだって、好きな女の子をつけ回してたって聞いたけど、それってどうなの? 男の子して」

「人聞きが悪い。俺は影から慎ましく見守っていただけ、基本的には彼女の自由を尊重しているのさ。散々ちょっかい出して嫌われてるアンタとは違ってね」

「ぐぐぐ……! むきーっ!!」

 

 図星を突かれたのか、とうとうメイオルティスがブチギレた。

 前哨戦のさぐり合いの軍配は攸夜が上がったようである。まあ、どっちもどっちの低レベルな争いだが。

 さておき。気を取り直して。

 

「――で、アンタの狙いはあの保護したとか言う(むすめ)か」

「うん、そうだよ。あのコね、もともとはあたしたちのモノなの。ちょっとした手違いで逃げられちゃったんだけど、大事なモノだから返してほしいなっ♪」

 

 屈託のない笑顔でお願いする姿は純情可憐、まともな男性なら、コロリと参ってしまうかもしれない。

 

「なるほど、大体わかった」

 

 腕を組み、左手を顎に添えた案ずるような仕草する攸夜。口元の胡散臭い笑みを例えるなら、「作り物めいた笑顔」とでも言おうか。

 対するメイオルティスも、わくわくと擬音の聞こえそうな「にぱーっ☆」っとした笑顔で待っている。どちらも表面上はにこやかで、傍目で見れば和やかな会見の場に見えなくもないだろう。

 だが、答えなどとうにわかっているのだ。

 

「なら断る」

 

 不躾な返答が、大弓へと連結したアイン・ソフ・オウルの矢とともに放たれた。

「わわっと!」メイオルティスは軽快な飛翔でそれを難なくパスすると、元の位置に戻ってぷくっと頬を膨らませる。「あっぶないなぁ、短気は損気だよ?」

 プンプンと腕を大げさに振って何だかかわいげだ。

 

「……ま、キミならそういうと思ってたけどね」

 

 再度分離して、アイン・ソフ・オウルが強襲形態の定位置に戻る。攸夜は無感動な眼で、目の前の堕天使を見つめていた。

 

「で、交渉決裂だが。いったいどうするつもりだ、冥魔王」

「ふふん、もっちろん♪ そんなの決まってるじゃん」

 

 無邪気なままに、メイオルティスは右手に持った槍状の杖を突き出す。

 尖端部に収束する紅い魔力――ミッドチルダ式とも近代・古代ベルカ式とも、もちろん裏界の様式とも全く違う紅紫の魔法陣が描かれる。

 複雑なルーンが織りなす魔法陣――逆五芒星(デビルスター)の中心に、凶兆が膨れ上がっていく。

 

「――力ずくで目的を達成するんだよ。()()()()()()、ね」

 

 ゾッとするほど無垢な笑顔の天使が破壊の光を解き放つ。

 なのはのディバインバスターに勝るとも劣らない太さ、規模の魔力を前に、攸夜は左手をかざした。

 

「……くっ!」

 

 いつかのように素手で魔法を受け止める暴挙。吹き荒れる衝撃波と魔力の残滓で、彼の特徴的なボサボサの黒髪が吹き上がる。

 さすがにそのまま殴り飛ばすわけにもいかず、攸夜は圧力に押されて僅かに後退する。

 紅い光の嵐は数秒停滞した後、大きく頭上に弾き飛ばされた。

 軌道を無理矢理変えられた砲撃は、都市部から遠く離れた岩山に着弾してそれを崩壊させる。

 白煙の残る左手を下ろし、攸夜が薄く笑う。獰猛な、獲物を前にした“獣”の表情だ。

 

「冥魔王らしく、ね。……いいぜ、乗ってやる。その方がシンプルでやりやすい」

「あはっ♪ ノリがいいねぇ、キミ。あたし、そーいうの嫌いじゃないよ」

 

 不遜に言葉を交わし、両者は申し合わせたように動き出し、激突した。

 

 魔法の光条を幾条となく交差させ、乱れ舞うように激闘を繰り広げる二柱の破壊神。

 未だ小手調べであろう魔法の数々はしかし、眼下の廃棄都市に流れ落ちれば建物が一瞬で粉砕されるだけの威力が秘められていた。

 強烈極まりない大魔法の余波で大地がめくれ、空が裂ける。打ち捨てられた自動車や瓦礫、標識などが粉塵に紛れてまるで紙屑のように吹き飛んでいく。

 聖なる爆光が、天壌に輝く太陽の光冠が、深紅の砲撃が、全てを貪り喰う虚無が、次々に蒼天で炸裂した。

 

「あははははははっ! ほらほら、さっきまでの威勢はどうしたの? キミの力って、その程度なの?」

「チ……、好き勝手言ってくれる!」

 

 高らかに嘲笑う天使へ悪態を吐く魔王は、回避と反撃を続ける。それでも避け切れなかった魔法〈虚空の牙〉が障壁を掠めて大きく削り取っていった。

 一方、メイオルティスは撃ちかけられる魔法など物ともせず、強引に機動を続ける。障壁すら張らず、リブレイドが直撃してもまるで無傷だ。

 明らかに、火力で劣っている。

 魔法自体の“質”の差もあるだろうが、このメイオルティス、どれだけの魔力と“プラーナ”を今回の現し身に注ぎ込んでいるのだろう。少なくとも、単純な戦闘力だけなら確実に攸夜の数段上を行っていた。

 攸夜は言うまでもなく本体であり、さらに活動中の分身体の極一部を除いて破棄・回収、その上リミットブレイクまでして力を高めているにも関わらず、だ。

 だがあり得ないことではない。

 彼女はメイオルティス――“冥刻王”メイオルティスなのだから。

 

「ならば!」

 

 現状、魔法の撃ち合いは不利と見た攸夜は果断即決、月衣から愛剣を抜刀。〈オリハルコンブレード〉の術式を刀身に走らせる。

 そして、アイン・ソフ・オウルより∞の形の光輪を発して瞬時に亜音速まで加速、メイオルティスに詰め寄った。

 

「させないよ!」

 

 接近されることを嫌ったのだろうか、後方に退きつつあるメイオルティスが杖の先から放った拡散砲撃――まるで〈ディバインバスター・フルバースト〉のようだ――を、攸夜はデモニックブルームで次々に斬り払い、突貫する。

 弾く、弾く、弾く。

 弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く弾く――圧縮され、強烈な概念を付加された魔力素の塊の悉くを弾いて、攸夜は黒衣の天使に肉薄する。余裕の笑みをわずかに歪め、メイオルティスが得物を掲げるが――

 

「オオオオオッ!!」

 

 裂帛の砲哮。

 噴射する魔力が一層激しく輝く。

 

(その杖ごと、断ち斬る!)

 

 蒼光一閃。稲妻のような斬撃が繰り出される。

 しかし真一文字を描くと思われた会心の蒼は、割って入ったナニカに半ばから阻まれた。

 それは朱紅いナニカだった。

 

「――なっ!」

「ふふふ……、いい切り込みだったけど、考えがもうひとつ甘かったね?」

 

 メイオルティスが勝ち誇る。

 攸夜は瞠目した。

 蒼い光刃を受け止めていたのは、鍔飾りに一輪の薔薇をあしらった紅緋色に光る華美で豪奢な両手剣。大振りだが美しい、そしてそれ以上に禍々しい気配を醸す凶器――全体像や細部こそ違うものの、攸夜の知識に該当する存在が確かにあった。

 

「魔剣アルティシモ、だと……!?」

 

 〈魔剣アルティシモ〉――四本の妖刀に分けられ、ファー・ジ・アースの各地に封印されていたメイオルティスのかつての愛剣である。

 

「馬鹿な! それはすでに砕かれたはず!」

 

 そう、アルティシモがこの場所に、彼女の手にあるはずがない。分割された内の三本が、第八世界のウィザードたちによって破壊されているのだ。

 動揺を隠しきれない攸夜に、メイオルティスがしたり顔で説明する。

 

「んふふーっ、慌てない慌てない。これはあたしの杖を同じ形に似せただけのニセモノ、中身の入ってないハリボテなの。だから残念、あたしのチカラを補助する機能はついてないんだ。よかったね、キミにも勝ち目が出てきたよっ☆」

「チッ、大きなお世話だ!」

 

 攸夜と鍔迫り合う体勢で、黒い天使はニタニタと自らの優位性を誇示する。

 その言葉通り、このアルティシモには特殊な能力は付与されていない。さしずめ、斬り合いをするのに使い慣れた形状の武器が必要だったということだろう。

 また、攸夜の知るものと形状が異なっているのはおそらくこれこそが完全な姿であるから。詳しい説明は割愛するが、ファー・ジ・アースにおいて復活を果たしたアルティシモは、四分の三の性能を取り戻しただけにすぎなかった。

 それでも大層凶悪な魔剣だったそうだが。

 

「まあそういうわけで、これはただのハリボテなワケだけど――、切れ味はホンモノと変わりないんだ、よっ!!」

「ぬ、ぐ……っ!」

 

 メイオルティスがその華奢な身体に似合わない怪力で、攸夜ごと剣を振り抜く。わずかばかりの抵抗などまるで無意味だ。

 無造作に薙ぎ払らわれた剛剣。吹き荒れる剣圧が、大地に生々しい爪痕を残した。

 深く刻まれた斬撃の痕はまるで渓谷のよう。

 間一髪で身を退き、大斬撃を回避した攸夜は、紅い剣を構えもしない黒い天使を視界に納め、焦りを分厚い鉄面皮の仮面で隠し、歯噛みする。

 

 ――やはり“ここ”じゃあ無理か……。

 

 攸夜は力を制限している。

 そこには様々な要因や理由が存在するが、一番の理由は惑星ミッドチルダに与えるダメージ。発生するであろう被害を考えてしまうと、とてもじゃないが全力を出すことが出来ないのだ。

 とはいえ、十分の一以下の出力で冥魔王、それも戦闘神としてなら破格の力を誇る“冥刻王”メイオルティスと戦うなど力不足、いや自殺行為もいいところ。さきほどの魔法戦でわかった魔法の“質”の差は歴然、単純な膂力でさえも劣っているようではもう立つ瀬がない。

 さらに言えば、攸夜得意の奇策がそうそう通じるような相手でもないだろう。言動やら振る舞いから頭が軽くて馬鹿っぽく見えるが、幾億年の長き時を生きる歴とした神格なのだから。

 

「むむ、なんかバカにされた気が……」

「知るか。俺じゃないぞ」

「ん~、ま、いっか。それにしても、思ってたよりずっと強いね、キミ。レプリカにしてはよくやるよ、伊達にシャイマールじゃないってことかな」

 

 どこか愉快そうに、メイオルティスが言う。この状況では皮肉か嫌みにしか聞こえないが、どうやら彼女としては本気で健闘を褒め称えているようだ。

「ありがとうよ」と投げやりに言い返す攸夜の内心は、焦燥感で一杯だった。主導権を握られている現状は、彼の性質からして我慢がならない。

 

「……でもいいのかな、こんなことしてて」

「何? 何のことだ、藪から棒に」

 

 判然としない物言いに、攸夜が眉を顰めて訝しむ。

 ニタニタと意地悪くにやけるメイオルティスが、ここで特大の爆弾を投下した。

 

「アリシア・テスタロッサ、知ってるでしょ? キミも()()()()()はずだよ?」

「アリシア、テスタロッサだと……?」

 

 深まる困惑。言われるまでもなくその名はよく知っているし、確かに以前時の庭園でその姿を見たこともある。

 しかし、戦ったとは――

 

「――まさか!?」

「そう、そのまさかなの。死んでいたあの子に命と力を与えて、キミたちふうに言うなら“落とし子”にしてあげたの。あたしが虚数空間から引き上げてきたんだから。探し出すの、たいへんだったんだよー? いまはフェイトちゃん……だっけ? キミのお気に入りの子と遊んでるんじゃないかなっ♪」

「!!」

 

 ついに攸夜の堅い仮面が剥がれ落ち、暴かれた素の部分から生の感情が露出した。

 フェイトとアリシアが接触すればどうなるか……想像するに難くない。冥魔がそこに関わっているとするとしたら、碌でもない企みが進行しているのは目に見えている。

 

「くすくす……助けに行かなくてもいいの? キミの大事なだいじな()()()なんでしょう? はやく行かなきゃアリシアちゃんに殺されちゃうよ、あの子」

「っ、貴様ッ!!」

 

 動揺を誘うような猫なで声に、攸夜が激昂する。

 瞳孔が開き、制限していた魔力が無意識の内に漏れ出す。蒼銀の魔力光に“紅黒”の光が混じり始めた。

 

「あはははっ、いいねぇその眼。ゾクゾクしちゃう」

 

 ギラギラと純粋な殺意に光る蒼い瞳に臆することもなく、逆に哄笑するメイオルティスはやはりどこか壊れている。

 唯一無二の弱点を突かれ、怒り狂って完全に我を忘れたように見えた攸夜だったが、大きく息を吐くと、バチンと両手で頬を挟むように思いっきりひっ叩いた。

 

「あや?」

 

 つつー……、と口角から薄く血が垂れ下がる。強く叩きすぎて口内を切ったらしい。

 

「……生憎だが、そんな安い挑発には乗らないぜ」

 

 軽く頭を振れば、攸夜の蒼い瞳にはもう確かな理性の光が戻っていた。

 現時点でも戦力的に不利だというのに、その上精神面でも優位に立たれてはたまらない。精神の建て直しは急務だった。

 

「ええ~っ、けっこう薄情なんだ。あたしだったらベルちゃんのピンチなら、すぐに飛んでっちゃうのになぁ」

「何とでも言え。今俺がすべきことはただ一つ――アンタを食い止め、あわよくば殲滅することだよ!」

 

 再度、攸夜が突撃する。

「くぅっ!?」強烈なタックルに、思わず悲鳴を漏らすメイオルティス。

 再度鍔迫り合いに持ち込んだ攸夜は、メイオルティスの後背の空間に干渉して何処かへと繋ぐゲートを開いた。

 

「まさか、死ねば諸共!?」

「それこそまさかだ。まだその時じゃない」

「そっかー、よかったー――って、いままだって言ったの? やっぱ自爆特攻じゃん!」

「違うわ! いいから黙って墜ちてろ!」

 

 低レベルな言い争いをする白の魔王と黒の天使は、大きく開けた次元の裂け目の中に消えていった。

 

 

   *  *  *

 

 

「んん……、ここ……は……?」

 

 杖に戻した得物を支えにし、メイオルティスが水|面()に立ち上がる。

 彼女の眼前に広がっていたのは、水の平原――そうとしか表現できない場所だった。

 深い底まで見通せてしまいそうな澄み渡った凪いだ水面、遙か遠くまで広がった見渡す限りの水平線が空と繋がり、幾つもの岩柱が点在する幻想的な風景。空気もどこか澄んでいた。

 ――明らかにここは、ミッドチルダではない。

 

「……?」

 

 小首を傾げるメイオルティスは、背後から聞こえる水の跳ねる軽やかな音に振り返る。水面に波紋を立たせて近付いてくる攸夜に目を向けた。

 絶妙な距離をとり、両者は対峙する。

 

「……この次元宇宙に、知的生命体は存在しない。隅々まで調べて確認した」

「つまり、いくら壊してもかまわない戦闘フィールド、ってこと?」

「Exactly」

 

 陽気に返して、攸夜は深く深呼吸する。長い間自らに架していた枷の全てを解き放つ。

 刹那、紅黒い魔力が天を穿つほどに噴き出した。

 

「ここなら俺も、加減せずに戦えるって訳だ。とはいえ、まさかこんな早くに切り札を切ることなろうとは思わなかったがな……」

 

 そう苦々しげに言い、ゆっくりと、瞼を閉じる。

 瘴気じみた朱紅(あか)い魔力が勢いを増す。それはまるで燃え立つ地獄の業火の如く。

 アイン・ソフ・オウルの結晶部分が朱紅く染まった瞬間――――

 

「リミット、ブレイク!!」

 

 光が、爆発した。

 

 ――純白の装束が侵蝕されるように漆黒に染まり、

 

 ――両手の爪から紅い炎が吹き出て甲の装甲を弾けさせ、

 

 ――そして深紅に輝く魔力の流動ラインが両腕の側面を走り、肩の突起をも弾き飛ばす。

 

「ぉぉオオオ――、がああああああアアアアアァァァァッッ!!!」

 

 腰だめに両手を構え、砲哮。壮絶な気迫が大気を震わせる。

 パージされた装甲の箇所から紅蓮の烈火と化した魔力がまるでアフターバーナーのように噴出し、煌々と燃え上がる。

 同様にコートの下、ボトムにもラインが走り、ブーツまで到達すると足先から炎に包まれ、爬虫類の鉤爪のような形状に形成された。

 

「へぇ……」

 

 メイオルティスが感嘆の声を上げた。

 ずるり、と黒く細長い竜尾がコートの裏から這い出て空を打ち、漆黒の髪を押し退けた一対の角が天を突くと、攸夜は構えを解いて瞼を開く。

 この水に覆われた惑星のように蒼く透明な双眸は、濁った金色に染まっていた。

 巨大な炎爪、うねる尾、禍々しい角。全身に流動するクリムゾンレッドのラインが明滅を繰り返す。

 

「「魔王の全身は憤怒の炎で朱紅く燃え盛り、そのあまりに巨大な体躯は太古の竜を思わせた。竜の七つの頭はそれぞれ王冠を戴き、十本の角が生えていた。」……さしずめ“黙示録の獣”かな、シャイマールの再来にふさわしい姿だね。いっしょに戦ったあのころを思い出すよ」

 

 黒衣の天使が謳う。

 祝福と賞賛、賛美歌の如き歌声は甘く美しい響きをもって蒼い水面に溶けていく。

 内容はともかく、彼女が混沌に汚染される前ならばそれは、すばらしい生誕を祝う詩となったはずだろう。

 

「……でも、髪は伸びたりしないんだね」

「死神代行や子供先生とは違うからな。どっちかというと海賊麦わらとか九尾の人柱力の類だし」

「なんだかよくわからないけどなんとなくわかった気がするよ」

 

 結局のところ、よくわかっていないらしい。

 

「それで、ヒトの()()はもう止めたんだ?」

「ああ。アンタが相手取るなら、形振り構っていられないようなんでな」

 

 この姿はあまり好きじゃないんだが。

 “獣”は自嘲気味に苦笑して肩を竦める。脳裏に過ぎる金色の女の子の泣き顔が胸を締め付けた。

 ――彼女、フェイトはこの濁った金瞳を恐がっている。

 無理もない。精神世界で、この眼をした自分と悲しい死闘を繰り広げたのだ。途中、遭遇した“母”の影――どうやら未来のヨメを自分の目で見てみたかったらしい。お茶目なひとである――の影響もあるのかもしれない。

 しかしなるほど、「ヒトのふりはもう止めた」とは言い得て妙だ。真理を突いている。

 たしかにこの姿は、アル=シャイマールの本性。真なるリミットブレイクとは正反対の方向に突き抜けた無限光の一つの到達点――攸夜のいわゆる“古代神モード”である。

 

「さあ始めようじゃないか、殺し合いをさ」

「んん、よゆーそうだけど、わかってる? キミが全力で戦える環境ってことはさ、あたしだって気兼ねなく力を振るえるってことなんだよ?」

「ハッ、わからいでか。理由は知らないが、アンタが手を抜いてることなんざとっくのとうに見抜いているさ。それでも、勝つのは俺だ」

「ふぅん、自信満々だね。でも残念、キミじゃあたしには勝てないよ」

 

 赫耀と燃え上がる紅蓮の炎を金色の瞳に映して。

 狂気を孕んで深紅に光る二対の翼を広げて。

 “七罪”の魔王が半身になり、すうっと上げた左手の指を眼前の敵に突きつけ、宣言する。

 冥府の天使が自らの杖の鉾先にそっくりの飛翔体を背後の魔法陣から召喚し、周りに滞空させる。

 気が狂いそうなほどの濃密な魔力を垂れ流し、二柱の破壊神がその真価を遺憾なく発揮した。

 

「“冥刻王”――、アンタは俺が破壊する!! 今、ここで!!!」

 

「あはっ♪ さあ、やっちゃえ!! あたしの愛し子よ!!!」

 

 ここ名も無き水の惑星において、次元世界全体を揺るがす空前絶後の頂上決戦が始まろうとしていた。

 

 ――――ハルマゲドンの蓋が今、開く。

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