魔法大戦リリカルなのはWizardS   作:かぜのこ

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#6

 

 

 

 初めての戦い。初めての敗北。

 打ちのめされた高町さんに僕はかける言葉もなく。

 

 そんなときに出逢ったのは、一足早い疾風(かぜ)の訪れ。

 涼やかな疾風(かぜ)との出会いがもたらすものは――――

 

 今回はほのぼの?

 

 魔法少女リリカルなのは、始まります。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ♯6 「穏やかな日に」なの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 月村邸での一件から数日後。

 金色(こんじき)の月は地平線へと隠れ、代わりに天空の主たる太陽が顔を出す。

 マンションの屋上で僕は、右手に夜闇よりも深い漆黒色の“槍”を水平に構え、じっと集中していた。

 その“槍”を紡ぐ術式に介入、少しずつ少しずつ、慎重に自分の思い描く形に創り替える。

 

「…………ッ」

 

 “槍”の構成の改竄が終了する寸前、魔力が暴走、ぽんっと軽快な音を残しては崩壊した。

 

「――ああダメだ、また暴発した」

 

 安定を失った“槍”の残滓が手の中でボロボロと崩れていく。今回はわりといいところまでいったと思ったんだけどなぁ。

 失敗の原因について考え込んでいたら、アインは呆れ気味な口調で声を上げた。

 

『ご主人様~、やっぱり無理ですよぅ。ここは素直に〈フォトンウェポン〉なり〈ブレードオブネメシス〉なりを使った方がいいのでは?』

「〈天〉の魔法はまだ完全に使いはこなせてないし、刀ってのは相応の技術が必要だから無理だって言ったろ? 付け焼き刃じゃあの娘には太刀打ちないよ」

 

 初めての対人戦。

 思うところがなかったわけでもないが、僕は“金色の娘(きんいろのこ)”を()()つもりで――とは言い過ぎだけど、少なくとも本気で戦っていた。傷つけたっていいとさえ思ってた。

 それなのに、大したことができなかったのはやはり悔しい。かなり悔しい。

 痛いのはイヤだし、面倒なのもイヤだが、誰かにいいようにされるのはもっとイヤ。僕にも、譲れないものはあるのだ。

 

「どの道この先、あの娘と戦うなら“この魔法”は絶対に必要だよ」

『それは、わかりますケドぉ~……』

 

 今、僕に足りないものは近接戦に適応するための武器、それもできれば使いやすい長物がいい。その武器を得るために、〈ヴォーテックスランス〉を武器として耐えうる形に改造しようと試みているのだ。

 さっきアインが例に挙げた二つの魔法は、どちらも魔力で武具を具現化させる一風変わった魔法でその術理を参考にしてみようとしてるってわけ。〈弓形態〉で矢玉として使う予定の魔法、〈マジカルバレット〉の親戚みたいなものかな。

 本当は徒手空拳の方が好みなのだけど、彼女の戦斧/大鎌に対抗するにはこの際仕方ない。まあ、それでも戦力差は大甘に見ても五分五分にも満たないけどさ。

 

「……ふぅ」

 

 ここで月村邸での一件をおさらいしてみる。

 “金色の娘(きんいろのこ)”撃墜された僕は、それから一〇分ほどで意識を取り戻した。全身隅々まで響き渡る激痛に悶絶しながら。

 自分の予想以上の耐久力に少し驚いたが、痛すぎるのでさっさと傷を癒し、高町さんの気絶も治療。〈慈愛の癒し〉は本当に便利な力である。

 そんなこんなで、結界外時間で一時間程かかって月村さんたちのところに戻ることができた。

 僕たちがあんまりにも遅いので恭也さんたちにまで心配をかけており、下手に人を呼べば大事になっていたかもしれない。……主に僕が。

 気絶している間、助けを呼びに行こうとしたユーノを止めたてくれたアインに感謝しなくては。いわく、「ご主人様は頑丈ですので必要ありません。ほっとけば目覚めます」だと。しかし信頼してんだか、貶してんだか……。

 なお、魔法を食らってボロボロになってしまった服を誤魔化すために「木に登って降りられなくなったユーノを助けようとして落ちた」と言っておいた。我ながら苦しい言い訳である。

 いい加減、バリアジャケットを創れるようになりたい……。

 

 そのあとお開きになったのだが、別れ際に見た高町さんが落ち込んでいたのが気になった。

 初めて撃墜されたことなのか、同年代の女の子と戦ったことなのか……原因は定かじゃないけど、なんだか尾を引きそうな気がして嫌な感じだ。

 

『そう言えばなのはさんたち、今日から温泉に行くんでしたよね?』

「ん? ああ、そうらしいな」

 

 高町さんは今日から海鳴温泉に家族旅行に行くんだそうで。

 バニングスさんや月村さんも同行するということで、例のごとく僕も誘われたわけだが今回は遠慮させてもらった。

 

『ご主人様も、ご一緒すればよかったのに』

「ヤダ。めんどくせー」

『ご主人様……』

 

 バカっぽく答えると、アインが呆れたような声を出す。

 

「じょ、冗談だよ。……僕なんかがいても迷惑なだけだろ?」

 

 高町さんは秘密を共有している間柄だからかずいぶん気を許してくれているように思うけど、昨日今日知り合ったばかりのクラスメートが家族行事なんかに参加するのはよろしくなかろう、常識的に考えて。

 

『そうでしょうか』

「……そうだよ」

 

 本音を言ったつもりだったのに、その自分の言葉に僕はわずかばかりの寂しさを感じていた。

 ……ところで、温泉を思い浮かべると、「ハズレ」と書かれた看板が立ってるイメージ映像が再生されるのはなぜかしら?

 

 

   *  *  *

 

 

 その日の午後。

 てくてくと目的もなく街中をぶらつく。

 ここ海鳴市に来てまだ一月も経っていないので、僕はこの街の地理にとんと疎い。だから道に迷うんだと思うのだ、うん。

 それを解消すべく、予定のない放課後や休日なんかはこうしてあたりをうろついているのだけれど……。

 

「…………迷った」

『本末転倒ですね』

「うっせ」

 

 涼しい顔?をアインにひと睨みくれてやる。どうにもコイツは最近、僕のことを“ご主人様”扱いしてない気がする。……いや、こいつは最初からこんなだったか。

 ふらふらと視線をさまよわせているうちに、見逃せないものを発見した。

 

「ん?」

『どうしたんです、ご主人様?』

「いや、あれ」

 

 横断歩道を挟んだ向こう側、歩道の段差に車輪が引っかかって難儀している車いすの人の後ろ姿。性別や顔はわからないが、背丈から察するに同い年くらいかな?

 そっと近づいて、声をかけてみた。

 

「あの、大丈夫ですか?」

「あっ、すみません。タイヤが溝に引っかかってしもて」

 

 振り向いたその子は、栗色の髪をショートカットの前髪付近にばってんピン、大きな水色の瞳がかわいらしい女の子だった。

 言葉遣いやアクセントからして関西の方の娘なのだろうか。……でもなんだろ、彼女の声を聞いてると、何か吸い取られて干からびてしまいそうな気がするのは。

 

「それは大変だ。手伝おうか?」

「あ、はい、お願いします」

「よし、任された」

 

 後ろの取っ手を力一杯持ち上げて脱輪状態から助け出し、改めて正面に回る。

 

「ありがとう、助かりました」

 

 女の子は儚く微笑む。

 その笑顔がなんだか痛ましくて、僕は彼女には似合わないなと漠然と感じていた。その理由は定かじゃないけど。

 

「どういたしまして。……えと、いまひとりだよね。親御さんとかはどうしたの?」

 

 そう質問した途端、少女の顔にさっと影が差した。

 しまった、地雷を踏んだか!と後悔しても時すでに遅し。

 

「う、うん。私、お父さんもお母さんもおらへんから……」

 

(あちゃー)

 

 内心頭を抱える。

 迂闊だった。車いすの幼い女の子がひとり出歩いてるなんて、何か事情があるに決まっている。少し考えればわかることだってのに。

 アインが非難めいた念を送ってきた。

 

『ご主人様、デリカシーありませんね』

《……返す言葉もございません》

 

 ずーんと重い空気が場を包む。しゅんとしている女の子に僕は、取り繕うように問いかけた。

 

「あー……その、どこに行くつもりだったの?」

「図書館に。私、学校行ってへんから、かわりにな」

「そっか……そうだ、変なこと聞いちゃったお詫びじゃないけど、よければ僕が図書館まで送っていくよ」

「えっ、でも……」

 

 突然の提案に戸惑い恐縮する彼女に、僕はおどけたふうにして言葉を紡いだ。

 

「実は僕、つい最近越してきたばっかりでさ、図書館のある場所を知らないんだ。これを機に行ってみようかなぁなんて、ね」

 

 からりと笑う。ウィンクとかはしないけど。

 それで女の子も安心したように微笑んでくれた。

 

「じゃあ、お願いしよかな」

「よろしい。僕は攸夜、宝條攸夜。君は?」

 

 “金色の娘(きんいろのこ)”と初遭遇した時のことも踏まえて名を名乗る。

 いまさらだけど、名前を交換するのって大事だよね。

 

「八神、はやてです」

「八神さんだね、よろしく」

 

 そう言って、左手を差し出す。彼女――八神さんは少し遠慮気味に僕の手を握った。軽く握るとぎゅっと握り返してしてくれる。どうやら、下手なことを言って嫌われたわけではないようで一安心。

 あと、吸われなくてよかった。

 

「うん。こちらこそな、攸夜君。……ところでなんで名字で呼ぶん?」

「マイルール。特に意味はない」

「くすっ、なんやそれ。攸夜君、おもろいなぁ」

 

 くすくす笑う八神さん。お気に召してくれたみたいでなによりだ。

 しかし、この()……。

 と、アインがタイミングを見計らったように念話で語りかけてくる。

 

『ご主人様、気付きました?』

《ああ。八神さん、何かよくないモノに取り憑かれてるな。……足が悪い原因かな?》

 

 八神さんから感じる澱んだ気配。かなり小さくてわかりづらいけど、これはたぶん魔力だ。

 どういうわけか、僕自身の魔力とよく似ていて懐かしささえ感じるのはなぜだろう? いまの僕じゃ、干渉したりするのは難しそうだけど。

 

『どうします?』

《今は静観、かな》

 

 なんか、下手に手出しすると悲惨な結果になりそうだし――勘だけど。

 

「どうしたん、攸夜君?」

 

 突然黙った僕を八神さんが不安そうに見上げている。

 僕のそれよりも薄い青空のような瞳はつぶらで大きい。こてんと小首を傾げる仕草に、ちょっぴりドキッとしたのはヒミツだ。

 

「いや、なんでもない。行こう」

「う、うん……」

 

 戸惑いを残す八神さんに誤魔化すように言って、出発を促した。

 

 こうして一抹の疑問と不安を残しつつ、僕は八神さんの案内で彼女の車いすを押して図書館へ向かった。

 道すがらの会話はさすが関西人と言ったところで、話術技能の違いをまざまざと見せつけられた。たぶん技能レベルは★★★だね。

 

 

   *  *  *

 

 

 夕刻。

 オレンジ色の光が図書館の広々とした館内に差し込む。

 料理関係の本と有名どころのSF小説をいくつか借りてほくほくしていると、八神さんがやってくる。彼女も借りる物を見繕ったのだろう、何冊か膝の上に乗っかっていた。

 届かない場所の本を取ってあげたりしてたりしているうちに、さっきより仲良くなれたと思う。

 

「あれ、攸夜君も料理するん?」

「うん、いろいろとね。まあ、趣味みたいなものかな。あと手芸とかもするよ」

 

 家に帰ったら、最近手がけている編みぐるみを完成させる予定だ。

 何がお気に召したのやら、八神さんが感心したふうに言う。

 

「はぁ~、今時珍しいできたお子さんやね」

「おだてても何も出ないよ? あ、これつまらないものですがどうぞお納めください」

「わーい、あめちゃんや~。これどっから出したん?」

「ギャグシーン補正」

「な、なんやってー!? って、普通にパーカーのポッケから出してたやん」

 

「……ふふふっ」

「……くくっ」

 

「あははははっ」

「くく、ふふふっ」

 

 掛け合いの後、一通りふたりで笑った。

 八神さんの関西人特有のノリの軽さは喋っていて楽しし、趣味的な――主にテレビゲームとかの――話が結構合ったのもうれしい誤算だ。彼女の方も僕と話してて楽しそうにしていてなによりだ。

 僕らは、意気投合したと言っていいだろう。

 

「そう言えば、八神さんも料理するんだ?」

「うん。ウチは私ひとりやから自分でやらなな」

 

 再び儚く笑う八神さん。

 僕は彼女が家にひとり、ということに引っかかった。今、僕の眉間には盛大な皺が寄っていることだろう。

 

「……ひとりって、それで生活できるの?」

「ん、大丈夫やよ。私、家の仕事とかできるし、ヘルパーさんもおるから。あと、両親の友だちのおじさんが援助してくれててな」

「……援助だけ?」

「うん、そうやけど?」

 

 なんだその偽善は。

 「足長おじさん」でも気取ってるのか? ふざけてる。畜生にも劣る外道だぞ、そいつは。

 

「ゆ、攸夜君?」

「ああ、ごめん。…………ちょっと待ってて」

「うん、ええけど……?」

 

 八神さんにそう言うと、すぐそこの受付カウンターに向かう。

 司書さんからメモとペンを借りてさらさらっと書き上げると、それを八神さんに手渡した。いや、握らせたって言った方が正しいか。

 

「これ……?」

「それ、僕の携帯と自宅の番号。なんか困ったことがあったらいつでも連絡して。可能な限り力になるから」

「え――、えぇの?」

「うん。友だちが困ってるなら助けてあげたいし。……迷惑かな?」

 

 僕の言葉に八神さんが目を見開いて驚いた表情をする。見開いた瞳を心なしか潤ませて答えた。

 

「う、ううん。そんなことあらへんよ。私、こんなんやから友だちなんておらんくて……うれしい」

 

 手渡したメモを胸に抱きしめる八神さん。絞り出すように紡がれた言葉は、たくさんの感情が詰まっているように思えた。

 ……だから、女の子の涙は苦手なんだってばさ。

 

 八神さんを途中まで送り意気揚々と家路についた僕は、思いもしなかった。

 高町さんが、あの“金色の娘(きんいろのこ)”と再び戦うことになっているだなんて――――

 

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