白亜の超弩級次元航行艦、セフィロト。
第97管理外世界のとある宗教思想に登場する、全ての命の起源とされる“生命の樹”の名を冠した時空管理局次元航行艦隊総旗艦である。
人工知能技術を応用した無人
叡智の結晶が“生命の樹”とはなかなかに皮肉なネーミングだが。
その第一艦橋。
広大な宇宙と星々を望む扇状のフロアでは、数十名の職員が忙しなく働いている。様々な人種の人々が集まるその中心最上段、指揮官用シートに深々と腰掛けた男がいた。
年の頃は60代半ば。豊かな灰色の髭を蓄え、セフィロト上級士官用の濃紺の制服と制帽を着こなした老紳士。
質実剛健、まさに歴戦の勇士といった風格を備えたこの男、正確にはヒトではない。
男はようやく体裁の整ってきた司令部を満足げに見渡し、懐に納めたシガレットケースとライターを取り出した。
煙草を一本取り出し、口にくわえる。そして、火を着けようとしたところで待ったがかかった。
「“艦長”、ブリッジは禁煙です」
「ム……、そうかね」
年若いオペレーターの女性に窘められ、“艦長”と呼ばれた男は肩をすくめてくわえた煙草を戻した。
と、背後の自動ドアが音もなく開く。
「また喫煙ですか。それで寿命を縮めたというのにあなたもつくづく懲りませんね、“艦長”」
「……“参謀”」
言いながらシートの傍らへ立ったのは、ノンフレームの眼鏡をかけた二十代後半の理知的な男だ。
すらりとした長身痩躯、後ろに撫でつれた金髪に冷たいアメジストの瞳。冷徹な印象を醸すの彼もまた、濃紺色の制服を几帳面に身に纏っている。
「そういうお前こそ、わざわざ艦橋まで定時報告に出向いているではないか。我々にそんな手間は必要あるまいに、その几帳面さはもはや病気だな」
「確かに。ですが、仮初めとはいえこうして百年ぶりに躯を得てしまえば、あの頃のように振る舞いざるを得ないでしょう?」
「フ……、違いない」
事情を知らなければ要領の得られない不可解な会話を繰り広げる男たち。
“参謀”と呼ばれた男は微笑にも見える底知れない表情で、自らの仕事を全うすべく報告書らしい書類の束を“艦長”に渡す。科学の発達したこの時代にあえてアナログな書類を使用するは“参謀”の個人的な理念によるものだった。
規定の職務も終えたので、世間話に戻る。
「ところで、“副長”の姿が見あたりませんが、やはり下に?」
「ああ。戦闘母艦としては形になったが、セフィロトの都市機能は未だ十全とは言えん。早急に体制を整えねばな」
ここにはいない彼らのもう一人の同志は現在、避難施設などの整備に追われている。
少なくともクラナガンの市民だけでも受け入れられなければ、来るべき大戦での惨事は免れない。
故に、彼らは必死だった。自己を擲ってまで護りたかった世界のために――
シートに深く体重を預け、“艦長”は制帽の鍔を摘んで眼を隠す。男の、
「……シャイマールの事実上の敗北と“冥刻王”の出現――、それに伴う次元世界の混乱は不可避だ。最早、我々には一刻の猶予も残されてはない」
「しかし、依然世界は静かです。恐ろしい程に」
「我々ヒトなど取るに足らない存在だと、連中はそう言いたいのだろうな」
「おそらく」
憮然とした“艦長”のセリフに“参謀”が同意を示す。
口惜しいが、事実だ。このセフィロトとて、外装や根幹システムを用意したのは人外である。ヒトの知恵のみでは到底成し得なかったろう。
「だからこそ、我々もまた地獄から引きずり出されなければならなかったのでしょう」
「まったく、死人に鞭打つとはこのことだな」
前途多難な未来を思い、“艦長”が目線を帽子で隠したまま小さくぼやく。
スクリーンに投影された宇宙はどこまでも深く、瞬く星々は何ら変わることなく輝いていた。
♯30 「心に炎、かがやく勇気」
時は遡る。
恥ずかしがってにっちもさっちもいかなくなっているなのはとユーノの様子を、すぐ側の物陰からそっと観察するバカップルがいた。
ヴィヴィオの世話を丸投げしたと見せかけて、実は影から親友たちの初々しいやりとりを見守っていたフェイトと攸夜である。覗き、ピーピングとも言う。
「わぁ……! ねぇねぇユーヤっ、すっごく意識しちゃってるよね、なのはとユーノ」
「あれだけ散々っぱらからかってやったんだからな、むしろ意識しないんじゃこっちが困るよ。処置なくて」
「そうだねぇ、見てる私たちの方がもどかしくってむらむらしちゃうもんね」
「お前がムラムラしてどうする、そこはヤキモキだろ」
「あ、そっか」
てへ、と小さく舌を出して楽しげにおどけるフェイト。ハハハこやつめ、と楽しげな攸夜がその額を突っつく。通りがかりの通行人が、そこかしこで砂糖を吐いていた。
夫婦漫才はそこそこに、真面目な態度を取り繕う二人。
「……うまくいくかな? あの三人」
「さあな。何せ初めてのことだから、手探りでやっていくしかないんだろうさ」
攸夜はあっけらかんと答えた。けれど、その表情はどこか楽しげで確信に満ちている。おてんばなお姫さまもすぐに懐くだろう――何せユーノは、へそ曲がりで天の邪鬼な魔王をその人柄で手懐けたのだから。
何やら相談していたなのはたちは目的が定まったのか、ヴィヴィオに何か告げると踵を返した。
「――ね、ユーヤ」
「うん?」
「“親子”って、いいよね」
「……そうだな」
子どもを挟んで横に並んで歩く三人の後ろ姿は、ごく普通の親子連れそのもの。
ありふれた、けれど幸福そうな家族の肖像。――たとえそれがごっこ遊びの域を出ていない拙いものだったとしても、二人には輝くような宝物に思えて。
ヴィヴィオがユーノとも手を繋いでいてくれれば完璧だったのに、とフェイトはちょっと残念に思う。
「いいなぁ……、家族って」
再びしみじみと呟く。
雑踏に紛れて見えなくなったなのはの姿に、フェイトは在りし日の――“彼女”の記憶の中の――“母”の面影を重ねた。
寂寞の念が胸を締め付ける。切なさが込み上げて来て仕方ない。
そんなとき、彼女を暗闇から引き上げてくれるのはいつも傍らを歩むパートナーだった。
「少し、羨ましいな」
「……うん」
フェイトと攸夜はともに繋いだ手に力を込めた。
これは傷の舐め合いなんかじゃない。きっと。絶対。
もちろんフェイトにだって家族はいる。無二の使い魔アルフ、やさしい母リンディ、頼りになる兄夫婦のクロノとエイミィ……みんなみんな、たいせつな大切な家族だ。
だけど、だからこそ強く心から願う。
大好きな人と家族を築きたいと、大好きな人に家族を贈りたいと。お互い理由は違うが失って――持っていなくて――、心のどこかで今でも欲しくてたまらないと思うものだから。
願うことは同じ。心に灯した光から、心に抱えた痛みまで――鏡写しの二人だから。
「俺たちも行くか」
「うん」
あちらはもう心配いらないと見切りをつけ、フェイトたちはぶらぶらと散策することにした。
六課の準備や活動が忙しく、最近あまりのんびりできていない。もともと二人はアウトドア趣向の身、部屋に隠っているとストレスがたまってしまう。
「ねえねえユーヤ、あの車変わった形してるよ」
「本当だ。地球のビートルみたいだな」
「ころころしてて、かわいいね」
「まぁな。フェイトほどじゃないけど」
「もーぅ、またそうやって変なこというんだから」
「釣った魚には餌を欠かさない主義なんだ、俺」
「私、釣られちゃったの?」
「ああ、生涯一匹限りの大物だよ」
「じゃあ、一生面倒見てくれる?」
「勿論」
くすくす、とフェイトがあどけなく笑った。
街をぶらぶら散策する。
さりげなく、だけどしっかり恋人繋ぎに手を絡めて。お互いが、どこにも行ってしまわぬように。
老若男女、人種も様々な命の営みを眺め、フェイトは身に余る幸福を噛みしめる。けれどそれを恥じることは、あらゆるものへの裏切りだと感じている。
だから彼女は思うのだ。
「……なんだか私、少しわかってきた気がする。なにと向き合わなきゃいけないのか、なにに立ち向かわなきゃいけないのか」
誰ともなく、決然と言う横顔はひどく可憐で。どこまでも真っ直ぐな眼差しは凛々しく――
“アリシア”との対峙でなりを潜めていた彼女の生まれながらにして持っていた輝きが、僅かに蘇り始めていた。
ほぅ、と攸夜が感嘆のため息をこぼした。
「あぁ……、やっぱり俺、フェイトのことが大好きだ」
脈絡もなく、何気なく発せられた言葉。瞬く間に頬を薔薇色に染め、耳先まで真っ赤なフェイトは、場所も弁えず恥ずかしい発言をした不届き者の方を振り返る。
「~~っっ、も、もう! いきなり恥ずかしいこと言わないでよっ」
「本当のことなんだから仕方ないだろ。何度だって言ってやるぞ、俺、宝條攸夜はフェイト・テスタロッサ・ハラオウンを愛してる」
真剣な顔で、真っ直ぐな眼差しで、真摯な声で。
攸夜はフェイトと向かい合う。激しくドキドキして赤面しながらも、フェイトは自分を一心に見つめるサファイアブルーの双眸から目を逸らさなかった。
「私も――」
だって、フェイトは約束したから。ぜんぶ受けとめてみせるから、と。
だから、彼の重たい愛情も、狂おしいほどの執着も、全てまとめて真正面から受け止める。
受け止めて、包み込んで、癒やして――――
「私も……あなたのこと、愛してる、よ?」
ちょんとつま先立ちをして。
精一杯の背伸びをして。
フェイトは攸夜の頬にちゅっとキスをした。
ちなみに、この一連のやりとりがなのはの受信した怪電波の正体だったりする。
* * *
もうこれといった用事もないので、なのはたちはそのまま公園でヴィヴィオを遊ばせることにした。
一通り揃った
ベンチに座ったなのはは、いつの間にか打ち解けたユーノとヴィヴィオを微笑ましく眺めながら、「みんなで遊園地とか動物園とかに行ったら楽しいかも」などと想像の翼を伸ばしていた。気分はもう立派に若奥様である。
そんな妄想力たくましいなのはのもとに、水色のリボンを揺らしたヴィヴィオがとてとて拙い足取りで近寄ってくる。
運動したからか、それとも興奮からか、ぷにぷにしたほっぺが上気してピンク色に染まっていた。
「いっぱい遊んだね、ヴィヴィオ」
「うんー、ユーノくんと遊んできたのー」
「そっか、よかったねー」
ヴィヴィオの頭を撫でたなのはは、自分とお揃いのリボンで髪を結ったユーノと顔を合わせて微笑んだ。
まだヴィヴィオの中のユーノの好感度は“パパ”と呼ぶには至らないらしい。くん付けはなのはママのまねっこである。
厳しいなぁ、とユーノは頬を掻いていた。
――いしやーきいも~、やきいもーっ!
と、何やら耳に残る妙な節回しの呼びかけが、どこからともなく耳朶に届く。
「……あ、この近くに焼き芋屋さんが来てるみたいだね。ミッドでもかけ声って同じなんだ」
「おいも?」
「そうだよ~、あまくてほっかほかのおいもさんだよ」
「わあっ、ヴィヴィオもおいもさん食べたーい」
「え゛」
突然、カエルが潰れたような声を上げるユーノ。なのはとヴィヴィオがびっくりして彼の方を見る。
「どしたの、ユーノくん?」
「あ、ああ、いや、なんていうか、トラウマを抉られる感じが……」
「??」
よくわからない、と言いたげな顔で、小首を傾げるなのはとヴィヴィオ。その仕草があんまりそっくりで、ユーノは思わず苦笑する。
それから。リアカーの屋台を見つけた三人は、蜜たっぷりの焼き芋を仲良く分け合って食べたのだった。
――――東の空を、どす黒い雲が覆い始めていた。
* * *
「……!!」
攸夜が突然立ち止まり、険しい表情で虚空に目をやる。眉間に皺を刻み、蒼眼に剄烈な光を走らせた。
「どうしたの、ユーヤ?」パートナーのただならぬ様子を察し、フェイトが心配そうに彼を見上げる。
「邪気が来る……! これは――」
世界が、歪む。
数拍遅れて響く耳をつんざくような叫び声。
悲鳴。
ヒトの悲鳴だ。それも複数の。
「フェイト!」
「うん!」
弾かれるようにして二人は駆け出した。
雷速で錬られた魔力が金色の雷光と蒼銀の焔風となって二人を包み込み、瞬く間に彼らの姿を変質させる。
白き外套の黒い魔導師と夜闇の衣の黒き魔王は、逃げ惑う人々の波に逆らい、人工の密林を駆け抜けた。
そして、辿り着く。
――惨劇の現場に。
「……っち」
「な――、なに、これ……」
攸夜が舌打ちし、フェイトが絶句して口元を押さえた。
繁華街にぽっかりと空いた空隙に充満する肉の焼け焦げた臭い。アスファルトについたヒトの形に象られた黒ずんだ跡や、ミイラのように渇き切ったヒトだったもの――明らかな虐殺の痕跡が散見された。
この陰惨な光景を作り出した邪悪なるモノが、折り重なるヒトガタの中心で今も犠牲者を増やしていた。
腰辺りまである長い黒髪の、燕尾服を着た二メートル以上はある糸目の巨漢に頭を鷲掴みにされた女性が、みるみるうちに干からびていく。
また、金髪をまるで巻き貝のようにアップにし、際どいスリットの入った白いロングのチャイナドレス風の美女から口づけを受けた男性が、全身の至る所から紫色の炎を吹いて絶命した。
「ぷはっ――……あらあら、皇子様とお姫様のご到着ですわね。お早いこと」
「ふむ、もう暫くは“プラーナ”を収集に集中したかったところだが……」
用は終わりと、ぞんざいに投げ捨てられる遺体。生前は恋人同士だったのだろうか、男女の表情はどちらも恐怖と苦痛で酷く歪んでいる。
痛ましい光景に青ざめるフェイトは、激情の稲妻を瞳に走らせ、この惨劇を引き起こした存在へと純粋な怒りをぶつけた。
「冥魔……!」
「如何にも。我が輩の名は“渇き”のザリチュ、“この世全ての悪”に仕えし者である」
「わたくしはタルウィ、“熱”のタルウィと申します。以後お見知り置きを」
慇懃無礼な名乗りは自信の現れか。
攸夜は油断なく構えながら、内心で歯噛みした。ダメージが抜けきれておらず、月匣を展開して隔離することができない。ユーノならともかく、自分やフェイトの結界魔法では容易く破られてしまうだろう。
すでに念話で地上本部――フェイトは六課――に連絡しているが、陽動らしき冥魔出現の報もある。相手は高度な知能を持つ高位の冥魔だ、故意に民間人を標的にされる可能性もあって避難誘導の時間を稼ぐのは難しいと言わざるを得ない。
「ふん、拝火教の大魔か。“王”の位も持たない三下の分際が、ヒト様の庭で随分と味な真似をしてくれたじゃないか」
雑多な雑兵とは違う“凄み”を肌で感じつつ、攸夜は焦りを押し殺して尊大に言う。
裏界魔王たる傲慢なペルソナを前面に押し出した挑発。吹き荒ぶ禍々しい蒼銀のプレッシャーが局地的な焔風を巻き起こし、周囲のビルの窓ガラスをぎしぎしと軋ませた。
攸夜は、有り体に言ってキレていた。
自分の手で奪うならまだしも、他者に――それも冥魔などによってヒトの命が失われた。それは歪んでいるとはいえ、ヒトと世界を彼なりに愛する攸夜には我慢がならないこと。故の激怒。
また、メイオルティス相手にほぼ敗北に近い相打ちを喫したというストレスは、本人が気づかぬうちに視野を狭めていた。
攸夜の本質は“憤怒”、紅き煉獄の焔を纏う漆黒の蛇である。
そのプライドはルー=サイファーと等しく、山よりも高く海よりも深い。
「勘違いしないで頂きたい」
「何だと?」
「わたくしたちは“王”になれないのではなく、ならない。我が君に傅くことこそがこの身の存在理由故に」
いささか意外な返答に、攸夜が僅かに眉を吊り上げる。
凡百般万の冥魔の統率者たる“冥魔王”は、それぞれ特徴を現した冥○王という二つ名を持つのが通例だ。メイオルティスの“冥刻王”然り、第一世界ラース=フェリアに侵攻した王たち然り。
無論何事にも例外はあるが、攸夜が勘違いするのも無理はないだろう。
「左様。故に、少なくとも今の弱体な貴殿よりは強大というもの」
「……」
魔神の安い挑発にゆらりと立ち上る殺気。攸夜の蒼い双眸が剣呑な光を灯す。
フェイトが心配そうな目を攸夜に向ける。よくない傾向だ。余裕そうに見えて、彼は案外沸点が低い。
「何をそのように憤っておられるのか、“裏界皇子”よ」
「……何が言いたい」
「我らがヒトを殺すことがそんなに不愉快であるか? 既に自らの手で何千何万と命を奪ってきたというのに。貴殿の両手は我らと同じく、数多の血で汚れている」
「それは矛盾ですわ。ヒトでもありカミでもあり、同時にヒトでもなくカミでもない――、それが貴方の長所であり短所。どっちつかずの中途半端、千変万化の魔王とはよくいったものですわね。だって……“柱”となるべきものがあやふやで、何もないんですもの」
「ッ!」
妖女の痛烈な非難に動揺を見せる攸夜。これではいつもとてんで逆である。
いけないっ、とフェイトが咄嗟に声を上げる。
「ユーヤっ!」
「わかってる――俺は、冷静だ!!」
両の手刀に蒼白い刃を纏わせ、七枚の“羽根”を引き連れた攸夜は、未だ得体の知れない二柱の悪神に突撃を敢行した。地面を踏み砕くほどその速さ、風の如し。
ぜんぜん冷静じゃないよっ! と内心で叫び、フェイトはバルディッシュ・アサルトを片手に彼の後を追従した。
普段なら相手の出方を見るなり、目的を探るなり、自分のペースに乗せるなりするはずのパートナーに、一抹の不安を抱えながら。
「任務遂行の前に、主上の理想を阻む危険分子を粉砕するのも一興か。――足を引っ張るなよ、アバズレ」
「ウフフ、少々遊んで差し上げましょう。――そちらこそ、邪魔をしないでくださいましね、筋肉達磨」
「ふん」
迎え撃つは強大なる魔神。
巨漢の紳士が組んだ腕を解き、堅く握った鉄拳を腰だめに構え。
妖美な淑女がドレスを優雅に翻し、十の指先より伸ばした光刃を閃かす。
――
* * *
「……」
不意に遊んでいた動きを止めて立ち止まるヴィヴィオ。じっと明後日の方向を見つめていた。
「ヴィヴィオ?」
「……っ」
彼女は何かに怯えたようになのはの脚にしがみつく。
「ヴィヴィオ、どうかした?」
「こわいものが、くるの……」
「怖いもの?」
要領を得ない呟きになのはが首を傾げる。問い返されたヴィヴィオはいやいやとだだをこねるように首を振った。
二人の傍らに寄り添うようにして立つユーノは、深刻な表情で眉を寄せる。ネクタイピンに飾られた翠緑色の宝石をそっと触れた。
「嫌な感じだ……」
「うん……」
* * *
「ガ、ハッ……!」
音を置き去りにした拳をガードの上からまともに喰らい、攸夜が放物線を描いて吹き飛ぶ。二十メートルほど後方の、ショーウィンドウのガラスを突き破る。
その衝撃は、十の指先から爪――紫色の魔力と超高熱を帯びた刃だ――を繰り出す妖女と切り結んでいたフェイトの元にも届いた。
「ユーヤ!?」
無論、生じた隙を見逃す魔神ではなく。
「ウフフ……よそ見する余裕なんておありかしら?」
「っ、きゃあっ!」
襲いかかる炎熱を帯びた五条の爪撃。辛うじてバルディッシュの柄で受けはしたものの、体勢の泳いだフェイトに、ピンポン球大の誘導弾が十数発ほど殺到する。
咄嗟に張った障壁とぶつかって炸裂した魔弾の衝撃で、フェイトのメリハリのある華奢な身体が吹き上がる。彼女の発した微かな悲鳴を聞きつけ、すぐさま飛び起きた攸夜が後ろに回り込み、全身で抱き留めた。
そこに大魔法が追い打ちをかける。
「熱烈なる慈悲をお受けなさい――火天滅焦」
「やらせるか! 慈愛の盾ッ!!」
即座に連結した白亜の大盾が、天すら焼き尽くす摂氏三万度を越える灼熱の嵐を遮断した。
オレンジ色の優しき光に包まれながら、二人は周囲の建造物をドロドロに溶かすほどの猛烈な熱に堪え忍ぶ。
「大丈夫?」「うん」と視線でのやりとり。それから「頭、すこしは冷えた?」とジト眼で問いかけられた気がした攸夜は、「マジごめん。反省してます」と瞳で訴えた。
お冠のフェイトさんは、寛容な心で許してくれたらしい。
「……チッ、なんて迂闊」
冷静になれば自分の危うさが理解でき、攸夜は無様な失態に舌打ちをした。
そして、冷えた頭で分割思考を高速で展開して敵戦力を分析する。
フェイトとのコンビネーションはいつも通り完璧だった。頭に血が上り、かつ“プラーナ”の不足で普段とズレた攸夜のリズムをフェイトの献身が補ってくれていたからだ。
しかし、相手のそれは二人の上を行っていた。
高い防御力・打撃力と巨体に似合わぬ俊敏さを有するザリチュと、各種炎熱魔法と爪撃を使い分けてトリッキーに立ち回るタルウィ。お互いがお互いの足りない部分を補い合っており、老獪な連携の隙が見当たらない。
その上、単体の戦力は裏界魔王でなら最低でも公爵級、あるいは大公級であってもおかしくないほど。攸夜自身公爵の位を戴く大魔王であるが、現在は大幅なパワーダウンを余儀なくされているため、戦力差はかなり厳しいものだと言わざるを得なかった。
なるほど、伝承によればザリチュとタルウィはコンビで災厄を振り撒く悪神だという。コンビネーションに優れているのも道理。もっともその割に、会話から察する雰囲気が険悪なようだが。
…………仮に自分なら、不仲なこの二柱を「フェイトと攸夜」にぶつけるかもしれない。主に嫌がらせ目的で。
(……考え過ぎか)
いよいよ煮詰まった思考を振り払う攸夜。ふと視線を向けた傍らで苦しげに息をするフェイトの額には、玉のような汗が浮かんでいた。
バリアジャケットには対熱遮断効果があるにも関わらず、彼女は熱波の影響を受けているようだ。おそらく精神攻撃の一種だろう、“慈愛”の護りが弱まっていることが悔やまれる。
そうして、灼熱の愛撫はようやく過ぎ去った。
「フハハハハ、“裏界皇子”と言えど弱体すればこの程度か。タルウィ、此奴らは我が輩が相手をする。貴様はその間に“ゆりかごの鍵”を確保するのだ」
「なっ!?」「ッ!」
「あら、わたくしが手柄をあげてもよろしくて?」
「愚問である。主上の願いを叶えることが我らの本懐、功績を争うなぞ下らぬ行為だ」
「ウフフ、確かに。では後のことはお任せしますわ」
思わぬ形で判明した敵の狙い。攸夜は半ば納得し、フェイトは激しく動揺した。
“ゆりかごの鍵”――それはすなわち、ヴィヴィオを指す言葉。そして、彼女のそばにいるであろうなのはたちへ災禍が訪れることにも繋がる。
親友の危機を看過できるフェイトではなく。
「そんなこと、させない!」
カートリッジロード。空薬莢を吐き出したバルディッシュをハーケンフォームに変形させ、フェイトは今まさにこの場を去ろうとする女に猛然と斬りかかる。
「ふん!」
男がおもむろに腕突き出して衝撃波を創り出す。
乾いた空気が幾層にも重なった不可視の壁に阻まれ、金色の処刑鎌は刃を進めることができなかった。
「なっ!?」
「我が渾名は“乾き”、故に我が拳は原子を砕く」
どこが乾きかッ! と叫びたいところをグッと我慢して、攸夜は空中で致命的な隙を曝したフェイトを横抱きにかっさらう。間一髪、猛烈な拳圧がそこを穿った。
手近な街灯の上に降り立つ攸夜。お姫様だっこされて、フェイトは軽く赤面していた。
「ご、ごめん、ありがと……」
「いや」
素っ気なく言い、薄ら笑む紳士に厳しい視線を送る。相手を見下した嫌な笑みだ。
「フェイト、先ずはあのデカブツを片付けることに専念しよう。マジでやらなきゃこっちがやられる」
「で、でもっ!」
「心配なのはわかる。けどな、俺たちの親友はそんなヤワな奴じゃない……信じよう」
「……うん」
フェイトは悔しさを滲ませて、渋々首肯した。
* * *
「……やっぱり、何か起きてる」
「うん」
ユーノの深刻な響きの言葉になのはが不安そうに首肯する。
首都クラナガンに蔓延する闘争と死の気配を敏感に察知し、二人は否が応でも焦燥を抱えずにはいられなかった。
「どうする、なのは」
なのはの脚に抱きついて震えるヴィヴィオに視線を送るユーノ。恐怖を訴える幼い子どもを痛ましく思い、なのはは彼女を抱き寄せることで慰めようと試みる。
「フェイトちゃんたちはもう向かってるよね、きっと。……でも、ヴィヴィオがいるし、私たちが行っても二人の足手まといになっちゃうと思うの」
「うん、そうだね。結果的に丸投げしちゃうユウヤたちには悪いけど、僕らはシェルターに避難して――」
消極的だが妥当な意見に同意し、ユーノがこれからのことを話そうとしたその時、
「――――それはおよしになった方が賢明ですわ」
どこか空虚な響きの美声とともに邪神が姿を現した。
「「ッ!?」」
なのはとユーノは半ば反射的に身構えた。
濃密な邪気が平穏な空気を瞬く間に汚染する。
生理的、本能的な怖気に震えながらなのはは察知していた。この
なのはとヴィヴィオを正体不明の女から庇うように、ユーノが一歩前に進み出る。その脳裏には既に膨大な数の分割思考が展開され、いくつもの推察と戦術、そして魔法の術式が浮かんでは消えていく。
「……あなたは?」
「ウフフ、わたくしはタルウィ――ただのしがない冥魔ですわ」
空気が凍る。緊張が走る。
なのはとユーノが知恵ある冥魔と対峙するのは、これが初めてである。ヒトに近い姿をした、ヒト以外の何かが放つ圧倒的な悪意を前にして、二人は動揺を隠せなかった。
「何も難しいことを要求するつもりはありませんわ。わたくしどもは、そこの
「っ、人、形……? ヴィヴィオが人形だっていうの、あなたは!?」
「あら、“ゆりかご”を操るための鍵として造られた哀れな生け贄……これを人形と言わず、なにを人形と言いましょう」
女の身振り手振りを交えた芝居がかった物言いは、およそ幼子について語るものではない。
胸元の宝石を握りしめ、怒りを露わにするなのはの肩を優しく静止する手。ユーノだ。
「なのは……君はヴィヴィオをつれて逃げてくれ」
「ユーノくんっ!?」
抗議を含んだ声に彼は何も答えず、なのはを押し退けるように――あるいは遠ざけるように再び進み出る。その身はすでに、彼の生まれ育った部族の民族衣装を模した魔力の衣を纏っていた。
そして、その両手にはシンプルなエングレービングの施された若草色のガントレットが装着されていた。
「やるよ、マギ。まだ未完成の君を戦わせるのは不本意だけど、僕らがやるしかない」
『Yes master』
ユーノの言葉に、声変わり前の少年のような電子音声が答える。
試作型第六世代ストレージデバイス“マギ”。とある金色の魔王が非力なユーノの身を案じて与えた、デバイスとは名ばかりの“錬金兵装”。現状は最重要の
明確な戦意を見て取り、タルウィは、ニィ、と異様なまでに整った作り物めいた
「ウフフ、許すと思いまして?」
「そこを押し通すのが、僕の役目かな」
ニヒルに言い返し、ユーノは駆け出す。
いつの間に用意していたのか、隔離結界が広がる。ズレた異空間が両者の姿を隠していく刹那、ユーノは肩口から背後を見る。
とても強い意志の込められた翠緑の瞳と視線を交わし、なのはは悲痛な表情で、恐怖と混乱に泣きわめくヴィヴィオを抱えてその場を後にした。
隔離された結界空間。
陽炎揺らめく灼熱の井戸の底において、翠緑の魔導師と灰白の魔神が激突する。
「情報では、あなたは単なる結界魔導師と伺っていたのですけれど――」
正面に張った八角形の三重障壁を頼りに、ユーノが“熱”の妖女に突撃を敢行する。
彼の親友が“最強防御”などと冗談半分感嘆半分で名づけた最堅の盾は、飛行魔法の速度を得て最強の矛となりうる。
迎撃するタルウィ。手刀にし、形作った紫色の毒々しい光刃は光盾を切り裂くことなく火花を散らすだけ。
強かに追突された“冥魔”は、少なくないダメージを受けながら後退を余儀なくされた。
「――なかなかどうして、お強いようで!」
「お褒めにあずかり光栄、だッ!」
苦しげに軽口を言い返したユーノは、右手から創り出したチェーンバインドをさながら鞭のように操り、女怪に叩きつけた。
「ですが、わたくしのダンスパートナーを勤めるには役者不足ですわッ!」
爪撃一閃。撫でるような何気ない仕草で五本の光爪が閃き、魔力の鎖はバラバラに断ち切られる。
地面に散乱した残骸を乗り越え、魔神が魔導師を引き裂かんと再び爪甲を振りかぶる。
だが、それこそがユーノの狙い。
「弾けろ!!」
「っ!?」
予め設定しておいたトリガーコマンド。チェーンバインドに込められた魔力が安定を奪われてオーバーロードし、分割された無数の破片が次々に小規模な爆発を起こす。バリアジャケットのリアクティブパージ機能の原理を応用した、奇襲を目的とした一種の機雷だ。
突然足下を爆破され、しかしタルウィはそれを乗り越えてユーノに肉薄を試みる。
「こんなもの!」
「効くとは思ってないよ!」
ゼロコンマ一秒の隙間、余人には理解不能な複雑怪奇なプログラムが走る。
繰り出すは本命の追撃。攸夜の魔力噴射による爆発的な推進を真似た技法で、格好の隙を晒した魔神の懐に飛び込んだ。
一般的なデバイスを使えず、魔力の収束はおろか射撃もできず、創った障壁の投射すらほぼ不可能。性格その他諸々も、戦闘行為には向いていない。
――だが、ユーノは天才だ。
本人は自覚していないし、周りに非常識で理不尽な才能の持ち主が溢れているため忘れられがちだが、希有な天稟の持ち主であることは間違いない。
ユーノ・スクライアは、世紀に残るべき傑物である。
「はああああッ!」
「っ、くは!?」
翠緑の光を纏った左のボディブローがタルウィを打ち抜いた。
ズドンッ、と重たい音が響き、浮き上がった身体に叩き込む怒濤の連撃。全身を駆使して生み出した運動エネルギーが威力に変わる。
ただの拳ではない。攸夜との訓練という名の殴り合いの果てに会得した“護る力”――管理局の制式武術の一つである〈ストライクアーツ〉。武才こそなかったが、一つ一つ積み重ねた鍛錬は裏切らない。
護りたいひとがいるから。
護りたい願いがあるから。
「でぇええええい!!」
裂帛の砲哮とともに、ユーノは全身のバネから練り出した渾身の右ストレートを叩き込んだ。
「はぁ、はぁ……っはぁ……」
肩で荒く息をするユーノ。暑さと疲労で額にびっしりと汗をかき、膝が笑っていた。
やはり元来は研究者、華奢な体格は些か心許ない。
とはいえこれでもひたむきにトレーニングに励み、四年前とは段違いなスタミナを身につけている。だが、その努力を嘲笑うように体力を奪っているのがこの空間に満ちた熱気。魔神の放つ呪詛じみた熱量が、彼の体力をじわじわと削っていたのだ。
「……」
ユーノは気を抜くことなく“冥魔”が埋まっているであろう場所を睨んでいた。
数瞬後、瓦礫が吹き飛ぶ。
咽ぶ熱風。熱量に負けて、ドロドロに溶けたアスファルトや建築物が異臭を放つ。
「やったか?とか、迂闊なことを言った覚え、ないんだけどね……」
文字通り烈火のごとく怒る魔神を前にユーノは余裕を演じて嘯く。どうやら親友の悪癖が移ってしまったらしい。
「この……っ、人間風情がアアアアアッ!! わたくしを虚仮にしたことを、冥府で後悔させて差し上げますわ!!」
セットした髪を振り乱し、女は激する。耳まで裂けた口が悍ましい。
塵虫のように思う存在に刃向かわれ、少なからないダメージを負った事実が、冥魔のプライドをいたく傷つけたのだ。
(これはさすがに、不味い、かな――……なのは、ごめん)
この世のものとは思えない殺気、心臓を握りつぶされたような錯覚に襲われる。脚が、身体が恐怖で震える。
それでもユーノは退かない。一歩たりとも。
無理で無茶で無謀でも、男には、決して退いてはいけない時があるのだと知っているから。
「お逝きなさい!!」
そして、万物を融解させる超高熱の濁流がビーム状の熱線となってユーノを飲み込んだ。
「ユーノくん……」
青年を残してきた方を見て、なのはが呟く。
今にも倒れてしまいそうな自分を抱きしめて、叱咤して、彼女はどうにか立っていられた。
傷ついてたらどうしよう、負けちゃってたらどうしよう。――殺されちゃってたらどうしよう。
「……っっ!!」
頭を振り、次々に浮かぶネガティブな想像を必死に振り払う。
ユーノを失う。それは何よりも恐ろしいこと。一度自分の手で奪いかけたから、余計に。
けれど、自分なら何とかできるかもしれない。砲撃を、半ば封印した力を揮えばあるいは――
でも、こわい。
誰かを傷つけることが、誰かの命を奪うことが。
独善的な感情に任せて暴力を振るえてしまう「高町なのは」が、どうしようもなく怖かった。
「ママ……」
なのはが自分に縋りついたままの少女に意識を向けた時、何かが砕けた甲高い音が辺りに響く。
これはおそらく結界空間が崩壊した音。それを裏付けるように、ビルとビルの合間から火柱が噴き上がっていた。
戦いの音が聞こえる。彼が戦っているのは明らかだ。
行かなきゃ、と思うのになのはは恐怖に竦んで動けない。肝心なとき役に立てない自分の情けなさに、涙が出た。
そんなときだ。
不意に、脚にかかっていた重さが消え失せたのは。
「ヴィヴィオ……?」
じっ、と涙を溜めた大粒の瞳で
色違いの瞳に弱さを見透かされたようで、なのははドキリとした。
「なのはママ、泣かないで! ヴィヴィオがまもるから、泣かないでっ!!」
「あ……」
根拠も何もない、けれど必死な叫びにガツンと殴られたよ衝撃を受けた。
この子は、恐怖に震えているか弱いこの子は、今なんと言ったのだろう?
誰のため? 何のため?
――そして、唐突に気がつく。
「そっ、か……そうだったんだ……バカだなぁ、私。こんな近くに、たいせつなものがあったなんて……やっぱりなんにも、見えてないや」
泣いたように笑って、空を仰ぐ。
見上げた空は、いつの間にか突き抜けるように晴れ渡っていた。
――――ずっと見失いかけていたものを、なのははようやく思い出した。
戦う意味、力を求めた意味。
誰かを傷つけることなんて本当は嫌なのに、それでも戦おうと決めた原初の願いの理由を。
難しい信念なんて、必要じゃない。大切な人の、大切な笑顔を護りたい――ただその気持ちさえあれば。
首に下げた紅い宝石を手に取る。“彼女”には苦労をかけた。
「……レイジングハート、こんな頼りない私と、またいっしょに戦ってくれる?」
『Yes my Master』
簡潔な、けれど頼もしい相棒の言葉に笑みがこぼれる。
なのはが顔を上げた。決意に満ちた表情で。
すぅ、と深呼吸。
「――我、使命を受けしものなり。契約の下、その力を解き放て!」
唱えるのは魔法の言葉。
初めて出逢ったあの夜のように、大切な彼のくれた魔法を。
「風は空に、星は天に――」
風が吹く。
光が輝く。
星が瞬く。
変わらないものは――
「そして、不屈の心はこの胸に! この手に――魔法をッ!!」
挫けでも、傷ついても、また立ち上がる心のチカラ――あの日、胸に灯った永遠の“炎”。
一度は潰えかけた熱い想いが再び勢いを増し、なのはを突き動かす。
――“不屈の心”が永い眠りから再び目醒める。
「レイジングハート! セーット、アーップ!!」
『Stand by ready Set up』
桜色の光が弾けた。
静謐な魔力が形を成していく。
「きれい……」
優しき風に乗り、降り注ぐ光の粒を見上げながら、ヴィヴィオが熱に浮かされたように陶然と呟いた。
「ブラスターモードッ! ドライブ!!」
『Ignition!!』
純白の衣は誓いの証。金色の杖は願いの証。
今度こそ護り通すと。この確かな想いをどこまでも貫いていくと。
「ヴィヴィオ、ママね、いまから大切なひとを助けにいかなくちゃいけないんだ」
「……ユーノくんを?」
「そうだよ。……だからね、待っててくれるかな? ひとりで待っていていられる?」
「うんっ! ヴィヴィオ、待ってる」
「ありがとう」
元気な答えに、日溜まりのような笑顔が浮かぶ。
「ユーノくん、いま行くから……」
愛しい人を想い、少女は空を仰ぐ。
灰色の薄雲は晴れ、いつの間にか澄んだ青空と輝かしい太陽が姿を現していた。それはまるで彼女の心の変化を代弁しているようで。
目には見えない心の炎が、怖れを、戸惑いを焼き払う。
そして変わっていく。小さな星が生まれるように生まれ変わる。
偽りの平穏を振り払って――
「――じゃあ行ってくるね、ヴィヴィオ」
「がんばって、なのはママっ!」
無邪気な声援を背に光の