魔法大戦リリカルなのはWizardS   作:かぜのこ

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#7

 

 

 

 白い少女は決意を固め、僕は再び運命と相対する。

 

 そして、加速するジュエルシードを巡る戦いの中、姿を現す黒服の乱入者。

 

 時空管理局……?

 

 はぁ……――なんだか、ますますきな臭いことになってきたよ。

 

 魔法少女リリカルなのは、始まります。

 

 

 

 

 

 

 

 

  ♯7 「天からの一撃」なの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。

 控えめに下界を見下ろす金色の月、闇の訪れを拒絶するかのようにネオン瞬く摩天楼。

 日もすでに落ちたというのに、行き交う人々の流れは絶えない。

 僕はそんな中を高町さんと別れてひとり、ジュエルシードを探していた。

 ふと見上げたビルの大型電光掲示板、表示されたデジタル時計は十九時少し前を示している。

 

『……いいんですか、ご主人様』

 

 アインが突然、脈絡もなく問う。宝玉の放つ光が心なしかいつもより控えめだ。

 僕は、意図がわからず訝しげに問い返した。

 

「なにがさ?」

『ご主人様なら、なのはさんとアリサさんの間を取り持つことも出来たはずです』

「……そのこと、か」

 

 今日、学校のでのことだ。

 温泉地で金色の娘一味――〈使い魔〉とやらが居たらしい――との一件からこっち、ぼーっと上の空になことが多くなった高町さんにバニングスさんがキレたのだ。そりゃあもう盛大に。

 ついでとばかりに僕にもとばっちりが来たくらいだ。さすがはツンデレボイス……じゃなくて。

 彼女の言い分を要約すると、高町さんが悩み事を抱えている様子なのに自分に相談しないのが気に食わないらしい。階段下で本人が月村さんに言ってたから間違いない。……いや、まあ、盗み聞きしたんだけどさ。

 個人的にはその意見に賛成したいけど、彼女が抱えている事情は複雑だ。ほぼ同じ境遇の僕にさえ、心情を開かそうとはしないのだから、高町さんは。ユーノに対してもそうだろう。このことから彼女の抱え込み癖がよくわかる。

 その点、月村さんはよくわかっているようで、「私たちは待っててあげるしかできないんじゃないかな」と諫めていた。

 そのことを踏まえてアインの問いに答える。

 

「……僕は無駄なことはしない主義なんだ」

『無駄、ですか?』

「ああ無駄だよ。こんなことで壊れるような関係なら、いっそ壊れてしまえばいい」

『悲観的ですね』

「現実的と言ってくれ。……それに、彼女たちなら僕が手を出さなくても大丈夫さ」

 

 これは僕の偽らざる気持ちだ。

 彼女たちが本当に“親友”なら、この程度の壁なんて乗り越えられるはずだから。……というか、僕が関与してもしなくても結果は変わらないような気がするんだよなぁ。

 

 

 一通り街を探索したが空振り。僕は特に落胆も感じず、ビルを見上げていた。

 

《攸夜くん。ジュエルシードは見つかった?》

 

 高町さんからの念話。

 やはり、声に普段の元気がない。それでもこちらに悟らせないように振る舞うあたり、気丈な娘である。

 

《いいや、ハズレ。そっちは?》

《ううん、わたしのほうもまだなの》

 

 少し疲れ気味に言う高町さん。ユーノが念話に割り込む。

 

《ユウヤ、そろそろなのはを家に帰した方がいいと思うんだけど、君はどうする?》

《そうだな。僕はもう少し粘ってみるから高町さんは帰ってもいいよ》

《うん……》

《なのは。晩ご飯は残しといてね》

《主役が疲れてへばってちゃ格好つかないからね。ゆっくり休んでて》

《……うん、わかった。ふたりとも、無理しないでね》

《わかってる。じゃあ、またあとで》

《うん。あとでね》

 

 それからしばらく。

 

「見つからないな……」

『今夜はここで切り上げて、帰りましょう? ルーさんも、心配してるはずです』

「でもさぁ……」

『無理はしないんですよね?』

「うぐっ」

 

 そろそろ僕もタイムアウトに近づいて頃――――

 

「!!?」

 

 突如、轟音とともに天を突く、橙色の柱。

 渦巻く雷雲。

 波のように光を失っていく摩天楼。背後から這い寄るのは闇黒。

 見覚えのある、時空間の歪み。 続いて立ち上る青い光の柱。

 これは……、

 

『ご主人様!』

「わかってる。行くぞ、アイン!」

『はいっ!』

 

 左手首の腕輪が弾け、七枚の“羽根”が即座に展開、一番最初に見せた盾型に連結する。それが裏面を仰向けにし、ちょうどスケボーやサーフボードのような形で地面と水平に浮遊した。

 この〈機動形態〉は、前回の戦闘で呆気なく撃墜されたことを踏まえた空戦形態である。

 盾形態がベースなので防御も堅い優れモノ。小回りは利かないが、機動力だけなら“金色の娘(きんいろのこ)”とだってやり合えるはず。……僕的には八艘飛びもどきも捨てがたかったんだけどさ。

 浮遊するアインの上に飛び乗る。白い大楯は後方から蒼白い燐光を撒き散らし、徐々に速度を上げながら滑翔を始め。

 速度と高度を上げ、僕は相棒とともに文明の灯火を失った夜闇の中へと飛び出した。

 

 ビルとビルの間、桜色と金色の光が飛び交う。すでに戦闘は始まっていたらしい。

 オレンジ色の大きな犬――高町さんから聞いた“金色の娘(きんいろのこ)”の〈使い魔〉だろう――が高町さんに何か言っている。

 

「優しくしてくれる人たちのところで、ぬくぬく甘ったれて暮らしてるガキンチョに――」

 

 そのセリフを耳にした瞬間、僕の中で何かがキレた音がした。

 

「……ッ」

 

 アインを足場に、例のごとく魔力を爆発させた勢いで跳躍、オレンジの使い魔の横合いから蹴り込む。

 

「アタシたちの最優先じ――きゃうんっ!?」

 

 不意を突かれた形の使い魔は回避できず、横っ面に蹴りをモロに受け、ちょっとかわいらしい悲鳴を上げて地面をもんどり打つ。

「アルフ!?」“金色の娘(きんいろのこ)”が悲痛に使い魔の名を叫んだ。

 

「攸夜くん!」

 

 残った勢いを殺すために、くるっとバク宙をしてアスファルトに降り立つと、高町さんがうれしそうな声色で迎えてくれた。

 

「悪い、遅れた。――そこの駄犬は僕とユーノが抑えるから、君はそこの娘とジュエルシードに集中してくれ」

「――うんっ、わたし、がんばるから!」

 

 高町さんが首を縦に振る。それに併せてぴょこんとしっぽのような髪が跳ねた。

 彼女の表情には確かな決意の色が見て取れた。少し危なっかしい気もするけど、きっと、大丈夫。

 僕が彼女を信じてやらないでどうする。信頼して、僕は僕にできることをやるだけだ。

 ――その時、遠くで緑色の光がキラリと光ったような気がした。

 

「いい返事だ。――ユーノ!」

「わかった」

 

 てててっと僕の身体を器用に登ったユーノは、ボサボサ天パーな頭の上に納まった。

 

「サポート、頼むよ」

「任せて。でも、大丈夫? あの使い魔、かなり強いよ?」

「ご主人様より上ってことはないだろ。……所詮は犬っころだ」

「アタシは犬じゃなくて狼だよッ!」

 

 蹴り飛ばされた使い魔が勢いよく起き上がり、うなり声を上げる。牙を剥き、今にも飛びかかってきそうな雰囲気。

 相当頭にキてるな、あれは。だけどこっちだって、あの独善的なセリフで鶏冠にキてるのだ。

 

「ち……、大人しく寝てればいいものを」

「くっ、フェイトの言ってたとおり調子の狂う奴だね!」

「お褒めいただき光栄だな、クソ犬」

「――ッッッ!!」

「あ、アルフ、ちょっと落ち着いて」

 

 飼い主の制止も効果なし。

 いい具合に沸騰してる。こういった手合いはすぐに熱くなるから御しやすい。

 

「アイン!」

『はいはーい』

 

 前方から滑るようにしてやってきたアインに乗って、そのまま飛び去る。

 

「あっ、コラ! 待ちなっ!!」

 

 狙い通り、いきり立って僕らを追いかけてくる使い魔。単純なヤツだ。

 まあ、引き離さなくても高町さんと金色の娘の一騎打ちであることに変わりはないのだけどさ。

 背後に輝く桜色と金色の光を伺いながら、そう思った。

 

 

   *  *  *

 

 

 明かりの落ちたコンクリートジャングルを、白と橙が縦横無尽に駆ける。

 外壁を器用に走って距離を詰める使い魔。その速度は最大速のアインに追い縋るほど。

 

「いい加減、墜ちなッ!!」

「チッ!」

 

 追いかけっこにじれた使い魔がこちらに一撃を入れようと飛びかかる。

 

(主従揃って高機動か!)

 

 僕はアインを蛇行させて振り切ろうと試みるが躱し切れず、近接距離に潜り込まれた。

 脳天から落ちてくる凶悪な爪。しかし、恐怖はない。

 

「貰ったよ!」

「やらせない!」

 

 ユーノが創り出した緑の光を放つ障壁が僕の眼前で発生し、使い魔の爪撃を防ぐ。

 

「ッ! このっ!!」

 

 言い捨てた使い魔が魔力を込めるとオレンジの光が迸り、障壁に罅が入って砕け散る。しかしそれは僕らの狙い通りだ。

 右手を突き出し、遅延させておいた〈ヴォーテックス〉をその技後硬直を狙って投射した。

 

「うわっ、あぁっ」

 

 拳の前に展開した蒼白い魔法陣から発射された黒い魔弾が使い魔に直撃し、膨れ上がった暗黒の重力によって使い魔の防御を削り取る。

 だが、僕のターンはこれで終わりじゃない!

 

「アイン、弓形態!!」

『了解です!』

 

 僕の命に応え、機動形態から直ちに分離、左腕に集まるアイン。

 完成した純白の大弓の弦を、自由落下しながら引く。

 そして魔法〈マジックブレット〉の術式を展開。弦を引いた右手首に創られた蒼白い十個の光球が発生する。

 創り出すのは十の魔弾――――!!

 

「オオオオ――ッ!!!」

 

 光球を弓につがえると躊躇いなく使い魔へ向かって斉射した。

 夜闇を飛翔する蒼白い矢が、暗黒の牢から抜け出した使い魔に余すことなく命中する。小さな悲鳴が空気を震わせる爆音と蒼白い閃光にかき消された。

 だが、今の僕に容赦という言葉ありえない。

 再度引き絞った弦に、雷速の速さで創り出した黒槍をつがえ、狙いも付けず撃ち放つ。

 

「アンタみたいな不幸に酔ってるバカは――――、夜闇(やみ)に飲まれて溺死しろッ!!!」

 

 飛翔した黒き魔弾が空気を抉り、飛翔する。わだかまる噴煙に飛び込んだ魔槍(ヴォーテックスランス)は、白い閃光すら喰らい尽くす漆黒の爆撃として炸裂した。

 都合十一度の魔力爆発によって発生した大量の噴煙を見ながら、僕は重力に引かれて落下し続ける。

 けれど僕は慌てない。

 地面に到達する直前、僕の身体はふわりと緑の光に包まれた。

 

「ぐっじょぶ、ユーノ!」

 

 ユーノによる着地の補助は事前の打ち合わせ通りに決まった。

 ぐっ、とサムズアップを頭の上のユーノに見せてやると、呆れたような疲れたような声が返ってきた。

 

「ふぅ……君もなのはも無茶しすぎだよ。フォローするこっちの身にもなってほしいな」

「失礼な。高町さんはともかく、僕のは全部計算だ。……それに君には役得があるじゃないか、ユーノ・スクライアくん?」

「役得?」

「……温泉。かわいい女の子たちに囲まれて楽しかったろ?」

「う゛っ!?」

 

 潰れた蛙のように呻く、ユーノ。さて、ここで畳みかけてやるとしましょうか。

 

「まあ、小動物なら問題ないよなー……小 動 物 な ら」

「うぐぅ……!」

「もし、ペットだと思ってた小動物が人間で、しかも同年代の男だって知ったらどうなるかにゃー? とりあえず、高町さんからは特大砲撃のプレゼントだよなー」

「…………」

 

 頭の上でガクブル震えているユーノ。ふっふっふ、予想通りの反応だ。相変わらずいじり甲斐のあるヤツである。

 ひとしきり震えるユーノを堪能したあと、僕は空に視線を向けた。

 

「そんなっ、あれだけ受けて!?」

「ふんっ、お遊びはこれまでだな」

 

 そこには、明るいオレンジの髪と美しい肢体――煤が付いて台無しだが――を持つ妙齢の女性が居た。ちなみに犬耳である。

 

「やって、くれるじゃないのさ……!!」

 

 彼女はあのオレンジの狼が人間の姿をとったものだろう。

 感じる魔力の質が一緒だ。――というか、この状況じゃ是非もないか。

 

「ずいぶんと頑丈なことで。使い魔ってのはみんなそうなのか?」

 

 あれだけ撃ち込んだのだから、さすがにノーダメージではないようだが。

 

「フンッ、アンタの口車にはもう乗らないよ」

「あっそ」

 

 口撃で激昂を誘えなかったことをいささか残念に思いながら、僕は右手に魔力を集中。重心をわずかに落とし、身構える。

 分離したアインが守るように展開する。

 

「さぁて、第二ラウンド開始ってとこかな」

 

(ぶっつけ本番――行けるか!?)

 

 内心、若干焦りを帯びさせながら僕は未完成の術式を走らせ――

 

「――なっ!?」「うわっ!」

 

 突然発生した巨大な魔力の波動に中断を余儀なくされた。

「……!! フェイトっ!」使い魔がなんらかの異変を察知したらしく再び獣化し、主の元へ向かっていった。

 

「ユウヤ!」

「ああ!」

 

 ――そして、魔力の発信源に向かった僕らが見たのは、暴虐の青光の渦中に取り残されたあの娘と、呆然と立ち尽くす高町さんだった。

 

「なんだよ、あれ……」

「ジュエルシードのエネルギーが暴走してるんだ!」

「なんだって!?」

「このままじゃ、この街が――いや、この星そのものがダメになってしまう!」

 

 ユーノの言葉に驚き、改めて溢れる光をみた。

 闇を裂く青い光柱。放射される膨大な魔力が空気を鳴動させる。

 “金色の娘(きんいろのこ)”が地面に両膝を突き、祈るように両手を胸元に抱いている。足下にはゆっくりと回転する黄金の魔法陣。ミッドチルダの魔法式だ。

 彼女の握った小さな手からは、青い暴虐の閃光が漏れ出していた。

 清楚可憐な少女が、容易く手折れてしまいそうな華奢な一身を擲って暴走する魔力を抑えるその光景は、近代的なビル群の谷間にありながら現実感の欠けた幻想(ファンタジー)のようで。どこか背徳的ですらある。

 

「無茶だよ! フェイト!!」

 

 オレンジの使い魔が叫ぶ。

 高町さんはひび割れたレイジングハートを携えて呆然と立ち尽くし、ユーノは足下に降りて警戒していた。

 僕はその光景を、以前にも感じたことのある不思議な陶酔感とともに半ば傍観者のように眺める。左手は無意識に、ズキズキと鈍痛を訴える左眼を押さえていた。

 

 ――――“私”の力なら、あれを抑えることが出来る。

 

 僕は自分の感性に従い、分離した状態で前方に漂うアインに問いかける。いや、確認か。

 

「アイン――、お前なら、どうにかできるな?」

『もちろん可能ですが……助けるんですか? 彼女は敵だというのに』

「ああ」

『また戦うことになるとしても?』

 

 わかってるだろうに、アインが投げかける意地悪な問答。

 僕は決然と、自分の偽らざる気持ちを言葉に乗せた。

 

「それでも、だ。敵だろうがなんだろうが、あの()を助けるって他ならぬ僕の心が決めたんだ。誰かを救う理由なんか、それだけで十分なんだよ」

『くすっ。ご主人様のそういうお人好しなところ、私好きですよ』

「……ふん、無機質に好かれたってうれしくないやい」

 

 ストレートな好意を示されてむっつりと言い返すが、アインは『ふふふ』と笑い流されてしまった。

 くっ、駄目だ、こいつにこういう類の口喧嘩で勝てる気がしない。普段はトボケてるのに妙なところで核心を突くんだから、もう。

 

『それでは――――私の光、戻りなさい』

 

 お決まりの言葉をキーワードにアイン・ソフ・オウルが抱く宝玉の一つ、“節制の宝玉”が赤く染まる。これで色づいた――力を取り戻した宝玉は橙・青・紫・緑・赤、そして黒の“計六つ”となった。

 僕はそれを視界の隅で確認すると、激しい魔力の奔流を吐き出す中心に向かって足を踏み出す。

 悠然と、だが足早に。

 躊躇も、恐怖も要らない。ただこの胸に“あの()を救いたい”という想いだけ、あればいい。

 

「ユウヤ!? ダメだよ、危険だ!!」

 

 足下のユーノから制止の声が聞こえるが無視。正論だが、聴いてはやれない。

 

「アンタ、何のつもりだい!!」

 

 使い魔が牙を剥いて飛びかかって来るが、あっさり避けて無視。ついでに〈ヴォーテックス〉をオマケしておいた。

 

「攸夜くん!」

 

 高町さんの悲鳴が上げるがこれも無視。とりあえず、心配をかけてしまうことを心の中で謝っておく。

 轟々と吹き荒れる魔力の嵐を潜り抜け、僕は痛々しい祈りを続ける少女の目前まで辿り着いた。

 

「! あなた、何を――」

「いいから黙って。君はそれを抑えることだけに集中していればいいんだ」

「う、うん」

 

 ひどく疲弊した様子の“金色の娘(きんいろのこ)”の目の前で片膝を突き、そのか細い両手を自分の両手でしっかりと包み込む。

 “金色の娘(きんいろのこ)”がわずかに息を飲むのを感じたが無視。今はそれどころじゃない。

 

「ぐ、ううう……!」

 

 むせかえるような激しい魔力の奔流に全身が軋みを上げるが、砕けるほど歯を食いしばって耐え凌ぐ。

 目の前の女の子は、これにひとりで耐えていたんだ。男の僕が先に根を上げてどうする!

 ――たったひとり救えないで、生きていく甲斐がないだろうがッ!!

 

『節制なる制御』

 

 僕らの周りをまるで花弁のように取り囲んだ七枚の“羽根”――アイン・ソフ・オウルの涼やかな声が夜闇に響き渡り、あらゆる“力”を阻害する赤色の光が暴走するジュエルシードの力と拮抗する。いや、制圧していく。

 青いスパークをあたりに撒き散らし、ジュエルシードの魔力が唸りを上げる。それはさながら断末魔の叫びのようで。

 

「止まれ! 止まれっ! 止まれーーっっ!!」

「ぐ、う――、あああああああぁぁぁぁッッ!!」

 

 彼女の創り出す清冽な月光の如き黄金の魔力光と、僕の蒼白い――蒼銀とで表現すべき色合いの魔力光がまぶしいほどに煌めき輝く。

 黄金が躍動し、蒼銀が渦巻く。

 雷光と化した魔力と旋風となった魔力がそれぞれにほとばしり、独特のリズムを以て響き逢う。

 混ざり合う光、解け合う魔力。それは僕にどこか心地よささえ感じさせた。

 僕らに応えるように“節制の宝玉”がさらに力強く発光し、夜闇を焼き尽くす赤き力が世界を――ジュエルシードの光を覆い尽くした。

 

 気の遠くなるような、それでいて一瞬の刹那のような時間が過ぎ。

 三色の輝きによって、ついに無慈悲な青い光は徐々に力を失い終息。“金色の娘(きんいろのこ)”と僕、ふたり分の魔力と“節制の宝玉”の力が暴走したジュエルシードを完全に抑え込んだのだった。

 

「はぁ……、はぁっ……」

「……ふぅ、なんとか、なったか」

 

 激しい脱力感を感じながら顔を上げると、同じく顔を上げた“金色の娘(きんいろのこ)”の紅い瞳と目が合った。

 その顔は、きょとんとしたふうで疲れはあるが険はなく、最初に出逢ったときの面影と重なった。

 きっとこれが、この()の本来の表情なのだろう。

 

「っ!」

 

 と次の瞬間、握った手をばっと振り解かれてしまった。正気に戻ったのだろう、名残惜しくて残念だ。

 飛び退いて、僕から距離を取り身構える彼女の端正な顔立ちはさっきまでの素の表情ではなく、警戒と敵対心、戸惑いと動揺が綯い交ぜになった複雑な表情にすり替わっていた。

 まるで傷ついた野生の狼のようだな、と心の中で分析する。怯えながら必死に威嚇する様なんかそっくりだ。

 

「……っ」

「――――」

 

 僕らはまんじりともせず、睨み合う。この揺れる紅い瞳から視線を逸らしたら、もう二度と分かり合えない気がして。それこそ野生動物とふれあうときみたいじゃないか。

 新雪のように真っ白な“金色の娘(きんいろのこ)”の頬が若干朱に染まっているのは、同年代の異性()に手を握られていたからだろうか。……いやまぁ、こっちもたぶん似たようなものなんだろうけどさ。

 トリップしていたとは言え、我ながら大胆な真似をしたもんだ。恥ずかしくて顔から火が出そうだよ。

 

「――ユウヤ!」

 

 不意に飛ぶ警告を示すユーノの声に、弾かれたようにバックステップ。入れ替わるように、人型になった使い魔が上から降ってきた。

 

「フェイトっ、怪我はないかい?」

「うん。だいじょうぶだよ、アルフ」

 

 今にも射殺さんとする鋭い殺意を向ける使い魔と、ふらふらと宙をさまよう戸惑いを含んだ視線を向ける主。

 好対照な主従はしばらく僕と対峙した後、何も言わず踵を返した。

 

「あっ! 待ってフェイトちゃん!! お話を――」

 

 高町さんの言葉は彼女たちには届かず、虚しく消える。

 僕は、暗黒の夜空に遠ざかっていく“金色の娘(きんいろのこ)”と使い魔の後ろ姿を眺めながら、手に残った女の子の手にしてはやけに硬い感触に思いを馳せた。

 

 

   *  *  *

 

 

 同日、マンションの自室。

 時間は九時十五分を少し回った頃。

 現在僕は、青いシャツと黒のジャージの寝間着姿で寝台の上に胡座をかいて、黙々とあみぐるみを編んでいる。

 かぎ針を駆使してちくちくチクチク。ひと針ひと針思いを込めて、無心で集中――――

 こういう編み物はどれだけ手間暇と心がけたかで出来映えが天と地ほども差が出る。手は抜けない。

 

 さて、ここで僕の部屋について簡単に説明しよう。

 十二畳ほどのフローリング張り、ヨーロピアンスタイルのダブルベッドと黒を基調としたシックな家具一式にいくつかのメタルラック、もちろん勉強机だってちゃんとある。テレビとかパソコンはなくって、ブラウン系のかなり大きな本棚には教科書・ノート・参考書、ハードカバーやペーパーバックの小説、DVDやゲームのケースなんかがきちんと整理整頓して納めてある。

 こうしてみると少し生活感の乏しい雰囲気である。引っ越す際に家具を持ってきてないから、これは僕ではなくルー姉さんのチョイスだ。姉さんの貴族趣味が爆発しなくてよかった。

 とりあえずシックでオトナっぽいとは思うけど、ちょっと寒々しくて落ち着かないのでプラモデルを作って飾ったり、UFOキャッチャーでぬいぐるみを山ほどゲットして置いてみたりしている。

 で、今現在作っているあみぐるみもその一環というわけ。

 

 手芸に熱中していると、コンコンコンとドアをノックする音。「どうぞ」と応えると、ルー姉さんがひょこっと顔を出した。

 

「攸くん、紅茶入れるけど飲む?」

「うん、欲しい」

 

 ルー姉さんはふんわり優雅に微笑み、視線を下に落とすと次の瞬間、顔をひきつらせた。

 

「?? どうしたのさ、ルー姉さん」

「……それってあみぐるみ、よね?」

 

 ()()。つまりいま僕が取りかかっている制作物を指差すルー姉さん。

 

「うん、そうだよ。ハエのあみぐるみ」

 

 ()()は黒と灰色の毛糸で編まれた、手の平大のコミカルでファンシーなハエのマスコットだった。

 ドクロマークをあしらった羽根の部分に、形を持つための骨組みとなる細い針金を仕込んだ意欲作。いろいろあって遅れてしまったが、あと少しで完成する予定。わくわく。

 

「……」

「あれ? ルー姉さん、ハエ嫌い?」

「うーん……。というか、好きな人はあんまり居ないんじゃないかな?」

 

 と、言葉こそオブラートに包んでいるものの、表情は完全に引いている。どうやらルー姉さんにはこの〈ぽんこつくん1号〉は不評のようだった。

 紅茶を煎れる準備をする、とルー姉さんが部屋を出ていって。僕は、できあがり間近のあみぐるみを指でつんつんしながら独り言ちた。

 

「ん~……、かわいいと思うんだけどなー」

 

 主にぽんこつ的なところとか。ダメな()ほどかわいいって、いうじゃない。

 ちなみにアホの子だって好きだぞ、僕は。

 

 ところ変わってリビングにて。

 アッサムベースのロイヤル・ミルクティを味わう。ほんのり控え目に感じるミルクの上品な甘さとコクの濃い味、茶葉の香りが五感を喜ばせる。

 なお、お茶請けは高町さんから温泉のおみやげにもらったせんべいで、白ごまと黒ごまの風味がとても香ばしい。趣味のよいお土産を選んでくれる友だちがいて、僕はうれしいよ。

 

「……ねえ、攸くん」

「ん、なに? ルー姉さん」

 

 テーブルの向かい側。

 突然、神妙な顔をするルー姉さん。あ、なんか猛烈にイヤな予感が……。

 

「――最近、夜に出歩いてない?」

「えっ、そそそ、ソンナコトナイヨ?」

 

 気づかれたか!!

 慌てて取り繕うも動揺は隠せず、ぶあっと嫌な汗が浮かび背中を流れる。

 

(ヤバイヤバイヤバイヤバイーっ!!)

 

 これは丸腰で、ジュエルシードの思念体とやりあったとき以上の死亡フラグである。どうせよっちゅうねん。

 ルー姉さんに僕が不良少年――夜、徘徊してるという意味で――だとバレたなら、地獄の修正が待っているに違いない! 絶対命中的なあああッ!!

 

「……ほんとう?」

「ウン、ホント、ホントダヨ?」

 

 じと目で僕を見るルー姉さん。胸一杯の罪悪感でいたたまれなくなり、思わず目を逸らす。

 

「…………」

 

 心なしか普段よりも冷たい銀色の瞳を思い出しながらガクガクブルブル震えつつ、意を決して様子を窺う。

 

「……はぁ」

 

 ため息をひとつ。ルー姉さんに「しょうがない子ね」的な生暖かい視線を向けられた。

 

「攸くん。攸くんがそう言うなら、私は信じるわ。でもね、もしも、何か悩んでたり困っていたりしていたなら、教えてほしいの。私はお姉様の子どもだからってだけじゃなく、心から、あなたのことを大切だと思ってるから」

 

 綺麗な、本当に綺麗な笑顔を浮かべるルー姉さん。慈愛に満ちたその眼差しに、後光のようなものを幻視した。

 

「――ルー姉さん……ありがとう……」

 

 僕は無意識に頭を下げていた。迷惑かけてばかりの不出来な甥に、こんな暖かい言葉をかけてくれてうれしかったから。

 ちょっと本格的に涙ぐんでしまって、苦笑するルー姉さんに慰められながら僕は「これじゃ、高町さんのことは笑えないな」と自嘲した。

 

 

   * * *

 

 

 翌日、4月27日。

 登校した際に高町さんから聞いたところによると、先日の戦いで損壊したレイジングハートは今日中には自己修復が完了するらしい。

 昨夜、別れた時はかなり激しく動揺していたがこれで一安心だ。……高町さんへのフォロー? それはユーノの役目なので慎んで譲っといた。

 上手くやって……ないだろうなぁ。アイツ妙に生真面目だし、高町さんにペット扱いされてるもの。いい加減、本当の姿を見せればいいものを。いや、僕も見てみたいしさ。

 地球の空気が合わないだのなんだのって言ったけど、本当は高町さんからの報復が怖いだけなんじゃないのか?

 

 そんなこんなで太陽が天頂を過ぎ、傾き始めた午後。

 学校からの帰り道。

 例のたい焼き屋、〈とらや〉さんでまたぞろ大量にたい焼きを買い込んだ僕は、何の気なしにあの()と一緒にたい焼きを食べた公園へと足を運んでいた。

 どこにでもあるような、こじんまりとした公園には午後だというのに人気がなく、もの悲しい雰囲気を漂わせている。まるであの()の眼差しみたいだ。

 

「まあ、居るわけないわな」

 

 自分のおめでたい行動に苦笑し、帰ってたらふくたい焼きを食べようと振り返る。

 と――――

 

「「あ」」

 

「あーっ!?」

 

 居た。マジ居たよ。

 以前出逢った時と同じ、紅いリボンの黒いワンピース姿。至極当然のことだがバリアジャケットではない。

 日の光を受けて、黄金(おうごん)色の髪がきらきらと輝いている。……相変わらず、目を疑うほどきれいでかわいい美人さんだ。

 などと視姦っぽいことをしているうちに、彼女の方も正気に戻ったらしい。

 

「くっ!」

「待て待て待て、こんなところで戦うつもりか? ジュエルシードもないってのに」

 

 魔力を膨らませ、戦闘態勢に入ろうとする彼女見て、僕は慌てて制した。ここで()っても、お互い利がないどころかデメリットがありすぎる。

 

「…………」

「理性的な対応、感謝する」

 

 納得してくれたのか、発露していた魔力を抑える“金色の娘(きんいろのこ)”。デバイスを持ち出さなかったあたり、彼女の方もまだ修復中のようだ。

 けれども警戒を解かない彼女の視線は痛々しいほど鋭い。その表情からはあの夜見たものと同じ、戸惑いと動揺が窺えた。

 

「……」

「…………」

「……………………」

 

(ち、沈黙が気まずいっ!)

 

 お互い、まんじりともせず向かい合うこの状況をどう打開しようかと頭を働かせ、はたと今自分が抱えているものを思い立った。

 ……もしかして。

 

「えーと、たい焼き食べる?」

 

 ごそごそと紙袋を探り、ひとつ取り出して彼女の前に差し出す。

 ほかほかのそれは、ゆるゆるとおいしそうな香りを漂わせていた。

 

「……っ……」

 

 “金色の娘(きんいろのこ)”は、じぃーっと僕を――いや、たい焼きを穴が開くほどに見つめている。

 ゆらゆらと動かしてみせると、視線もそれに併せてゆらゆらと動く。そんなに食べたいのか。

 

「じゃあそこのベンチで食べようか?」

 

 “金色の娘(きんいろのこ)”は少し逡巡した後、遠慮がちにこくんと頷いた。

 んむ、素直でよろしい。

 

 前と同じベンチに並んで座り、たい焼きを頬張る。僕はもちろん頭から。

 隣のお姫様はというと、とても幸せそうに表情を崩壊させてしっぽからはむはむもぐもぐと食べてらっしゃる。

 

「……♪」

 

 僕はそんな彼女の姿にしんなり垂れてる犬耳と、はちきれんばかりに振られたしっぽを幻視した。

 

(やっぱわんこ属性だよなー、この()

 

 なんて観察していると、彼女は食べる手をぴたっとと止め、こちらに向き直った。

 その整った顔を占めるのはやはり戸惑いだ。

 

「どうして……」

「えっ?」

「あなたはどうして、あのとき私を手伝ってくれたの?」

 

 じっ、と鮮やかな紅瞳が僕を見つめる。その瞳に映るのは、間抜けな顔をした僕と――不安?

 

「これといって、理由はないよ」

「そんなの――」

 

 信じられない。という顔をする“金色の娘(きんいろのこ)”。

 まあ、そりゃそうだ。危険を冒してまで“敵”に塩を送るなんて、ヒトとして間違ってる。僕だってそんなこと普段なら絶対にしないだろう。

 収まりがつかなそうなので、あまり言いたくないが本音を打ち明けることにする。

 

「――なら、君が傷つくところを見ていたくなかった、って理由じゃ駄目か?」

「っ!?」

 

 僕の吐いた言葉で、彼女は盛大に動揺し出した。あわあわ……むしろはわわ? なんだこれ。

 アインから『クサっ!? そのセリフクサいですぅ、ご主人様ぁっ!』という失礼な念話が飛んできたので、ベンチに叩きつけて黙らせた。

 うるせー、僕だってわかってるわい。この気持ち、ほかに表現のしようがないんだから仕方ないだろ。

 動揺から回復し、「まだ納得してませんよ」と言いたげな彼女はさらに疑問を続ける。怒っているのだろうか、その表情は一転して険しい。

 

「……じゃあ、アルフにあんなひどいことを言ったのは?」

「あー……あれね」

 

 駄犬とかクソ犬とか。いささか言いすぎたという自覚はある。ばつが悪いくて、かりかりと頬を掻く。

 わりと沸点の高いらしい自分があれほどキレたのは少し意外だった。それでも、一応理由はある。

 僕はそれを偽りなく吐き出した。

 

「単純にムカついたんだよ、言いぐさがさ。君たちがどんな境遇にあって、どれほど不幸なのかは知らないけど、差し伸べられてる手を拒絶して“私はこれほど不幸なんだから、幸せなあなたには構われたくない”って……そんなのバカくさいだろ?」

「それは……っ」

「ああ、ごめん。別に君を責めてるわけじゃないんだ。たださ、可能性から目を背けて、自分の殻に閉じこもって――――辛い現実に立ち向かうのを止めてしまったら、何も変わらない、変えられないから」

 

 朗々と語る僕の持論を、“金色の娘(きんいろのこ)”は真剣な表情で静かに聞いてくれていた。

 

「諦めなければ出来ないことなんてほとんどないって、僕は信じてる」

 

 そう締めくくった後、軽く苦笑して「まあ、実際はそんな単純なことじゃないんだけどね」と続けた。

 わかってる。そんなに世界は優しくないってことくらい。

 でも、だからって、諦めたらそこで全て終わりだ。なにもしなかったら、なにも始まらない。

 抗って、抗って、抗って。最後の最後まで理不尽に立ち向かうことだけが、未来を斬り拓く唯一無二の道だと僕は信じている。

 

「……」

 

 “金色の娘(きんいろのこ)”は、じっとこちらを見つめていた。

 その宝石のようなディープ・レッドの瞳の奥の奥に、秘められた“毅さ”を見つけたような気がした。

 剛く、しなやかで。はかなくも美しいヒトの意志――それはとても好ましく想えて。

 

「私は……、ジュエルシードを譲れない。だから諦めない」

 

 誰に言うわけでもなく、彼女は自分に確認するように、絞り出すように言葉を紡ぐ。

 その決然とした姿は、悲壮感すら漂わせるものだった。

 はぁ、とため息をひとつ。

 どうしてこう、僕のまわりには頑固者が多いのかね。……僕は柔軟だぞ。

 

「理由は聞かないよ。僕は別にジュエルシードなんてどうでもいいんだ、実際。ただ、高町さんやユーノを傷つけられるのは黙ってられない」

 

 ベンチから立ち上がり、ゆっくりとした足取りで歩を進める。

 飾ったふうにもったいぶって。

 精一杯背伸びして、格好をつけて。

 

「ひとつ、賭けをしようか」

 

 僕は足を止めると振り返り、きょとんとした顔をした彼女にそんな言葉を投げかけた。

 意識的に、シリアスな表情を作る。これは大切な話だから。

 

「賭け?」

 

 “金色の娘(きんいろのこ)”は、オウム返しでかわいらしく小首を傾げた。

 僕は彼女へ向けて、とっておきのイタズラを考えついた子どものようにニヤリと笑った。

 

 

   *  *  *

 

 

 夕刻。

 海辺にある公園。

 樹木を素体としたジュエルシード暴走体と対峙する、三人の魔法使い。

 高町さんが携える、射撃形態(シューティングモード)のレイジングハートを加速器となる環状魔法陣が取り囲む。

 

「撃ち抜いて! ディバイン!!」

『Buster!!』

 

 高町さんとレイジングハートの声を合図に、砲口より撃ち出された桜色の魔力砲撃が、天頂から暴走体に襲いかかる。

 しかし、それは青い光の障壁によって阻まれてしまった。

 続いて、“金色の娘(きんいろのこ)”が眼前に突きだした掌の先に鈴の鳴るような涼やかな音を響かせ、黄金の円状魔法陣が発生する。

 同時に同じく魔法陣がその足下に展開した。

 

「貫け轟雷!!」

『Tmlhunder Smasher!!』

 

 黒きデバイスを魔法陣に突き付けるようなモーションの後、雷電を纏った極太の魔力砲撃が照射。

 暴走体に着弾するも、同じく障壁に阻まれる。

 ――まだ足りない。

 二筋の光線が茜色の空を切り裂き、僕は魔力を込めた術式を展開する。

 アインが着いたままの左の掌に白く発光する球体が発生。それが急激に収束し――

 

「聖・光・爆・裂!!」

『リブレイドーっ!!』

 

 エネルギーが臨界に達した瞬間、前方に発生した蒼銀色の円状魔法陣へと白熱する光の球を打ち付けた。

 解放された力が魔法陣を仮想砲身にして発射。術式によって完全に制御されたそれは、聖なる光の奔流となって光速で流れ、駄目押しの一撃として青い障壁に突き刺さった。

 ――――耳をつんざく轟音を立てて、大爆発を巻き起こす。

 僕の放った〈天〉の魔法、〈リブレイド〉の爆発に耐えきれず、障壁は崩壊。二色の魔力光が、ついにジュエルシード暴走体に到達した。

 

「ジュエルシードシリアルⅦっ!!」

「封印!!」

 

 

   *  *  *

 

 

 封印されたジュエルシードを挟み、金色の娘は空に浮遊する高町さんを見上げる。

 

「ジュエルシードには、衝撃を与えたらいけないみたいだ」

「うん、夕べみたいな事になったらわたしのレイジングハートも、フェイトちゃんのバルディシュもかわいそうだもんね」

 

「だけど、譲れないから――」

『Scythe form』

 

「わたしはフェイトちゃんと話がしたいだけなんだけど……」

『Device mode』

 

 彼女は高町さんに一瞥すると、僕に向かってこう告げた。

 

「――あなたの提案、受けるよ」

 

 そして、彼女が金色の大鎌を肩に担ぐ。

 真紅の瞳は強い決意に彩られ、ただ一点、倒すべき相手()を見据える。

 

「にゃ!? ここってわたしとフェイトちゃんの一騎打ちの流れじゃないのっ?」

「高町さんには悪いけど、今回ばかりは譲ってもらうよ」

 

 僕は彼女との距離を測りながら、右手に黒球を創り出す。

 高町さんは頭上で「攸夜くんだけフェイトちゃんと仲良くなってズルいの!」などとのたまっているが、無視だ無視。

 

「フェイト!? 何を――」

「アルフは黙ってて」

 

 使い魔が疑問を露わにするが、ぴしゃりと一言で切って捨てられた。

 あ、使い魔、耳と尻尾を垂らしてしゅんとしてる。かわいい。

 

「あなたが勝ったのなら、あのジュエルシードはあなたに渡す」

 

 彼女の言葉と同時に僕は小さく笑みを浮かべ、黒球を握り潰す。

 指の間から黒い光が漏れ出し、掌の中に身の丈ほどの漆黒の槍(ヴォーテックスランス)が生成された。

 

「君が勝ったのなら、僕はこれ以後、ジュエルシードの回収を邪魔しない」

 

 黒槍を前方で軽く一回転させ、鋭く捻くれた穂先を彼女に突き付ける。

 アインが左手首から展開、周囲に戦闘態勢で待機した。

 

「ユウヤ!?」

 

 ユーノが咎めるような声を上げるがこちらも無視を決め込む。

 ――この賭け、僕が不利のように見えて、実際はそうでもない。仮に僕が負けた場合、ジュエルシードの回収は邪魔しないが「高町さんたちの手伝いをしない」とは言ってないのだ。

 我ながら酷い詭弁だけど、気がつかない方が悪いんですよ。

 

「約束、破らないでね」

「君の方こそ」

 

 軽口を叩き、互いにニヤリと笑い合う。

 周りはみんな、事の成り行きについて来れないようだ。そんな外野を思考の外に追いやり、僕らは武器を構える。

 ここまでお膳立てした理由は、ひとえに彼女とのケリを付けたいという、僕の――男の子の意地である。

 いま持てる全ての力を出し尽くして、強敵との勝敗を決したい。……うん、僕ってバトルマニアだったんだね、いま知った。

 

「――――」

「――――」

 

 いま考えるべきことは一つ。

 目の前の“敵”を打ち倒すことだけ――――!

 間合いは一足一刀――獲物は長物だが――、魔力を練り上げ、意識の中に創った術式のトリガーに指をかける。

 金色の娘が姿勢を下げ、脚に力を入れた。魔力の発露を感知。

 ――来るか!

 金色の娘が魔法を発動させ高速で距離を詰めてくる。その疾さはまさしく目にも止まらない。あらかじめ魔力で動体視力等を強化していなければ、訳も分からず倒されていただろう。

 

(だけど、見えていればどうとでもなるッ!)

 

 僕は後の先を取るべく、足裏で魔力を爆発させ突撃。最大速度で突撃し、刃が交錯――――

 

「ストップだ!」

 

 閃光とともに青い魔法陣が発生し、

 

「ここでの戦闘は危険すぎる! 時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。詳しい事情を聞かせてもらおうか」

 

 黒衣を纏う乱入者が現れた。

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