魔法大戦リリカルなのはWizardS   作:かぜのこ

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#8

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ♯8 「絆は茜色の空に消えて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 水平線に沈む太陽を背に突如現れた黒衣の魔導師。彼を挟むかたちで僕と“金色の娘(きんいろのこ)”が警戒し合う。

 乱入者――クロノ・ハラオウンの髪はダークグレー、瞳はアイスブルー。黒いコート状のバリアジャケットを纏い、身長は僕より高い……同い年か少し上くらいか?

 一瞬にして僕らの武器を制すその技量、かなりのものらしい。

 

「二人とも武器を引くんだ。このまま戦闘行為を続けるなら――」

 

 ……高圧的な態度がムカつく。仲良くなれないタイプだ、と直感が強く告げている。

 

「ッ!」

 

 唐突に、上空からオレンジ色の魔弾が、黒い魔導師に向かって数発降り注いだ。彼は魔法障壁を展開して難なくそれらを弾く。

 

「フェイト、撤退するよ。離れて!」

 

 周囲に大きめのエネルギーを発生させた使い魔が叫ぶ。

 魔力が増大。大きなオレンジの魔力弾が生成された。

 瞳を揺らして逡巡する“金色の娘(きんいろのこ)”が視界に入る。

 そして、オレンジ色の閃光が降り注ぐ刹那――――

 “金色の娘(きんいろのこ)”が黒と紅のマントをはためかせ、ジュエルシードを奪取せんと飛び上がる。

 爆発、轟音。巻き上がる粉塵。

 僕は舌打ちし、〈ヴォーテックスランス改〉を即座に消滅破棄、バックステップでその場を離脱すると魔導師も同じく後方に大きく距離を取った。

 滞空したままだった高町さんが彼の近くに降り立つ。

 

「っ!」

 

 その隙に、“金色の娘(きんいろのこ)”が青色の宝石へと手を伸ばした。

 

「あっ!?」

 

 高町さんが息を飲む中、僕は知らない魔力の波動を感知する。

 

「チィ!」

 

 その意味を正しく理解すると、刹那で練れる限界の魔力を捻り出し、術式を起動。

 

(クソ、間に合え!!)

 

 発せられた青いの魔弾の群が粉塵を切り裂き、少女を襲う。

 

「うぁっ!」

 

 直撃ではないものの、魔弾によって体勢を崩された彼女は小さな悲鳴を上げ、長い黄金(おうごん)の髪を残しつつ地面へと落下した。

 

「フェイトっ!!」

「フェイトちゃん!」

 

 使い魔が彼女を助けるべく地面へと降り立ち、高町さんが悲鳴を上げる。

 そして、僕は――――

 

 

「あ……」

 

 腕の中に納まった女の子が小さく呻く。

 僕はアインの一枚を足場に、“金色の娘(きんいろのこ)”を横抱き――ようするにお姫様だっこ、というヤツだ――にしていた。

 瞬時に練った魔力をうまく制御でき、彼女を抱き留めることに成功したのだ。ぶっちゃけかなり間一髪だった。

 あとは、簡単。足下に来たアインに着地したというわけ。

 ……しかし、この()の身体、まるで羽毛みたいにひどく軽い。ちゃんとご飯を食べてるのだろうか?

 

「大丈夫? 怪我は……あるか。ちょっと待ってて、すぐに治すから」

 

 視線を落とすと、左腕に傷を負って血を流している。それを癒すために治療魔法を発動、蒼白い光が幽玄のように揺らめき、彼女の傷を癒し始めた。

 治療系は苦手なのだがこの際仕方ない。やらないよりはマシだろう。

 

「どう、して?」

 

 掠れた声で彼女が問いかける。その顔色は青白く、決していいものとはいえない。

 彼女の言葉の意図を理解した僕は微笑みを浮かべ、努めて優しい声色で答えた。

 

「助けたいから助ける。そう言ったはずだよ」

 

 ――僕だって、どうして彼女にこれだけ固執するのか、よくわからないのだ。

 確かにとびきりかわいいし、正直すごく好みだけど。だからと言って敵対する相手を何度も助けてやるほど、僕は甘くもないしお人好しでもないと思ってる。むしろ、見敵必殺なくらいだっていうのに。

 

「あ、アンタ! フェイトを放しなッ!!」

 

 使い魔が足下で叫んだことで、僕は思考の海から引き戻された。まあ、気持ちはわかるけど落ち着け。

 使い魔の隣へと飛び降りる。

 

「フェイトに変なことしてないだろうね!?」

「変なことってなにさ。……ほれ」

 

 たいへん人聞きの悪い言いぐさに内心憤慨しつつ、軽めの治療を終えた“金色の娘(きんいろのこ)”を使い魔の背中に横たえてやる。

 彼女は使い魔の上でぐったりして、息も絶え絶え。それでも、顔だけはこちらに向けていた。

 

「あ、の……」

「預けるよ」

「えっ……?」

「今回の勝負、預けておく。君のコンディションが万全な時にケリをつけよう。そうじゃないと、張り合いがない」

 

 そう不敵に言ってやると、、“金色の娘(きんいろのこ)”は大粒の瞳をさらに見開く。それから儚く微笑んで、小さく「うん」とだけ答えると、目を閉じた。

 疲れて眠ってしまったのだろう。

 

「さ、はやく行きな」

「……礼は言わないよ」

「必要ない」

「フン」

 

 つまらなそうに鼻を鳴らしてそっぽを向く使い魔。素直じゃないのはお互い様か。

 

「そうはいかない。君達からも事情を聞かなくちゃならないんだ」

 

 そんな空気の読めてないセリフとともに、黒い魔導師がデバイスの先をこちらに――いや、いまにも逃げ出そうとしているふたりへと向けた。

 杖の先に青い魔力光が収束する。

 マズい――!

 

「ダメっ!」

「――っ!」

「やめて! 撃たないで!!」

 

 高町さんが叫びながら飛び出し、射線を遮る。僕も、彼が強硬に出よいものならいつでも発動できるよう、密かにアインに突撃を指示していた。

 しかし、彼は撃たず。

 使い魔は主を背負って茜色の空に飛び去った。

 どうやら準備は無駄に終わったようだが、あの〈時空管理局〉の〈執務官〉とやら、悪人ではないらしい。まあ、どっちにしても嫌いだけどね。

 

 

   *  *  *

 

 

 驚くほど天井の高い近未来的な通路を、黒衣の魔導師――クロノの先導の元、歩く。

 やや薄暗いが、床から発する青白い光でそれなりに見える。

 

《ユーノくん、ここっていったい……?》

《時空管理局の次元航行艦の中だよ。えっと……簡単に言うと、いくつもある次元世界を自由に行き来する、そのためのフネ》

《あ、あんま簡単じゃないかも……》

《えっとね――――》

 

 前を歩く高町さんとユーノが念話でこのようなやりとりをしている。ユーノの説明は彼女には少し難しかったようだ。

 以前、ユーノをしぼった時に聞き出していたSF脳な僕は理解してるけど。

 

 扉を抜け、通路のようなところに出た。

 

「ああ、いつまでもその格好というのも窮屈だろう。バリアジャケットとデバイスは解除して平気だよ」

「あ、そっか。そうですね。それじゃあ……」

 

 光とともに瞬く間に制服姿へと戻る高町さん。ただ元になってるだけあって、見た目はほとんど代わり映えしないけど。

 

「君も、元の姿に戻ってもいいんじゃないか?」

「ああ、そういえばそうですね」

 

 翠緑の光とともにクリーム色のフェレットが、馴染みのない様式の服を着た僕たちと同年代くらいの少年に姿を変えた。

 おお、なかなか男前ではないかねユーノ君。などと感心してみたり。

 

「!?」

「ふう……。なのはにこの姿を見せるのは久しぶりになるのかな」

 

 高町さんがすごい間抜けな顔をして固まっている。

 僕はこれから起こる展開を想像し、沸き起こる笑いを抑えるのに必死で。

 

「ふ、ふええええぇぇぇぇーーーっ!?」

 

「な、なのは?」

「ぷっ、くくくっ……」

「ゆ、ユーノくんて、ユーノくんて、あのその、なに!? うぇ、だって、うそっ!? ふぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

「君たちの間で、何か見解の相違でも?」

 

 大混乱の高町さんに空気を読めないクロノの一言。

 やばい、すげーカオス。高町さんの反応おもしろすぎ、予想の遙か上をかっ飛んでったよ。

 おもしろくなってきたので、煽ってさらに引っ掻き回してみよう。

 

「つまり高町さんはユーノ君に恥ずかしいあれやこれやらを見られてしまったわけですね、わかります」

「ユウヤ!? いきなりなに言って――はっ!」

「ユーノくん……、ちょっとお話しよっか」

 

 瞳のハイライトが高町さんが再び登場。端から見てても怖いな、これ。何かこう、生命の根源的な恐怖を感じる。

 

「ま、待った、なのは。僕はなのはが知ってるとばかり……って、ちょっ、レイジングハート起動しちゃダメだって! ――アッー!?」

 

 じゃれ合ってるふたりをニヤニヤ眺めて和んでいると、呆れたふうなクロノが問う。

 

「それで、君は?」

「ん? ああ、僕のはバリアジャケットでもなんでもない、ただの制服ですけど」

「……は?」

 

 僕の発言にぽかんと開口するクロノ氏。ただの服で戦闘行為を行うなんて彼の常識外のことなのだろう。

 

「い、いや、そうか。それならいいんだ」

 

 冷や汗を流すクロノに、じゃれ合ってる高町さんとユーノ。

 ……うーん、カオスの極みだ。

 

 

   *  *  *

 

 

 ところ変わって、このフネ〈アースラ〉の艦長室。

 近未来で無機質な部屋に、盆栽やら鹿威しやら明らかに不釣り合いな調度品の数々。この部屋の主はどうやら日本通らしいが……正直、不自然です。

 緑茶と羊羹を前に、高町さんとユーノはガチガチに緊張している。僕はと言えば、相手方の出方を警戒していたり。

 

「リンディ・ハラオウンさん、ですか」

「ええ」

 

 紺色の制服に身を包んだこの船の艦長と名乗る妙齢の女性――リンディ・ハラオウンに僕はジャブとして、ちょっとした質問を投げかけた。

 

「そこの彼とファミリーネームが一緒ですけど、弟さんか何かで?」

「あら、そう見える? うふふふ……」

 

 口に手を当て、やけにご機嫌に笑うリンディさん。

 この反応と、隣のクロノがもの凄い苦い顔をしているところからして親子か。まあ、母親の痴態を見るのは辛いよね。ふっ、いい気味だ。

 そんな他愛ない会話の後、彼女たちはロストロギア、そしてジュエルシードの危険性を語る。

 緑茶に角砂糖たくさん入れてて微妙に台無しだったけど。僕もかなりの甘党だと自負してたけど、これはないわー。

 

「――と、説明はこんなところね。わかってくれたかしら?」

「は、はあ……」

 

 依然として柔らかな笑みを浮かべるリンディさんの問いかけに、高町さんが生返事を返している。

 

「……」

 

 その間、僕は視線を落として思惟の海に没頭していた。

 然るべき手続きを持って、然るべき場所に保管されていなければならない品物――――

 僕はその理念に嫌な予感を感じ、それはすぐ現実のものとなった。

 

「――これより、ロストロギアジュエルシードの回収については時空管理局が全権を持ちます」

「君たちは今回のことを忘れて、それぞれの世界に戻って元通りに暮らすといい」

 

 彼女らの言葉に高町さんが食い下がるが、クロノが正論を並び立てて封殺する。

 リンディさんが一晩考えろと妥協案を口にするが――

 

「その必要はありません、全てお任せします。じゃあ僕はこれで」

 

 呆気にとられる面々をおいて矢継ぎ早に意志を伝え、この場を離れようと立ち上がる僕の前にクロノが立ちふさがる。

 

「待った。君の腕輪について話が聞きたい。それからはジュエルシードと同様か、それ以上の魔力を〈アースラ〉の計器が感知していた。管理局としては、ロストロギアの可能性も視野に入れて検査したい」

 

 内心やはりとも思ったが、努めて冷静に返答を言い放つ。

 

「お断りします」

「なに? ――っ!!」

 

 瞬間的に分離したアインがクロノの周りを取り囲むように展開、青い刃を彼へと向ける。

 動けないクロノを一瞥し、リンディさんへと言い放つ。

 

「確かにジュエルシードはあなたたちが“管理”すべきものなのだから当然ですけど、アインと僕は違う。あなたたちが掲げる法がどんなものかなんて僕には知ったことじゃないんだ。どうしても調べたいというなら、殺して奪い取るんですね」

 

 言外に、その時はただでは済まさないと含めておく。玉砕覚悟ならこの船くらいは墜とせるだろう。

 

「あらあら」

「攸夜くん!?」

「ユウヤ……」

 

 三者三様の反応。

 リンディさんは笑顔を絶やさず、動揺の欠片も見せない。食えないな、この人は。

 

「……わかったわ。アースラはあなたに干渉しない。これでいいかしら?」

 

 アースラは、ね。本当に食えない。腹芸では勝ち目がなさそうだ。

 

「まあ、妥協案ですね。いいでしょう」

 

 これ以上ゴネても仕方がない。息を吐きつつアインを左腕に戻すと、クロノが声を荒げる。

 

「艦長!? 何故です!」

「落ち着きなさい、ハラオウン執務官。彼の言うことは一応理に適ってるわ。少なくとも、今私たちが彼を縛ることは道義や法に反するんじゃないかしら?」

「く……っ!」

 

 リンディさんに言い伏せられる黒いの。この程度で激するとはまだまだ甘い。泰然としつ、笑みまで浮かべている母親を見習うんだな。

 

「ふぅ……。クロノ、皆さんを送って差し上げて」

「……わかりました」

 

 ――こうして微妙な空気を残したまま、クロノに送られて僕たちはアースラを離れた。

 

 

   *  *  *

 

 

 茜色の空の下、海に面した公園の一角で僕と高町さん、それからユーノが向かい合っている。

 僕たちの間に流れる空気は重苦しい。

 そんな空気を破るように、僕は口を開いた。

 

「高町さんは、彼らに――時空管理局に協力するつもり?」

「……うん」

 

 控えめに頷く高町さん。

 まだだいぶ迷っているみたいだけど、たぶん彼女は戦うことを止めないだろう。あの“金色の娘(きんいろのこ)”と()()するために。

 それを否定するつもりはない。

 だけど……。

 

「攸夜くん、どしたの?」

 

 沈黙した僕を心配するように、顔をのぞき込んでくる高町さんに告げる。彼女が傷つくであろう言葉を。

 

「いや……、それなら、ここでお別れだなと思ってさ」

「……えっ? ど、どうしてそんなこというの? い、いつもの冗談、だよね?」

「違う、冗談じゃないよ」

 

 僕が本気だと悟った高町さんは、見る見るうちに青紫の瞳を潤ませて、今にもこぼれそうなほどに涙をためた。

 彼女の涙に怯むけれど、こればっかりは言わなきゃならない。

 

「突然でごめん。でも僕は、時空管理局って組織を信用できない。アインのこともそうだけど、特異な魔法を使う僕自身だって、きっと彼らにとってはいいモルモットだと思うんだ」

「そ、そんなこと……――」

「僕も、ユウヤの言うとおりだと思うよ」

 

 弱々しく否定する高町さんの言葉を遮って、今まで沈黙を保っていたユーノが発言する。その表情は険しい。

 

「ユーノ、くん?」

「彼らは少なくとも、アイン・ソフ・オウルに興味を示していた。それは管理局にしてみれば当然のことだけど。なのはだって、()()()を見たでしょ?」

 

 高町さんは、はっとして俯く。彼女にもわかるのだろう、僕の――“宝玉”の力が異常であるということが。

 

「アインを取り上げられるのはさすがに嫌だしね。……だから、お別れ」

「そん、な……」

 

 ついに耐えきれなくなって、高町さんが嗚咽を漏らしてむせび泣く。

 

「大丈夫、泣かないで。今生の別れってわけじゃないんだ。ジュエルシードの一件が終わればきっと全部、元通りだよ」

「でもぉっ……!」

 

 言って、なおもぐずる高町さんの頭をぽんぽんと撫でてやる。柔らかな髪の毛の手触りが心地いい。

 

「ごめん。本当にごめん、こんな大変なことに巻き込んじゃって……」

 

 しゅんとしたユーノに「何を今更」と苦笑を漏らす。まったく、本当に生真面目だね、君も。

 

「好きで巻き込まれたんだから気にするな、僕は気にしない」

「あはは、またそれか。……うん、ありがとう」

 

 ユーノに向けて、右手を差し出す。

 

「高町さんのこと、任せたから。しっかり護れよ」

 

 にっ、と不敵に笑ってみせて。

 ユーノも釣られて軽く笑み、右手を握った。

 ぎゅっと力を入れて握り合う。なんだか熱血してる気がして、ちょっと照れくさい。こんなの、僕のキャラじゃないだろうに。

 

「まかせて。なのはは僕が、絶対護ってみせるから」

 

 僕の下らない葛藤を知る由もないユーノが、臆面なく恥ずかしいセリフを真顔で吐く。その表情は決意に満ちていて、なかなかにイカしてる。僕が女の子ならコロッと参ってしまいそうだ。

 しかし、今の言葉の意味をわかってて言ったのか? わかってないんだろうなー。高町さんも泣くのに忙しくて聞いちゃいないし。

 

「じゃあ、またな」

「うん。……ほら、なのはも」

「ぐすっ、ぅぅ、ぅん、うん…………またね、攸夜くん……」

 

 何とか笑顔を見せてくれた高町さんに頷いて、踵を返し歩を進める。

 後ろから聞こえるふたりの見送りの声。

 その声に、僕は右手をポケットに突っ込みながら左手を振り上げて応えた。

 後ろは振り向かない。

 

 ――――振り向けば、決意が鈍るから。

 

 だけど、きっと僕たちの道はまた交わる。

 そんな確信が、胸をよぎった。

 

 

   *  *  *

 

 

「――――アンタ、なにか知ってるんでしょ!?」

「……なにかってなにがさ」

 

 昼休み、屋上の片隅で昼食を食べようとしていると、肩を怒らせたバニングスさんが月村さんを引き連れてやってきた。

 

「なのはが授業休んでる理由よ!!」

 

 ……まあ、そんなことだろうとは思ったけど。

 朝、高町さんのためにノートを取ることを立候補していたくらいだし、問いつめられると予想はしていた。

 高町さんは今、アースラに乗り込んでジュエルシードの探索を手伝っているのだろう。正直に事情を話してないだろうに、よくもまあご両親が許可したものだ。……教育方針が放任主義だったりするのかな? ちょっと理解に苦しむけど。 

 とはいえ、バニングスさんに本当のことを言うわけにもいかず、僕はしらばっくれることに決めた。

 

「知らないよ」

「ウソよっ! あんたが最近なのはとよく一緒にいるってこと、私知ってるんだから!!」

「あ、アリサちゃん、落ち着いて……」

 

 僕の回答がお気に召さなかったらしく、ますますヒートアップするバニングスさんを月村さんが宥める。なんというか愛されてるね、高町さん。

 でさ、バニングスさんもそんなに心配ならさっさと仲直りしたらよかったんじゃない?

 ……まあ、そんな迂闊なこと本人の目の前では絶対に言わないけど。

 

「先生が言ってたように、数日で戻ってくるんだろ? なら、大人しく待ってればいいじゃないか」

「っ! この、薄情者!!」

 

 僕の発言の何が気にくわなかったのかは知らないが、髪を振り乱して叫ぶバニングスさんを「アリサちゃん、言い過ぎだよ!」と月村さんが窘める。

 本当に対照的な二人だ。お互いに足りない部分を補い合ってたりするんだろうか。

 ――しかしまあ、薄情者とは言い得て妙だなと変に感心してしまった。

 

「そうだね。確かに僕は、薄情者だと思うよ」

 

 何せ、ついさっきまで一緒に戦ってた“仲間”を自分の事情であっさり切り捨てたんだから。

 だからバニングスさんの罵倒も肯定し、自嘲を込めて笑ってみせる。うまく笑えた自信はないけど。

 

「――っ、そ、その……ごめんなさい、今のは言い過ぎたわ」

 

 バニングスさんがものすごく申し訳ないような表情をする。

 その顔を見てると、なんだかこちらの方が悪いような気持ちになってきた。気にしてないからいいんだけどさ。

 

「いいよ、本当のことだし。……それより、せっかくだからお昼一緒に食べる?」

 

 焼きジャケ入りのおむすびを掲げて見せつつ、提案してみた。

 ぽかんとした顔のふたりに苦笑して、おむすびを思いっきりかじる。塩を利きすぎてて、しょっぱかったのがやけに印象に残った。

 

 

   *  *  *

 

 

 お風呂上がりでごわごわな髪の毛をタオルでゴシゴシと拭きながら、自分の部屋へ。

 ここに越してきてまだ一月も経っていない部屋にはやはり違和感が残る。しっくりこないというかなんというか……、まあ、“ソレ”に比べれば些末なことだ。

 “ソレ”。――窓の外にある不愉快な物体に僕は目を向けた。

 

『――ご主人様』

「ああ、まだ監視されてるな。当然といえば当然の処置だけど」

 

 監視を受けていることが今日一日過ごしてみてわかった。具体的には、隠蔽式の監視カメラ的なものの存在を近くに感じるのだ。

 言うなれば〈サーチャー〉、ってところか。

 まあ、“宝玉”の力――“賢明の宝玉”の権能の一つ、予知じみた天啓を与えてくれる〈賢明なる財宝〉で気づいたんだけどさ。違和感自体はうすうすあったのだが、隠し方が巧妙で素では見抜けなかった。

 

『なんだか鬱陶しいですし、消しちゃいましょうか?』

 

 アインの“宝玉”のひとつが仄かに青く光る。おそらく“賢明の宝玉”の力を解放し、遠見魔法(サーチャー)を力付くで消去しようと言うのだろう。

 僕はそれを制する。

 

「止めとけ、警戒を強めるだけで意味がない」

『それもそうですね』

 

 アインもどうやら本気じゃなかったようで、“宝玉”の光を抑えた。あれは僕らの切り札(・・・)だから、あまり軽々しく使いたくないのだ。

 しかし、監視したい気持ちもわからないでもないけど、こうしてつきまとわれるとやっぱりかなり不愉快ではある。さすがに家の中にまでは押し入ってこないが、外からの監視は続いているだろう。

 というか、仮に高町さんが協力しなかった場合も監視してたんじゃなかろうか。なにが「君たちは今回のことを忘れて」だよ、調子のいいこと言ってくれちゃってさ。

 

「はぁ……」

『そんなに心配なら、素直に協力してさしあげたらよかったのでは? 私に遠慮しなくたっていいんですよ?』

「お前を気遣ったわけじゃないさ。……ただ、後から出てきて大きい顔をされるのが嫌だっただけ、子どものわがままだよ」

『……ご主人様。…………でも、私はあなたを――――』

 

 アインが言い掛けた言葉を遮るように、机の上に置いた二つ折りの携帯電話が着信音を響かせる。着メロは「青空になる」、名曲だ。

 

「……いいのか?」

『……いえ、構いません』

 

 歯切れの悪い相棒に首を傾げながら、自分の瞳の色に似たシアンブルーのそれを手に取る。ディスプレイには「八神はやて 自宅」の文字。

 

「もしもし、八神さん?」

 

 以前、連絡先を渡してから初めての電話。例の澱んだ魔力の件もあり、僕はちょっとだけ身構えた。

 

《こんばんは、攸夜君。その……いま、ちょっと時間もろてもええかな?》

「うん、こんばんは。いいけど、なにか困ったことでもあった?」

《あっ、そ、そういうわけやないんよ? ただ……ただな、ちょっと攸夜君とお話したいなと思って……》

 

 八神さんはしおらしく控えめに、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。その端々に気後れのようなものを感じた。

 今まで連絡してこなかったのは、僕に遠慮していたからなのだろうか。

 

《……その、もし迷惑やったら別にいいんやけど……》

「そんなことないよ。宿題とかやらなきゃいけないことはもう終わらせたし、時間ならあるから」

 

 ちらっと目覚まし時計を伺う――時刻は9時20分。時間的にはまだ大丈夫そうだ。

 

「えっと、じゃあなに話そうか?」

《うんと……、攸夜君の学校の話とか聞きたいな》

「よしきた。そうだな――――」

 

 そうして僕は、話し始めた。

 授業で習ったこと、友だちと話したこと、下校中にあったこと……そんな他愛のない話題にも、八神さんはいちいち相づちを打ち、時には驚き混じりで楽しそうに聞いてくれた。

 電話口からでも伝わる。寂しさとか、切なさとか、悲しみとか。それだけ人恋しかったのかな……うん、今度完成したばかりの〈ぽんこつくん三号〉を贈ってあげよう。

 

《ふぁ……》

 

 八神さんが眠そうなあくびを漏らす。時計はいつの間にか十時半を指していた。

 

「そろそろ休んだ方がいいんじゃない?」

《ん~……私はまだ話したいんやけどなぁ……》

 

 ひどく残念そうな八神さんの声に苦笑しつつ、心配するような声色で諭す。

 

「あくびしといて説得力ないなぁ。寝不足夜更かしはお肌の大敵、かわいい顔が台無しになっちゃうよ?」

《か、かわいい……。も、もうっ、そうやって攸夜君は女の子をひっかけとるんやね。ひどいヒトやー、スケコマシやなぁ》

 

 呆れたような八神さん。からかい混じりでくすくすと笑みをこぼす。電話口からでもわかるくらい楽しんでくれているみたいだ。

 しかし、スケコマシとか……ちょっと否定できないじゃないか。

 

「図星っ……急所っ……」

《ざわ……ざわ……、てなにやらせんねん! ……ぁふ、それはそうとやっぱり眠たいわ。遅くまでつき合ってくれてありがとな、攸夜君》

「どういたしまして。じゃあ、おやすみ。またね」

《うん、おやすみな》

 

 向こうの切れたのを確認して、こっちも通話を切る。

 時計は10時を指している。

 何気なく携帯を見ていてふと思いたち、カコカコと操作。僕にしては――正直メールはまどろっこしくて好きじゃないんだ――かなり長文なメールを作って送信した。

 送信完了の軽快な音を鳴らせた携帯をぱちんと畳む。

 

『ご主人様。今のはもしかして、なのはさんに?』

「まあ、ね。さすがにアースラには届かないだろうけど、地上に降りた時に見るかもしれないからさ」

『アフターケアということですか?』

「そんなとこ」

 

 言いながらカーテンを開き、窓を覗く。

 冥く広がった紺青の夜空を、散らばった星々と静かに輝く黄金色の三日月が彩る。

 ――――夜空に、ちらりと桜色の光線が走ったような気がした。

 

 

   *  *  *

 

 

 次元航行艦アースラ。

 現在、太陽系第三惑星“地球”――時空管理局の言うところの〈第97管理外世界〉に置いて、ロストロギア“ジュエルシード”の探索任務に就く艦である。

 その一室。

 大型モニターの前で、紺青の制服を着た明るい茶髪の女性――エイミィ・リミエッタがコンソールに指をせわしなく走らせ、解析作業に勤しんでいた。

 モニターには、美しい金色の髪に紅の双眸を持つ黒衣の魔導師――フェイト・テスタロッサと対峙する、漆黒の槍を構えた黒髪蒼眼の少年――宝條攸夜の姿を映し出されている。

 この映像を攸夜本人が見たのなら、苦虫を噛み潰したような表情をしたことだろう。

 

「入るよ、エイミィ」

「あ、クロノ君」

 

 自動ドアがスライド、圧縮空気の抜ける音。開いたドアから、インナースーツ姿のクロノ・ハラオウンが現れる。

 彼は、しっかりとした足取りで、コンソールユニットの傍らまで近づいた。

 

「どうだ、エイミィ。彼の事、何かわかったか?」

「うーん……ま、ともかくこれを見てみてよ」

 

 白魚のような指がパネルの上で躍り、映像が切り替わる。

 そこには英語によく似た文体・文法で構成されたミッドチルダの公用語で書かれた、何らかの解析データらしき文字と数字の羅列が表示されていた。

 

「正直わかったことと言えば、〈ミッドチルダ式〉、近代・古代二種類の〈ベルカ式〉のどれとも違う未知の魔法を行使していたことと、平均魔力値が推定七四万ってことだけだよ。ちなみに最大発揮値は現在鋭意調査中~」

「七四万……思ったよりも少ないな」

 

 クロノは言葉の通り意外そうな顔で腕を組み、考えるような仕草をする。

 現在、彼らに協力している高町なのはが約一二四万、対立しているフェイト・テスタロッサが約一四三万。その二人に比べれば、かなり見劣りする数値だ。

 もっとも、一般的な魔導師として見れば平均以上の水準を満たしてる。むしろ優秀な部類に入るだろう。

 

「それから、彼の持ってたデバイス――アイン・ソフ・オウル、だっけ? それの調査結果がこちら」

 

 映像が再度切り替わる。

 暴走するジュエルシードを、フェイトと攸夜が二人掛かりで押さえ込む場面。そこから、二人の周りを取り囲み、赤く放光する純白の板のようなものにズームする。

 

「嵌め込まれている七つの球状結晶体に、封印級ロストロギア並みの莫大な魔力を内封しているという事以外、解析不能。……ほとんどわかってないのか」

「直接解析してみないとこれ以上はムリかな~。ただ、結晶体自体はすごく安定してるみたいなんだよね。だからジュエルシードみたいに、〈次元震〉が発生する危険はないかも」

 

 〈次元震〉。主にロストロギアの発動などで発生する大規模時空災害である。

 惑星・文明を滅ぼしてしまうものから、いくつもの“世界”を巻き込むものまで規模は大小さまざまあり、例外なく甚大な被害をもたらす。彼ら〈時空管理局〉は主にそれを未然に防ぐために組織され、日夜活動している。

 

「だから艦長が下手に刺激しないようにっていう方針も、私的には納得かなー」

 

 同僚の楽観的な意見に若き執務官は不愉快さを隠さず、険しい顔をする。

 この艦の最高責任者であるリンディ・ハラオウンは、宝條攸夜について監視だけに留めるという決定を下している。これは彼との約束を守ったというよりも、現状抱えているジュエルシードの捜索に専念したいとの思惑から来る判断だった。

 もちろん、リンディ自身約束を守るつもりではいるが、最終的にはミッドチルダの法を優先するだろう。彼女とて、良くも悪くも時空管理局の一職員なのである。

 そして、管理局執務官という仕事に誇りと信念を持っているクロノは、母であり上司でもあるリンディの判断に理性はともかく、感情面での折り合いがついていなかった。

 頭脳明晰冷静沈着な彼とて、時には精神の制御を仕損じたりもする。早熟と言えど、そういった部分はまだまだ未熟である。

 それ故、頑なな態度を崩ずすことなく、クロノは憤慨したように語気を強めて言う。

 

「だが、危険物であることに変わりはない。早急に押収するべきだ」

「それで返り討ち? 聞いたよ~、艦長室ではしてやられちゃったみたいじゃない」

「ぐっ」

 

 図星を突かれ、言葉を詰まらせるクロノ。拗ねた、あるいはふてくされたようにそっぽを向く仕草。

 「あのときは不意打ちで――」とか「別に負けたわけじゃない」などと言い訳を始めた“アースラのエース”に、エイミィがくすくすと忍び笑む。

 これで彼女もクロノのことを信頼しているのだが、如何せん年下で生真面目な彼をいじりたくなってしまうのだ。

 エイミィなりの愛情表現は、未だ石頭気味な少年の年相応な部分を引き出していた。

 

「あの子、けっこう勘が鋭いみたいだし、無茶しないほうがいいんじゃないかなぁ。監視用のサーチャーにカメラ目線であっかんべーってされたのは、ちょっと驚いちゃったよ」

 

 そう釘を差しつつ、ジト目を向ける。クロノはわずかに冷や汗を滲ませて取り繕った。

 

「と、ともかくっ! なのはたちから宝條攸夜についての事情を聞いてみる」

「それがいいかもね。期待してるよ~、“アースラのエース”っ!」

 

 エイミィはブスッとした顔で部屋を出る黒っぽい少年をニヤニヤと見送る。

 案外、攸夜と気が合いそうなエイミィであった。

 

 

   *  *  *

 

 

「えっ、攸夜くんのこと……?」

 

 アースラの食堂。

 閑散とした一角でユーノと食事していたなのはは、クロノに友人のことについて訪ねられた。

 彼女の前の席に座っていたユーノが密かに警戒して身構える。彼は、なのはが何か迂闊なことを言おうものなら無理矢理にでも話題を変えるつもりだった。

 

「ああ。彼のことで君が知っていることを教えてほしい」

 

 ちらりとユーノの方を見て、クロノが少し堅い口調で問う。

 一足遅れ、厳しい表情のユーノに気づいたなのはは、「だいじょうぶだよ」と彼に笑顔を向ける。

 

「えっと……、攸夜くんはわたしの学校の転校生で、はじめはちょっとこわそうだなって思って……」

 

 そして、なのはは思い返すように訥々と語り始めた。

 

「でも、ひとりで寂しそうにしてたから勇気を出して声をかけてみて……、そしたらほんとうはやさしい男の子で……」

 

 自分の言葉を噛みしめるように組んだ両手を胸に当て、つぶらな瞳を瞑る。

 

「はじめは、いっしょにジュエルシードを集めることを断られちゃったけど、でも、わたしが困ったときに助けに来てくれて――それが、うれしくて……」

 

 その時の気持ちを思い出して紡いでいく言葉のひとつひとつに、なのはの嘘偽りのない真摯な想いが詰まっていて。

 ――なのはにとって“宝條攸夜”という男の子は、ちょっと「とくべつ」だ。別に恋がどうのとかそういう浮ついたことではなく、初めて作れた男子の友だちという意味で。

 あまり友だちの作り方が上手ずでない不器用ななのはにしては、スマートかつ至極真っ当な方法で友誼を結べた好例。文字通り、“勇気”を出した結果だ。

 ただ成り行きで一緒に行動していたというだけじゃない。なのはにとっては自分と同じ戦うための“力”を持つ攸夜とて、家族やアリサ、すずか、そしてユーノと同じくらいに“護りたいもの”なのだ。――もしかしたら、フェイト・テスタロッサですらも。

 無論、彼に対して不満がないわけではないが――――

 

「あまのじゃくなとことか、なに考えてるのかよくわかんないとことか、イジワルなとことか、ユーノくんをいじめるのはちょっとどうかなって思うけど――あっ! で、でもでもっ、悪い人じゃないっていうか、その……」

「いや、もういい。君が宝條攸夜をどう思っているかは、よくわかった」

 

 思わず口を滑らせて失言っぽいことを言ってしまい、あわあわと慌てだしたなのはにクロノは苦笑を漏らした。他意はないというより悪気はない、と言ったところか。

 それから、対面の席に座るもう一人、ユーノへと話題を振る。

 

「ユーノ、君は何か知らないか?」

「僕も、なのはが知っている以上のことは知りませんよ。……ただ、彼が魔法に触れたのはつい最近だということと、アイン・ソフ・オウルを物心ついた頃から持っていた、ということくらいです」

 

 むっつりと答えたユーノと、怪訝な表情のクロノの視線が交わる。探り合いのような短い沈黙の後、クロノがため息を吐いて視線を外した。

 これ以上、有益な情報は得られないと理解したのだろう。あるいは、無意味な問答による時間の浪費を嫌ったのかもしれない。

 

「わかった、手間をとらせたね。ふたりとも食事に戻っていいよ」

 

 そう言い残して、クロノは食堂から立ち去った。

 

「はふぅ~」

 

 彼を見送り、姿が見えなくなるやいなやなのはは長く息を吐き、ふにゃっとテーブルに突っ伏した。

 心なしか、トレードマークのピッグテールもしんなりへたれているように見える。

 

「緊張した?」

 

 そんな彼女へ、ユーノが気遣うような声をかける。

 

「うん、ちょっとね。……わたしのせいで攸夜くんに迷惑とか、かけたくないから」

「なのは……」

 

 そう健気に言って、淡く微笑むなのは。ユーノは、彼女が苦しんでいるのは自分の責任だと、胸を痛めていた。

 

 食事を終え、自分たちにあてがわれた部屋に帰る道すがら、なのはは制服のポケットから桃色の携帯電話を取り出して、とあるメールの文面を眺めていた。

 

「それって、ユウヤからの?」

「うん」

 

 それはジュエルシード探索に地球へ降りた際、ふとしたきっかけで見つけた一件のメール――――

 

 

 

 

    件名:元気?

 

  こんばんは……こんにちは?まあ、どっちでもいいか。

  アースラでの生活はどう? 国が違うと生活習慣も違うって言うし、いろいろと勝手が違って困ったりしてない?

  ユーノがそのあたりフォローしてればいいんだけど……あいつ、抜けてるしなぁ(笑)

 

  本当は、僕も一緒についていてあげたいんだけど……って、これは偽善かな。

  ……高町さんがあの娘に伝えたい気持ちは、高町さんだけにしか伝えられないと思う。

  だから、諦めないで。

  諦めなければ、きっと彼女の元まで届くはずだから。

 

  それに、もしも高町さんがピンチの時は、どこへでも、世界の果てにだって必ず駆けつけるよ。

  っと、これはちょっと、クサいか(苦笑)

 

  ともかく、身体には気をつけて。僕も陰ながら応援してる。

  また学校で再会できることを祈って。

 

 

 

 

 ――――明け透けで茶化したような、しかし攸夜らしいその文章を読み返す度になのはの胸はほんのりぽかぽかと暖かくなった。

 

「ユウヤもひどいこと言うよね、抜けてるだなんてほんと失礼しちゃうよ。自分だって、しょっちゅう道に迷ったりしてるくせに」

 

 腕を組み、メッセージに文句をつけるユーノ。けれど言葉とは裏腹に、容赦のない悪態を吐く姿はとても楽しげで。

 なのははそんな彼の様子を微笑ましく見つめる。きっとユーノと攸夜の関係は、自分とアリサやすずかと同じなんだろう、と。

 それはとってもステキなことだ。

 そして、願わくば――――

 

(フェイトちゃんとも……なかよくなりたいな)

 

 なのはの主観において、フェイトと攸夜はすでに“友だち”で。へそ曲がりな天の邪鬼(攸夜)とだって仲良くなれるのだから、自分とだってきっとなれるはずだと考えていた。

 あながち間違いでもないが、攸夜なら「とりあえず、デバイスを納めてから話し合えば?」とでも言っただろう。少なくとも、ジュエルシードが関わっていなければ、話くらいなら聞いてくれることは立証済みである。

 

(ぜーったい、フェイトちゃんにお話聞いてもらうのっ! だからわたし、なにがなんでも諦めないよ、攸夜くん!!)

 

 沈んでいた気持ちを振り払い、決意の闘志を燃やしたなのはがフェイト・テスタロッサと五度目の再会を果たすのは、このすぐ後のことだった。

 そして、このジュエルシードを巡る争いが終焉へと辿り着く時も――――

 

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